ベッドに横たわる徳子さんの上にまたがる形で膝を付き、早速俺はブラウスまで脱がしにかかる……が、指
先が言うことを聞いてくれなくてもつれてしまう。こんな簡単なことに手間取っていては先に進めないだろう
と焦りがますます募る。
 「慌てたら余計につっかえちゃうわよ」
 気持ちを落ち着かせようとかぶりを振ると、徳子さんに苦笑いを浮かべられてしまった。頬が熱くなる。
 「ご、ごめん」
 「……ねぇ、佐久瀬くん。女の子とこういうことするの、初めて?」
 「っ……」
 痛い質問だった。
 「……やっぱり、分かっちゃった?」
 「まぁ、ね。付き合い始めてからの反応が凄く初々しかったし、今もかなりソワソワしてたから」
 「……う」
 口元を緩めて笑う徳子さんの明るい口調に、俺は顔から火の出る思いだった。
 「そんなに緊張しなくっても大丈夫だから。気楽に行きましょ」
 下から手が伸びてきて、俺の頭を撫でた。部屋の空気がすっと軽くなったような気がした。張り詰めていた
感情が薄まっていき、次第に体からも余計な力が抜けて楽になってきた。
 「続けてもいい?」
 ここまでさせてくれる時点でNOの返事なんて来るわけが無いだろうと思いつつ尋ねると、思ったとおり徳子
さんは首を縦に振ってくれた。
 「乱暴にしないでね」
 「そんなこと、するわけ……」
 無いだろ、と言いかけたが、それは確かに気をつけなければならないと思った。「そうだね」と返しながら
ブラウスのボタンに再び手をかける。やはりさっきは緊張でガチガチになっていたのだ。どうしてこんなこと
に苦労していたんだろうと思うぐらいにボタンはあっさりと外れていき、そのままタイトスカートのホックを
外して脚から抜き去って、全身を包んでいた衣服は下着のみとなった。
 邪魔にならない所に脱がせた服を置き、剥き出しになった体のラインに視線を落とすと、徳子さんの目が所
在無さげに宙を泳ぎ、その身は折り畳まれるように縮こまっていた。
 「そんなにじっくり見ちゃイヤ……」
 「でも」
 「あっ……」
 胸元を覆い隠す腕を軽く掴んだが、抵抗する力は感じられず、あっさりとロックが外れた。
 「結構大きいんだな」と正直に感想を漏らしながら、レースをあしらった白いブラの背に手を潜り込ませる。
 ズボンの中は張り詰めたままで、何もしていないのにジンジンと下半身全体が熱く疼くようだった。
 「えっと、これ……あれ?」
 未知の衣服。ホックで繋がっていることまでは理解しているが、どう外せばいいんだろうと指先が迷ってい
ると、ちょっと待ってと一声かけて、徳子さんが自ら両手を背中にやってパチンとそれを外してくれた。
 「……はい、いいよ」
 お膳立てしてもらった所で、ブラをゆっくりと外す。男には無い膨らみの全てが露になると、徳子さんは既
に赤くなっていた頬を一層と色濃く染めていった。
 「なんか、綺麗……だな。凄く」
 女の人の裸そのもの自体はエロ本やらエロ動画やらで目にしてきたけれど、こうして自分の目の前にそれが
あるのは初めてだ。曲線的な体つきが、なんだか神秘的にすら思える。
 実際に手を伸ばして触れてみると、先程手の甲に触れていた滑らかな肌の感触が掌全体に伝わってくる。円
い肩、細い二の腕、俺と比べると遥かに華奢な胴、くびれた腰と不規則に撫で回して行く。
 「ん……っ、ぁ……」
 溜め息のような呼吸に混ざった甘い声を聞いていると、何かが俺の中で段々と膨れ上がってきた。重力に逆
らって上を向いている乳房へと手を伸ばす。
 「わ、なんだ、これ」
 今までに掌が感じてきた何物とも違う、不可思議な柔らかさ。どこまでも指が沈んでいくが、少し力を抜け
ば弾力が奥から押し返してくる。指を沈め、掌で圧迫しを夢中になってう何度か繰り返す内、乱暴にしないよ
う言われたことを思い出し、慌てて手から力を抜いた。
 「い、痛かった?」
