五分の刑


 都内のビルに居を構える、とある芸能事務所。かつてはいちプロデューサーとして働いていた俺は、いつし
か新たな事務所を立ち上げ、経営者の立場に回ることになった。設立の話を出して手続きの一通りを行ったの
は俺の元担当アイドルだったために実際俺がしたことといえば、用意された椅子に座って新たな業務に携わる
だけと言っても過言では無いのだが。
 アスファルトが濡れることも増えてきた。クールビズの施行があちこちでなされ、少ない人員で切り盛りす
る我が事務所でも、ノーネクタイOKであるとか、冷房の温度を26度に固定するとか、そういった取り組みが
されるようになった。
 雨雲の隙間から覗く太陽が蒸し暑さを助長するようになった頃、携帯電話に一本の着信が入った。
「もしもし」
 受話器の向こうから、落ち着いた調子で男性の声がした。
「今日、御社よりタレントの方が営業にいらしたんですが……」
 玩具会社の社長を務めている彼からの電話は、いわゆるクレームという奴だった。通話相手の佐藤社長が言
うには、プロデューサーの律子が同行していたはずだが、どうやら彼女の担当アイドルが先方に失礼な言動を
ポロポロとしてしまったらしい。
「弊社のスタッフのご無礼、深くお詫び申し上げます。こちらの方でも指導を──」
「……なんてな。そんなに畏まらないでくれたまえ。別にクレームをつけようっていうんじゃないんだ」
 急に、佐藤社長の声から緊張感が消滅し、朗らかな口調に変わる。
「佐藤さん……驚かさないでくださいよ」
「いや、この間から話を聞いてはいたが、亜美ちゃんは本当に元気がいいね。今日の件も、微笑ましく見逃せ
る範囲内のことだったから、気にすることは無い」
「ええ、あの元気のよさが、マイナスに働いてしまうこともあるのですが……」
 電話相手の佐藤社長は、新たに知り合った取引先の一人だ。たいへんな酒飲みで、商談ついでに飲み屋へ連
れて行かれることもしばしばだが、彼の経営する玩具会社は、既に大手の領域にありながら、今もなお成長を
続けている、玩具業界のみならず、多大な注目を浴びている成長株なのだ。
「そちらの秋月さんとも話をしたのだが、ウチの新商品の広告CMに、ぜひそちらのタレントを起用させてもら
いたい。そのことを伝えようと思ってな。秋月さんにはまだ決定の是非を伝えていないので、君から伝えてあ
げてくれ」
 クレームどころか、全くの逆。商談がうまく行ったことを示す連絡だった。
「あ、ありがとうございますっ!」
 電話相手に見えるわけは無いと分かっていても、電話口で深く頭を下げる。プロデューサー時代からとうと
う変わることの無かった、俺のクセだ。
 では、また飲みに行こうと言って、佐藤社長は通話を切った。
「よしっ……よくやった」
 拳を固めてガッツポーズを作る。上り調子の会社と提携できれば、ウチの会社ももっと規模を大きくできる
可能性は十分にある。ただ、一つ引っかかることがあるとすれば、相手方に失礼を働いてしまったことだ。こ
ちらと元々交流のある会社だったから良いものの、そうでなければ、破談していたかもしれないのだ。
 社長室の引き出しから、先日頂いた『おもちゃ』を取り出して、俺はあることを考え付いた。


