Punishment



 それはある日、まれな休日を二人でのんびり過ごそうと、律子を自宅へ誘った日のことだった。飲み物を切
らしていたことを忘れてしまっていた俺は、お茶でも買いにとコンビニへ足を伸ばした。どうせ十分もあれば
戻れることだし、二人がコンビニで買い物をしている所を週刊誌にでも見つかってスキャンダルになってもま
ずいから、と律子には部屋で留守番をしてもらっていた。
 「ただいま〜」
 玄関を開いてマンションの自室に戻ると、リビングのテーブルの上になにやら本が積み上げられて山になっ
ているのが目に入った。その脇には、口をへの字にして、腕を組んだまま鎮座する律子の姿。なにやら不穏な
空気が漂っているのを俺が感じ取ったのとほぼ同時に、律子が重たげに口を開いた。
 「社長……これ、何かしら……?」
 積みあがった本のてっぺんから一冊掴み取ると、律子は表紙をこちらに突きつけた。
 「そっ、それは!!」
 漫画だったら、ババーン! キャー! といったような、こんな場面にはよく似合う効果音が書き込まれて
いたかもしれない。
 『思い切りすぎた果実』そうギトギトしたピンク色の文字で書かれた本を、律子はこちらに見えるようにめ
くっていった。ページがめくれるたびに、あられも無い姿を晒す女性が、見事なアングルで目に飛び込んでく
る。セーラー服のブラウスを捲り上げて乳房をモロに露出していると思えば、次のページでは全裸で派手に開
脚し自ら性器を指で広げていたり。はたまた次のページでは、『そこ』に真っ黒で太いディルドが突き刺さっ
ていた。どんなに腕の立つ弁護士でも誤魔化せそうにない無い、正真正銘のエロ本という奴だ。しかも、モザ
イクの施されていない無修正。つまり、あんな所もこんな所も、余すところ無く丸見えなのだ。
 「何って……そりゃ……その……本だ」
 なんとか上手い言い訳は思いつかないかと足掻いてみたが、口が上手いわけでも無ければ嘘もつけない俺。
こうまで強烈だと何も言えるわけが無く、誤魔化しにもなっていなかった。
 「見れば分かります!」と当たり前の答えが返ってきた。
 こいつらは男の秘蔵っ子なのだ。悶々とする生理的欲求を治めるために、今までどれだけお世話になってき
たことか。世の男性諸君にならば俺の言い分は分かっていただけるだろう。これは男の必需品と言っても過言
では無い。だが、睾丸を蹴り上げられる痛みが女性に分かってもらえないように、律子にも男の事情は分かっ
てもらえないようだ。冷ややかながら怒気を含んだ視線がそれを物語っている。
 「さ、探したのか……」
 「バレバレ過ぎますよ! どんな本読んでるんだろうなーと思って本棚を見てみたら、奥の方に入ってるの
エッチな本ばっかりじゃないですか!」
 仕事が忙しいから元々友達を呼ぶ事も少ないし、今のマンションに引っ越してからはエロ本の隠し場所にな
んて無頓着になっていた。なんにせよ、女の子を家に招くというのに無用心過ぎたかもしれない。
 「ともかく、没収です。ダメ、こんなの持ってちゃ」
 「ええっ、没収!? いくらなんでもそりゃ…」
 やりすぎじゃないか、という俺をよそに、律子はぴしゃりと言い切ったきり黙って本を閉じ、再びタワーの
屋上に戻すと、俺をじとっとした目で見た。針でちくりと刺されたように心が痛い。
 「だって……使うでしょ、その……」
 言いづらそうに口篭りながら、一人で、と律子は付け足した。続けて言うには、律子という恋人がいるのも
関わらず、他の女の子を自慰のオカズにしているのはおかしい、とのことらしい。本命とオカズは別なんだ、
男は性欲を定期的に発散させることが必要なんだ、と、一般的な男性の言い分も主張してはみたものの、俺が
口で律子に敵うはずもなく、結局畳み掛けるように押し切られて、書籍類の没収が確定してしまった。
 しかも、『罰としてしばらく一人エッチ禁止』のオマケ付き。いくらなんでもそこまでするのはアンフェア
だ、そう思った俺は、ある交換条件を提示して食い下がった。ダメ元で言ってはみたものの、意外にもその条
件に律子は首を縦に振ってくれた。かといって俺が納得したわけではなかったのだが、それ以上意地を張った
結果、二人の仲が変にこじれて、仕事にも悪影響が出るのは避けたかった。律子とは仲良くしたい。当然のこ
とだが、それとは別に仕事上のパートナーでもあるのだから。
 キャスターつきのバッグをごろごろ引きずって帰っていく律子の背中は、やっぱりまだ怒っているように見