 よく見ると、染みの無い真っ白な肌に、自分の指の後が赤く紋になって残ってしまっていた。罪悪感が込み
上げる。
 「ちょっとだけ。でも、途中から手つきが優しくなったよね」
 ありがとう、と言いながら、徳子さんが俺の肘の辺りを掴んだ。筋肉の流れを確かめるように指先が前腕を
なぞってきて、ちょっとくすぐったい。
 「ね、続けて」
 「うん」
 また少し気が楽になった所で、乳房を掴んだ掌をぐにぐにと蠢かせ始める。底無しの柔らかさの中心部分で
段々と硬くなってくるものがあり、すかさずそこへも指を伸ばす。
 「あ、ん……ふっ、あ……あ……!」
 手で触れているだけじゃ、なんだか物足りない。そう感じて、片側の乳房にむしゃぶりついて、薄いピンク
色の乳首を口に含んで舌で転がすと、ぴくりぴくりと徳子さんが体を震わせ始めた。恋焦がれる徳子さんのこ
んな乱れた姿を見られることに、胸の内が満足感で満たされる。しかしその一方で、もっと深くという探究心
が俺の体を突き動かしていた。
 「ふあぁっ! や、だめ、吸っちゃ、あぁっ……!」
 ダメと言われれば余計にしたくなってしまうじゃないかと心の中で突っ込みを入れる。何も味なんてしない
けれど、微かに甘みに似たものを口の中に感じるような気がした。刺激を与えて硬くなった乳首を舌先で転が
して苛め続けると、もっとそうして欲しいと言わんばかりにますますそこは硬さを増してきた。
 「あ、ん……」
 唇を離して徳子さんの表情を見てみると、目尻に涙が溜まっているのが目に留まった。胸元は大きな呼吸の
度に上下していて、鎖骨の辺りまでがうっすらと桃色に染まって熱を持っているように見えた。半開きの唇が
ひどく扇情的で、吸い込まれるようにそこへ口付けした。
 「ふ、ん、んっ……ぁ」
 俺が舌を入れようとする前に、今度は向こう側からぬめった物が割り込んできた。そのまま、何に命じられ
るでもなく互いの舌を蹂躙しあう。俺の手は、キスをしながら自然に胸から平坦なお腹へと下っていった。
 「ね、佐久瀬くんも……」
 ショーツに指がかかった所で突然徳子さんにそう言われた。何のことやらと俺が頭に疑問符を浮かべている
と、着ているシャツの裾が引っ張られる感触があった。
 「あ、そうか」
 残す所はショーツ一枚という所まで脱いだ徳子さんだが、俺はと言えばまだ上着しか脱いでいない。
 徳子さんを脱がせておいてなんだが、なんだかとても恥ずかしい気持ちになりながら、シャツを脱いでぽい
と無造作に放り投げると、俺の顔を見ていた視線が僅かに下がった。
 「……男の裸って、むさくるしいだけじゃない?」
 ベルトを腰から抜きながら尋ねてみると、
 「んー、そんなこと無いわよ。引き締まった筋肉とか、角ばったシルエットとか、私は興味津々よ、男の子
のハダカって……うふふ」
 と返ってきた。
 「そんなもんかなぁ……まぁ、そんなもんか、異性だし」
 一人で納得しながらズボンを腰から下ろそうとしたが、硬くなった性器が引っかかって邪魔をして、中々ス
ムーズにいかなかった。ちらりと見てみると、徳子さんの視線はそこ一点に集中していた。見られているとい
う気恥ずかしさが身の内で膨らむ。
 「……元気ね、凄く」
 流石に凝視するのは気が引けたのか、そこから目を逸らしてから徳子さんが言った。
 「しょうがないじゃないか。徳子さんのそんな姿見たら、我慢なんてできるわけ……」
 我ながら子供っぽい口答えだと思いながら、俺も下着一枚になって再び徳子さんに向き合った。今度こそと
気を取り直して、お臍の辺りを擦りながらショーツの中へ手を滑り込ませる。
 「あっ……」
 柔らかい毛の感触の後に、程なくして潤いを指先に感じた。
 「濡れてる……」
 「だ、だって……あ、や、そこ……っ!」
 溝の感触、そこがじっとりと濡れていることを確かめながら指を躍らせていると、いきなり徳子さんの腰が
