remain



 カレンダーを取り替える時が来た。これからは、年度を記す場合を除いて、平成の欄には二十二年と書かな
ければならない。テレビをつければ新年番組が放送されている。中には、十二月中に収録現場に立ち会ったも
のもあったりする。ナレーターが「元旦の」「新年の」と連呼し続ける中、収録を脇で見ていた俺はといえば
年末の予定を気にしてばっかりだったっけ。
 いつもはそれなりに人の往来がある通りも、数日前から静かなものだ。空けたままにしてある窓からは冷た
い風が吹き込んでくる。指がかじかみそうだ。
「……いやはやしかし、片付かないな」
 今年は──いや、昨年か──大掃除をする時間も取れなかった。クリスマス番組の収録は事前に終わってい
たから年末は予定が空くかと思いきや全くそんなことは無く、大晦日ですら、ウチの事務所から紅白歌合戦に
出場するタレントが出たおかげで、年明けの瞬間は家どころか事務所にすらいなかった。歌合戦が終わった後
の打ち上げの席で皆とは新年の挨拶を交わした。まぁ、カウントダウンの瞬間をワイワイ過ごせたのは、それ
はそれで楽しくはあるのだが。
「その結果がこれだもんなぁ」
 片付ける、というよりは部屋の端に退けただけの荷物。増殖していく満杯のゴミ袋。いったい俺の部屋のど
こにこれだけのゴミがあったというのだろう。玄関、バスルーム、ベッドを行き来する生活の間に、随分溜ま
ったものだ。完全なゴミはようやくまとまったとは言え、これから掃除機をかけたりしなければならないのだ。
視界の隅っこに見える綿埃を見て、はぁと重たい溜息が出た。
 まぁ、嘆いても仕方がない。暖かい太陽が浮かんでいる内に済ませないと。
 そう思って掃除機のコードを引き出した時、携帯電話が鳴った。
「どうも、社長。明けまして……って、新年の挨拶はもう済んでましたね」
「あぁ、律子か。どうしたんだ?」
「……お掃除、はかどってますか?」
 受話器の向こうから、含み笑い。
「ああ、ぼちぼち……んんっ!?」
 待てよ。どうして律子が掃除のことを知っているんだ。
「買い物に出てたんですけど、そういえばこの辺だったなー、と思って」
 本の山をまたぎながら大股で歩いて、ベランダへ出る。
 遠目に、こちらへ手を振る人影が見えた。


「おじゃましまーす、って、だいぶ惨たらしいことに……」
 玄関から入ってきてコートを脱ぐなり、律子の表情が強張った。
「まぁ、片付け途中の部屋なんてこんなもんだろう」
 少々気まずい思いになりながら、積み上げた本やらなにやらを指で示した。埃を被ったものもあれば、まだ
ビニールで包まれたままのものもある。
「物を置き過ぎなんじゃないですか? 何か買ったらその分何かを捨てなきゃ、溜まっていく一方ですよ」
 テーブルの上に置いた、出番待ちのままの梱包テープを見ながら、律子が言った。
「この漫画雑誌とかどうなんですか? もう要らないと思うんですけど」
「ああ、それは、いつか読み返すんじゃないかと思ってな」
「はい、これは要らない物、と」
「おい律子、聞いてたか? 今、俺はだな──」
「その『いつか』は永遠に訪れませんよ」
 律子がピシャリと俺の言葉を遮った。バサリ。雑誌がその右側に置かれた。
「その手の理由で貯めてた物を、今まで読み返したことがありました?」
 一呼吸、考える。
「……いや、あんまり」
 まぁ、捨てなきゃ捨てなきゃとは思っているのだが、いつも外出の際には忘れてしまうのだ。
「そうでしょう? 『これは絶対に要る!』ってもの以外は捨てちゃうのが吉ですよ。『絶対』ですからね。
