passive but positive





 『待つ』という時間はとても退屈だ。やるべきことがあるならそれをやっていれば退屈になんてならないけ
れど、それが終わってしまってもなお待たなければならないとなると、話は別だ。

 新しく立ち上げた芸能事務所で今はプロデューサーとして働く私にも、時々タレントとしての仕事は回って
くる。私のプロデュースする亜美と真美の仕事と自分の仕事が重なってしまう時もあるため、そんな時は社長
に頼んで仕事を代わってもらうことになっている。今日は私がラジオ番組のゲストに呼ばれていて、亜美真美
はレギュラーを務めるクイズ番組の収録に向かっている。終わったら直帰でいいと言われていたので、時間を
有効活用するべく持ち帰れる仕事はあらかじめ持ち帰って来たのだ。
 もっとも、それも片付いてしまったのだが。

 私の今いる場所は、一人暮らしの自分のマンションでは無い。私のプロデューサーだった社長の、いや、彼
氏の部屋、とでも言うか。仕事仕事で充実しつつも忙しい生活が続いていた中、久しぶりに二人でプライベー
トな時間を過ごせそうなので、部屋の鍵を受け取りこうしてお邪魔しているわけだ。仕事帰りに寄って行った
り、オフが一緒に取れた時に遊びに来たりしているので、今では部屋のあちこちに私の痕跡が残っている。

 彼の私物を勝手に動かさない程度に部屋を片付けてから夕飯も作ってしまったし、お風呂も入れておいた。
お風呂を入れるついでに体も綺麗にしておいたし、カーテンもしっかり閉めて、外に出る予定も無いのに軽く
メイクも済ませ、ベッドのシーツも取り替えて、下着はいつもよりちょっと質の高い物を……。
 「って、何をしてるんだか、私は……」
 これではまるで逢瀬の時を待ち望んでいるようなものじゃないか。呆れるような笑いが自分の口から漏れた。
 今しがたシーツを整えたばかりのベッドに身を投げて、天井をぼんやりと眺める。
 「まぁ、おかしいことはしてないわよね。これは備えよ、備え。そもそもあの人がしたがるから私は仕方な
く応じてるってだけのことであって、私はそんなこと……」
 独り言はそこで止まってしまった。すっかり『頂かれる準備』を整えてしまっている有様でそんな言い訳を
してみた所で、ただ白々しいだけだ。どうにも潔くない。
 別に、したくないわけではない。特別な関係にある彼と過ごす秘め事の時間は、私も望む所だ。心も体も一
つになったかのような一体感や、重ね合わせた肌の温かさ、私だけに注がれる彼の視線は不快なわけも無い。
 それに、私も人間だから、気持ちいいことは嫌いじゃない。
 かといって、私から誘う勇気は無い。例えば……
 「……ねぇダーリン、エッチ、しよ……だぁぁぁぁ無理! ホント無理だから!」
 言えるはずも無い、そんな破廉恥なこと。独り言で呟くのもはばかられるというのに、彼に面と向かって言
うのなんて不可能だ。何もかも曝け出してしまったけれど、一人の女性として慎み深さは失わずにいたい。
 求めてくるなら体を許す。でも、あくまでも仕方無い振り。
 肌を重ねて甘えたいけど、受け身でありたい私の我侭。
 美味しく食べてもらうことが、私の見せられる精一杯の積極性だ。
 「早く帰ってこないかな……」
 情事云々は抜きにして、彼と同じ屋根の下で過ごせる時間が待ち遠しいのは事実だ。仕事と全く関係無いお
喋りに花を咲かせるのも、同じキッチンで作ったご飯で食卓を囲むのも、狭いベッドでくっつきあってまどろ
む時間も、この上なく幸せだ。アイドルだった頃から抱いていた甘酸っぱい想いも、もう無理に押し隠す必要
も無い。ただ、胸焼けがするほどに甘い言葉を囁き合いたいと思っていても、恥ずかしい気持ちが先に立って
素直になれずにいるのが、悩みといえば悩みだった。

