daybreak



 CDの売り上げが落ちて来ている。ラジオのリスナーからの声も減り、レギュラーで出演しているテレビ番組
の視聴率も低下気味。そんなデータを目にしたのは、そう以前のことではない。
 でも、それほど驚きはしなかった。ここ最近、そんな予感はずっとしていたからだ。
 変化に乏しく、どことなく平坦な日々。オーディションに勝ちこそすれど、納得のいくとは言えそうに無い
達成感の薄い勝利。そんな私の人気が下り坂へ差し掛かるのは、至極当然のことだっただろう。
 そんな現状を打破する手段を考え付かない訳が無かったが、そのことごとくが、不発。『引退』の重すぎる
二文字が頭を過ぎって寝付けない日すらもあった。
 だからかもしれない。今日、プロデューサーと食事に行った席で、彼が電話を受けて席を外した隙に、彼の
存在を利用して、未成年の身でありながらアルコールを飲んだのは。ただひたすらに容赦の無い現実を見つめ
ていなければならないことから、少しだけ逃避したいという気持ちがあったのかもしれない。
 今の自分じゃダメだ。そんな言葉を心の中で叫びながら、ビールの注がれたジョッキを急角度で傾けた。
 酒の飲み方なんて知らない。私のしたことといえば、彼が戻ってくるまでに、ひんやりと冷たく苦い液体
を飲み干したこと。『一気に飲むと酔いやすい』なんて、アルコールが喉を通り過ぎていく熱さを感じなが
ら、いつか彼が言っていたことを思い出していた。


 しばらくして、頭がぼんやりとしてきた。これが、酔う、ってことなんだろうか。体が軽くなって、宙に浮
いているような感覚。少し目蓋が重たいかな、と感じた頃、プロデューサーが電話から戻ってきた。
「ん、おかえりなさい、プロデューサー」
「ああ、すまない、高木社長から電話でな」
 あまりいい連絡では無かったようだ。椅子を静かに引いて座る彼の顔が、それを物語っている。
「先日出したオーディションの書類審査だが、残念ながら不合格、とのことだ」
「そうですか」
「まぁ、結果は覆らないからな。今在る物を失わないよう、大事に頑張って行こう」
「……」
 追い討ちだった。
「プロデューサー……それは」
 私の中で少しずつ少しずつ膨らみ続けていたモノに、ピキピキと亀裂が走ったのを感じた。
「私に女としての魅力が無いってことが、露呈してきたってことなんですよ。メッキが剥がれてきたんです」
「それは考えすぎだろう」
「いえ、ここで女として一皮剥けなくっちゃ、私はもう落ちていくばっかりなんです」
「お、落ち着けよ、律子、いったい、どう──」
 視線を下ろした瞬間、プロデューサーは自分のグラスに起こった異変に気がついたようだった。そんな危険
を瞬時に感じ取ったのか、プロデューサーは即座に会計を済ませ、足取りのおぼつかない私を引っ張って店の
外まで連れ出した。



「いきなりどうしたんだ、いつも俺が飲んでるのを見て苦い顔をする癖に、あんなことをするなんて、律子ら
しくも無い」
「あんなことって何ですか。ビールのことですか」
「ああ。自分が未成年だってこと、分かってるだろう」
 プロデューサーは、この状況をどうしたものか分かりかねているのか、困り果てた顔で後頭部を掻いていた。
「こんな所を記者にでも見つかったら事だぞ……ほら、こっち来い、律子」
 私を手招きしながら、店の前を通り過ぎている人波を避けるようにして、細い裏道へとプロデューサーは入
っていく。喧騒が遠ざかっていき、明るい街灯の影になっているかのような、薄暗い道へと導かれていく。
「で、何があったんだ、律子?」
 人通りの少ないことを確認して、念入りに辺りを見回してから、頭一つ分高い所から質問が降りてきた。
「……」
 陰鬱とした気分は私の心を曇らせたままだ。黙り込む私を、プロデューサーは時々視線を周囲に散らしなが
ら待っていてくれた。
「……さっきも言ったじゃないですか」
「えーと、どれのことを言ってるんだ?」
「だから、ここで思い切って殻を破かなかったら、私にこれ以上の進歩は無いってことですよ……」
「またえらく漠然としてるな。殻を破くって言っても、何をするんだ?」
「例えば、ほら、あそこに行くのなんてうってつけじゃないですか。行きましょうよ、ホラ」
 そう遠くない位置に、ピンク色のネオンサインが瞬いている。その妖しい光は、私を誘っていた。
