「胸も好きなんだけど、こっちはもっと好きだな」
 彼の手が更に下がって、私の腹筋を指が伝っていく。
 一日二百回の腹筋トレーニングをずっと続けてきた私のお腹は、外から見ても筋肉の起伏がうっすらと見え
てしまうほどだ。如月千早の代名詞たる歌のための努力の結果だからなのだが、彼に恋心を抱くようになって
からは、こんな割れた腹筋は女の子らしくないんじゃないかと気にするようにもなった。
 それにもう一つ。私のお腹は別の意味でも気になる部分なのだ。
 「あっ、や……あっ」
 「凄いよな、千早のお腹。きゅっと引き締まってて……セクシーだよ、とっても。ガチガチでも無くて、触
るとちゃんと弾力があって、柔らかい」
 「ハァ……ハァ……あっ、んん……」
 彼の指が、私の腹筋の起伏をなぞっていく。背筋がゾクゾクして、声が出てしまうのをこらえきれなくなる。
私よりもずっと大きな掌がボディソープをまとってへそを中心に広がり、ウエストまで包むようにしてぐにぐ
に揉みしだいてきて、床のタイルに置いた足がぴんと爪先立ちになる。
 「あぁ……プロデューサー……お腹、そんなに、さ、触らないでください……」
 「どうして?」
 私が抗議をすることが不自然で仕方が無いといった口調で彼が言う。
 「そっ、それは……いっ、う、あ……」
 ぬるぬるした掌がお腹を滑り、十本の指がまるで生物のように腹筋の輪郭を嘗め回してきて、下腹部が熱く
なる。体の中心がキュウと切なく締め付けられて、じりじりと疼いてくる。両脚の間に手を伸ばして指を触れ
させたい衝動に駆られるのを押さえようと、膝を硬く握った。脚を直角よりやや少ない程度よりも内側へ閉じ
ようと思っても力が入らなかった。
 「千早さ……好きだろ、ここ触られるの」
 「いっいえ、そんなことは……ぁ……な、ないです、ん……んぅ」
 「そうかなぁ。胸触ってる時より、息荒いよ? ホントは凄く気持ちいいんじゃない?」
 お腹を触られてこうも感じてしまうなんて、私は異常なんじゃないか。変態という言葉が脳裏に浮かび、そ
の言葉の下品ないやらしさに何故か加速していく気持ちよさを、否定できなかった。
 「……脚の間、ちょっとテカってるよ」
 そう耳元で囁かれて、首筋に電流を流されたような衝撃が走り、思わず腰がぶるっと震えた。
 生ぬるい、粘り気のある液体が椅子に垂れてお尻に触れている時点で、腹筋を愛撫されて私の大事な所がど
くどく蜜を吐いていることは……言うまでも無かった。彼の手でお腹を触られているとどうしようもないぐら
い気持ちよくて、たとえ服の上からであっても変な気分にさせられてしまうのに、今この瞬間、彼の体温と肌
の感触がダイレクトに触れ合って、たまらなかった。
 感じてるんじゃないの、と彼が指摘する声と、腰より下まで下がってきて、内腿を焦らすようにさする彼の
右手に、ますます私は昂ってしまう。
 「濡れてる?」
 「ぬ……濡れてません……ひあぅ!」
 彼の問いかけに反発すると、太腿を撫でていた手が泉の中心部に侵入してきた。腰が痺れる。下腹部の奥が
疼く。体が熱い……!