 数時間後、営業先から律子と担当アイドルの女の子が一緒に帰ってきた。本当ならば商談が成立したことを
知らせて喜ばせてあげるのが先なのだが、まずは律子からの報告を待つことにした。
 コンコン。社長室のドアが、遠慮がちにノックされた。
「……失礼します」
 部屋に入ってきた律子はどこか居心地悪そうにしていた。その様子を一目見ただけで、どんな類の報告が来
るかは予想がついた。
「お帰り、律子。どうだった」
 どうせ、こちらからはハッピーなお知らせしかないんだ。お楽しみは後にとっておこう。そう考えて、俺は
敢えて表情を固めた。
「予定通り営業へ行ってきたのですが、広告へ起用して頂けるかどうかは、先方の返事待ちです」
「ご苦労さま。……で、どうだ、うまくいきそうか?」
 俺が尋ねると、前髪の隙間で、ぴくりと眉が動いた。真面目な表情がいっそう硬くなる。
「……分かりません。営業中、亜美が先方に対して大変失礼な言動をしてしまいまして、印象を悪くしてしま
ったと思います」
「そうか……」
「こちらの管理・指導が行き届かず、申し訳ありません」
 気まずそうにしていた律子が体を深く折り曲げて、頭を下げた。商談の結果を知っているがゆえに、堪えて
いなければ笑みがこぼれてしまいそうだ。
「……分かった。今何かを言った所で、これ以上結果が変わるわけじゃない。先方にはこちらからも後ほど連
絡を入れておこう。ただ……」
「は、はい」
 律子がぴしっと背筋を伸ばした。
「このまま何のお咎めも無しというわけには行かないな。我が社の損失に繋がる可能性だって、無きにしもあ
らず、だ」
「……」
 いかに恋人同士として関係を持っているとはいえ、律子はけじめがついている。押し黙って、何を思うのだ
ろう。何らかの処分が下ることを考えているのだろうか。責任感の強いことだ。
「こっちへ来てくれ」
 俺の座っている席まで、律子を手招きする。俺の右手は、佐藤社長の系列会社で作っているらしい『おとなの
おもちゃ道具』を握っている。
「座るんだ」
「……はい」
 押し殺した口調でそう言うと、律子の目に一筋の怯えが見えた。
「肘掛けに手を置いて……そうだ」
 律子が肘掛けに手を置いた瞬間、手錠を手早くかけて、律子の右手をロックした。
「なっ!?」
 呆気に取られている間に、もう一個。
「しゃっ、社長、何を……」
「何って、ちょっとしたお仕置きだよ」
「……どうして……」
 澄んでいた瞳が、うっすらと曇った。
「実はさっき先方から電話で連絡があってね。広告に亜美を使わせてもらいたいっていう旨を伝えられたんだ」
「ほ、ホントですか?」
 立ち上がろうとした律子だが、手錠に阻まれてしまい、椅子に縛り付けられたままだ。
「商談はうまく行ったし、向こうも俺と交流があったから、それほど不快な思いはしていないそうだ」
「そうですか、よかった……」
「ただ、それはたまたま、運が良かっただけだ。一流企業にあたる会社を相手にした営業で実際起こった事実
としては……分かるよな?」
「……はい」
 喜びにパッと明るい花を咲かせたが、すぐまた律子の表情が翳る。その顔に、俺の嗜虐心がそそられる。
「というわけだ。しばらくガマンして頂こう」
 そう言って、俺は両手首を椅子に縛り付けられた律子のブラウス、その襟元へ手を伸ばす。
「やっ……だ、だめっ!」
 何をされるのかを悟ったらしい律子が首を横に振って、身をよじった。そんなことはお構い無しに、一つま
た一つと、ボタンを外す。
「セ、セクハラですよ、こんなの」
「セクハラ以上のことなんて何度もしてるじゃないか、今更何を言ってるんだ」
「う……」
 立ち上がろうとしたって、縛り付けられた両手がそれをさせない。それなりに豪華な社長室の椅子は、重量
もある。手錠がカチャカチャと音を立てるばかりで、律子の体は椅子に半分埋まったままだ。
「で、でも……お願い、仕事が終わってからだったらいいから……ここじゃイヤ……まだ昼間なのに」
「お仕置きだって言っただろう」
 そんなことを言い合っている内に、律子のブラウスはすっかり前がはだけてしまった。軽く前を開いて下着
の白を確かめてから、砂の落ちきった砂時計を引っくり返す。
「五分間、おさわりの刑だ」
 都合良く前面にあったホックをぷちんと外して、自己主張の強い乳房を剥き出しにする。
「五分ガマンしたら、また仕事に戻っていい」
「わ……分かりましたよ……」