 彼の匂いがする枕を胸元に抱きしめていると、テーブルの上に置いた携帯電話が鳴った。体を起こして折り
畳み式の電話を開いてみると、モニターには真美の名前があった。
 「もしもし」
 『あ、もしもしー。今大丈夫?』
 「うん……あ、そうか」
 時計を確認してみると、亜美と真美の収録が終わる予定の時刻になっていた。
 『そ。お仕事終わったから、連絡。兄ちゃんは車運転してるからさ』
 「お疲れ様。どうだった?」
 『今週は亜美がケッコーいじられてたよ』
 「ってことは、出番が多かったってワケね。真美も一緒に目立っただろうし、嬉しいことじゃない」
 司会のおっちゃんイジワルだよー、と言う亜美の声が受話器越しに聞こえてきて、微笑ましい気分になった。
 『まぁ、お仕事はオッケーだったってことだね。でさ、兄ちゃんがウチまで送ってくれるって言ってるんだ
けど、今日はこのまんま帰っちゃってもいいよね?』
 「そうね。明日はミーティングだけだし、細かい連絡も無いから直帰でOKよ」
 『分かったー、んじゃ……あ、そうだ』
 「なに?」
 明るい声で喋っていた真美が急に声をひそめた。
 『あ、いいや。やっぱメール送るね。そいじゃ、バイバイ』
 何の用か訊き返す前に一方的に通話が切れた。
 何だろうと思って本体を置くや否や、今度はメールの着信音。

 『亜美が寄り道したがってたんだけど、兄(C)がソワソワしてるみたいだから、まっすぐ帰るねミ☆』
 件名に散りばめられた三つのハートマークとその文面から、何を言いたいかはすぐに想像がついた。
 「全く、気を遣うこと無いのに……」
 私と彼の事情を知っている真美なりの思いやりだというのは理解できるが、メールを打ちながらニヤニヤし
ているのだろうと想像すると、亜美ぐらいのいい意味での無神経さを求めたくなることもあり、心中複雑だ。
 おまけのように添えられた「ごゆっくり」という文字に頭を抱えたくなっていると、今度は別の着信が入っ
た。直接電話をかけてくることは珍しい、千早からだ。
 「もしもし、どうしたの?」
 『あぁ、ラジオ聞いてたら律子が出てたから何となく、ね』
 繁華街を歩きながら電話でもしているのか、周囲の雑音が千早の声に混じっている。
 「お、あの番組聴いてたんだ、ありがとう。最近、そっちはどう?」
 『えっ、どうって……か、彼とは仲良くやってるけど……』
 「……えーと、通い妻のお話じゃなくって、お仕事の方」
 『そっち』という一言だけで勘違いを起こす辺り、今現在何を考えていたかが窺える。恋人の住む部屋に自
分の私物を置いている時点で私も人のことは言えないが、からかってやりたくなるような反応だ。クールな千
早がしどろもどろになっている時の表情と来たら、写真に収めておきたいぐらいなのだ。
 『か、通い妻だなんてそんな……あ、そうそう。昨日、今度出すアルバムの収録が終わった所なの』
 「ということは、発売も目前かしら。千早の作った曲が入る予定なんでしょ?」
 『ええ、作詞家や作曲家の先生に色々訂正してもらいながら、どうにか三曲。自分で歌詞も曲も書いたのは
初めてだったけど、思ってたより楽しかったわ、自分で歌を作り上げるって、新たな世界が開けたみたい』
 歌の話になった途端、千早の声が踊りだした。この手の話になると饒舌になるのは一緒の事務所にいた頃か
ら変わらないが、あの頃と違って、歌について語る千早の声には興奮や幸福が前面に滲み出ている。きっと、
受話器の向こうの歌バカはさぞやニコニコと笑みを浮かべていることだろう。


 『それで、ファンから募集したリミックスも入る予定なんだけど……』
 楽しそうに話を続ける千早に相槌を打ちながらテーブルからソファーに移動して腰を下ろそうとすると、玄
関の鍵がガチャリと開く音が聞こえてきた。ただいまー、という、自分の他に家に人がいることを確信したト
ーンの声も同時に響いた。
 待ち望んでいた、彼の声だ。