『これは要るかも……』ってのは、大体使わないで埃を被ってるものですから。ひとまず私が要る物と要らな
い物を選別しますから、後で確認お願いしますね」
 と、壁に立てかけたままで出番のまだだったハタキやら雑巾やらを渡された。
 整理は任せて、掃除をしろということか。
 俺はただ頷いて、その場を離れた。


 白かった雑巾が、黒く汚れていく。汚れた雑巾に目をやればそれはグロテスクに映るが、見方を変えれば、
拭いた場所がキレイになっているとも取れる。どちらかといえば、俺は後者の捉え方をする方だと思う。汚れ
を吸った雑巾をゆすぐバケツの水が濁っていくのも、嫌いでは無い。いざ掃除をするとなればのめりこめるの
だが、そこに至るまでがどうにも面倒なのだ。
 窓ガラスを拭き終わる頃に部屋の中に戻ってみると、高く積みあがった摩天楼と、その三分の一ぐらいの高
さのビルとがあった。整然と整えられたそれらは、インテリアにすらなりそうなたたずまいだった。
「雑誌類はあらかた終わりましたよ。何かあったら、取り分けて下さいな」
「……そうは言われてもなぁ」
 低い方の書籍類、恐らくは『要る物』の方だと思うが、そちらはともかくとして、デンとそびえ立つタワー
を切り崩す気には、到底ならない。見ているだけでゲンナリしてきそうだ。
「いいよ、これで」
「え、いいんですか?」
 メガネの奥から、キョトンとした目で、律子が俺を覗き込んだ。
「ああ、律子を信じる」
「……ふーん」
「なんだよ」
「ホントは、面倒臭くなっちゃったんじゃないですか?」
 健康的な、つやつやした唇がニヒルに吊り上がった。図星だ。実際問題、この中から要りそうなものを探り
出すのは骨が折れるし、仮に見つけ出したとしてもまたその後タワーを積みなおさなければならないのだ。
「そんな所だな。まぁ、芸能雑誌の類なら事務所の資料室にもあるし、漫画の類なら単行本を買えばいい」
 低く積みあがった本の底へ指を滑り込ませ、何があるのかと探ってみようとした所、ピンク色の表紙が底面
からちらりと見えた。めくらなくても分かる。丁寧な表現をすれば、『主として青年男性用の嗜好品』といっ
た所か。
 ゴホンと咳払いをして、表紙を隠した。
 律子は何も言わなかった。
 それはありがたい反応だったが、却って気まずくもあった。怒鳴り散らされるのは勘弁願いたいが、ノーコ
メントなのも考え物だ。
「それじゃ、縛っちゃいましょ、そっちの本。はい、コレ」
 緩い放物線を描いて、ビニールテープがやってきた。


 結局、一まとめで縛ることができず、書籍類で捨てるものは二つに分けることになった。袋に詰めたゴミも
一緒に玄関まで持ち出し終える頃には、いつも使っているはずのリビングは随分ときれいになっていた。
「ふー、だいぶすっきりしましたねー」
「というか、広くなったように感じるよ」
 洗濯する予定のカーペットを外し、剥き出しになったフローリングの上に、律子が寝そべった。ご丁寧に、
下半身は俺と反対の方向へ向けられている。
「……冷えてきたな」
 外を見れば、空は茜色に染まりつつある。夕焼け空を見ると、もう一日が終わってしまうような気がする。
それが休日であれば、なおさらのことだ。時計はまだ五時にもなっていないというのに、冬の夕暮れはなんと
もせっかちなものだと思う。
 窓を閉める。が、カーテンを閉めるにはまだ勿体無い。太陽には、部屋を暖める手伝いをしてもらおう。
「いい日差しですね」
 穏やかな陽を浴びながら、眼鏡の奥の瞳を細め、うっとりと律子が言った。
 床に水平に寝そべっているせいで、体の曲線や凹凸がいやに目立つ。
 その姿を目にして、眠気とも空腹感とも違う疼きが、胸の底をじんと焼いた。
