「うぁっ……!」
 いきなりギュッと握り締められて思わず腰が動いてしまった。ズン、と体の奥で快楽が膨らみ、射精感が込み上げてくる。
 「なんか、凄いね……これ。ゴツゴツしてて」
 どうやら俺が気持いいのを感じ取ったらしく、探るようだった手つきが、刺激する手つきに変わった。
 指先だけしか触れていなかったのを、掌までぴたっと密着させて、ゆっくりと上下させだした。
 微妙にツボを外していて焦らすような、ぎこちないと言えばぎこちないといえる動き。
 しかし、高まりきった興奮が快楽を何倍にも増幅させていて、あっという間に俺は絶頂を意識し始めていた。
 「麻里……もういいよ」
 先走りでぬるぬるになった先端を見下ろしながら、麻里の頭を撫でて止めてもらった。
 この先までするんだから、『射精してしまって頑張れませんでした』では申し訳が立たない。
 「気持ち良さそうな顔してたね」
 麻里が笑う。無邪気というのがふさわしい笑顔。
 いいんだろうか、こんなことをしてしまって。そんな気分にさせられた。
 「今度は麻里が気持ちよくなる番だ」
 細い肩を軽く押してベッドに寝かせる。標的は下半身だが、さっきの柔らかさにもう一度触れたくて胸に手を伸ばす。
 ぷにぷにしていて、飽きるまでずっと触っていたいような不思議な感触だった。
 だが、そこばかり触っていても先に進めないので、名残惜しい気持ちを振り切って手をお腹の方へ下げていく。
 お腹はなだらかだったが、日頃の筋トレの成果がよく分かる腹筋の起伏が指先を伝わってきた。
 そういえば何かの拍子に見た海老塚先輩のお腹は腹筋が割れているのが見えたな、と思い出す。
 柔らかくて滑らか、と言えば確かにそうだが、それ以上に指を押し返してくる弾力の印象が強い。
 「ふ……うっ……」
 掌ですりすりを撫で回していると、麻里の呼吸が荒くなった。こんな所でも気持ちいいのだろうか。
 下腹部へとそのまま手を滑らせていくが、まだショーツに手をかけるのは早い気がして、そこは通り過ぎる。
 よく引き締まった太腿をさすると、恥ずかしそうにもじもじと麻里が体をよじった。
 「や……仲安くんの触り方エッチ……」
 「当たり前だろ、男はみんなエッチなんだよ」
 恐らく筋肉なんだろうな、と思うが、ここは他の場所に比べて一層弾力が強い。
 ぐっ、と押さえつけるぐらいにしないと跳ね返されてしまいそうだ。
 内側を撫でながらお尻の方へ移動させていく内に、なんだか押さえ込みをかけているような気分になってしまう。
 こんな時でも柔道のことが頭に浮かぶ自分に、思わず呆れ混じりの笑みがこぼれた。
 胸同様に肉付きの薄めなお尻をぐにぐに揉みながら、ショーツに指を引っ掛けてずり下げていく。
 「いいか?」目で尋ねると、麻里は視線で肯定の意を示してくれた。
 ゆっくり下げていき、足首からショーツを抜くと、文字通り麻里は全裸。生まれたままの姿になった。
 子どもっぽい印象はどうしても拭いきれなかったが、両脚の付け根にうっすらと茂みがあるのを見て少し安心した。
 「んうぅ……」
 勇気を出してそこへ手を滑り込ませてみると、ぬめりを帯びていて、粘っこかった。
 ──濡れてる。
 「やだ……あんまり見ないでよ……」
 「そうは言うがな麻里。見ないで変な所触っちゃったらそっちの方がマズいだろ」
 足をギュッと閉じようとする麻里に諭すように言って、優しく太腿をさすっていると、少しだけ脚を開いてくれた。
 薄い陰毛の下には、縦の割れ目に沿ってピンク色の粘膜が見え隠れしていた。
 ベッドサイドの明かりだけではよく見えないが、さっきの感触からして、濡れていると見て間違いなさそうだ。