跳ね、声のトーンが上がった。
 「やっ、ダメ、ダメだってば……! そこ、そんなに……!」
 指先から伝わってくる情報に意識を集中させてみる。何やら周りの皮膚とは感触の違う突起があるのに気が
付いた。クリトリス、だろうか。どうやらここを触っているのが原因らしい。
 多分、軽く触った方がいいのだろうと思って、乳首に似た大きさのそこをくりくりと指先でソフトに捏ねる。
 「んうぅ……ん、あぁん……」
 官能的な声がベッドの上で響く。もっと聞きたい。
 「徳子さん、どう?」
 「ど、どう、って……」
 痛くないかどうか気になって感想を求めてみたのだが、徳子さんはぴたりと口をつぐんでしまった。何か悪
いことを訊いてしまったんじゃないか、とヒヤリとしていると、
 「そ、そこ……気持ちいいから、もっと……して……」
 消え入りそうなほど小さい声で徳子さんがそう言って、潤んだ瞳を明後日の方向へ向けた。
 ──ひょっとして、恥ずかしいことを言わせちゃったのかな
 少しだけ申し訳ない気持ちになりながらも、徳子さんの言う通りにそこへの刺激を続ける。なるべく優しく
しようと意識していると、微かに向こう側から腰を押し付けられたような気がした。
 「い、いいよ、もう少し強く……」
 「うん……」
 激しくしたら痛いんじゃないかと漠然と思いながらも、触れるだけに留めていた指先を押し込むような動き
に変えていく。徳子さんの反応の変化も顕著で、トーンばかりか声のボリュームも上がった。両脚に挟まれた
俺の手を更に抑えるかのように、ショーツに潜り込ませた腕に手が添えられる。
 「ん、くぅ……あ、は……い、イキそ……」
 「イキそう?」
 「う、ん……そ、あっ……イク、いっ……あぁっ……!」
 徳子さんがきつく目を閉じて、俺が刺激していたクリトリスがびくびくと震え、がくり、と腰が揺れる。背
筋を緊張させたと思いきや、数秒してその体はくたっと弛緩してベッドに沈んだ。
 女の人を絶頂に辿り着かせてあげられたんだ。そう自覚すると、安心感というか自信のようなものが溢れて
くるのを感じた。
 「徳子さん」
 「はぁ、はぁ……なぁに?」
 「大丈夫?」
 やたらと息が荒かったので、気になった。
 「うん……上手だね、佐久瀬くん……」
 初めての男の子にいかされちゃった、と、独り言のように徳子さんは付け足した。
 俺よりも余裕のある態度や口ぶりから何となく想像はついていたけれど、徳子さんはこういうこと、初めて
じゃないんだ。元カレの話なんてされたこと無かったけど、過去にそういうことをする相手がいたということ。
 徳子さんの笑顔だけじゃなく、服の下に隠れる色っぽいハダカや、エッチな表情や、乱れた喘ぎ声……そう
いうものを独り占めしていた奴がいたと分かると、顔も名前も知らないのに急にそいつのことが腹立たしくな
ってきた。
 「……くそっ」
 「どうしたの?」
 「えっと、その、俺は初めてだけど、徳子さんは……その」
 「……うん、大学生の頃に、ね。丁度、あなたと同じぐらいの歳だったわ」
 俺の言葉の意図を汲み取った徳子さんが、小さな声で言った。
 「そっか」
 「言わない方がいいと思って黙ってたんだけど……ごめんね」
 「え、なんで謝るのさ」
 「私が初めてじゃないのが気に障ったのかな、って思って」
 そんなわけ無いだろうと、俺は勢い良く首を横に振った。
 「気に障るなんて、そんなわけないだろ。ただ、なんていうのかな……嫉妬、しちゃって」
 「嫉妬?」
 「じ、自分でも情けないとは思うんだけど、初めての徳子さんをリードしたのはどんな人なんだろうって思
ったら急にムカついてきちゃって……それだけじゃないんだ。さっき徳子さんが矢部君と話してるのを見て、
家族なんだから当たり前なんだけど、楽しそうに話してるのを見たら、こう……」
 ムードが盛り下がるのを自覚しながらも、口から矢継ぎ早に言葉が出てきて止まらなかった。
 「男の嫉妬なんて、情けないよな。ごめん、変なこと言って」
 頭を下げる。
 「……そっか、妬いちゃってたんだ」
 「うん」
 「普通なら言わないのに、佐久瀬くんって全部打ち明けちゃうのね。そういう正直者な所、好きよ」
 徳子さんが優しい口調でそう言い、表情を崩して微笑んだ。
 「佐久瀬くん、私のこと好き?」
 「勿論、好きだよ」
 「うん……私も好き。今は、佐久瀬くんが一番よ」
 自然と、唇が重なる。大切なのは過去じゃなくて、今なんだ。嫉妬の黒い炎は消え去っていき、鳴りを潜め
ていた徳子さんへの愛しさが代わりに胸の内を満たしていく。
 「ね、しよ……」
 視線で促され、ショーツをするりと太腿から抜く。クリトリスへの愛撫で濡れていたそことショーツの布地
が名残惜しそうに糸を引いているのがはっきりと見て取れた。
 何一つ纏わない姿になった徳子さんの、まだ見ていなかった秘所へ視線を向ける。薄めに整えられた茂みの
下にさっきまで触っていたクリトリスが帽子を被っていて、充血してサーモンピンクになった粘膜の谷が広が
っていた。裂け目の底に、奥へと繋がっていそうな洞穴がある。
 頭がクラクラするような眺めに、ごくりと音を立てて唾を飲み込むのを抑えられなかった。自分の下着を脱
ぎ去り、張り詰めて涎をだらだら垂らした性器を中から取り出す。徳子さんの腰を掴んで、いざ、という所で
俺は重大なことを思い出した。
 「あ、やば……!」
 部屋の気温が氷点下まで急に下がったかのような心地だった。予定していなかったせいもあって、男のエチ
ケットを用意していなかったのだ。
 「の、のの、徳子さん、そのっ、俺、あれをっ」
 慌てる俺の鼻先に人差し指がちょんと添えられた。
 「まぁまぁ、落ち着いて。ところで、今日は何日だったっけ?」
 「えっと、今日は……」
 カレンダーを見て、今日の日付を伝えると、徳子さんは何秒か考え込んでから、指で○を作った。
 「大丈夫よ、そのまま来ちゃってちょうだい」
 「え、いいの?」
 「そ、今日は平気だから」
 「じゃ、じゃあ……」
 「うん。入る所間違えないでね」
 くすりと笑いながら、徳子さんが俺の照準を合わせてくれた。
 「大丈夫だって……それぐらい」
 そのまま腰を進めればいいと分かり、真っ直ぐに下半身を前へ押し込む。
 「ん、あ……あ……」
 先端に感じていた温かい熱が、どんどん腰の根元へ近づいてくる。滑りの良い感触のおかげでスムーズに進
んでいけるが、押し通ったと思ったら、異物を排除しようとでもしているのかぎゅうぎゅう締め付けてくる。
 下半身全てが痺れるような強い刺激に、奥へ進めず立ち止まってしまいそうだ。
 まだ入り込める、と思いながら根元まですっぽり埋まったかという所で、先端が行き止まりにコツンと当た
った。どうやら一番奥まで入ってくれたらしい。
 「ん……全部、入ったね……」
 覆い被さるような体勢でいた俺の首に、徳子さんの手が絡みついてきた。
 「動いても、いい?」
 「うん、いいよ」
 気軽に頷いてくれたのを見て、最奥まで押し込んだ腰を引き抜く。
 「っ……く……!」
 亀頭のくびれた部分に膣内の起伏ががつがつと引っかかり、たまらない快楽が全身を勢い良く駆け抜ける。
 先程から勃起したまま何の刺激も与えずに先走りを垂れ流しにしていたせいもあったのだろう、瞬く間に込
み上げてくる射精感を堪えながら、再び奥へ押し込む。
 「あっ……あ、ん……お、大き……い」
 「そ、そうかい?」
 眉間に皺を寄せた徳子さんは、苦しいのかもしれない。ゆっくり動かないと自分が絶頂を迎えてしまいそう
だからなのだが、自分の中で徳子さんをいたわるという理由付けをして腰を揺する速度を落とし、伝わってく