 そういえば、忙しさにかまけて随分とご無沙汰だ。
「そのまま眠っちまいそうな顔だな」
 近寄る俺に、律子は警戒する様子を見せない。リラックスしているのが見てとれる。
 半分は冗談、半分は本気。
 閉じられていた脚をまたぎ、律子に被さるように四つんばいになった。
「ええ、このままぐっすり寝られたら、気分いいだろうな、って」
 長い睫毛の目元が、少し堅さを帯びた。
「疲れてるか?」
 律子は首を横に振った。
「あなたは?」
「少し眠たいし、そろそろ腹も減ってきた」
 遠くに聞こえる焼き芋屋の間伸びした声が腹に響く。横になったら気持ちよく寝られそうでもある。
「でも、それは今でなくていい。それより欲しいものがあるからな」
 二度、三度、俺の見下ろす先で、律子が瞬きした。
 餅のような肌が、熱を帯びて夕日の色に染まっていく。
「……」
 見つめる俺に、律子は何も言わなかった。
 目が閉じられるのを見計らい、唇を重ねる。
 ブラウスのボタンに手をかけて、ボタンを二つほど外した所で、レースをあしらった綺麗な白が見えた。
 華奢な右手が、俺のシャツを掴む。
「律子……」
「さ、察して下さいよ」
 律子が、トマトみたいに顔を真っ赤にして、ギュッと目を閉じた。
 赤みを帯びた首筋から視線を落としていくと、いかにも手のかかった刺繍を纏った質の良さそうなカップが
女性らしさの象徴を包んでいる。きっと、下半身も御揃いの品なのだろう。
 その気遣いに感謝しつつ、律子の体を抱え上げた。


「……ねぇ」
 シーツの海に体を横たえた律子が、尋ねてきた。
「なんだ?」
「さっき、『少し眠たいし、腹も減ってきた』って言ってたわよね」
「ああ、確かに言ったが」
「そういうものなの? 男の人って」
 律子の目に、俺を咎めようとか、そういったものは感じられなかった。真っ直ぐな、好奇の瞳だ。
「ああ、まぁ、なんというか。三大欲求の中じゃ一番抑えが利くとは思うけどな。どうしようも無く我慢でき
なくなるものでもないんだが、無性に満たしたくなる時が、たまにあるんだ」
「そ、そうなんだ……」
 恥ずかしそうに、律子が両手で口元を覆った。その両手首を掴んで、左右に開く。胸元も露わ、観念したよ
うに、律子が目を逸らす。ささやかな征服心が満たされる瞬間だ。
「ん……あ……アっ……!」
 掴んだ手首をベッドに沈めながら、重力に逆らう乳房にむしゃぶりつく。春の色に息づく頂は、何往復か舌
で嬲っているうちに、たちまち豊かな弾力を得て、押し返してきた。
「あぁっ、ふ……や、ぁっ……」
 細い手首が、微かな抵抗を示す。体が抗うのは、無意識のものなのだろうか。
 ここまで許してくれている時点で、少なからず律子も望んでくれている、と思う。そうでなければ、そもそ
も俺の部屋に上がってこないだろう。
 受け入れてもらえているという事実を確認しながら、舌を下半身に向けて這わせていく。
「ハッ、は……」
 呼吸をする度に、豊かな胸元が上下する。少し手を伸ばせば、肌理の細かな肌の感触とは一味違った、柔ら
かく豊かに実った果実がある。手元が寂しく感じて、そこへ手を伸ばした。
「……ん、んっ……あ」
 吸い付くような肌。至福の柔らかさだ。
 普段はもちろんのこと、酒が入った時ですら、たとえ冗談で触ったとしてもこっびどく怒られる。
 それだけに、好きにさせてもらえるこの瞬間は、喜びが胸の内を満たす。
「……ホント、そこ触るの好きですよね」
 溜息混じりに律子が言った。
「男には未知の器官だからな。普段は絶対に触らせてもらえないし」
「当たり前じゃないですか、そんな、の……っ」