 ほとんどイタズラ半分な俺の『刑』を受け入れる気になったのか、律子が溜め息をついた。もっとも、抵抗
した所で、律子が断れるわけも無いのだが。シルバーのネックレスを下げた首元、鎖骨のラインをつつつっと
指でなぞり、下ろした髪に潜り込ませ、うなじをくすぐった。
「くっ……ん……」
 耳を軽く噛んで、首元から手を下ろしていく。
「エッチな眺めだな。パリッとフォーマルな格好をしてるのに、ここだけが丸出しだ」
 たっぷりとした乳房を両手で持ち上げると、律子の頬が赤く染まった。砂時計の中身は、まだ少ししか落ち
ていない。とはいえ、あまり遊んでいたら五分なんてすぐに過ぎてしまうだろう。キメの細かい肌を撫でる感
触を味わっている時間も惜しい。
「ん、あ……あっ……」
 掌で包んで、マッサージをするようにぐにぐにと揉んで行くと、ぐぐっと華奢な背中が折れ曲がり始め、背
もたれによりかかっていた体が、前のめりになっていく。両手は柔らかい果実を弄びながら、舌で耳の裏側や
うなじを責めて行く。二点、三点を同時に攻撃していくと、呼吸のテンポが上がり始めた。
「おっと、この向きじゃまずいな」
 椅子をくるっと引っくり返し、入り口に背を向ける。俺の体と椅子の背もたれが丁度いい死角になる。同時
に、律子からは『残り時間』が確認できないことになる。
「やっ、ひどい……」
「ひどくないさ。厳しい秋月プロデューサー殿が、おっぱい丸出しの所なんて見られたくは無いだろう」
「それは、社長だって一緒でしょう。こんなのしてる所、見られたら──やっ、そこ……!」
 口答えできないように、一番の弱点へ指先を伸ばして、軽くつねった。そうだ、折角の事務机なんだからと
思って、書類の脇に置いてあった、滑り止め用のイボがついた指サックをはめる。
「ほら、こういうのなんか、結構好きなんじゃないか?」
 敏感な突起へ、イボを擦り付ける。
「あっ、あ、ああっ……や、それ、ダメですっ……!」
「ふむ、だいぶよさそうだな。どれ、こっちも」
 右の乳首は指サックでこりこりと刺激しながら、左側には唇を這わせ、舌で突く。
「はぁっ、はぁぁ……!」
 音を立てて乳首を吸い上げると、呼吸の荒くなった律子が、たまらず声をあげて、体を震わせる。胸で感じ
てしまいやすい律子には、さぞかし効くことだろう。
「ほい、じゃあ、左右交代な」
 指サックをつけかえて、唾液で濡れた左側を弄り回す。既にコチコチに硬直していた突起は、こちらの圧力
に抵抗するかのように、ますます硬さを増していた。口を離して表情を窺ってみると、頬どころかもう首筋ま
でほんのりと桜色に染まっていて、レンズの奥で瞳がとろんと潤んでいた。
「ん……んっ、ん……」
「これはお仕置きなんだぞ? そんなに感じてちゃ、お仕置きにならないだろう」
 律子を煽るように、耳元で囁く。
「だ、だって……」
 ちらりと後ろを振り向いてみれば、丁度砂時計の砂が落ちきる所だった。きっかり五分。
「おっと、時間になった。お疲れ様、律子」
 手錠に合う鍵を取り出してセットすると、カチンという音と共に、律子を縛り付けていた鎖が外れた。
「すまなかったな、変に拘束して。じゃあ、業務に戻ってくれ」
「えっ……?」
 瞳に落ち着きのまだ戻らない律子が、うわごとのような声を出した。
「いや、だから、お仕置きは終わりだよ」
 俺が冷静にそう告げたが、まだ律子は、エッチな所を剥き出しにして硬直したままだった。
「で、でも……」
「五分経ったからさ。ほら、これ見ろよ」
 砂時計を手にとって、律子に突きつける。愕然とした顔で、律子はそれを見つめた。両手首にうっすらとつ
いた手錠の跡と俺の顔に視線を往復させてから、律子は顔を俯かせた。
「ずるい……」
 ぽつりと律子が言った。
「ん、何がずるいって?」
「ここまでしておいて……」
 律子は俺と目を合わせなかった。肘掛けに置いたままだった手が、しぶしぶと胸元へ向かっていく。
「もしかして、お仕置きされてたのに、その気になっちゃったのか?」
 タイトスカートから伸びた脚、むっちりした太腿を撫でながら尋ねる。
「そ、そんなこと……!」
 赤くなっていた頬が、羞恥に色濃くなる。
「なら、早く仕事に戻らなきゃ」
 人差し指の先端を、触れるか触れないかの位置で、内腿へ滑らせていく。半開きだった膝が閉じられた。