 「あ、お帰りなさい」
 『お帰りなさい……? あっ』
 私のいる場所と今の状況を把握したのか、千早が間の抜けた声を漏らした。
 『えっと、私、家に着いたから……電話切るわね』
 余りにも唐突過ぎる変化。誤魔化そうとしているのがバレバレだった。千早は、嘘をつくのが下手だ。
 「あー、別に気にすること無いわよ」
 『で、でも、待ってたんでしょ?』
 「まぁ、そうだけど……」
 『一応、私もそういう時の気持ちは分かるつもりだから』
 共感を示す、落ち着いた声。こう言われては、私も言い返しようが無い。
 『じゃあ、また今度かけるわね』
 「あ、うん……お疲れ様」
 どういう反応を返せばいいのか分からないまま通話が終わり、ツーツーという冷たい電子音が耳に残った。
 受話器をパタンと閉じて彼の姿を探してみると、キッチンで鍋の蓋を開けている後姿が目に入った。
 「おぉ、今日はビーフシチューか」
 「ええ。ちょっと冷めちゃってるんで、温めますね。お風呂は入れるんで、お先にどうぞ」
 コンロの摘みを捻りながら伝えると、ネクタイを解いた左手で頬をポリポリ掻きながら彼が私を見下ろした。
 「……先に律子がいいな、っていうのはダメ?」
 「だっ……!」
 ご飯にする? お風呂にする? それとも……なんていう、ありがちな三択。
 千早と電話していたおかげで頭の中から消え失せていた選択肢を選ばれて、思わず左手に持った鍋の蓋を落
としかけてしまった。後ろから背中を押された時のようなヒヤッとするような驚きに、鼓動が一気に高まる。
 「……焦げたのが食べたいんなら、お好きにどうぞ」
 火照る顔を隠すように、彼の方は向かず、わざとぶっきらぼうに「止めはしませんよ」と付け加えた。あか
らさまな動揺は見せないようにある程度心の準備はしていたのに、恥ずかしいことこの上ない。
 「ごめんごめん、冗談だよ」
 明るい調子で「風呂入ってくる」と言って、キッチンから彼の気配が遠ざかっていった。折角手間暇をかけ
て作った物を台無しにされたくないと思う一方で、ここで手を出されるのも悪く無いかも、と思ってしまう自
分がいた。
 品の無い考えを押し流すようにお玉をかき混ぜていたら、うっかりジャガイモを潰してしまった。