 呆れるように続ける律子を遮ろうと、硬くなった乳首を捻ると、全身がビクッと跳ねた。
 潤んだ瞳が見つめ返してくる。
「まぁ、仕事中にこんな表情されちまったら、俺が我慢できなくなっちまうな。律子は正しいよ」
 空いた右手を内股へ滑らせて、弾力の豊かな太ももをさする。
「あ……待って」
 ショーツの中へ差し入れようとした手が制止された。
「どうした?」
 俺のよりも一回りも二回りも小さな手が、俺の手を握り締める。
 言い出し辛そうに、律子は唇を噛み締めている。
「その……苦しいんじゃないか、って思って」
 俺の首の辺りを見ていた視線が、下半身の方へ一瞬だけ動いた。
 そういえば、律子の左膝が何度かそこに当たっていたっけ。
「じゃあ、頼もうかな」
 気が利くな、とか、律子もエッチだな、とか、言いたいことはあったが、飲み込んだ。その一言を伝えるの
に、どうやら俺の思っている以上に律子は頑張っているらしいと、以前悟ったからだ。
 体を後ろに倒して、律子を手招きする。
 律子は俺の両脚の間に顔をうずめるようにして、ゆっくりとファスナーを下ろしていった。


「……」
 両目が俺を見上げた。
 どんな風に奉仕してくれるのだろう。嫌が応にも期待が高まる。
 赤い舌をちろりと覗かせると、律子はそのまま頭を沈めて行く。
「……お……っっ」
 ずるり。粘膜に飲み込まれる。たっぷり溜まった唾液のおかげで、口の中は良くぬかるんでいる。
 口内が狭くなると、じゅるりと卑猥な水音がした。
「っ、く……うっ」
 腰が震えた。思わず身を引いてしまいそうになるが、洞穴はぴったりと吸い付いたまま離れない。
 律子が頭を引き抜く時にカリのくびれ目が何度も突っかかる。呼吸を整える間にも吸い上げてきて、気を休
める暇を与えてもらえない。
「上手いよ、律子」
 荒くなりそうな呼吸を抑えながらなんとかそう言って、律子の頭を撫でる。
 俺の言葉に反応して、律子が頭を上げた。
「結構息苦しいんですよね、これ」
 綺麗な唇からグロテスクな肉茎が引き抜かれた瞬間、揃いの果実が弾んだ。
 思わずそこに視線が行ってしまったのを、律子は見逃していなかった。
「また見てる」
 俺の息子殿はと言えば、天を向いたまま、おあずけを食らった犬みたいに涎をだらだら垂らしている。
「す、すまん」
「別に謝ることじゃないでしょうに」
「まぁ、そうなんだがな」
「……こっちに腰かけてください」
 ベッドから下りて、律子が俺を促す。
「ほら、早く」
 しなやかな指先は、深い谷間を指していた。
「それなら、お言葉に甘えて……」
 ベッドサイドに腰掛ける。
「よいしょっ……」
 むにゅり。言葉では形容しがたい、包み込んでくる弾力。手で握られるのともまた違う。流れ出る涎のおか
げで、皮膚に引っかかって突っ張ることも無く、滑らかに滑っていく。
「……っ、あ……ん、擦れてる……」
 下腹部にコリコリとした二つの突起が当たる度に、律子は甘い声を漏らす。視覚的にも、聴覚的にも、この
上無い刺激だった。ムズムズとした疼きが徐々に形を取っていき、腰の底が熱くなってきた。
 この柔らかい空間の中に、己を解き放ちたい。
「律子、そろそろ……いいか?」
「ここでいいの?」
「ああ」
 律子に返事をしている間にも、射精欲は急激に高まっていく。
 無理して耐える必要も無かった。水門の鍵を開く。
「う……っ!」
 塊が腰元で弾けた。ドバッという音が聞こえてきそうなぐらいだった。
 ぴったりと押し包まれたままの空間が、自らの放出した液体で、ぐんぐん熱くなっていく。
「ん、出てる……」
 律子は、事の起こっている場所を、満足気に見つめていた。