 俺が手を離して席から離れようとすると、律子が乞う目つきで俺の顔を見上げた。しかし、目が合った瞬間
に、また律子は俯いた。
「…………さい」
「ん、何だ?」
「……ください」
「よく聞こえないな。もう少しハッキリ言ってくれないと」
「しっ、して下さい」
「何を?」
「……お仕置き」
 律子が顔を上げた。その目尻には、涙の雫が浮かんでいる。
「こっちもして欲しいってことか?」
 椅子に手を潜り込ませ、スカート越しに臀部を掴んで軽く揉むと、数秒の躊躇の末、顎がすっと下方に動い
た。腰の奥で煮えたぎる疼きをずっと押さえ込んでいた俺の、箍が外れる音がした。
「なら、まずはスカートを脱ぐんだ」
 片手だけに手錠をはめなおして律子にそう指示すると、思いの外素直に、律子の手がスカートにかかった。
するするとスカートが降りていき、ストッキング越しの白いショーツが剥き出しになった。
「パンツも下ろして」
「は……はい」
 本当は自分で引き下ろしてしまってもいいのだが、敢えて律子にそうさせることが……犯される準備を律子
自身に整えさせることが、心地良かった。
 ショーツが腰から離れていく瞬間、裏側の布地が糸を引いていたのが、やけに鮮明に視界に映った。
「よし、じゃあ、両手を差し出して」
 片手にはめられた時点で察していたのだろう、律子は、逮捕される犯罪者のように、手錠をかけられる形に
両手首を揃えた。カチンと音を立てて、再び律子の自由が奪われる。しかし、今度は、席を立つこともできる。
「あっ、んんんっ!」
 拘束した両手首をそのままに、覆うものの無くなった股間へ無遠慮に押し入ると、そこはもう滴るぐらいに
たっぷりと愛液に濡れていた。洞穴を探り当てて指を突き入れれば、たちまち内部へ飲み込まれていく。
「こんなにしてるなんてな。お仕置きだっていうのに、一体律子は何を考えてたんだ?」
「あ、っひ、い、言わないで……!」
 律子の内壁はうねり、異物の侵入を歓迎するかのごとく奥へ奥へと俺の指を引き込んでいく。指先に感じる
触感に、もっと気持ちのいい所で律子を味わいたくなった。
 準備はよさそうだな、と、確認が取れた所で、エチケットを済ませた。体の位置を入れ替えて、椅子に座っ
た俺の上にまたがるよう、律子に促す。後ろ向きに座らせて、尻を掴みながら突き上げるのも悪くは無いのだ
が、快楽に翻弄される律子の顔が見たくなった。
「そのまま、腰を下ろすんだ」
「はい……」
 向かい合わせにまたがった律子が、ひとまとめにされた両腕を俺の首筋へ回してきた。甘えるような仕草。
まだ業務に従事していなければならない時間だということをすっかり忘れているようだが、そこは何も咎めな
いでおいた。
「ふっ……んんんっ!」
 俺にもたれかかって、律子が一際甘い声を漏らした。音も無く、硬くなったオスが蕩けたメスに丸呑みにさ
れていく。よく潤った内部は、貪欲に俺を締め付けてくる。強い渇きを感じた。
 律子が動くんだ、と言おうとしたが、たぎる気持ちを抑えられずに引き締まったウエストへ手を回して、下
から突き上げる。丁度目の前に位置していた律子の顔が近づいてきて、向こうからキスを求められた。
「んっ、ん、あぁっ……お、奥っ……」
 重力に引かれて沈んでくる律子の体。必然的に、結合は深くなる。根元までぴったりと包まれた時、こつん
と先端が最奥に当たった。その瞬間、胎内の拘束が強くなった。
「あっ、あ、あ、いっ……ふ、ふうぅっ!」
 きゅっと瞳を閉じて、律子は俺の突き上げを受け止める。嬌声に混じった熱い吐息が、こそばゆい。
 ギシッ、ギシッと、二人分の重量を受ける椅子が軋む。
「律子、あんな真面目なお前が、仕事をサボってこんなことに夢中になるなんてな……がっかりだよ」
「あ、っう、ごめん、なさい……」
 仕事をサボってるのは、俺も同じ。人のことは言えないと思いつつも、そんな言葉を律子に投げかける。
「今頃あの二人、『律ちゃん、何してるんだろーね』とか言ってるかもしれないぞ」
「や、そ、そんなこと……」
「おいおい、中がキツくなってきたぞ。いいのか、プロデューサーがそんなことで」
 サディスティックな言葉を吐きながら、俺もどんどん気持ちよくなってきた。肉の槍に血液がもっと集まっ
てきて、射精感が形を取り始める。
「やっ……ふ、あうぅっ……そんな、奥の方ばっかり……」
「お前が、腰を押し付けてくるんだろう。こんなに締め付けやがって」
 腰が止まらない。