 あまり腕に自信の無い料理だったが、彼は実に美味しそうにぺろりと平らげてくれた。表情や声の調子から
すると本当に美味しく食べてくれたようで、心の底から温かい喜びが込み上げてくる。御馳走様と言う彼の笑
顔の余韻に浸りながら皿洗いを終えてリビングに戻ると、彼はテレビニュースを眺めながら、寛いだ様子で足
を伸ばして座っていた。
 「今日も一日、お疲れ様でした」
 そう言いながら、私も彼の隣に腰を下ろした。
 「あの二人は本当に元気がいいな。思ってたより体力を使ったよ」
 「ふふっ、そうでしょうね。ヘトヘトですか?」
 「あはは、そうだな。確かに疲れた。けど……」
 いつの間にか私と彼の距離は縮まっていて、彼の手が私の腰に触れた。
 「まだ、今日一番のお楽しみが残ってるからな」
 「あ……っ」
 来た。やっと来た、とうとう来てしまった、その両方だ。私の体が彼の力強い腕にグッと引き寄せられる。
ぴたりと体が密着して、肩を掴まれてじっと瞳を覗き込まれる。彼の瞳孔の奥からは、ぎらつく欲望が滲み出
ていた。
 顔が近づいてきた。目を閉じる。胸の内が沸騰しそうなほどに熱くなる瞬間だ。
 「んっ……」
 唇が重なる。テレビの中で淡々とニュースを読み上げていたキャスターの声が消失した。うっすらと湿った
唇の感触に心を奪われただけでは無く、彼が電源を落としたようだ。男女の時間が始まる。
 「あっ、ん、んっ……」
 程無くして、重なった唇の隙間を縫うようにして熱い舌が侵入してきた。私の舌を器用に絡め取って、荒々
しく嬲ってくる。痺れるような刺激に鼻から漏れ出てくる私のくぐもった声と、二人分の吐息、唾液同士の絡
み合う音が、しんと静まり返ったリビングの空気に染み渡っていく。
 「あ、やんっ……」
 私の舌を蹂躙していた唇が離れていったと思ったら、視界が回転した。彼が無言で私を床に押し倒したのだ。
 『彼と愛し合える』という期待と、『好き放題にエッチなことされちゃうんだ』という、不安混じりの興奮。
そのどちらもが私の体温を上げ、心を昂ぶらせた。天井の蛍光灯が目に眩しい。
 首筋にはカーペットの柔らかな感触があるが、背中にはフローリングの硬さが伝わってくる。このまま、な
し崩し的に抱かれてしまうのも悪くないかもしれない。しかし、
 「ねぇ……ここじゃやだ……」
 我侭を言うようで申し訳無い、と心の中で謝りながら、ブラウスの襟元に指を掛ける彼に訴えかけてみた。
 「……悪い、ちょっとがっつきすぎだな、俺」
 苦笑いを浮かべながら、彼が一旦襟元から手を離した。
 「抱っこするよ」と一言、太腿と背中に手が回ってきて、私の体がふっと持ち上がった。
 女の子なら誰でも密かに憧れる、お姫様抱っこの体勢。持ち上げてからポーズを置いて、顔を覗き込んでく
れるのが嬉しい。そのアイコンタクトに応えるようにして、私も彼の首に手を回す。
 労わるように、彼は私の体をそっとベッドの上に下ろしてくれた。ロマンチックなムードを作るのはてんで
ダメな彼だけど、自然と女性の体を優しく扱ってくれるのはなんとも乙女心をくすぐるものがある。
 元からなのか、一緒に仕事をするようになって変わったのか分からないが、そんな紳士的な所は大好きだ。
 「う……」
 馬乗りになって、彼の手がブラウスのボタンに伸びてきた……と思いきや、服の上から胸を撫でてきた。
 「…………」
 電灯の光を背に受ける彼の顔は逆光でよく見えないが、荒く浅い息遣いから、興奮しているのはよく分かる。
私のよりも一回り以上大きな掌が胸の膨らみを確かめるように撫で、指先がぐいぐい圧迫してくる。ブラウス
と下着、二枚の布地越しだからあまり刺激は伝わってこない。しかし、普段は触られないような場所を無抵抗
で好きにされているという事実が、じわじわと私の体を温めていく。
 「律子、ちょっと大きくなった?」
 「おかげさまで。誰かさんがいっぱい触るせいかなー、最近ちょっとキツイんですよね、ブラが」
 「へぇ……揉んでると大きくなるって、本当なのかな」
 ブラウスの上から体を触っていた指先が再び襟元にかかり、もどかしそうな手つきでボタンを外し始めた。
何をすればいいのか分からず、私の両手は枕元に投げ出されたままだ。降参したような格好で、少しずつ彼の
手が下腹部へ下がってくるのを私は黙って見つめていた。
 袖には手を触れないままベルトが緩められ、ブラウスの裾が引っ張り出される。そのままバッと左右に広げ
られ、体の正面がガラ空きになってしまった。
 「……今日は黒か」
 胸元を包む、レースをあしらった下着を凝視しながら彼が言った。
 「なっ、何かご不満でも?」
 「いや、色っぽいな、って思ってさ」
 うん、これでこそ意識した甲斐があるというものだ。自分の思惑を目に留めてもらって嬉しい反面、焚き火
に当てた掌のように頬が熱くなった。