 (女もここは急所なのかな。優しくしてあげないと……)
 恐る恐る指を触れさせていき、粘液の一層濃い場所へ辿り着くと、奥に穴の存在を感じた。
 二本の指で陰唇を開いて中へ指を入れようとしてみたら、ぬるぬるしていてもはっきり分かるぐらいギチギチだった。
 「緊張してるのか?」
 そこだけではなくて、心なしか全身が硬くなっている。
 尋ねてみると、麻里は首を縦に振った。こういう知識があるとは思えないし、やっぱり怖いんだろう。
 「最大限の努力はするからさ、力抜いて楽にしてろよ」
 濡れていない方の手で麻里の頭をあやすように撫でて、軽く口付けする。
 少しは安心してくれたのか、ふっと力を抜いてベッドに体を預けたのが見て取れた。
 今がチャンスとばかりに、粘液に表面を覆われたクレバスを指で縦になぞる。
 「ふぇ……」
 と、上端に突起のようなものが指に当たるのを感じた。
 これがクリトリスって奴だっけか。
 思ってたより小さい……触って大丈夫かな。
 「うひゃぅっ!」
 麻里が素っ頓狂な声をあげた。
 「ど、どうした。痛かったか?」
 「痛くは……ないんだけど……電気がビリッて」
 「よし、それなら……」
 痛くないらしいことが分かったらそこを刺激しない手はない。
 愛液を指で掬い取って、塗りつけるようにちょんちょんと押したり、皮の上からそっと捏ねてみると、
 「ひっ!? あぁっ、や……んあぁんっ!」
 と、大きなリアクションが返ってきた。秘所をいじる俺の腕を麻里の手が掴む。
 首筋どころか胸元まで桜色に染まっていて、体が熱を持って、うっすらと汗をかいている。
 我慢するような表情が余計に俺の欲情を煽った。
 やがて突起から手を離す頃には、ベッドまで愛液が垂れていた。掌はべちょべちょだ。
 (……そろそろ大丈夫かな)
 「麻里」
 「はぁ…はぁ……ん、なに?」
 「いいか?そろそろ……」
 ノーとは言われないだろうとは思いつつも、勇気を出して訊いてみる。
 「……うん」
 大きな瞳が潤んでいた。
 財布からコンドームを取り出して、慣れない手つきでどうにかこうにか頑張っていると、麻里がくすりと笑った。
 「ごめん、雰囲気壊れちゃったか?」
 「ううん、仲安くんも初めてなんだなーって思うと嬉しくなっちゃって」
 何を恥ずかしいことを、と思ったけれど、お互い初めて同士でよかったような気がする。
 だって、麻里が過去に男性経験があったとしたらそれはショックだし、麻里から見ても同じかもしれないから。
 「よし、なんとかなった」
 まさかとは思うけど穴なんて空いてないよな。薄ピンク色のゴムに覆われた自分のモノをまじまじと観察してみた。
 麻里の真上に覆いかぶさるようにして、ここでよかったよな、とずっと硬いままの杭をセットする。
 「ん……」
 下から手が伸びてきて、俺の腕をぺたぺたと撫で回した。
 「手……」
 「えっと、こうか?」
 手を繋ぎたかったのかと思い、空中に差し出された手を握る。
 が、両手とも握ったせいで麻里をベッドに拘束するような格好になってしまった。
 「麻里、いいのか? これじゃなんだか俺が強引に押さえつけてるみたいで……」
 「うん、いいよ。こうしてた方が安心するから」
 にっこりと麻里は笑って見せた。
 「よし、じゃあ行くぞ」
 グッと腰を押し出してみるが、目の前に壁があるようで前に進めない。
 「おい、力抜けって」
 「ぬ、抜いてるよっ」
 よく意識を集中させてみると、壁があるというよりは穴が小さくてつっかえていると考えた方が正しいようだ。
 無理矢理押し通ろうとすれば間違いなく裂けるか千切れるかしてしまいそうだ。