「えっ、ちょ、おま──おい、そんなに引っ張るな、おい!」



「落ち着いたか?」
「……ええ、少し」
 ちっとも落ち着いてなんかいなかった。まだ、頭の中が少しふらついているような気がする。
 ピンクで彩られたシーツの縁、私の隣に腰かけたプロデューサーが、溜め息をついた。溜め息をつきたいの
は、私も一緒だった。自分の口走ったことが頭の中をグルグルと駆け巡る。
「全く、今日の律子はどうかしてるよ」
「だから、さっきから何度も言ってるじゃないですか。活動の現状に、私の限界が出てるんです。知略で乗り
切ろうとしたってもう乗り切れてなくて人気も下がり始めですし、ここから上を目指すには、ぶち壊す勢いで
私自身を変えなくちゃならないと思うんです」
「それで、酒の力を借りようとしたのか」
「ええ、そうです」
 確信を持って言う私に、プロデューサーはガクリと項垂れた。
「まぁ、あの律子がそんなことをするぐらいだ。俺が思っていた以上に切羽詰まってるみたいだな」
「ええ、私、自分のことぐらい知ってますから。自分の弱点だって」
 膝の上に置いた拳に力を入れる。
「弱点、か」
「色気が無い、とか、地味、とか、お堅いイメージがある、って、デビューしてすぐの頃から言われてたこと
じゃないですか。自分でだって分かってるんです。今まではそれでもやってこられたけど、もういっぱいいっ
ぱいですよ。このまま下り坂が続いてそのままフェードアウトなんて……」
 スカートに皺が寄った。ぎりりと奥歯がきしんだ。
「だから、ラブホテル、か」
「いけませんか?」
「いけないも何も、俺とお前は、プロデューサーとアイドルなんだから──」
「……プロデューサーなんだったら、私の殻を破いてくださいよ」
 ポツリと出てきた言葉に、プロデューサーは目を見開いた。
「なっ……まさか、それって……」
「プロデューサーとアイドルじゃなきゃ、こんなこと言えませんよ」
 隣に座るプロデューサーの手の甲に、自分の掌を重ねる。
「それとも、私みたいなのは趣味じゃないですか……?」
「律子……」
 戸惑い、迷い。プロデューサーの瞳が揺れていた。でも、その目に怒りや憎しみの色は無い。
「……いいんだな?」
 プロデューサーが、私の手を取った。
 私は、その手を握り返した。
 目が合う。プロデューサーはじっと私を見つめる。私も視線が離せなかった。
 長い指が、私の顎を掴んだ。目を閉じる。
「…………」
 互いに触れ合ったままの数秒間は、とても長く感じられた、
 

 男の人と付き合った経験の無い私でも、こんな場所に男と女が二人でいることの意味を理解できない年齢で
は無いし、こういう場所でされることだって、その手順も、知っていることは知っている。あくまでも、知識
があるのみだけど。
「ふぅ……」
 肺に溜まった空気を吐き出しながら、ピンクのシーツを被せられたベッドへ腰掛ける。
 プロデューサーをラブホテルへ引っ張ってきたのは、お酒に酔ってのこととはいえ、『彼が相手だったらい
い』という私の本心だったと思う。だらしないし仕事も遅い人だけど、私の気付かないことにも気がつくし、
ついカッとなってしまった時に手綱を引いて冷静さを取り戻させてくれるのは、いつも彼だった。
 仕事で一日中一緒にいても、不思議なぐらい居心地がいい。初めてプライベートで食事に誘われた時は嬉し
かったのを思い出す。
 自分が彼に抱いてる気持ちが好意だっていうことに気がついたのは、その時だったっけ。
「な……なんか、緊張してきた……」
 甘酸っぱいドキドキが胸を満たしていくのと同時に、色々なステップを一気に飛び越えてしまおうとしてい
ることに、足の先から恐怖感が上ってくる。そういえば、テーマパークでライブをした日に打ち上げで遊びに
行って、お化け屋敷の中ではぐれないように彼と手を繋いだことはあったけど、プロデューサーと男女らしい
ことをしたのはそれぐらいのものだった。
 さっき口付けを交わした瞬間、大きく前進したけれど。


「ふー、サッパリした」
 シャワーを浴びた後、メイクを直してみたり、前髪をチェックしてみたり、バスローブの襟を整えたりして
いる内に、プロデューサーもバスルームから出てきた。私とほぼお揃いの格好で、首にもタオルが引っ掛けら
れている。
「中々広いバスルームだったな」