る強烈過ぎる刺激から必死に意識を逸らそうと試みた。しかし……
 「あ、はっ……! んぁ、は……激しい、よぉっ……!」
 「ご、ごめん、でも、止まらない……」
 「やっ、あ、あぁっ、あ……!」
 ゆっくり動かないと、と頭で念じるのとは裏腹に、体の半分が別の生物に支配されてしまったかのように、
ピストンの速度は落ちるどころかますます速くなってしまう。当然のことながら、我慢しようとしていた射精
の欲求も、後戻りできない所まで大きく大きく膨らんできた。
 「ん……んぅ、あ、っくぅぅ……」
 一往復する度に、粘ついた音が響く。濡れた粘膜を俺の性器が擦りたてる音だ。その音が、俺の頭から冷静
さを削ぎ落としていく。睾丸に溜め込まれた精液がもうペニスの半分ぐらいまで上ってきているように感じる。
 「のっ、徳子さん……ごめん、俺、もう……我慢が……」
 腰から下の感覚が希薄になっていき、快感の塊となった肉棒に知覚が一挙に集まっていく。
 「い……いいよっ、ガマンなんて、しないで……! はっ、はぁっ……!」
 我慢しないで、という言葉が決定的な引き金になった。
 「く……出る……っ」
 性器が爆ぜた……そう感じた。神経が焼けるほどの快楽がぞわぞわと全身に広がっていき、今まで自慰で得
ていたのはなんだったのかと思うほどの満足感や解放感が、尿道から精液の放たれる度に脳天を貫いた。
 「あ、で……出てる、中に……」
 意図しているのかいないのか、狭かった徳子さんの膣内が一際きつくなって、更なる射精を促すように壁が
まとわりついてきた。
 一度の射精だったが、白濁の塊が何回外へ放たれたか分からなかった。性器の震えがようやく収まる頃にな
って、真っ白に塗りつぶされていた視界に色が戻り始めてきた。
 「佐久瀬くん」
 「な、何?」
 「気持ちよかった?」
 「えっと……き、気持ちよかった。凄く……」
 まだボンヤリする頭でそう答えた。
 「……まだ、したい?」
 「うん、正直に言うと、もう一回ぐらい……」
 「そうよね、まだこんなに硬いもんね」
 ペニスを包む通路がキュッと狭くなった。一度の射精では全く満足しなかったようで、俺の男性機能はまだ
徳子さんの体を味わいたいと舌なめずりしていた。
 「いい?」
 俺が尋ねると、徳子さんの両脚が俺の腰に巻きついてきた。それがイエスの合図だと思って、俺は中断して
いたピストン運動を再開させた。
 「はぁぁっ……あぁん……!」
 艶やかな声が徳子さんの唇から紡ぎだされる。
 「徳子さん、なんか……声大きいよ?」
 「い……いい所で、止められちゃったから……さっき」
 「ご、ごめん……俺、だけ……」
 「いいのよ、そんな……気に、しないのっ……」
 俺も徳子さんも、途切れ途切れにしか言葉が出てこない。荒い呼吸も整わないままに、俺は蜜と精液の混合
物でぐちゃぐちゃになった膣内を掻き回し、徳子さんは襞の連なりをきつく締め付けて俺を容赦なく責め立てる。
 特に敏感な裏筋やカリのくびれが、腰を押し込む度にぬるぬるした起伏に舐め取られ、幹と亀頭の全体があ
らゆる方向から扱かれる。経験の無かった俺には──いや、経験豊富だったとしても──ひとたまりも無く、
先程あれだけ出したばかりだというのにもう射精感を意識し始めていた。
 「徳子さん、徳子さんっ……!」
 愛しい人の名前を呼ぶ。
 「純彦くん……」
 愛しい人も、瞳を潤ませながら俺の名前を呼んでくれた。こんなに近くにいて、お互い体の一部同士で繋が
っているというのに、目の前にいる人ともっと近付きたくてたまらない。どうしてなんだろう。考えても分か
らない。考えるのも億劫なぐらい、性器の繋がりから生み出される快感が意識を満たし始めていた。
 「徳子さん、お、俺、また……」
 「うん……私も、そろそろだから……」
