見られるのが好き……そんなわけは無いだろうと思いながらも、何も触れていないはずの秘所に鈍い快楽が
じんわりと走っている。体の奥から次々と蜜が湧き出してくるのを感じる。
 「あ……は……」
 どうしよう。段々気持ち良くなってきてしまった。下半身が熱い。
 「俺のこといつもスケベだなんだって罵倒するくせに、アソコを見られて興奮してるんじゃあ律子だって人
のこと言えないな」
 「そ……そんなこと、無い……」
 「うーん、そうか? じゃあなんでここが膨らんでるのかな、っと」
 彼の指が、デリケートな突起にちょんと触れた。
 電極を直接当てられたような衝撃が走って、半ば無意識に腰が跳ねた。
 「ほら、コリコリになってるじゃん、ここ」
 「あっ、あぅっ! や、ダメ、そこぉ……」
 そのまま、薄い皮の上から押し潰すようにして、円を描く動きで圧迫される。堪えきれない快楽に、聞かれ
たら恥ずかしいと思いながらも声が止められない。自分一人で触っても敏感な所なのに、刺激を何倍にも増幅
させる特別な魔法がかかった彼の指先でいじられてしまったら、たまらない。
 鋭い快楽が背筋を何度も振るわせる内、あっという間に全身が波に揺られ始める。
 早くも訪れそうな絶頂を意識していると、ぴたりと刺激が止まった。
 「えっ……なんで」
 「ん、どうした?」
 意地悪く笑う彼と視線が合った。
 「な、なんで……止めちゃうんですか」
 彼の掌の上で踊らされているのを半ば自覚しつつも、尋ねる。
 「だって、律子がイヤとかダメとか言うからさ。それなら律子のご希望を、と思ってね」
 「う……」
 予想通りの展開。私の口から淫らな言葉を聞き出したい彼の欲求が、吊り上がった唇から伝わってくる。
 「い……言わせたいの?」
 「うん。俺もエスパーじゃないからさ、口に出してもらわないと律子の気持ちが分からないなぁ」
 性器を剥き出しにしたこんな体勢で、こんなに恥ずかしい思いをさせているのに、まだ追い討ちをかけよう
とする彼。
 そんなはしたないこと、言いたくない……けれど、もっと気持ちよくなりたい……言えば気持ちよく……。
 「わ……分かったわよ……」
 観念したように言う私に、満足気に目を細める彼。手持ち無沙汰なのか、空いた両手は内股を指先でなぞっ
ている。気持ちいいようでツボを巧妙に外していて、もどかしさが募る。
 「うん、で、律子は何がお望みだ?」
 「し、して欲しいの……」
 「どこで?」
 「……お口で……」
 「口かぁ……ふむふむ。口でどうして欲しいの?」
 「な……な、舐めて欲しい」
 「どこを?」
 「……アソコ」
 「アソコってどこ?」
 「えぇっ、それも言わなくちゃダメ?」
 「うん、どこか言ってくれないと、メガネとか舐めまわしちゃうかもしれないぞ」
 内股をくすぐっていた指が秘所の周囲に移動してきた。もう少し、あと数mmの所でピタリと止まる。
 じれったくてたまらない。いっそのこと、彼の視線も構わず自慰に走りたいぐらいだ。
 「……い、言えばいいんでしょ、言えば。全くもう!」
 こうなったらヤケだ。どうせ性器の奥まで知られてしまっているのだから、むしろ今更なのかもしれない。
 唾を飲み込んで、唇が乾いていないことを舌で確かめてから、一呼吸。
 「……お、おまんこ……舌で舐めてよっ! クリトリスも指で思いっきりグリグリしていいから、いっぱい
気持ちよくしてよ! じっ……焦らしてないで、早くイかせてよぉ……!」
 ヤケクソになった所で恥ずかしさが消えるわけも無く、勢い良く切った口火も尻すぼみで、最後には目蓋か
らじわりと涙が溢れてしまった。
 「ごめん、ちょっと意地悪しすぎちゃったな」
 「こんな恥ずかしいこと言わせないでよ、バカ……」
 べそをかく私を慰めるように、彼が優しく唇を重ねてきた。零れてしまった涙も、指先で拭ってくれた。
 「じゃ、お望み通りに、な」
 離れていった彼の頭が、広げた脚の間へと下がっていく。来る、大きな波が……。