「そっ、そうですね」
 私のすぐ隣にプロデューサーが腰を下ろす。さっき私が使ったのと同じボディソープの匂いが、ふわっと漂
ってきた。すぐ腰が触れそうな距離だった。今までだったら私は身を退いていたと思う。
「……っ」
 私の腰に、手が伸びてきた。そのままそっと抱き寄せられて、彼に寄りかかる。
「律子」
 空いた手が、私の髪を指で梳かす。
「な……何ですか?」
「こういうことは、初めてか?」
 ボリュームを絞った、私だけにしか聞こえないような小さな声でプロデューサーが言った。
「決まってるじゃないですか。今まで彼氏がいたことすら無いんですよ?」
「拗ねるなよ」
 髪を撫でていた指が、耳をくすぐってきた。そのまま、飼い猫みたいに、人差し指で顎もくすぐられる。
「ん……こそばゆい……」
「お前が気付いてなかっただけで、結構モテてたと思うぞ」
「そう、でしょうか……」
「ああ、そうさ。少なくとも俺は、お前のことが……」
 さっきと同じように、顎を掴まれる。キスのサインだと思って、私は目を閉じた。
「……好きだ、律子」
 彼の唇が言葉をなぞるように動いた。バクン、と、鼓動が一際大きく高鳴った。
「ん、ふ……」
 また、唇を重ねる。頭が熱くなる。ドキドキする。
 前歯の隙間を縫って、何かが入り込んできた。きっと、舌だ。
 少し怖いけど、私からも同じ器官を差し出す。
「……は、ぁ……」
 大人のキス、って、こんな感じがするんだ。触れ合った舌から、じんとしたものが全身に広がっていく。
 プロデューサーの手が、バスローブの襟にかかった。『脱がすぞ』とも言わず、首から肩から、布地がずり
落ちていく。
「ま、待って」
 咄嗟に私はプロデューサーの手を掴んでいた。
「心の……心の準備が、まだっ……!」
 肌を晒したくないという恥ずかしさと、ここから先を受け入れたいと思う気持ちがせめぎあう。
 大丈夫。恥ずかしくたって、どうせここには彼一人しかいない。
「い……いい、ですよ。はい……」
 掴んだままの彼の手首を、襟と肌の境目へ導いていく。
 顔から火が出て燃え上がりそうだったけど、どうにか我慢した。
「光栄だな」
 するり。帯が緩み、上半身に触れる空気が少しひんやりしたものに変わった。
 その瞬間、ほとんど無意識に、私は胸元を腕で覆った……が、両肘を彼に押さえつけられてしまった。
「やぁっ、恥ずかしいっ……!!」
 どのみち、もう見られた。分かっていても、私の腕は胸を隠そうとしてしまう。
「綺麗じゃないか。形も整ってるし、色も、な」
 そう褒める彼の言葉も、私の恥ずかしさを加速させる。
「う、そ、そんなこと……」
 まともに顔を上げられない。情けないぐらいに私が縮こまっていると、
「じゃ、このご立派なおっぱいを触らせて頂こうかな」
 そんなことを言いながら、プロデューサーが私の背後に回った。
 跳ね除けようとしていた腕からの圧力がふっと消えた。と思ったら、私の脇の下からぬっと両手が現れた。
「あ、やだ……っ」
 がしっと鷲掴みにされてしまった。それも、学校の女友達のイタズラとは違う。私の想い人が、愛撫する目
的でしているのだ。
 両胸を掴んだ両手はそのまま、ぐにぐにと蠢く。くすぐったいような、なんとも言えない感覚だけど、少な
くとも不快ではない。
「前から結構あるとは思ってたが……やっぱり大きいな」
「前から、って、そういうこと考えてたんですか」
「俺も健全な男子だからな。申し訳ないとは思いつつも、内心までは制御できないさ」
「……プロデューサー」
 彼の言葉を聞いて、私の中の好奇心が顔を出し始めた。
「何だ?」
「ちょっと訊き辛いんですけど、その……グラビア写真とか、あるじゃないですか」
「ああ、律子も撮ったよな。俺の一番のお気に入りだ」
「ええっ!? そ、そんな……」
 満足気にそう言うプロデューサーに、質問を切り出そうとしていたこともどこかへ吹き飛んでしまった。
「まぁ、スリーサイズを見て何となく想像はついてたんだが、色っぽかったぞ。真面目な普段の姿とのギャッ
プも相まって、実にナイスだった。機嫌悪くするだろうから黙ってたが、今でも時々読み返すぐらいだ」
「う……スケベ」
 私の口から出てきたのは、それだけだった。
「いいじゃないか。男がスケベなのは当たり前さ。律子だって、スケベなことを考えた時ぐらいあるだろう?
そうでなけりゃ、こんな場所に俺を連れて来ないもんな」
「う、うぅ……」
 言い方がダイレクト過ぎるが、間違ってはいない。こんなムードだからこそ、私も言い返せなかった。
「今だって、少しそんな気分になってるんじゃないか?」
「ひゃん!」
 やわやわと私の胸を弄んでいた手が、先端へ忍び寄ってきた。指先できゅっと摘まれて、思わず声が漏れた。
「ほら、ここも硬くなってる」
「ん、んんっ、んぅ……」
 さっきまでのように肌を触られる刺激では無く、もっと鋭い、電気の様なものが胸の先からゾクゾクと伝わ
ってくる。指紋のザラつきまで感じ取れそうなぐらい、意識が触られている場所に集中してしまって、刺激は
強まっていくばかりだ。
「ここ、弱いのか?」
 彼の頭が肩越しにやってきたと思ったら、ぐいっと乳房を持ち上げられ、指先が触れていた所へぬるりとし
たものが降り立った。
「お、音、立てないでよぉ……」
 唇が私の胸に吸い付き、ちゅうちゅうと音を立てている。女の人が胸を舐められている場面を、エッチな漫
画とか、ネットで拾った動画とかで見たことがあるけど、あれって、こんなに刺激が強いんだ……。声を出し
たら恥ずかしいと分かっているのに、勝手に声が出てしまう。
「そんなに、吸ったって……なんにも、出な、んんっ、あぁっ……!」
 と、戸惑いを感じながらも、体は火照ってきていた。汗をかきそうなぐらいだ。
 私が翻弄され続けていたその時、体の後ろの方へ回していた左手が、何か石のようなものにコツンと当たっ
た。指を伸ばして、それに触れてみる。円筒状になっているそれは、皮膚の感触がした。上に向かって伸びる
杭に指を這わせてみると、途中から触感が変化した。
 掌で包めそうなサイズだったので、ギュッと握り締めてみる。
「く……っ」
 私の耳元で、低い呻き声が聞こえた。
「プロデューサー……」
 間違いない。これは、プロデューサーの。
 思っていたよりも、ずっと硬くて、熱い。熱した骨を握ったのかと思ったぐらいだった。
「触ってみるか?」
 私には「触って欲しい」と聞こえた。
 興味が無いと言えば嘘になる。異性の体に興味を持つのは、何もおかしいことじゃない。エッチな話には関
心の無い振りを貫いているし、耳も貸さないようにしてるけど、一人っきりになれば、エッチな本を読むこと
だってある。
 そう、これは自然なこと。自分に言い聞かせながら、私は首肯した。
 後ろから抱きかかえられる形になっていた体勢が変わり、互いに向かい合った。私はベッドの下にいて、彼
はベッドサイドに腰掛けている。
 わざわざめくって確認するまでも無く、彼のバスローブは、股間の部分だけテントみたいにぴいんと張り詰
めていた。
「し、失礼します」
 恐る恐る、裾をまくる。
「わっ……!」
 中から飛び出てきたのは、赤黒い首をした蛇。私を睨み付けるようにして、天井に向かって堂々と立ち上が
っていた。
「こ、こんなになっちゃうんですか?」
 モザイク越しにだけしか見たことの無かった、膨れ上がった男性器。実物を前にして見てみると、これが人
体の一部とは思えなかった。
 手を伸ばして握ってみると、先程と同じ、熱くて硬い感触がした。
 顔を上げてプロデューサーの様子を窺ってみる。
 彼は黙っていた。私がどう出るか、見届けるつもりらしい。
「えっと、確か……」
 握ったまま、上下に。まぁ、左右に振れる形状はしていないのだから、上下しかない。
 私が肉塊を擦ってみると、プロデューサーの人差し指がぴくりと動いて、シーツに皺が寄った。
「痛くないですか?」
「ああ、続けてくれ」
 漫画みたいに、ゴシゴシなんて擬音は出たりしない。皮膚の擦れる音が微かに聞こえる中、私は男性自身を
上下に揺する。視線は、ジッとそこに固定したまま。プロデューサーの顔を見ながらなんて、できそうになか
った。
「律子」
「な、何でしょうか」
「もうちょっと、先端を重点的に、頼む」
 私の手が、そこへ導かれた。皮膚の部分とは少し色違いの、見るからにデリケートそうな部分。
「ほら、境目が見えるだろう。縫い目みたいなさ」
「ここですか?」
 丁度いい位置にあった親指を沿わせる。
「そう、そこだ……ん、いいぞ」
 先端へ刺激を集中させていると、皮膚の擦れる音の中に段々ねっとりした音が混ざってきた。
 これって、ひょっとして……。
「プロデューサー、その……射精、してます?」
 私が口にした言葉を聞いて、手の中の塊がビクッと震えた。
「いや、まだだ。そいつは先走りだ。……ペース上げていいぞ」
 つまり、もう少しペースを上げて欲しい、と。
「うっ……その調子だ。それにしても……フフッ、あの生真面目な律子の口から『射精』なんて言葉が聞ける
なんてな」
「くっ、悪かったですね、生真面目で」
「悪いとは言ってないじゃないか。そういうギャップがいいんだって」
「全く、マニアックというかなんというか……」
 まぁ、元々そういった層をターゲットにしてデビューした私が言えたことじゃないか。
 そうして、しばらく愛撫を続けていると、徐々にプロデューサーの呼吸が荒くなってきた。先走りと彼の言
った粘液もだいぶ分泌されて、掌はもうヌルヌルだ。
「……律子」
 手の中で、熱くなった男性器がぴくんと脈動した。
「もうそろそろだ。いいか?」
「えっ……は、はい」
 そろそろ、何だろう。何が『いいか』なのかもよく分からずに、私はぐりぐりと先端部分を刺激し続けた。
 もしかして、と私が思った瞬間、
「ん、出るっ……!」
 硬い塊を握った手の、指の隙間から、白い液体が噴き上げてきた。熱い。
 掌にじわっと広がっていって、飛んできた分の幾らかは、私の顔にもかかってしまった。
 一回、二回、三回……びくっびくっと震える度に、それはどんどん吐き出されてくる。
「わっ、わ……」
 どう反応していいか分からず、降りかかる熱い粘液を私は浴び続ける。
「あぁっ、すまん、顔にかかって……」
 まだ熱の残る、掌の液体を見つめていると、プロデューサーが眼鏡やら頬やらを拭ってくれた。
「……凄い匂いですね、これ。なんて言ったらいいのか……」
 余りいい匂いでは無いな。味が気になる所だったけれど、あまり気乗りせずに拭き取ってしまった。
 そういえば、お口でしてあげるのもあったっけ、と、手が綺麗になってから思い出した。


 プロデューサーの後処理が終わると、位置を代わるように促された。
 言われるままにベッドサイドへ腰かけて、プロデューサーが床に跪く。
「今度は律子が気持ちよくなる番だ」
「きっ、気持ち……」
 このシチュエーションではあまりにも直接的過ぎる表現に、頭がクラっとした。
「さてと……」
「え……あっ!」
 プロデューサーが私の両膝を掴んで、左右に押し広げようとした。反射的に脚を閉じる。
「そ、そんな……駄目ですよっ!」
「そうは言ってもなぁ。俺も見せたんだし、フェアに行こうぜ」
「うう……それを言われると……わ、分かりましたよ」
 はいどうぞ、とはとても言えなかったが、プロデューサーの言うことにも一理あった。
 かなり抵抗はあったものの、膝から力を抜く。
 左右に脚が開かれていく。
 バスローブの下には何も着けないものだと知っていたので、その通り、今はブラもショーツも身につけてい
ないから、丸見えになってしまう。
「……ここも、綺麗な色してるな」
 ああ、見られてる。股間に視線が集中しているのが分かる。
 頭がのぼせてしまいそうなぐらい恥ずかしくて思わず顔を覆ったが、まさしく、頭隠して尻隠さずだ。
「あっ……ま、待って!」
 私の両脚の間を見つめるプロデューサーの頭が徐々に近づいていくのを見て、思わず制止した。
「いきなり手で刺激するのも、痛いからな」
「ででで、でもっ、お口でなんて……そんな……」
 彼のしようとしていることは理解できた。さっき綺麗に洗ってはきたけど、やっぱり抵抗がある。
「ふふっ、観念しろ、律子」
「あ、ダ……ふああっ!?」
 ぬるりとしたモノがそこに触れた瞬間、下半身に鋭い刺激が走った。
 自分でそこを弄ったことは、ある。夜に眠れなくなってしまった時とか、エッチなものを見て気持ちが昂っ
てしまった時だとか。やり方だって一通りは知っている。
 だけど、こんな刺激、自分の指でするのとは全然違う。
 ここの気持ちよさは知ってるけれど、こんなの、まったくの未知だ。
 さっきキスをした時に絡めあった舌が、私の体で最も敏感な場所を執拗に責め立てて来る。それでいて、痛
くも無く、強すぎることも無く、絶妙な力加減だ。
「ん……ふっ、あぁ、く……」
 自分でこんな声を出していることが信じられない。まるで、声帯が一人でに震えているみたいだ。
「律子ってさ」
 下半身の溶けるような刺激が止んだ。
「は……はい……」
「結構、一人でするのか?」
「うっ……そ、そんな質問……」
 セクハラです、と言おうとしたけれど、今現在やっていることはセクハラどころの話じゃない。
「な、どうなんだよ」
「まぁ……しないわけじゃないですよ。それなりには……」
「ふーん……そうか」
「な、なんですかっ──あ、あうぅっ!」
 満足そうにニンマリと笑ってから、プロデューサーは再び私の股間に頭をうずめた。
 今のやり取りで、自慰の時のことが思い出されてしまって、背筋を走る電流に対して余計に気が集中するよ
うになってしまった。何度と無く感じてきた絶頂が、すぐそこまでやってきていた。
「いっ……や、あはあぁぁぁっ!」
 パチン。私の頭の中で音を立てて何かが弾けた。
 ギュッと閉じた目蓋の裏で起こったフラッシュが、体の隅々まで一瞬にして行き渡る。
 再び目を開くと、私は体を前のめりに折り曲げて、プロデューサーの頭を抱え込んでいた。
 まるで、私が彼の頭を自分の股間に押し付けていたみたいだ。
 ふらっと力が抜けて、そのままベッドへ仰向けに倒れこむ。
 自分一人でした時とは若干質の違う、絶頂を迎えた後の倦怠感に脱力していると、私を隠すように覆いかぶ
さってくる影。
「平気か?」
 逆光の中で、プロデューサーの目だけが光っているように見えた。頷くだけで返事をする。
「どうする?」
「どうするって、何をですか」
「今ならまだ、止めにすることもできる」
 彼の目は真剣だった。
「でも、これ以上進めば、今まで通りの『プロデューサーとアイドル』というだけの関係では無くなって、元
通りにはなれなくなる」
「……」
「立場上許されることじゃないけど、俺は律子のことが好きだ。異性としてな。恋人にしたいって思ってる」
「プロデューサー……」
 瞳から流れ込んでくる想い。両想いだったことに喜ぶ以前に、胸が熱くなる。
「律子の意思を聞かせてくれ」
「私は──」
 答えは決まっている。そもそも、ラブホテルに彼を強引に引っ張りこんだのは私なのだ。『終わりにしまし
ょう』なんて言えるわけが無いし、酒の勢いもあったとはいえ、これは私の望んだことだ。
「私も……好きです、プロデューサーのこと。……最初は嫌いでしたけど」
「おいおい、マジかよ」
 プロデューサーが苦笑した。
「どうしてでしょうね、一緒に仕事している内に、それが当たり前になってきて、もっとそうしていたいって
思うようになったんです」
 なぜだろう、秘めていた思いが、こんなにスルスル言葉になって出てくるなんて。
「私も、プロデューサーと同じです。立場上、こんな気持ちを持っちゃいけないって、ずっと押し殺して、無
かったことにするつもりでした」
「……そうか」
「ごめんなさい……本当は、もっと段階を踏むべきなんですよね。まだ二人でデートにも行って無いのに、手