 ゾクゾクするぐらいの快感を味わい、乳房の狭間から腰を引くと、そこは白い粘液でべっとりと汚れていた。
「あ、待って」


 まだ元気を失わない愚息が、ガシリと握り締められた。
「む……んぐ……」
 しかめっ面になりながら、律子が肉茎をくわえ込んだ。
 鈴口や、カリのくびれ目などの隙間まで、白の残滓を丁寧に舐め取ってくれる。
 その心遣いはとても嬉しいのだが、
「……まずい」
 と、やはり苦い顔で予想通りのセリフを言われてしまう。なんだか申し訳ない気持ちだ。
「……良かったよ。ありがとな」
 俺がそう返すと、苦い顔が笑顔に変わった。
「さて、と」
「え……うぁっ!」
 ベッドの上に上ってくるなり、早々に律子を押し倒す。膝を押し開いて抑え、股を天井に向けさせる。
 性器が丸見え、その癖自分の身動きは取れない、卑猥極まりない体勢だ。。
 そのまま、目の前に見えるぬかるんだ裂け目に舌を這わせる。
「や、やだっ、こんな……ひゃん!」
 律子の表情は見えない。先ほど胸を愛撫していた時とは違う、トーンの高い嬌声が部屋に響く。
 思っていたよりも、律子のそこは潤っていた。刺激した分が残っていたのか、あるいは律子自身が昂ぶって
いたのか。原因はこの際、どちらでも良かった。洞穴へ舌を挿し入れる。
「い……あっ、あはぁっ!! んんっ、ん……!」
 夢中になって舌を蠢かせる。
 酸味がかった味が口の中に広がっていくが、これが律子の味だと思えば、なんとも思わなかった。
 むしろ、愛しい律子の生み出すモノであれば、甘い蜜にすら感じられる。
 下品とは知りながらも、敢えて音を立ててそれを啜る。
 割れ目の頂点、包皮を押し上げるスイッチを皮ごと吸い上げた時、律子の体が硬直した。
「ん、や……ダメっ、だめ……あああぁぁぁっ!!」
 一際ボリュームの大きな声とともに、腰がビクビクと跳ねた。
 飛沫が何度か顔にかかったが不快なわけもなく、心地よいぐらいだった。
「あ……っふ……ふぅ……」
 律子が、肩で大きく息をする。しばらく放心したような顔で呼吸を整えていたが、よろよろと体を起こした。
「ごめんなさい、顔に……」
 控え目に手を合わせて、ぺこりと律子が頭を下げる。
「まぁ、気にするな」
 今に始まったことではないし、このぐらい軽くあしらっておいた方が、律子が内罰的にならずに済んでいい。
 どうせ事を致すのなら、律子にも気分良く臨んで欲しい。
「それより……いいか?」
 男のエチケットは万全。俺の準備は整っている。両肩をそっと掴んで、律子を促す。
「……うん」
 律子が体を仰向けにして、寝転んだ。俺はその体を、横に転がして腹ばいにする。
「えっ?」
「今日は後ろからしたいんだが、ダメか?」
 俺の頼みに、律子は肩越しに納得のいかなそうな視線を送ってきたが、
「……」
 無言で頷いて、腰を上げてくれた。膝立ちになって、肉付きのいいお尻を掴む。
「んっんん……はぁっ……」
 腰を進めていく。先端から、温かなぬかるみに包まれていく。律子の、味わうような声。
「あ、深……っ」
 根元までずっぽりと埋め込むと、お互いに溜息が漏れた。見下ろす背中は、傷らしい傷も無く、美しい。
 お下げにした髪の間で目立つうなじも、色っぽくていい。
「動くぞ」
「うん……あっ、あ……あ」
 ゆっくりと腰を引き出し、奥へ押し込む。
 一突きする度にお下げの髪が揺れた。律子の握ったシーツに皺が寄る。
「なんか……いつになく狭いな、律子の中……」
「んく……ダーリンのこそ、大き……はっ、あぁ……」
 口の中よりも、襞同士の織り成す洞穴の中は複雑。
 それでいて、洞穴自体が別の生物であるかのようにうねり、締め付けてくる。