 ぺちょ、と彼の舌が触れた。
 「あっ……あっ、あぁっ! あ、んん……」
 遠ざかっていた快感が何倍にも膨れ上がって帰ってきた。言うことを言ってモヤモヤの消えた心の空間を凄
まじい勢いで性的欲求が埋め尽くしていく。
 熱く粘っこい舌が峡谷の深さや広さを確かめるように全体を這い回る。
 開きかけた洞穴に突き刺さって内部へ入り込み、まるで蛇のように入り口の内側で彼の舌が暴れ回る。
 彼の手に押さえつけられなくても、勝手に脚が開いていく。
 性器を押し付けるようないやらしい姿勢を自覚すると、余計に性感が増すようだった。
 「あうぅ、溶ける、溶けちゃうぅ……」
 熱い舌、粘膜と粘膜が触れ合う心地良さに、下半身がとろとろになっていく。突起を圧迫する親指の力も、
痛いぐらい強いはずなのに、痛みは微塵も感じない。それでありながら、快楽は薄れることも無い。
 じゅるじゅると音を立てて私の蜜が吸い上げられていくが、それ以上の勢いで、蛇口を開けっ放しにしたか
のように、体の奥から性のエキスが漏れ出て行く。
 「あ、はっ……! イ、イクぅ……んぁ、あぁぁぁぁぁぁっっ!!」
 込み上げる絶頂感も我慢することなく、押し寄せる波にもそのまま身を任せた。
 目の前が真っ白になって、自分の体の感覚が希薄になっていく……。


 まだボンヤリする視界の焦点を合わせてみると、私が呼吸を整える間に彼は自ら服を脱いでいる所だった。
 部屋着のTシャツが抜かれて、逞しい男性の肉体が露になる。
 ベルトが緩められてジーンズが下ろされると、もう下着には立派なテントが出来上がっていた。
 その中心部は、色濃くなっている。
 光に、あるいは樹液に吸い寄せられる昆虫のように、のろのろと体を起こして彼のそこへ顔を近づける。
 「律子……」
 「攻守交替ですよ」
 積極性を見せるのは恥ずかしくもあるが、一方的に受身でいるだけ、というのも彼に申し訳無い。
 彼が自ら下着を引き下ろす前に先手を打つが、中で膨らんだ物に引っかかり、中々スムーズに行かなかった。
 「お口でしてもらったから、私もお口で……」
 現れた彼の男性自身は破裂しそうなぐらいに膨らんでいて、先端から涎を垂らしていた。
 鼻先まで近づけてみると、風呂上りだというのに、濃い雄の香りがした。臭いとは思わない。
 一度絶頂へ押しやられてスイッチが入ったのか、自ら進んで彼に淫らな奉仕をしたい気持ちが沸き起こる。
 「あむ……」
 躊躇せずに、亀頭の先端に口付けしてから、大きく口を開いて一気に口内へ飲み込んだ。
 歯が当たると痛いらしいので、見るからに敏感そうな粘膜部分は早々に奥へ奥へと押しやっていく。
 頬の粘膜を窄めてぴったりと密着させてそのまま上下に動くと、彼がうめき声を漏らした。
 「ふぅ……んっ、む……んぐ」
 口というのは本来食べ物を取り込む所で、普通食事をする時には大きい物は細かくする。こんなに大口を広
げて口の中の空間を満たすような物なんて、まず入れない。
 呼吸がし辛くて苦しいが、彼のためだと思ってここは我慢だ。
 口内を埋め尽くされながらも、隙間を縫うようにして舌を動かして、責めるべきポイントを探る。
 この挙動すらも彼には快感をもたらすようで、溜息と共に大きな手が私の髪を愛おしそうに撫でる。
 「いいよ、律子……そこ、もっと……」
 あれだけ私を責め立てていたくせに、彼が愛撫を受けている時の態度や表情は、どこかウブだ。
 彼の声がとても可愛らしく感じられて、胸が甘く疼く。苦しいけれど、もっと気持ちよくしてあげたい。
 少し視線を上げて彼の表情を窺ってみると、眉間に皺が寄っていた。
 視線が合うと、口の中に含んだ性器が大きく跳ねて、一回り大きくなった。先走りの味を舌の奥に感じる。
 きちんと彼が感じていることを確かめて、舌を皮膚と粘膜の境目へと伸ばしていく。
 裏側の筋、膨らんだ先端の縫い目を這わせていると、大きくなった肉茎が何度も口の中で跳ねた。
 「……ねぇ、そろそろ?」