順も踏まずにいきなりこんなことを」
「明日からでもできるじゃないか。時間はたっぷりある」
「……そうですね」
 すっと、肩から力が抜けた。心の奥底に押し込めていたモノを吐き出して、清々しさすら感じるぐらいだ。
 私の上にいるプロデューサーに、両腕を広げる。
「このまま、続けてください」
「ああ、分かった」
 力むなよ、と一言、彼は私の腕を首の後ろへと回させた。私が体重をかけても支えてくれそうな、太くて逞
しい首へ。
 両脚の間に、さっき手で触っていた硬い異物が触れた。
「っ、こ──」
 怖い、と思わず口にしそうになって、下唇を噛み締めた。
 大丈夫、怖くない。私が緊張や恐怖に苛まれた時は、プロデューサーが頼りになってくれた。
 今回だって、そうだ。
 身を任せて、力を抜いて。
「く……うぁっ……」
 体が押し広げられる。両脚が左右に広げられるのとも違う。
 痛い? いや、痛いんじゃない。これは異物感、違和感があるだけ……。
「ん、ぐ……っ……」
 異物は、お臍の下辺りまで入り込んできた。いや、入り込むというより、めり込むといった方が適切だ。
まだ上がってくるつもりなんだろうか。
「よし……全部入ったよ」
 もうこれ以上は私が受け入れられないかもしれない。そう思った時、プロデューサーがそう言った。
「ぜ、全部、ですか」
 気がつけば、呼吸が荒くなっていた。大きな手が前髪を退けて、おでこにキスをされた時、自分が額に汗を
かいていたことにも気がついた。下半身にばかり集中していた意識を全身に行き渡らせてみると、背中にもじ
っとりとしたものを感じる。
「痛むか?」
 頬と首筋にキスの雨を降らせながら、彼が尋ねてきた。
「痛い、のかな……苦しいというかなんというか、異物感が凄いっていうか、この辺とか……」
 臍の下を指差して、私はそう答えた。
 入り口を閉めようと力んでみても、違和感は消えない。男性が入り込んで来ているのだから、当然か。
「でも、嫌では無いです。動いてもいいですよ」
「大丈夫なのか?」
「動きたいでしょ?」
「そりゃ、そうだが……無茶はするなよ」
 痛くなったら言えよ。そう言い切る前に、奥まで来ていた異物が入り口近くまで引っ込んだ。
「っ!」
 鈍痛が走った。でも、これぐらいなら平気だ。
 それよりも、一つに繋がっているという実感と、得体の知れない安心感が先に立つ。
 彼が腰を押し進める。異物が奥までやってくる。
 彼が腰を引く。異物は遠くへ引いていく。
 そんなやり取りを何往復も繰り返している内に、体内をゴリゴリと削られるような感覚と圧迫感は、少しず
つではあるけど緩くなってきた。
「あ……い、あっ……」
 痛みや異物感に対する緊張が解けていくに連れて、全身に走る痺れのような甘い刺激を感じ取れるようにな
ってきた。胸を触られていた時とも、局部を口でされていた時とも違う。何か温かいもので全身を満たされる
ような、それでいて、背筋がゾクゾクする。
「律子……いいよ、窮屈で、気持ちいい」
 プロデューサーの動きに、遠慮が無くなってきた。時々休憩をするようにぴたりと止まっては、また腰を揺
する。入り口から抜け出そうになる瞬間と、奥にぶつかりそうになるぐらいの場所が、一番刺激が強いことに
気がついた。その時に流れ出る心地良さを感じ取ろうと、神経を集中させる。
「プロデューサー……私……なんだか、私も、気持ちよくなってきた、かも……」
 足元から、波が上ってくる。押し寄せては引いて、引いては押し寄せて。段々と、波が大きくなってきて、
腰元から、お腹へ、胸元まで上って来た。
「ふっ、あ、あ、んん……何だか、変っ……」
 さっき感じたものとは少し質が違う、絶頂感のようなものが体をさらいそうになっている。
 しがみついている両手に力をこめた。彼を受け入れている下半身にも自然と力が入って、擦れ合う感触が深