 断続的に強く締まるのがたまらなくて、腰を揺するのが思わず億劫になってしまうぐらいだった。
 しかし。
 自分自身が気持ちよくなりたい、動物的欲求。
 恋人が快楽に翻弄されてよがる姿を見たい、嗜虐的願望。
 そして何より、律子の存在を求め続け、一つになりたいと願う、愛情。
 その三つ全てが、体を突き動かしていた。
「律子……どうだ?」
 部屋に響く水音の中、荒い呼吸のまま尋ねる。
「はぁっ、あ……き、気持ちいい、よ……あ、い、今の、あっ、あ、そこ……!」
 奥の方にコツンと先端の当たる部分があり、そこを圧迫すると、律子の中が、ますますきつくなった。
 異物を外に追い出そうとしているようにすら感じられる。
「ここだな」
 律子の体内が、滑り気を増した。
「ああっ、そ、そこ、だけどっ……ダメ、そんなにしたらダメぇっ!」
 いやいやをするように、律子が首を振る。シーツの皺が層を増す。俺も我慢が効かなくなってきた。
 肘を突っ張らせて四つんばいの姿勢を保っていた律子が、へなりと崩れて顔を枕にうずめた。
 律子も同じ。もう一踏ん張りだ。
 あと少し頑張らなければならない状況にあって、この怒涛のような快楽は、まるで拷問だ。できることなら
この心地よい胎内の中で今すぐ果ててしまいたいが、律子が上り詰めるまでは、こらえるのみだ。
 余計な思考を排除して、ひたすら奥を突く。
「くうぅっ……ダーリン、私、もう……イっちゃいそ……」
 うつぶせで顔をシーツに突っ込んでいたせいで、眼鏡が外れている。俺と律子とが繋がっているポイントに
は断続的な収縮が感じられるようになってきていた。限界が近いのだ。
「い、いいぜ、そのまま……。俺もだから……な」
「うん、うんっ……!」
 膨れ上がった男根がギリギリまで堰き止めていた濁流が、すぐそこまで来ている。もう止められなかった。
「あぁっ、イく、イっ……んんんん……ああッ……!」
 柔らかく俺を包んでいた肉の洞穴が、絞りあげてくるようにねじれ、激しく蠕動した。
 仰け反らせた背中はぶるぶると震え、肩越しに見えた目はきつく閉じられていた。
 何かに耐えるかのように、両手はシーツをきつく握り締めている。
 律子が絶頂を迎えたらしいことを見届けて、俺も気を緩めた。
 怒張からほとばしる濁流を、本来あるべき流れのままにしてやった。
 何度体験しても、飽きることが無い。
 堪えていたものを解放した時の快感と、精液を吐き出す快感とがごちゃ混ぜになり、ただただ頭が痺れた。


 濃密な時間を過ごしてなお残る火照りを洗い流し、減ってきた小腹を軽く満たした所で、律子はポーチから
化粧道具を取り出して、身繕いを始めた。今日、泊まって行く予定は無いとのことだし、別にそう薦める気も
無かった。
「律子、ありがとうな、色々と。来てくれて嬉しかった」
 すっかり片付いて広々とした感のあるリビングを一周り眺めてから、律子に頭を下げた。
「……本当だったら、お互い予定が空くって分かった時点で、あなたから都合を付けてもらいたかったんです
けど。まぁ、年末の大掃除もできてなくて、正月の休みにめりこむんじゃないかな、って思ってましたよ」
「そりゃあ……悪かった」
 再び、頭を下げる。
「いや、別に責めてる訳じゃないですよ。事務所の誰もが過密スケジュールで動いてた中、クリスマスプレゼ
ントはしっかり用意してくれてたし、私のこと忘れてないんだな、っていうのは、感じてます」
 ネックレスを首にかけながら、トゲの無い口調で律子が言った。
「だから、たまには私からも動かなくっちゃって、そう思ったんです。振り返ってみると、プライベートでは