 「まだここにはボディソープを塗ってないんだけど……おかしいな、もうヌルヌルになってるよ」
 「あぅっ……お……お腹に塗られたのが……たっ、垂れてきただけで……あぁんっ!」
 一気に指が二本も体の中に入り込んできて、押し開けるように広がると、にちゃ……と粘っこい音がした。
そのまま、上下に指が往復して、中に溜まっていた蜜が掻き出されてバスルームの空間に淫らな音が響く。下
半身全体が痺れるような快感に、腰が溶けてしまいそうだった。
 「うーん、中々綺麗にならないな。どんどん溢れてくる」
 「ひっ、やぁ……んっ、あっあ、あ……」
 腰から足先へ、それと同時に腰から背中を駆け上って脳天へ、体の内側を揺さぶるような波がぐわんぐわん
と広がっていく。入り口から割り込んできた指に内壁を擦り上げられて、意識せずその指を締め付けていた。
締め付けることで、指との密着度が増して、より快感が深くなる。
 彼が生唾を飲み込む音が背後に聞こえた。
 彼の口数が減っていき、段々と息が荒くなってきている。こんな貧しい私の体で、恋焦がれる愛しい彼が興
奮している。女としての喜びを感じると同時に、その喜びに慰められているような気になってしまい、そんな
ことを考える自分が少し情けなかった。
 やがて、性器を責められる快楽に頭がぼんやりとして、体がゆっくりと浮いていく感覚に絶頂を意識してい
ると、昂っていた熱が急に冷めていった。彼の指が私の秘所から退き、べっとり濡れて天井の蛍光灯に照らさ
れて光を放っていた。気が付けば私は大きく股を開いてしまっていて、彼の指と私との間に橋がかかっていた。
 達したくなっていた自分に気付いて、顔が火照った。
 「千早」
 後ろから逞しい腕が私の体を包み込んできた。「入れてもいい?」と、女性の私には出せない低く響く声が
熱い吐息ごと耳にかかり、左半身がぴくりと震えた。
 私を力で押さえつけて有無を言わさず犯すことだってできるのに、一つに繋がる前になると、彼は私の許可
を請い求める。
 許可を求めたいのは、私の方だ。
 「は……はい」
 大きく頷く勇気が無くて小さく顎を振ると、浴槽の縁に手をついて四つん這いになるように言われた。今日
は獣のような格好で後ろから貫かれる。そう悟ると、体の中から新たに蜜が染み出てくるような心地だった。
 彼が一度だけ、深く呼吸した。お尻の肉を掴まれて、左右に広げられる。来る。ぬめりを僅かに帯びた、熱
くて硬い、石のような塊が内腿を擦った。私からは彼の顔や体が見えない。いつ来るのだろう。異物が入り込
むべき所に意識が集中する。そこじゃない、もう少し上……
 「あ……っあ……くぅっ……」
 入り口がぐぐっと押し広げられた。中に、焼けるように熱い異物が私の体を割って入ってくる。
 先端が押し入って来ただけで、膝から力が抜けるようだった。一番太い所が入り口を通過しようとする瞬間
は少し苦しくて、ゆっくりと息を吐きながら、声も一緒に漏れ出ていく。下半身から力を抜く代わりに浴槽の
縁を掴む手に力が入って、爪の先が白くなっているのが見えた。
 「ふぅ……狭いな、千早の中は」
 やがて、粘膜と皮膚の境目、傘の最も広がった一番太い所を通り過ぎてしまえば、後はすんなりと奥まで受
け入れることができた。内臓を押し広げられるような異物感と圧迫感。これが動けばたちまち凄まじい快楽の
波に私は溺れることになって、何も考えられなくなる。鼓動が高鳴った。
 「動くよ」
 逞しい彼の男性が私の秘所を奥まで貫いたまま、前後に動く。襞を押し広げるほどに大きくなった肉に内壁
を容赦なく引っかかれて、全身が快楽に打ち震える。
 「あァ……んぁ、はっ、あっ、あ……あぁぁ……」
 私の予想以上に私は濡らしてしまっていたらしく、ぐちゅ、ぐちゅといやらしい音が浴室の空間に響き渡っ
て、自らの喉から生み出されるはしたない嬌声も相まって聴覚まで犯されているようだった。歌を歌っている
私とはまるで別人のような声をあげてしまうのは恥ずかしくてたまらないが、突き上げられる度に走る電撃の
ような甘い痺れがあまりにも強く、到底我慢できるようなものではなかった。
 「はぁっ……いいよ、千早……とてもいい」
 「んんぅ……ぷ、プロデューサー、あっ、う……あぁっ」
 彼の呼吸のテンポも上がり始める。同時に腰が打ちつけられる間隔も短くなっていって、水音の中に肌と肌