えた。
 ともかく、収納スペースだけは拡張された本棚が物足りなそうにするのを眺めながらの禁欲生活がその日か
ら幕を開けたのだった。


 それから、二ヵ月近くが経った。
 『罰』の期間は、次にお互いが会える休日まで、という条件だったのだが、こんなに長引いてしまうとは思
わなかった。律子のプロデュースする双海姉妹も本格的に売れ始め、仕事がますます忙しくなっていったのが
ただ一つの救いだったかもしれない。欲求不満の矛先をぶつけるが如く仕事に打ち込み、帰る頃にはヘトヘト
で一発抜く気力も無い、という生活が続いていたのだ。何だかんだで、二ヵ月もの間一回も一人フィーバーす
ることは無かった。
 ただ、夢精は何度かしてしまった。朝起きたらパンツがドロドロ、というのが、一日中滅入った気分になる
ことが約束されるような最悪な目覚めだということは、よーく実感できた。
 二ヵ月ぶりのこの日、俺と律子は再び一緒にオフを取ることができた。
 朝方事務所の前で落ち合い、近所に新しくできたショッピングモールへ買い物に行き、俺の部屋へ戻ってき
てDVD鑑賞。しばらく前に購入して以来出番が無かったホームシアターのお披露目の時がやってきた。
 部屋の電気を落としてカーテンを閉め、部屋を映画館よろしく真っ暗にした所で、再生ボタンを押した。ほ
どなく、後ろに仕掛けたスピーカーから派手な音楽が流れ始める。
 「おおーーーっ、凄いですね、この音響、迫力満点ですよ!」
 律子が感嘆の声をあげた。
 今日、俺にはプランがあった。律子の好きなラブロマンスを見て、いいムードになった所でこっちもなだれ
込んで、と考えていたのだ。肩を抱き寄せ、掌で包むように頬を撫でて、キスを期待して目を閉じる律子に唇
を重ねてそのままソファーに押し倒し……。
 と、こんなことを考えるのにも理由があった。俺は甘い雰囲気を自ら作り出すことがとても苦手なのだ。律
子の乙女心をくすぐってメロメロにできるような口説き文句など思いつきようもないし、気合を入れて頑張っ
てみた所で、「ダサい」とか「似合わない」とか、苦い顔をされるだけだ。
 「うーん、やっぱりアクションに変えて正解でしたね!」
 ……しかし、レンタルビデオ店でホームシアターのことを話すと、律子は持っていたラブロマンスのDVDをア
クション映画のものに躊躇すること無くさっと持ち替えたのだった。
 釈然としない俺の隣で律子は楽しそうだ。確かに、自宅でこんなに迫力ある映画鑑賞を楽しめることは俺も
嬉しいが。映画を見ている間、俺は隣でカメラのアングルやら台詞回しやらにコメントを出す律子にのらりく
らりと相槌を打っていた。当然ながら、律子は映画の製作費用がいくらかかったかにも相当な関心があったよ
うだ。
 俺といえば……物凄くムラムラしていた。なにしろ二ヵ月分も欲望が溜まっている上に、横にいるのは愛し
い律子、と来れば、それなりのことを期待しないはずがない。
 今すぐにも押し倒してしまいたい……が、ここはじっと我慢だ。


 二時間半ほどで映画は終わり、小さな映画館は元のリビングルームへ戻った。ムードはやはりいまいちだが
このまま何も言わずにいたら一日が終わってしまいそうだったので、あれこれ思案した挙句、思い切って俺は
直接律子に訴えかけてみることにした。
 「律子、持ってきた? アレ……」
 意を決して俺が隣に座る律子に尋ねると『アレ』の意味を律子はすぐに理解したらしく、唇の端をぴしっと
引き攣らせ、視線を一泳ぎさせて、こくり。
 荷物を入れたバッグへとぎこちない足取りで歩いて行き、何秒と経たず、すぐにそれを見つけたようだ。
 「やっぱり、泳ぎに行くわけじゃ……ないのよね……?」
 確認するように、振り返った律子が恐る恐る尋ねる。そういえば、リゾート施設に遊びに行こうかと誘った
こともあったっけ。
 確かあれは、俺と律子がまだ765プロにいた頃、ロケの下見という事で水着も持たずにリゾート施設へ行った
時のことだった。どうやら泳ぐのが苦手らしい律子に、俺が水泳を教えるという名目で冗談半分に──しかし
期待もあって──誘ったのだが、つれない断り文句が飛んでくるのだろうと待ち構えていたら意外と悪く無い
返事が来た。その時の帰り道は、律子の水着姿を思い描いて胸が躍るような気分だったのをよく覚えている。
 律子は覚えているだろうか? 結局あの後から誘うことは無く、実現もしていないのだが。