待ってることが多いような気がしたから」
 律子の言葉は、窓の向こうの夜空へ吸い込まれていくようだった。墨で塗ったような夜空は寒々としたもの
で、夏のようにコオロギが澄んだBGMを奏でることも無い。
「ま、寂しかったってことですよ。一言で言えば、ね」
 律子は俺の方を見ないまま、小さな声でそう呟いた。ただ、何かを求めるように、左手がこちらに向かって
スッと差し出された。迷わずその手を握る。それだけではなんだか物足りず、後ろから腕を回して、抱きかか
えるようにして律子を寄りかからせた。
「……ありがとうございます」
 体重がかかってくる。重いというほど重くは無いが、心地よい重さだ。
「……今日の私、だいぶ素直だと思いません?」
「ああ、確かにそうだな。珍しい、と言っちゃなんだが」
 明日は雨だろうな、と言いたい気持ちを抑える。
「珍しいとは失礼なっ。……でもまぁ、当たってるからしょうがないか。今も頑張ってる春香とかを見ると、
思うんですよ、やっぱり、人間素直になるって大事だな、って。もう少し物事を素直に受け止められるように
なることが、今年の目標です」
 そう話す律子の頬は、赤い。昔は中々本音を話せなかった律子だが、恥ずかしがりながらも本心を打ち明け
るようになったのは、大きな変化の一つだと思う。
「だから、社長殿とは、プ、プライベートのお付き合いもしているということで、私からも……そういうの出
していかなきゃなー……と…………むぅ」
 尻すぼみに律子の声が小さくなっていく。最後の方は、ほとんど聞き取れなかった。
「意気込みは良く分かったけど、無理することも無いんじゃないか」
「で、でも……やり辛くないですか? 色々と捻くれてるし、私」
「はは……いつから一緒にいると思ってるんだ? もう慣れちまったよ」
「……そうかもしれませんけど」
「確かに、もうちょっと素直になってくれたらって思う時もあるし、二人でいる時も、もっと甘えてきて欲し
いと思うことはあるけど、律子がそういう風になるのって『たまに』だから意味があると思うんだ」
「……どういう意味ですか?」
「……昔々、ある村に酸っぱい蜜柑ばっかり成る木がありました。でもその木には、時々とっても甘くて美味
しい蜜柑が成るのです。ある時、旅人がやってきて、たまたま甘くて美味しい蜜柑を食べました。旅人はそれ
以来、甘い蜜柑を求めて、酸っぱい蜜柑を食べては顔をしかめ続けるのです。道行く人は彼を笑い、村人は彼
を咎めました。でも旅人にとってはどうだっていいこと。むしろ、その蜜柑の美味しさを知っているのは自分
だけだと喜んでいました、とさ」
 俺の例え話に、律子はすぐに合点が行ったようだった。
「たまに甘いことと、いつもは酸っぱいこと、その両方に意味があるってことですか」
「そういうことさ。だから、無理して変わろうとしなくたっていい。そのままでさ」
「……そうですか。いいんですか、こんなので?」
 律子は苦笑した。が、その表情は、緊張が解けて安心したようにも見えた。
「ああ。だから、今はこうしていよう」
 律子の体に回した腕に、力を込めた。それを合図に、律子の体から力が抜けていく。
「……今日は、来て良かったです」
 たなびく雲の合間から、満月が姿を現しつつあった。
 今年も、良い年となりますように。

 終わり



−後書き−

久しぶりにSS書きました。ふとした休日の一幕から、なんとなくなだれ込むように……てのを書きたかった。
何か思いついたら追記します。


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