がぶつかり合う音が混じってきた。私の性器を責めたてる彼自身を、踏ん張るようにして力を入れて締め付け
ると、ぴったりと密着して結合がより深まり、快楽を感じるあらゆる器官を握り締められたかのように気持ち
よくて、下半身がとろけてしまいそうだった。
 「い……あぁっ、ひ……あっあぁ、す、すごい……です……」
 脳は快楽を忠実に受け取っているのに、床についた膝の触覚が段々と希薄になってきた。声を出しているか
どうかもよく分からなくなって、目の前がぼやけ始める。先ほど指で責められていた時の、宙に体が浮くよう
な感覚が再びやってきた。
 「ぷろ、ぷろでゅーさっ、私、あぁっ、私……」
 体の内側で溜まりに溜まった快感が今にも堰を切ってしまいそうで、先に達しては彼に申し訳ないと頭に念
じながらも、絶頂に達するのを堪えられそうになかった。そんな中、彼は口数が減って、荒い呼吸に合わせる
ようにして私を乱暴に突き上げる。中に入ってきて更に膨らんだ彼の肉杭は最奥まで届いていて、こつっと子
宮口を叩かれると、その奥がじんじんした。
 もう限界だ、そう思った瞬間、体の奥の奥をぐりぐりと押し付けるように圧迫された。
 「ああっ、ひ、私、いっ、い……あはぁっ、ああぁあぁぁぁっ!!」
 地表から飛び立つような解放感と、眠りに落ちる寸前の意識がとろけるような感覚とが同時にやってきて、
真っ白になっていく視界の中で、腰がガクガクと震えた。力が抜けていく下半身に、彼が膣内でぴくぴく震え
ているのと、中に何かが注ぎ込まれるのを感じて、彼も絶頂に達したのだとかろうじて理解できた。
 「はぁ……あっ……ふぅ、ふぅ……」
 脱力した体で、浴槽の縁にしがみつくようにしていると、彼が私のお尻の肉をぎゅっぎゅっと握ってきた。
 「千早……」
 「は、はい……ぁ、んっ……」
 まだ互いに荒い呼吸を整えないままに、彼の手が後ろから伸びてきて私の顎を掴み、振り向いた瞬間に唇同
士が触れ合った。先ほどの台所を思い出し、それから、リビングで広げられていた夕刊の……思い出したくな
い記事が思い浮かんだ。
 プロデューサーに依存する、一人立ちできない私。自分への劣等感までが一気に噴き上げてきて、幸せな高
揚感が一瞬にして冷めていく。
 「……プロデューサー」
 絡み合った舌が離れ、唇からしっとり濡れた温かさが消えた所で、まだ繋がったままの彼に呼びかけた。
 「もっと……してください。私がメチャクチャになってしまうぐらい……」
 「ち、千早?」
 自ら腰を振って、彼を促す。少し柔らかくなっていた彼の性器がたちまち硬さを取り戻し、彼が再び私のお
尻を掴んだ。
 「ああっ! あっ……ひっ、あっ、もっと……激しくっ……!」
 再開される抽送に私は思い切り力を入れて彼を締め付け、湧き上がる快楽によがり声をあげた。中に放たれ
た彼の精が掻き出され、私の愛液とカクテルになって太腿を伝り落ちてくる。
 得体の知れない恐怖のような、とても嫌な感覚を遠くに追いやりたい。彼がいなかったら、私は一人で生き
ていけそうも無い。認めたくない気持ちと、自分自身への苛立ちがどんどん膨らんできて、それがまた許せな
くなる。
 彼に私を懲らしめてもらいたかった。
 暗い不安を忘れ去りたくて、全身に走る快楽に意識を集中させていると、ほどなく二度目の絶頂感が熱い塊
となって込み上げてきた。
 「はっ……はっ、プロデューサー! 私っ、またイキますっ……あっあ、ああぁあぁぁぁっ!」
 「うっ……千早っ……」
 二度目の絶頂、その余韻はすぐに醒めてしまい、その時私は、涙が頬を濡らしていたことに気付いた。


 暖かい風呂場で耽った情事でのぼせてしまった私は、彼に支えてもらいながらふらふらとベッドに辿り着い
て、そのまま横になっていた。火照りきった頭と体がクールダウンする頃になって、よろよろと体を起こして
リビングのテーブルで新聞を読む彼の隣に腰を下ろした。
 「千早、何かあったのか」
 私が椅子に腰掛けるなり、彼が私に尋ねる。
 「……やっぱり、分かるんですね」
 「泣いてたからな、さっき」
 彼に訊くのは怖かった。しかし、それ以上に、不安な気持ちを聞いて欲しかった。
 「……プロデューサー、私、重荷になっていませんか?」
 祈るように、私は両手を膝の上で組む。
 「そんなことは考えたこと無いが……どうしてそう思うんだ?」