「敏腕プロデューサーが、仕事中に上司とこんなことしてたら、示しがつかないよな。しばらく、他の事務所
にでも異動してもらおうかな」


「えっ……」


 快楽に弄ばれていた律子の表情が突如、凍りついた。
 さぁっと熱の引いたその顔には絶望すら窺えてしまい、自分が軽い気持ちで口走った言葉にこっちが狼狽し
てしまった。


「や……やだ、そんな……イヤ……」


 顔面蒼白になった律子の目尻に、大粒の涙が浮かぶ。


「いやだ……私のこと、捨てないで……」


「そ、そんなことするわけ無いだろう」
 自分で言っておきながら、律子のいないオフィスを思い浮かべてしまい、背筋にとても嫌な悪寒が走った。
「ほんの……ほんの冗談だから、本気に取るなよ?」
 律子に言い聞かせているつもりだが、ほとんど自分に言っているようなものだ。
「……ホントですか?」
 明らかに、律子は萎縮してしまっていた。『冗談も休み休み言え!』と激怒された方がよっぽどマシだ。調
子に乗っていた自分の軽率な発言を呪いたかった。
「当たり前だろう。お前がいなくなりでもしたら会社も困るし、律子を他の職場になんて行かせてたまるかっ」
「……」
 律子は、涙目のままで俺を見つめていた。
「お前は俺のものだ。誰にも渡さない」
 離れないでくれ、というのが本音だったかもしれない。
 繋がったままの恋人を愛しく思う気持ちが、怒涛の勢いで吹き上がってくる。
 腰を掴んでいた手を背中に回して、悪寒を振り払うように、律子をきつく抱きしめた。
「う、嬉しいですっ……はぁ、あっ、ん……」
 貪るように、律子が唇を重ねてきた。音を立てて舌を絡めあっていると、いよいよ射精感を我慢できなくな
ってきた。ずっしりと腰が重くなる。
「律子……いいか? そろそろ……」
 あんなに一方的に物を言っておきながら、相手に許可を求めている。なんだか滑稽だった。
「……うん、わ、私も……」
 腰を揺する速度を上げる。溢れ出ようとする奔流を、止める気は無い。
「ああっ、いっ……いく、いくぅっ、ああああぁうっっ!!」
 叫び声と共に、内壁が根元から先端まで一気に絞り上げてきた。ひとたまりも無く、俺も絶頂を迎えた。
 腰が引っこ抜かれるんじゃないか、というほど、勢い良く精液が体外へ飛び出していく。頭が真っ白になり
そうな、圧倒的な快楽の渦の中で、俺は律子の体をずっと抱きしめていた。



「すまん、ちょっと悪ノリしすぎた」
「『すまん』じゃないでしょうっ! しかもちょっとどころじゃないし! まだ他のスタッフだって働いてた
のに、あんなことしてっ!」
 事が済んで頭に冷静さが戻ったと見るや、律子は顔から煙でも出るんじゃないかというぐらいカンカンに怒
っていた。俺は社長室の机から引き剥がされ、しばらく前から床に正座させられている。顔には、今頃つねら
れてできたアザが残っていることだろう。
「でも、律子だってノリノリだったんじゃ──」
 ぱしん。ハリセンの炸裂音が響いた。
「だまらっしゃい! ……でも、確かに私もムードに飲まれてたのよね……実際、仕事でミスをしてたのは事
実だし……」
 言いたいことは言い尽くしたのか、律子が顔をうつむかせて、ポツリと言った。
「……社長」
 怒りから一転、不安か怯えか、暗い翳りを浮かべた律子が、屈んで俺と目線を合わせた。
「仕事の失敗とかで罰があるんなら、甘んじて受けます。けど……異動させる、とか、そういうこと……冗談
でも言わないで下さい。ホントに、怖かったんですから……」
 最後の方は、声が震えていた。潤んだ目尻から、涙が一筋零れ落ちて、なだらかな頬を伝った。
「……分かってるよ。俺も、自分でうっかり口走っておいてまだ悪寒が消えないんだ。本当にすまなかった」
 律子の瞳から流れ出した涙を指で拭ってから、俺は床に額をつけた。
「い、いいですよ、土下座までしないで。ほら、もう立って下さい」
 律子に促されて、足を崩して立ち上がる。両方の膝から下が、じんと痺れていた。
「じゃ、私、仕事に戻ります。あの子達、そろそろレッスンも終わるでしょうし」
「ん……ああ、頼んだぞ。今度、埋め合わせはするから」
 背を向けて、律子が社長室のドアへ歩いていく。ドアを開けて出て行くかと思いきや、ドアノブを掴んだま
ま律子の体が止まっていた。よく見ると、どうやら手首の赤いアザを見ているらしい。
「悪い、跡が残っちまったな、それ」
「い、いえっ、いいんです、そんなに目立たないし」
 俺が言うと、律子は慌てて振り向いた。その顔はなぜか、ほんのりと赤くなっていた。


 終わり



―後書き―
久しぶりに過ごせた休日らしい休日の数時間で一気に書き上げたSSでした。
最近ホントに忙しすぎる……! それはさておき、拘束系SSを書きたいと思ってやっていたのですが、
なんとなく自分的には消化不良な部分があります。いずれ加筆するかも……ね……



テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル