「良い天気だな。散歩でもするか?」

代打ちが終わり、そう言った機嫌の良さそうな安岡さんの背を追いつつ煙草を吸っている。

珍しい事も有るもんだ。

この人の口からは、滅多に金儲けの事か血腥い事件の話題、もしくは罵倒の台詞以外は出ない。
……後は、そう…今のように気持ち良さそうに空を眺めて話してる内容くらい。

ホンモノ…か。

なぁ、何時まで俺は貴方の為にアカギを装えばいい?

背に問い掛けて、紫煙を吐き出した。
それは、緩やかな風に流されてゆっくりと宙に溶けていく。

馬鹿か……そんな事、聞いたって意味が無い。
それに、何時までなんて、何処までなんて…、答えが帰って来る事が怖い。

安岡さんは興奮した様子で話している。この話を聞くのはこれで何度目だろうか。
その姿はいつも、自分の子供を自慢する親のようだったり、憧れや尊敬の念がこもっていたり、
まるで……恋をしているみたいで。
だから。
そんな様子を見たくなくて、青い空に視線を向けた。

ほんとに、今日は良い天気なんだな。

ぼんやりとそう思っていれば、吐き出した煙が、安岡さんの煙と混ざりあって、一緒に消えていくのが視界に入り、無性に嬉しくなった。

そんな些細な事に喜びを感じる程…俺は何かに縋りたいのだろうか…

煙の流れがやけに近く、先を行っていた筈の人が顔前に迫っていた事に気づき、慌てて歩を止めた。話もどうやら終っていたらしい。
もしかして、聞いていなかっただろう、と機嫌を損ねたのだろうか。
聞いてましたよ、と少し笑みを浮かべて返そうと

意図的に細めた目で視線を流せば、浮かべたニセモノの笑みはあっけなく崩された。


なんて笑顔で俺を見てるんだ。


初めて見る穏やかな表情、…心臓が早くなった。





見ているのは俺だけど俺ではないと気づくのに数10秒もかかってしまった。


「……───…あー…、…俺、…先帰ります。」


アカギ…か。

分かれば、早まった鼓動は正常を通り越して、やけにゆっくり動いている気さえした。
返事を聞かずに、居場所の無い箱から抜け出す様に走り出した。

泣きだしたい気持ちを押さえて再び空を仰いだ。
雲一つない空からも拒絶されている気にさえなる。




消えかけた煙草の先はゆら、と揺れて一人きりで、色を無くした。


























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アトガキ

乙メン全開のゆきお。ゆきおはカイジに並んで涙が似合う子だと思います。
でも滅多に人前では泣かない、頑張り屋。
精神自虐的なMのくせに、一人ぼっちになると寂しさでたまらなくなってしまう寂しがり屋の兎だとたまらなく良いです。




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