 「私、何かあったらすぐにプロデューサーにしがみついてばっかりで、一方的に依存してる……って思って」
 「あぁ、夕刊の見出し見たんだな」
 新聞を広げて例のページを開き、私にも見えるようにテーブルの上に広げる彼の態度はあくまでも冷静だ。
 「……両親が離婚してしまった今、僅かな希望を抱いていた家にももう何の未練も無く、親からは自立した
つもりになっていました。でも実際はプロデューサーに依存するようになったっていうだけで、私、何も変わ
ってない……一人で立てるようになれないんじゃないかって……不安なんです」
 改めて思いを口に出すと、自分が情けなくて涙が出そうだった。いや、もう目蓋の内側には涙が込み上げて
きていて、今にも溢れ出してしまいそうだった。
 「……千早、『人』っていう漢字を頭に思い浮かべてみてくれ」
 「『人』……」
 「『人』っていう感じは、棒が二本でできてるだろう。あれって、二人の人間同士が支えあってる図なんだ
よ。昔見たドラマの受け売りなんだけどな」
 新聞の上に指で漢字をなぞるように書きながら、彼が淡々と言った。
 「人間は誰でも、一人で立っているように見えても、誰かに支えてもらいながら生きてるんじゃないかって
思うんだ。俺だってそうだよ」
 「プロデューサーを支える人……誰なんですか?」
 私がそう言うと、彼が急にくすくすと笑い始めた。
 「俺の目の前にいる、髪が長くて可愛い女の子」
 彼の指が私の鼻先につきつけられた。勝ち誇ったような彼の笑顔が目の前にあった。
 「私が、ですか……? 私がプロデューサーを支えているなんて、そんな……」
 「いや、とっても支えになってるぞ。勿論、メシ作ってくれるとかそういう意味じゃなくってな」
 「それでは……どういった意味で支えになっているのでしょうか?」
 「精神的な意味でさ。千早の歌を聞くと元気が出るし、こうして一緒にいると心が安らぐし。とにかくさ、
千早には傍にいて欲しいんだよ、俺。決して一方的に千早が依存してるってことじゃないんだ」
 彼の言葉からは、私へ共感しようという姿勢が感じられた。様々な境遇の違いを抱えていることを知った上
で、共有できない悲しみや辛さがあると理解しながら、なお彼は私の前で屈みこんで、目線の高さを合わせて
話をしてくれる。厳しくして欲しい時は厳しくしてくれて、優しくして欲しい時は優しくしてくれる、そんな
所を私は好きになったのだと、改めて思い出した。
 「……ごめんなさい、私、一人で変な風に考えて……うっ……」
 嬉しいのか悲しいのが辛いのか分からないまま、涙が出てきた。ガタッと椅子を寄せる音がして、彼の腕が
伸びてきて、背中を撫でられたと思ったら、そのまま抱き寄せられて彼の胸へと導かれる。
 「千早はまだ、家族のこととか色々な激動にまだ動揺してる部分があるんだよ。今は辛いこともあるかもし
れない。一年半じゃ、まだ足りないのかもな。いずれもっと時間が経って落ち着いたら、こういうことで悩ま
なくなるんじゃないか、って俺は思うんだ。一人でやっていけないって気にすることだってきっと無くなる。
それに……千早は一人じゃないんだから」
 「……く……っ……!」
 肯定の返事をしようと思っても、嗚咽が混じるばかりで喋れないので、代わりに首を縦に振った。
 「忘れないでくれ。俺も千早には支えられてるんだ。ありがたいよ、千早の存在が」
 子どもをあやすようにポンポンと彼が私の背中を叩く。冷えていた心がどんどん温まり、涙は止まるどころ
かますます溢れ出してきた。
 風呂から上がったばかりで洗濯物を増やしてしまうのが申し訳ないけれど、今は思い切り彼の胸で泣かせて
もらおうと思った。



 終わり




―後書き―

「人」っていう漢字は、本来は二本足で立つ人間を表しているんだそうです。
金○先生で言われてるのは俗説なんだとか。
というのを知らずに書いてしまって実に恥ずかしいことに><

千早は腹筋が性感帯なんじゃないか、ってレスをどっかで見たのが発端だったかも。
自己愛が低かったりコンプレックスを持ちそうなスタイルだったり、ひょんなことでボロ雑巾のように
なってしまいそうな辺りが、歌が上手い・真面目といったのとは別な意味でまた魅力的だと思います。


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