 ああ、だから初めての女の子って血が出るのか。時間がかかってでもゆっくり進めないと。
 「ふーっ、ふーっ……」
 麻里が息を吐くのに合わせて少しずつ少しずつ腰を進めていく。
 恐らくミリ単位でしか進んでいないと思われるが、温かくぬめった感触に先端が包まれ始めた。
 腰がじんと痺れる。
 「麻里、痛いか?」
 「痛いっていうよりは……苦しい、かな。無理矢理体を押し広げられてる感じで……」
 麻里の額には汗が浮き出ていた。見るからに苦しそうで、胸が痛む。
 しかし、一番直径が太いと思われるカリ首が通過するまであと少しだ。もう一息頑張ってくれ。
 「いっ……う……くうぅ」
 どうにか一番太かった部分が入り、亀頭の部分が中に埋まった。
 ギリギリ締め上げてきて、気持ちいいより前にキツすぎて苦しいぐらいだ。
 それでも、もっと奥まで入り込みたいという気持ちの方が強い。そのまま腰を押し込んでいく。
 さっきのように壁が立ちふさがる感じは無く、抵抗は強いもののゆっくり進めば中に入っていけた。
 「ふぅ……麻里、全部入ったよ」
 どれぐらい時間がかかったのだろうか。遂に肉茎を膣内に収めきることができた。
 「うぅ……は、入ったの? なんか石を体の中に入れられてるみたい……」
 「苦しそうだな……止めた方がいいか?」
 弱々しく、だがはっきりと麻里は首を横に振った。
 「大丈夫だよ……このぐらい。苦しいけど、辛くないもん」
 「……結構健気なんだな、お前って」
 「でも、もう少しだけ、このまんま……」
 「分かった」
 笑い顔なのはいつものことだが、こんな時にまで笑顔を見せてくれる麻里に愛しさが込み上げてくる。
 握った手に力を込めると、同じように向こうからも握り返してきてくれた。
 「ね、仲安くん……動いてもいいよ」
 「なら、動くぞ……ゆっくりな」
 というか、速くなんて動けそうも無い。かなりの圧力で四方八方から締め付けてきて、苦痛すら感じる。
 それでいて、温かく濡れた膣内の襞の感触が凄くて、数ミリ動かすだけでも猛烈な快感が腰にぶつかってくる。
 良くも悪くも、日頃から体を鍛えているのがここにも現れている。そんな気がした。
 さっき手で刺激してもらった分の余韻も残っていて今にも弾けてしまいそうだったが、ここは我慢だ。
 「んっ……ん…あっ」
 まだ苦しそうな声。しかし、微かに甘さが混じっているような気がする。
 次第に侵入者を排除しようという締め付けから敵意のようなものが抜けてきて、膣内が少し楽になった。
 おかげで、グラインドの幅を大きめに取れそうだ。思い切って腰を引き、また押し込む。
 「あぁっ……あっ、んぅ……」
 「麻里っ……」
 気持ちよさと愛しさがゴチャ混ぜになって、思わず彼女の呼び慣れた名前を呼ぶ。
 「……昌邦くん……好き……」
 「ま……麻里」
 下の名前で呼ばれたのは初めてだった。全身が一気に燃え上がる。
 握っていた手を離して麻里の体を抱きしめようとすると、それよりも先に麻里の手が俺の首と背中に回ってきた。
 「麻里、麻里っ!」
 昂ぶりが治まらず、何かに突き動かされるように腰が勝手に動いていた。
 「あっ……ふ、ま…昌邦くんっ……!」
 激しくなる動きに呼応するように、中の潤いが増してきて動きやすくなった。
 その証拠か、腰を打ち付ける度に水っぽい音が聞こえてくるようになった。
 同時に膣内がうねって、ペニスをぎゅうぎゅうと絞り上げる。膣の中が生き物みたいだ。
 頭の奥まで痺れるような快感が背筋を駆け抜けても、腰が止まらない。
 もう射精感は限界を通り越していて、今にも爆発しそうだった。