 ずるり、と口の中から腫れ上がった性器を引き出しながら尋ねる。
 彼の答えを待つ間にも、舌先で亀頭の鈴口辺りをくすぐるのは止めない。
 空いた手はリングを作り、幹を底からごしごしと扱き上げる。
 「……あぁ、もう出そうだ。なぁ律子、いい? 口の中に出したい……」
 回りくどさの一切を排除したストレートな彼の要求に、胸がドキリとした。
 「……いいですよ。でも、腰揺すらないでね。つっかえると苦しいから」
 「了解だ」
 口の中に唾液をたっぷりと溜めて、もう一度彼の性器を口に含む。
 舌は根本から裏側に当てて、唇で先端のくびれを包んで思い切り吸い上げると、彼が低く唸った。
 性器全体がぐぐっと膨らむ。届いた、頂上に。
 「う……出るよっ、律子……!」
 髪を撫でていた彼の手が私の頭を強く押さえつけた。そんなに押さえなくたって口を離したりしないのに。
 程なく、粘っこい体液が吹き上げてきた。私の口内にべっとりと絡みつき、喉の奥にも当たる。量も勢いも
あるので、苦くて青臭いのを我慢しつつ速やかに飲み込んでいかないと、むせ返るか、口から零れ落ちる。
 「あ……あ……っ」
 まだ止まない射精を更に促すように先端をもう一度強く吸い上げると、一際大きな塊がドッと溢れてきた。
 精液が出てこなくなっても、掃除をするように私はまだ彼の性器に舌を這わせていた。
 美味しいとはお世辞にも言えないけれど、愛しい彼が私で気持ちよくなってくれた証なのだから、何度飲ん
だって構わない。


 呼吸を整えた彼が、再び私をシーツの海へ仰向けに沈めた。私の口の中にはまだ苦味が残っているにも関わ
らず、唇を重ね合わせ、舌まで絡めたキスをしてくれた。彼からの愛情を感じる。
 私を待たせまいと慌ててコンドームの小袋を開ける様も、なんだか微笑ましい。万が一に備えて避妊薬は服
用し続けているので、本当は敢えて二重に用心することも無い。
 でも、彼の気遣いが嬉しくて、未だにそのことは黙ったままだ。
 「ねぇ、これ、このままなの?」
 「ん? うん、そうだ」
 唯一着たままのブラウスを指差しながら彼に聞いて見ると、一瞬もおかずに彼が頷いた。
 「素っ裸より、こっちの方がエロいというか、うん」
 「……スケベ」
 彼の方も準備が整ったらしく、覆い被さるようにして私の両膝を掴んだ。
 そのまま左右に押し開かれ、恥ずかしい所が再び彼の視線に晒される。
 先ほど奉仕していた時にも、一つになる瞬間を意識していたせいか、私の秘所は潤いを全く失っていなかった。
 それを確かめるように、彼の指先が割れ目を往復してから洞穴へ入り込んで来た。
 「ん……っ、あ……あっ……」
 「よし、大丈夫そうだな」
 内壁を捏ね回されて私が甘い声を漏らすと指はすぐに抜け出ていき、代わりに押し出された腰と私の腰とが
ぴたっと触れ合った。石のように硬くなった彼のペニスが私の粘膜と触れ合って、くちゅりと水音を立てた。
 「あ……入ってくる……っ……」
 柔軟に伸びる入り口が大きく広がって、彼を迎え入れる。
 指よりもずっと太くて、深くて、熱くて、硬い。
 少し強引な肉の塊がスムーズに入ってこれるように、体の力を抜く。
 お腹を押し広げられる感覚は、お臍の下まで上ってくるようだった。
 コツンと最奥をつつかれた。根本まで入ったらしい。
 「動いても平気か?」
 「うん……」
 抱き締めあうよりももっと深く密着できる嬉しさに、夢中になって彼の首に腕を回す。
 「あ、あっ……ん、んんん……!」
 ゆっくりと抽送が開始された。
 結合部から全身へ、ぞわぞわと快楽が広がっていく。
 甘く蕩けた嬌声が自分の声だとは信じられず、恥ずかしくて堪えてしまいたいが、彼が聞きたいなら、いく
らでも聞かせたっていい、とも思う。
 引き出される時、傘の出っ張りに肉を持っていかれる感覚がたまらない。体の末端部に力が入る。
 「ふぅ……きついなぁ、律子の中は」
 彼の額には一筋の汗。より密着しようと力を入れすぎたかもしれない。
