カイジは何故こんな事になっているのか、理解出来ずに溜息を吐いた。
それを見逃さなかった目の前の男二人が「どうなんだ?!」「どうなんですか?!」と詰め寄ってきて、げんなりとした気分になった。



まず詰め寄って来る男の一人、遠藤と、どういう訳か呑みにいく事になって。いや、理由は簡単だった。素寒貧のカイジは「奢り」という言葉にほいほい釣られてきてしまったのだ。
それだけなら未だ良かったのだが、もう一人の男、佐原と店に向かう途中で出会ってしまったのが事の始まりだった様な気がする。


奢りの食事という事なので腹一杯まで美味いものを呑んで食ってやろう、とメニューを浮かべて意気揚々と遠藤の隣に並んで歩いていたら、背後からの呼び声に思考を中断された。
「あれ?カイジさん、何処に行くんすか?」
振り返れば短い金髪が目に入り、「よぉ」と短く挨拶を返せば、遅れて振り返った遠藤の空気が変ったような気がした。だが、嘘をつく程の事でもないだろうとカイジは「これから居酒屋に行くんだよ」と返してしまったのだ。 そこからは佐原が「俺も行きます。奢りますよ。」などと言い、「いや、別に…、遠藤さんに奢って貰うし」と言えば、無理矢理腕を掴まれ、強引についてきてしまって、結局振りほどけずにこの有様だ。


店に入ったら入ったで、先に二人が向かい合う様に座ってしまって、「どっちに座るんだ」という視線がカイジに注がれた。
普通に考えればどっちに座っても問題は無いのだが、遠藤の視線がサングラス越しなのに睨んでいるみたいに見え、カイジは遠藤の方に歩み出たが、その腕を佐原に引かれ、なし崩しに遠藤とは向かい合う形になってしまった。
楽しみにして来た筈のメニューを見ても、「カイジさんは何頼みます?」と顔を寄せてくる佐原や、眉を寄せ煙草ばかりを吹かしている遠藤が気になってしまい、食欲が涌いて来ない。
「遠藤さんは…」
何頼む、というカイジの言葉を遮って「芋焼酎だ」と言われ、開いた口を閉じるしか無かった。何で怒ってるんだよ。とは思うが、佐原の声がまたしても思考を邪魔してくる。
「ビールにしましょうよ。ね、カイジさん。」
不機嫌な遠藤の表情とは違い、佐原は妙に上機嫌な様子で、にこにこ笑っている。こいつはこの状況で何で楽しそうなんだよ。と、両極端な二人の間で板挟み状態のカイジは「それで良い」と告げ、逃げる様にトイレに向かった。







「なんなんだよ…」

対して時間もかかっていないはずなのだが、帰ってきたらどういうわけか二人は言い争っていた。そして、討論の内容は全く分からないカイジに詰め寄るのだった。

理解出来ずに突っ立ったままのカイジの袖を佐原が引くと、遠藤はすかさずカイジの腰を抱き、隣に座らせようとする。まさかそんな所に腕が回されることなんてカイジで無くても予想できないだろう、「うわぁっ!」と叫び声をあげてしまい、二人が口論していた時点で只でさえ注目されていたのだが、余計に店内の視線を集める事となってしまった。
カイジの顔に恥ずかしさと怒りで血が上っていく。
俯いてふるふると拳を震わせ、歯を食いしばったカイジに、佐原が「カイジさん?大丈夫ですか」と心配そうに声をかけるが返答は無い。
落ち着かせようと腰に回った遠藤の手が、椅子に座らせようと動いた瞬間、思いっきりその手を抓り上げた。


「お前ら二人の喧嘩に俺を巻き込むんじゃねぇ!!」
カイジは遠藤が痛みに怯んだ隙に腕を逃れ、そんなに関わりの無い筈の二人が何に対して揉めているのかは分からなかったが、これ以上絡まれたり睨まれたりするのはごめんだ。とばかりにそう言い捨てて、店を出て行った。