 ぶるぶると腰が震える。徳子さんの胎内も呼吸するように収縮し始めていて、腰に巻きついた脚が一層強く
俺の腰を徳子さんのそこへ押し付けさせた。
 「あ、はっ……い、っ……あ、わた、しっ……!」
 「い、イキそう……?」
 「うんっ……も、もう、だめぇ……イ、イッちゃ……」
 徳子さんはその先を言わなかった。いや、俺が唇を塞いでしまったから言えなかったと言った方が正しい。
 「んんんっ! んん……んふうぅぅっっっ!!」
 鼻から高い声が漏れてきたのと、射精感が弾けて俺が達したのは、恐らくほぼ同時だったと思う。息苦しく
て頭がぼんやりとする中で、更なる射精を促すかのように締め上げてくる肉が生み出す電撃のような快感が脳
を何度も叩く。全身がショートしてしまったかのようで、ぴくりとも腰を動かすことができないほどだった。
 
 「ふぅ……」
 腰を引いて結合していた性器を外し、仰向けになっている徳子さんの隣に寝転がった。
 「疲れちゃった?」
 「なんか、腰がだるいっていうか」
 慣れない動きをしたせいだろうか、呼吸と昂ぶった気持ちとが落ち着いた所でどっと体が重たくなった。繋
がり合った後の余韻を楽しみたい所だが、いかんせん気だるさが抜けてくれない。
 「私も、ちょっと疲れちゃった」
 「徳子さんも?」
 「うん、だって、激しかったんだもん……」
 うつらうつらと、徳子さんの頭が揺れる。
 「眠くなってきちゃった。今日、泊まっていくね」
 「え、俺はいいけど、明日、仕事は……ああ、そうか」
 今日は金曜日だったか。起こそうとして肩に添えた手を離す。
 「ん、そういうこと。あ、ねぇ」
 「何?」
 「野球の試合、見に行ってもいい?」
 「試合って……」
 「プロ野球じゃなくて、純彦くんたちの大学の試合ね。ピッチャーなんでしょ?」
 「そうだけど……勝てるか分からないよ? 俺たち、寄せ集めのチームだからさ」
 「勝てるかどうかじゃなくて、純粋に見たいの、純彦くんが野球してる所」
 俺の胸板に徳子さんのおでこが触れた。
 「分かった。日にちが分かったら、教えるよ」
 「うん。お願いね」
 「徳子さんが試合見にきてるって分かったら、矢部君がビックリするだろうね」
 「そうでしょうね。その時あの子も気がつくかな。ううん、そろそろ話しておいた方がいいのかも」
 「俺たちのこと?」
 俺がそう尋ねると、徳子さんはこくりと頷いた。俺も、それには賛成だ。ここまでする関係になったという
ことは伏せておくとしても、弟である矢部君に黙って徳子さんと交際を続けていくのも、なんだか気が引ける。
 「そうだね。終わったら、三人でメシでも食べに行こうか」
 「う、ん。そうしよ……」
 虚ろな声と共に、上目遣いで俺を見つめていた目蓋がそっと閉じられていく。丁度よく胸元にあったおでこ
に、少し身を屈めてつるんとしたおでこに唇を落として、「おやすみ」と囁く声をかけてみると、微かに徳子
さんから応答があった。
 そのまましばらく待っていると、程なくして規則的な寝息が聞こえてきた。
 年上のお姉さん、という印象を徳子さんへ常に持っていたが、寝顔は幼さすら感じさせるほどにあどけなか
った。今まで見られなかった姿にときめきを覚える。二人分の体温がこもった毛布の中も、暖かい。
 ──まさかと思うけど、夢じゃないよな。俺は、おそるおそる頬をつねってみた。
 右の頬には、ヒリつくような痛みが走った。


 終わり



―後書き―

ニコでパワプロ6の動画を見ていたのがそもそものきっかけでした。
本編中で掘り下げられてるキャラクターじゃないので(そもそもパワプロはそういうゲームではないので)
書くのにひどく苦労しました。『友達の姉』というシチュエーション一点に集中していた気がします。


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