 「痛い?」
 「いや、気持ちいいから、このままでいい」
 「ふふっ……じゃあ、もっと締めちゃおうかしら……ん」
 結合部の辺りを意識して、私の体内にいる彼を思い切り抱き締めた。
 「おっ……ちょっと、そのままで頼む……」
 腰を揺すられる速度が上がった。
 抱きしめる圧力が愛液のぬめりで滑って入り口へすり抜けて行ったかと思えば、狭い空間を割って一番奥ま
で一気に入り込んで来る。
 「はぁっ! ふぁっ……! や、ん、中で大きく……!」
 体を押し広げる肉の傘が膨らみを増している。少しだけ苦しいが、その苦しさすらも快感に変換されていく。
 突き上げられ、引きずり出され、擦られ、掻かれ、また突かれ……。
 「あぁっ、す、凄い……よぉ……」
 愛し合える心地良さと、性器のぶつかり合いが生み出す気持ちよさに、何も考えられなくなっていく。
 もっと快楽を得たくなって、下になっていて動きづらいながらに私も腰を揺すり始めた。
 「律子……」
 「あ、ダーリン……」
 彼の唇が覆い被さってきた。舌が入ってくるかと思いきや、唇が触れるだけのソフトなキス。
 体に与えられる快楽ではなく、彼への恋しさや愛しさを掻き立てられて、胸が甘くじいんと疼く。
 「……ダーリン、大好き……」
 思わず口を突いて出た言葉だった。
 「嬉しいな、律子の方から言ってくれるなんて」
 「だって……あっ、こんな時じゃないと……好き、なんて……照れ臭くて言えないもん……」
 彼と愛し合っているという実感が走る。胸がいっぱいになる幸福で指先までかっと熱くなるようだった。
 いつも、これぐらい素直に自分の好意を打ち明けられたら、素敵なのに。
 「俺も、律子以外見えないよ。大好きだ」
 「ん……嬉しい……あ、っく、ん、そ、そこ……」
 自分の指では届かないポイントに、彼の性器が当たる。腰が浮き上がるような快楽が全身を駆け抜けた。
 体内からドッと蜜が滲み出て、結合部から溢れ出して会陰に垂れてくるのを感じた。
 「ひっ、あ……あぁっ! そこ……もっと……」
 静かになってしまった彼は黙って頷き、時々当たるだけだったそこへ集中的に荒々しく何度もぶつかってく
る。断続的に彼の性器が膨張しているのを感じながら、絶頂へ上り詰めていく速度が増す。
 「あっ、あぁ……! ねぇ、私、私、もう……」
 「ふぅ……お、俺もだよ。そろそろだ」
 「い、一緒……一緒にイきたい……!」
 勢いよく私を責め立てる彼の勢いが止まらない。
 達したい気持ちで頭が塗りつぶされていく。
 大きな波に体がさらわれていくような感覚が全身を駆け抜けていった。
 「はっ、いっ、あ、イっ……あぁあっっ……!」
 稲妻のような衝撃。
 津波のような絶頂に身を任せて、視界が白くなっていく。
 吹き飛ばされてしまいそうな気になって、必死で彼の体にしがみついて私は下半身をぶるぶると震わせていた。


 深い絶頂の余韻はしばらく続いていて、気が落ち着くまで私は何もせずボーッとしていた。やがて、寝起き
の気だるさに似た疲労感を感じ始めると、私の胸元で何やらゴソゴソやっている彼に気がついた。
 「ん……何してるんです?」
 「あ、いや。裸のままじゃ風邪引いちゃうだろうと思ってな。律子、ボンヤリしてたから」
 彼はぐいぐい私の両胸を寄せて、どうにかこうにかフロントホックのブラを閉じていた所だった。頭を撫で
られたりしていたような気がするのだが、いつの間にか彼は元通りに服を着ていて、枕の脇には私のパジャマ
が畳んであった。
 「子どもじゃないんだからそれぐらい自分で……っていうか、パジャマ着る時にブラはいらないですよ」
 苦労してはめたと思われるホックをぷちんと外すと、鼻先でそれを見ていた彼が大きく目を見開いた。
 「り、律子さん大胆ですね……惜しげもなく……」
 「あっ……こ、コラ。あっち向いててよ、エッチ!」
 目の前でポロリをしてしまった軽率さに恥ずかしさを覚えつつも、彼にぷいと背中を向けた。