 「……わざわざ口に出さなくてもいいわよ、バカ」
 本当は凄く嬉しいのに、口から出てくるのは可愛げの無い言葉だった。きっと顔もしかめっ面になっている。
 「じゃ、窮屈そうだし、これも取っちゃおうか」
 カップの狭間にあるホックがパチンと音を立てて外れた。胸を拘束する圧力が消える。
 肩も腕も布地に覆われているのに、胴体は剥き出しだ。動物が腹を見せるのは服従の証だというが、そうい
う意味では私はまさに動物だ。彼の見たい所だけを、裸にされている。
 「ふっ……ん……」
 ごつごつした手が覆い被さってきた。少し視線を下げれば、掌の中でぐにぐに変形して弄ばれている乳房が
目に入る。先ほど撫でられて温まっていたせいで、肌を直接触られるだけの行為に甘い痺れを感じる。
 「柔らかいよなー、これ」
 彼がここを触り始めると、中々終わらない。じわじわと始まった刺激が全身を激しく疼かせる程大きくなる
まで、あるいは大きくなっても、止めてくれない。
 仕事中、事務所に誰もいなくなった休憩時間に胸を触られ、少し気を許していたら、彼が欲しくてたまらな
くなってしまうまで高められてしまったこともあった。示しのつかない事態にはならなかったが、昂ぶりの大
きさに仕事どころではなくなってしまい、休憩時間が終わって彼が立ち去った後、早足でお手洗いへ急ぎ、自
己嫌悪しつつもかっかと火照った体を慰めてしまった。
 あの場で求められても、私はきっと首を縦に振っていただろう。
 「はぁ……はぁっ……!」
 呼吸が荒くなってしまったのが自分でも分かる。性欲を呼び起こされて、どんどん体が熱くなる。テレビを
消したせいで、私があげるはしたない嬌声は全部彼に丸聞こえになってしまう。恥ずかしい。でも……。
 「う……あぁっ……んん……」
 彼の頭が被さってきて、右の乳首が唇に含まれた。しゃぶりついたことをアピールするような、吸い付く音
がやけに大きく聞こえた。当然左側が手薄になるわけも無く、先端を押し潰すように指先がめり込んできた。
 敏感な乳首を舌や指で容赦無く捏ね繰り回され、痺れるような甘い電流が胸元から下半身へと広がっていく。
枕元に投げ出したままの両手は自由なはずなのに、手錠で押さえつけられているかのように動かなかった。
 愛撫されているという行為それ自体が、神経を伝わってくる快楽を増幅する。
 「や、だ……そこばっかり……」
 「そこばっかりじゃ……イヤ? 他の所もいじくってくれなきゃイヤか、しょうがないなぁ、律子は」
 「えっ、ち、ちが……!」
 ニヤリと笑うと、彼は私の発しようとした言葉に勝手に付け足して、スカートに手を伸ばした。私が彼の手
を押さえつけようとした時には既に遅く、膝から下へスカートも抜かれてしまっていた。
 もうここまで下ろされてしまったら仕方が無い。足首から抜けていくスカートをただ見送るのみだった。
 「脱がすよ」
 「う、うん……」
 普段隠している所を曝け出す恥ずかしさは、何度体験しても慣れるものではない。しかし、ここで嫌がって
いても先には進めないし、何より、私もこの先を望んでいる。
 自ら要求するのではなく、彼のリードに従順になることが、私の意思表示のつもりだ。
 頼りなげに私の局部を覆っていた黒のショーツもあっさりと抜かれてしまい、私の体には肩と袖だけがいつ
も通りのブラウスが残るのみ。彼に愛撫されていた胸元は剥き出しで、下半身に至っては丸裸だ。
 半端に衣服が残っているのが、全裸よりもいやらしく感じられる。
 「さてと、どうなってるか検めさせてもらおうかな」
 「あ、やぁっ……!」
 太腿の根本を両側から押さえつけられた、と思ったら、下半身だけがぐいと抱え上げられた。そのまま仰向
けの状態から脚を頭の方へ追いやられ、お尻を天に向かって突き出す、ひどく卑猥な体勢にされてしまった。
 「や、やだぁっ! こんなの恥ずかしいっ!」
 彼の目の前にあるのは、よりによって私の大切な所。
 私の膝を裏側から押さえ、脚を左右に広げて、かぶりつくように彼がそこへ視線を注ぐ。
 あまりの恥辱に、顔のみならず髪の先からも火が出そうだった。
 「…………」
 「こ、こら、無言で観察しないでよ」
 こんな体勢で文句を言っても滑稽なだけかもしれないが、一応抗議しておく。
 「……悪い、黙ってちゃいかんよな」
 「うっ……」
 罠にかかったな、といった様子の彼の表情に、背筋がゾクッとした。
 「律子、もう結構興奮してるだろ。濡れてるのが分かるし、充血して綺麗なピンク色になってる……」
 「あっ、や……やだ、言わないでよ」
 「お、更にテカテカしてきた。律子って見られると感じちゃうタイプなんだな」
 「ちっ、違うわよっ……!」



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