嵐の様に去って行ったカイジに、残された二人は唖然とした表情だったが、同時にカイジを追おうと動こうとした事に気づき、眉を寄せて口を開く。
「アンタのせいでカイジさんが出て行ったじゃないですか!!」
「知るか、お前が勝手についてきやがったせいだろうが!!べたべたくっ付きやがってよ、嫌がってたのがわかってねぇのか。」
佐原が机を手の平で叩いて言えば、遠藤は机に拳を叩き付けて反論する。
「大体、なんでアンタがカイジさんと一緒に呑みにきてるんですか、有り得ないでしょ。自分が嫌われてるの知らないんすか?」
「あぁ?!アイツは嫌いな奴には何言われたってついてきたりしねぇんだよ。……ちっ、予定が狂ったぜ。」
「はぁ?予定って何なんですか?!カイジさんに何か変な事したら、俺が許しませんから!!」
「お前の許可なんか必要ねぇだろうが、所詮お前はアイツにとっちゃ仕事仲間のうざい奴だろ。」
「はぁ?!!!」「あぁ?!!!」
再び揉め始めた二人に、店員が止めようと窺うが、睨み合っている姿を見、何か一言でも口を挟めば起爆剤になってしまうと判断し、溜息を吐くしか無かった。





「はぁー……なんなんだよ、あいつら。…腹減った。」
カイジはと言えば、店の外をぶらぶらと歩き、何も食べていなかった事を思い出して、焼き鳥くらいは食べて来れば良かったなぁ。なんて鳴いている腹をさすりながら呟いた。
ポケットを漁れば、127円しか見つからずに、仕方が無いからコンビニでおにぎりを一つ買って、齧りながらアパートへの道を歩いていれば、空腹の原因の二人の姿が部屋の前に見えた気がした。見間違いだと思いたいカイジは数メートル歩き、目を凝らしもう一度確認したが、期待していた見間違いではない事を知り、ショックで食べかけのおにぎりがアスファルトを転がった。
そういえば、おにぎりが穴に落ちて、その穴の中に入っていく昔話があったよな。なんて思い出してしまう程に現実を見たくなくなってしまったが、部屋の前にいる以上避けて通る事は出来ないのだ。
というかむしろ、被害を受けたのは俺の方なんだ。と思えば、カイジを占めていた嫌な気分も少しは紛れ、迷う事無く大きく歩を進めていく。


階段を上る音で、部屋の前の二人はカイジに気づき、二人して何も言わずにカイジを見つめた。無言の圧迫にぐらりと身体が落ちそうになるが、こんな事で負けてられるか。と二人の前までずかずかと歩いていき。二人の鼻先に交互に人差し指を突き立て、
「邪魔。帰れ。迷惑。」
と三言告げると二人の間を割り、通り抜けようとしたが、やはりそう簡単には行かなかった。二人に片方ずつ肩を掴まれ、二人の目の前に戻されてしまった。
「んだよっ!!」
これ以上邪魔なんかされてたまるか!暴力振るわれたら返してやる!!と、二人の態度にカイジは苛立った。
ぎりっと、二人を見るカイジの表情は眉間に深く皺が寄っていて、これ以上何も話す事は無いと言う強い意思が現われていた。
佐原はその表情を見てたじろぎ、肩の手を緩めた。が、
「すまんな、今日は奢れなかった。…また来る。」
遠藤は肩を竦めそう言い、カイジの肩を持つ手とは逆の手で、カイジの手の平を軽く叩いて何かを渡し、片方の口角を上げて笑った。

その態度に拍子抜けしたカイジはあんぐりと口を開いて、遠藤を見てしまい。何か言わなければ、と慌てて言葉を選び出す。
「いや、その…遠藤さんが悪い訳じゃないと…思う……けど。…えっと、待ってる。」
「え、…俺が悪いんすか」という佐原の驚いた声がカイジの耳に入ってきて、更に慌ててしまい「いや、えっと……あー…」という声しか出て来なかった。そんなカイジを見て、フン。と鼻で笑った遠藤は、ショックを受けてカイジに泣きすがろうとしている佐原の首を掴み、歩き去っていく。
「カイジさぁーーーん……!」とカイジを呼ぶ佐原の声に苦笑しながら、カイジは手を振ってやった。


二人が見えなくなった後に、遠藤が触れた掌を開いてみると、折り畳まれた1万円札と書きなぐられたメモが一枚ずつあって、そのメモを読んでみれば「明日から3日間はそれで凌げ」と書かれていた。
「……遠藤さんって…結構良い人なんだな…」
優しくされる事に慣れていないカイジは、優しくされると今までの認識をすぐに改めてしまうようで、じーんと感激しつつ遠藤に感謝し、そう呟いて、4日後の奢りにもまた胸を躍らせるのだった。















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アトガキ

佐原が生きてる設定です。
佐原と遠藤さんは互いに片思いなのに「俺のものだ」と取り合ってそうだな。という妄想から。
カイジは二人の気持ちに全く気づかずに、3人じゃなければ楽しいのになー。って思っている感じで。
でも基本が遠カイなので遠藤さんよりも佐原を悪者にしてしまう…;



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