 ショーツが見当たらないと思ったら、彼が履かせてくれていたらしい。求め合った直後ではとても成立しそ
うに無い文句の意味が、更に薄れてしまった。

 
 彼の後に洗面所で歯磨きを済ませ、髪をほどいて軽くブラッシングをして、ケースに眼鏡をしまう。
 眠る準備を整えてリビングに戻ると、彼が座布団を枕にして、カーペットの上で横になっていた。
 「あっ、ちょっと……」
 床で寝ないで下さいよ、と呼びかけようとして顔を近づけると、規則的で静かな寝息が聞こえてきた。
 「……うーん、やっぱり疲れてたのねぇ」
 ──腕枕、してほしかったのに。
 身を縮めて彼の隣に腰を下ろす。夏場ならこのまま寝ていても問題無いだろうが、肌寒くなったこの季節で
は風邪を引いてしまいかねない。私の心配はしておいて、彼は自分のこととなると時に無頓着だ。
 「うーん、布団は……一組しか無いかぁ」
 元々一人暮らしだからそれも当然か。先ほどまで甘い時間を過ごしていたベッドの掛け布団をめくる。
 「よっ……んんん……んぎぎぎ……」
 もしかしたら持ち上がるかもと思ったが、女の腕力で成人男性の体を担ぐことなどできるわけが無かった。
 太ってこそいないがそこそこ筋肉質な彼の体は弛緩していて、余計に重たくなっているのだ。
 「ふぅ、どうしようかしら」
 布団は一組。ベッドは一つ。しっかり上着を着込めば私は一晩ぐらい布団が無くても平気だろうか。
 再びベッドを調べてみると、マットの上に敷布団が一枚敷いてあるのに気が付いた。
 「……あ、いいこと思いついた」
 彼を寝冷えから守り、なおかつ『くっつきあって眠りたい』という私の願望を叶える画期的なアイデア。
 バサッと掛け布団を引き剥がして床に落とし、枕を彼の頭の近くへ放り投げて、敷布団をベッドから下ろす。
 ずるずる引きずって、眠る彼の隣にくっつけて敷布団を敷いて、彼の肩を横から掴む。
 「よいしょっ……と」
 持ち上げることは無理だったが、少し力を入れて横に押してみると、彼の体がころんと半回転した。
 そのまま、タオルケット、毛布、掛け布団の順番でかけていく。見た目だけは布団で安らかに眠る人になっ
たが、ソファーやベッドなど、他の家具と垂直にも平行にもなっていない角度がなんとも笑いを誘う。
 「さてさて、じゃあ私も……」
 高鳴る鼓動に急かされて、電気を豆電球にしてから、いそいそと私も枕を抱えて布団に入る。
 どうせ寝ているなら気付かないだろうと思い、広い背中に手を回して正面から抱きついてぴったり密着する。
 この際だから胸も思い切り押し付けてやろう。
 眼鏡が無いと今一つ視界が良くないが、目を凝らしてじっと彼の寝顔を見つめた。
 彼が先に寝て私が起きている時にしか見られない、希少価値の高い表情。緩んだ彼の顔は、意外と可愛い。
 「……酷いぞ、私を置いて先に寝ちゃうなんて、この、このっ」
 眉をしかめるぐらいはすると思ったが、鼻を人差し指でつついてみても、やっぱり反応は無い。
 少々寂しいが、言及せずにいてもいいだろう。
 「ふふっ、明日の朝、どんな顔するんだろうなぁ」
 きっと驚くのだろうが、それはぴったりと抱きついて眠る私にか、それともカーペットに寝床が移っている
ことにか、どちらだろう。
 「お休み、ダーリン。また明日……」
 ちょっとした悪戯で気分が良くなった私は、呑気に眠る彼に挨拶して、軽く頬に口付けてから目を閉じた。
 明日の朝一番に彼がどんな顔をするのか、今から楽しみで仕方が無かった。


 終わり



―後書き―

律子視点で一本書いてみよう、ということで書き始めたSSでした。
表の方では甘い雰囲気の物を書いていない反動なのか、今回は甘さを意識して書いていたような気がします。
律子はHしたくなっても相手が求めてくるように仕向けるか機会を待つかで、受身気味なんじゃないかなー
というのが個人的な見解。



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