 「ハァ…ハァ……」
 「あっ、あ……ふあぁ、あぁんっ!」
 「麻里っ! お、俺、もう……!」
 「うん…うんっ……!」
 もう戻ることなんてできやしない。後は駆け上がっていくだけだ。
 しがらみを解き放つかのように、頂上に辿り着いた俺は握っていた手綱を放り出した。
 「うっ……」
 体の奥で煮えたぎっていた欲望が決壊し、どっと噴き上げ、尿道を駆け上がった。
 脳髄がとろけるような痺れに腰がブルブル震えて、圧倒的な解放感にただただ俺は飲み込まれていた。
 視界がホワイトアウトしていき、耳の中がジンとして……麻里の声がやけに遠くに聞こえた。
 「……い」
 「え……?」
 「重いよぅ」
 麻里を下敷きにしてしまっている自分がいた。
 「悪い」
 体をどかそうとすると、腰の辺りにしなやかな両脚が絡み付いてきて、背中に回されている手に力が込められた。
 「もうちょっとこうしていようよ」
 麻里の体が熱い。耳元に、まだ荒い息遣いが聞こえてくる。
 優しくするって言ったのに、途中から熱に浮かされたように突っ走ってしまっていた。
 辛い思いをさせてしまったんじゃないだろうか。
 「痛くなかったか?」
 「痛かったよ」
 「うっ……」
 やっぱり痛かったのか。好きな女の子に痛い思いをさせてしまったという事実が重い。
 「痛かったけど……なんか嬉しかったよ。一つになれたんだーって感じがして」
 近すぎて表情はよく分からないが、その声の調子は明るい。
 いつものような浮かれてポーッとした調子ではなくて、噛み締めるような落ち着いた声だった。
 「ねぇねぇ、麻里のことスキ?」
 「あぁ、好きだ。大好きだ」
 もう、俺がそう口に出すことに躊躇は無かった。
 壁の時計を見てみると、部屋に入ってきてから二時間近くも経過していた。

 翌日。朝の爽やかな空気の中、商店街を歩いていると、駆け足が音を立てて寄ってきた。
 この時間帯にこの音。とても聞き慣れたものだったが、なんだかいつもとテンポが違う。
 「おはよーっ!」
 ああ麻里だったか、と思っていると、いつも通りに彼女は学生服の袖を掴んできた。
 「オス。体、大丈夫か?」
 「んー、大丈夫なんだけど、なんかこう、ヘンなの」
 「痛くは無いか?」
 昨日の、ベッドのあの赤い血痕が脳裏をよぎる。
 帰りに家まで送っていこうとした所、腰がだるくて立つのが億劫だと言うので麻里をおぶって行ったのだ。
 「んーまぁ、それは平気……あ」
 何かを思い出したように喉の奥から押し出されたような声を出すと、麻里が袖を掴む手を離した。
 「どうした。忘れ物でもしたか?」
 「ううん、そうじゃなくって」
 ポケットに突っ込んでいた俺の手を強引に引きずり出して、一回り以上も小さな掌を押し付けてきた。
 「こうかな、って」
 何気なく、いつも通りを装ってみたつもりだろうが、ほんのり麻里の顔が赤い。
 きっと俺の顔も赤い。さっきは涼しかったのに、今は汗をかきそうなぐらいだから。
 こうなるまで随分長かった気がするが、その分嬉しさは大きい。
 「ねぇねぇ、仲安くん」
 「ん?」
 「寝技の時エッチなことしちゃダメだからね」
 「するかっ、どアホウ!それ以前に寝技でも勝てねーっての!」
 このお化けコアラ相手に畳の上で主導権を握れる日は来るのだろうか。考えるとちょっと気が重くなった。


 終わり



―後書き―

この二人は本編後でちゃんと付き合ってるようですが
馴れ初めが気になるところですね。

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