く伝わってくる。
「あぁっ、ダメっ……くぅ、あぁっ、ああああぁぁっ……!」
 一層大きな波が押し寄せてきて、私の意識がさあっと抜けていく。
 温かな何かが全身に広がっていって、視界がホワイトアウトしていった。
 でも、不安は無かった。私の手はしっかりと握られていたから。



 翌朝。チェックアウトを済ませて、プロデューサーは直で事務所へ。私は一旦帰ってから改めて出勤という
ことになった。一旦別れる前に間に合わせの朝食を取ろうと近場のカフェへ足を踏み入れてから、私は全身に
走る痛みと気だるさ、下半身に行き渡る違和感に気がついた。
「なんだか歩き方がぎこちないけど、大丈夫か?」
 先に席を取っておいてくれたプロデューサーの正面に腰を下ろす。
「……まだ、入ってるような感じがするんですけど」
 まだ朝も早いこの時間、周囲に人はいない。それでも、辺りをはばかる小声で、彼に告げた。プロデューサ
ーは、「すまん」と一言、気まずそうに目をテーブルへ落とした。
「プロデューサーは、何とも無いんですか?」
「いや、俺は何も。体調はいつも通りだ」
 コーヒーを一啜りしてから、あっけらかんとプロデューサーは答えた。
「うーん、どうして私だけ……体中が筋肉痛みたいだし、なんか、ヒリヒリするし……」
 目線で彼に抗議してみたが、かと言ってどうにもなるものでも無い。ミルクとガムシロップを入れたカフェ
オレを、少しだけ口へ流し込んだ。プロデューサーがベーグルを齧る。程よくトーストされたそれがカリッと
香ばしい音を立てた。
「昨日、大丈夫だったでしょうかね」
「記者のことか?」
「ええ。今更ながら、見られてたら、マズいなって。考え無しに突っ走っちゃったから……」
「それとなく、心当たりには探りを入れてみるよ。とりあえず、当面は積極的に取材の依頼を受け入れた方が
吉だろうな。そう心配するなよ」
「まぁ、そうですけど……」
 結果的には、私個人に取って良いことはあったけれど、アイドル秋月律子に取っては良いことがあったとは
言い切れない。心中は少し、複雑だった。
「大事なのはこれからのことだ。やらなきゃいけないことはまだまだ山積みなんだからな」
「……そうですね。確かに、もう過ぎてしまいましたしね」
「今週末にはオーディションもあるんだ。気持ちよく勝ってこようぜ」
「うん」
 カチッと気持ちが切り替わったのを感じた。サンドイッチの風味も、さっきより豊かになった。パンの香り
もさることながら、チーズの塩気にトマトの酸味が程よく絡み付いている。名前も見ずに入った店だけど、こ
このサンドイッチはまた食べたくなる美味しさだ。

 プロデューサーを少々待たせて、私も朝食を済ませた。気を利かせて、彼が二人分のトレーをまとめて持っ
て行ってくれる。その後ろを、私は彼の黒いビジネスバッグを抱えてついていった。
「プロデューサー」
 店のドアを開け、まだ人も少ない通りに出てすぐに、彼を呼び止めた。
「ん?」
「あなたが私のプロデューサーで、良かった」
「何だよ、いきなり」
「何だも何も、言った通りですよ」
「ん、そうか」
「そうか……って、もう少し気の利いたことぐらい言えないんですか?」
「いや、すまんすまん。もうちょっと時間をくれ」
 そう言ってズカズカと朝日に向かって歩いていく彼の耳は、さっき食べたトマトみたいに赤くなっていた。


 終わり



―後書き―

アイマスSSに手を出した初期に書いた「素敵な雨上がり」で既にやっていた初体験モノですが、
律子の視点からもう一度書いてみたいと思って作ったSSです。
女性の視点から初モノを書いたのは初めてだったんで、色々と苦労しました。
あと、律子側からアクションを起こさせる理由付けが、ね……。

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