何故か遠藤さんの機嫌が良くないみたいで、仕事から帰ってきて早々に両手を後ろに縛られた。
とはいえ、キツく絞めているわけでは無いので、激しく抵抗する訳にはいかず、そのままになってしまった。
遠藤さんがむき出しになった俺の胸板を撫でている。
かさついた掌が擦れてくすぐったい。
胸板についた飾りにもならないその部分の中心には触れずに曖昧に回りを辿られて、何だかもどかしい。
言葉にするなんてこの行為を求めているみたいで嫌だったから、視線で訴えかけてみたけれど、口許が不敵ににやついただけで全く応えてくれない。
身体を捻って指が当たるように試みてみるも、動きを見越して指を離されたりして、つい小さく溜息をついてしまった。
「どうした?さっきから身体が動いているみたいだが。」
胸許の片手が背中に回り背骨に沿って当たるか当たらないかのさじ加減でなぞられる。
前方ばかりに気を巡らせていたせいか、思いの他身体が跳ねた。
零れてしまいそうになった声を閉ざす為に唇を強く噛み締める事にした。
遠藤さんが喉奥で笑う声がする。
畜生、アンタが触るからだろ。
曖昧な手付きはそのままに、腹部に遠藤さんの顔が近付けられた。掛かる息が熱いのが不思議と気持ち良くて目を細めてしまう。
息より熱い舌が臍の上に触れ、閉じた筈の唇から息が漏れた。
ふ、と笑う遠藤さんはその舌を徐々に上にあげていく。時々唇を押し当て音を立てて吸いあげられるのには、鼓膜まで支配されているみたいですごく恥ずかしい。
遠藤さんが動く度に感じているのをごまかす為に、身体を押さえるのがちょっと辛い。
後ろ手に括られた縄が軋んで食い込んで来て、少し痛い。
でも、これを止めてしまうと男としてのプライドとか、モラルとかが無くなってしまいそうで、我慢が出来なくなるまでは抵抗する事に決めている。
最終的にはいつも抵抗どころでは無くなってしまうと分かっていても、止められないのは結局は意地なんだろう。
随分と長い間、肝心なところに触れないせいで逆にその場所が痺れてきたような感じさえする。
遠藤さんは周りばかりを撫でて、時折息を緩く当てる。
普段気にする事が無い場所なのに、これ以上焦らされるとどうにかなってしまいそうなくらいに、その部分ばかりが気になってしまう。
既に少し…いや、大分おかしいのかもしれない。
全く触れられてもいない筈なのにも関わらず、下腹部に熱が溜まり、一切緩めていないズボンが窮屈で仕方ない。
それなのに、興奮して息が上がっている自分が情けなくて、惨めな気分になった。
「…ぇ、遠藤…さぁ…ん…っ…」
これ以上はヤバい。そう思い名前を呼んでみたところ、意に反して甘ったるい声が出てしまった。
有り得ない。
引き返せない程におかしくなってしまっているのだろうか。そう考えると泣き出したくなった。
腹部に口付けを繰り返していた遠藤さんは少し驚いた様子で頭をあげた。
やっぱり異様な声だったのだろう。眉が下がり顔がこれ以上無い程に熱くなっていくのが分かる。目元も熱くてどうしようもない。
身体を触っていた手が、俺の顎を掴み、もう一方の手は引き寄せる様に背に回された。
真正面にサングラスをかけていない裸眼の遠藤さんの顔がある。
キツく見つめられて、恥ずかしさに息を飲む。
「馬鹿野郎…そんな顔するな。…声も、我慢しなくて良い。………少し苛めすきたな、悪い。」
そう言って遠藤さんは俺の唇に口付けた。
軽く触れた後に一回離れ、条件反射的に目を閉じた俺の目尻に溜まる涙にも口を寄せた。
吸い取られる際に煙草の匂いが微かにする息が掛かって、ああ。遠藤さんだ。なんて安心してしまう。
感触が離れ、薄らと瞼を開けたら再び唇が重なった。
舌先が緩く俺の唇を舐め、ゆっくりと侵入してきて、満たされていく不思議な感覚に、抱き付けない縛られた手がもどかしい。
歯列をなぞり口内を動くそれを口を開き、受け入れる。その途端に俺の舌は遠藤さんに絡め取られて、満足に息も出来なくなってしまった。
遠藤さんとキスをすると全身が熱くて仕方が無い。
でも、それが無性に嬉しくて好きだ。遠藤さんには言えないけど。
背に回された片手は器用に俺の両手の拘束を解き放してくれ、開放を待っていた俺の両手は遠藤さんの首に回り、離れ無いようにしがみついた。
押さえていた声は勝手に漏れ、遠藤さんの口の中に消えて行く。
急に顎を支えていた手が離れたかと思うと
胸の先端を強く、摘まれた。
「ゃ、ぅあっん!ぁあ…っ!!」
一瞬にして目の前が真っ白になり、身体に電気が流れる様な快感が走り抜けていく。
遠藤さんの腕の中で大きく跳ね、飲み込まれて行く筈の声は唇が離れてしまったせいで部屋に響いた。
暫く、動けずにだらしなく開いたままの口から、微かに喘ぎ混じりの吐息が、何処か遠くに聞こえて、身体が震えた。
慰める様に三度重なった唇、息苦しいけれど心地良くて、自分からもぎこちなく舌を絡ませる。
受け止めきれなかった唾液が喉を伝っていき、困難な呼吸のせいで溺れていく様な錯覚に陥るが、距離が開いていくのが嫌で必死に求めた。
すると、何故か唇が離れていく。
「……ぇ、んど…さん…」
ふいに怖くなって名前を呼んで、遠藤さんを見る。
遠藤さんがすごく優しい眼で見返してくれたから、気持ちが少しずつ落ち着いてきて頭を胸板に押し付けた。
そこから遠藤さんを見上げて、ぼんやりと考える。
また離れてしまった唇。
もっとキスしていたいのに。なんて一度思うと、視線が無意識に遠藤さんの唇を追ってしまう。
視線に気付いたのか遠藤さんは少し困ったように溜息をつくと、俺の額に唇をよせて笑い混じりに言った。
「取り敢えず、息整えろ。…あと、…シャワー浴びに行くぞ。下が気持ち悪いだろ。」
言われてみれば、股間の辺りが生暖かい。触られて無いのに達してしまったとその時ようやく気付き、恥ずかしさのあまりその場から逃げ出したくなる。
でも、気遣ってくれた遠藤さんの声が柔らかくてそれさえも出来なくなり、俺は惨めながらにも頷くしか出来なくなってしまったのだった。
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アトガキ
最初機嫌が悪いのは、ちょっとした嫉妬で遠藤さんが苛ついたぐらいの設定。
遠カイは結局どっちも最終的には折れて甘くなってしまう感じが好きです。
でも次の日は甘さが無いカイジに振り回される遠藤さんで有って欲しい。