 「まぁ……そういうことだ。ぶっちゃけてしまえば、律子の水着姿を見るのが目的、というか」
 「……ですよね。そういう約束でしたから」
 「そうそう、今日は俺をプロデューサーと呼ぶように」
 「べ、別にいいですけど……」
 以前、俺が出したとある交換条件。それは『リクエストに答えてもらう』ということだった。まだ若い(と
自分では思っている)男がオカズ没収の上に望まぬ禁欲生活を送るのだから、それなりのご褒美は欲しい。そ
こで、次に律子と会えた時には多少なり好きにさせてもらおう、と考えたのだ。勿論ハードコアなSMやらスカ
トロやら、律子の苦痛が大きそうなプレイはダメだ。俺も辛くなってしまう。考えた末に辿り着いた結論が、
なんらかのコスチュームを持ってきてもらって、一定のシチュエーションを設定して……というものだ。
 何と言っても律子は元アイドルで、俺はその大ファンだ。夢は無限に広がる。しかし、アイドルの頃の衣装
の大半は765プロ所有で、わざわざ持ち出すのもなんだろう。学生服、ブルマー、スク水なんかも『非常にい
い』とは思ったが、いきなりそれはディープ過ぎる気がするし、多少なりマニアックな分野に理解のある律子
も引いてしまうかもしれない。最終的には、グラビアで撮影した時の水着を持ってきてもらう、という所で落
ち着いた。
 「き、着替えてくるついでに、シャワー借りても……いい……?」
 これから何をするのか、律子も分かっているのだろう。緊張しているのが口ぶりや表情から伝わってくる。
初めてを経験したのはもう結構前になるが、エッチをするとなる時の毎度のぎこちなさは、それだけでそそら
れるものがある。
 「そんなに緊張するなって」
 律子がバスルームへと歩いていくのを見送ると、俺はベッドに身を投げた。二人で寝るには少々狭いシング
ルベッドだ。お金の余裕も少しは出てきたし、これも買換え時かな。溜まりに溜まった情欲は既にジーンズの
中で戦闘態勢で、炸裂の時を今か今かと待ち構えている。耳に入り込んで来るシャワーの水音が、待ち遠しい
気持ちを余計に駆り立てる。
 だが、焦ってはいけない。仕切り屋の律子は、あまり強引なのは好きでないのを俺はとっくのとうに実感し
ている。その一方で、密かに求めている気持ちを掬うように多少押し押しで行かないと不機嫌になる時もある
のだから、女心という奴は本当に難しい。
 どうにも落ち着けない俺は、ひとまず冷蔵庫の中から烏龍茶のボトルを出し、コップに注いで一気に飲み干
した。キンとした冷たさと、口の中に残るほのかな苦味が、意識をクリアにしてくれた。
 そして数分後、バスルームのドアを開いて律子が出てきた。フローリングの床をペタペタと歩くその足音が
一歩近づく度、俺の鼓動も高鳴る。
 「おっ」
 エメラルドグリーンのタンクトップビキニに、肩から羽織ったバスタオル。すらっと伸びた脚が眩しい。バ
スタオルの隙間からは、胸元の『DEEP SEA』のロゴがちらりと顔を覗かせている。
 室内だというのにサンバイザーも忘れず装着している辺りが律儀だ。
 「ど……どうです? ちょっとあの頃より太っちゃったかもしれないけど……」
 「全然変わらないように見えるぞ? 相変わらず良く似合ってるじゃないか」
 トレーニングやら何やらで運動量の多かったあの頃と比べても、俺の目には体型に変化があるようには見え
ない。何だかんだで、太らないように食事や運動に気を使っているんだと思う。
 「そうですか? や、やっぱり、水着は可愛いんですけど、こういう露出の高い格好は慣れないっていうか
落ち着かないっていうか……」
 お互い裸も見た仲だというのに、水着姿で恥ずかしがっている律子が可愛い。普段は長袖のブラウスやら丈
の長めなスカートやらで、肌の露出は低い。だからこそ、素肌を見る事が出来た時の感動は大きい。
 怒った顔すら似合う勝気な表情が、恥じらいに頬を染めて目線を外す瞬間。
 セックスアピールに欠ける姿を一皮剥いた奥にある、起伏に富んだ柔らかくエッチな肉体。
 歯に絹着せぬ物言いで、毒っ気の強い口から紡ぎ出される悩ましい嬌声。
 俺の心を絡め取って離さない律子の魅力の一つは、そういった落差の激しいギャップだと思っている。

 
 「ええっ、ここでですか?」
 「ああ、そうだ」
 「っていうか、プロデューサーまで水着になることないのに」
 「だって、風呂場に入るのに普通の服を着てたら、なんか変だろ」
 俺は、水着姿の律子をひとしきり眺めると、バスルームに戻るように促した。律子からすると、今シャワー
を浴びて出てきたばかりなのに戻るのは何とも不可解に思えるかもしれない。ベッドですると思っていただろ
う。確かに、それもいい。
 しかし、相当『溜まっている』ことを考えると、ベッドで事に及んだらだいぶ汚れてしまいそうだ。
 それに……今日は、ファックやら交尾やら、下品な言葉が似合うようなことを、性欲の求めるままに思い切
りしたい気分だ。水着でシャワールーム、というのも、いかにも悪いことをしているような雰囲気が出ていい。
 「しゃ、社長」
 「プロデューサー、だろ?」
 「……プロデューサー」
 「なんだ?」
 律子が恥ずかしそうに俯いて人差し指同士を合わせて、何やらモジモジしている。
 「なんか……すごくいけないことをしてるような……あと、呼び方も余計に……」
 「それが狙いだからな。プロデューサーとアイドルが……なんて、倫理的に問題大有りだろ? 普通に考え
たら」
 「背徳感、って奴ですか。まぁ分からなくは無いけど、倫理的に問題大有りなんて言ったら余計に……」
 律子がアイドル時代と同じ格好をしていることは俺にとって妙な興奮を呼び起こすが、律子自身もどこか思
う所があるらしいようだ。照れているのは水着姿ゆえか、はたまたプロデューサーとアイドルという状況設定
のせいか。
 「それに……もう……そんなになってる」
 カチコチになってビキニパンツの生地を押し上げる股間の隆起をチラリと見て律子がかっと赤い顔になって
眉尻を下げた。
 「ずっとガマンしてたからな……律子としたくてしたくてたまらないんだよ」
 「う、い、痛いのは止めてくださいよ? なんだか目が血走ってますけど……」
 「そんなことするもんか」
 そこまで言うと、まだ風呂上りの熱が残る身体を抱きしめた。それと同時に、硬くなりきった欲望を思い切
りヒップに押し付ける。
 「やだ、硬い……ぁ」
 それの存在を肌で感じた律子の顎を引き寄せて、柔らかく濡れた唇を……と思ったら、サンバイザーのつば
に行く手を阻まれた。
 「……外しましょうか?」
 律子が苦笑する。
 「いや、いいよ」
 気を取り直して、もう少し角度をつけて、今度こそ律子の唇を頂く。いつもなら二度三度、軽いバードキッ
スをする所だが、今日はいきなり舌を割り込ませた。
 「ん……んっ……んむ……」
 律子も逆らうこと無く、少々ぎこちないながらも舌を絡みつかせてくる。粘膜がぬるぬると絡み合うのが気
持ちいい。鼻から漏れてくる律子の声も格別だ。
 立ったまま抱き合い、背中に回した手を腰の方へと下げていく。男性には無い器官であるゆえについつい律
子の豊かな胸に手が伸びてしまうが、敢えてそこには触れないつもりだったので、通過する。
 今日は瑞々しいお尻やむっちりと肉付きの良い太腿を堪能したい、と思っていた。こういったビキニスタイ
ルの水着だと、胸の膨らみもそうだが、脚のラインがとても目立つのだ。しゃぶりつきたいぐらいだった。
 首筋に軽いキスの雨を降らしながら、お尻に右手を、内腿へ左手を滑り込ませてさすり、マッサージするよ
うに撫で回す。
 「あ……」
 律子がため息混じりに声を漏らして、内腿を撫でる俺の腕をはしっと掴んだ。
 「ち……痴漢……されてるみたい」
 「そうか……なら」
 水着越しにお尻を撫でていた手を中へ突っ込み、直に素肌に触れる。もう少し指を伸ばせば秘裂に届くのだ
が、まだ早い。そのまま、胸よりも弾力に富むお尻の肉を愉しむ。思い切り握って指を沈めても、まだ奥まで
掴めそうだった。同様に、内腿をさする手も、より根本へと近づけていくが、もう少しで秘所に、という所で
留めておく。
 「……っうぅ……あっ、ん……」
 掌だけで無く、爪の先を触れるか触れないかの微妙な所で、つつーっとなぞるようにくすぐると、声のトー
ンが少し上がった。どうやらこういうのは効くらしい。続けざまにくすぐり攻撃をしていると、段々と律子の
息も荒くなり、もどかしそうに腰が動いた。
 「プ、プロデューサー……」
 切なそうに漏らす律子の表情を窺うと、耳まですっかり赤くなって、眼鏡の向こう側の瞳も潤んでいるよう
に見える。それを見た途端、ずしっと腰の奥が重たくなり、首筋が熱くなった。



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