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とあるNYの喧騒

NYでのとある日常を書いてみました。エロはありません。


○●CASE・クレアの場合

「ん?」
「……?」
「いや、今外の通りを着ぐるみが通ったような……」
「……」
「シャーネがそう言うならやっぱり見間違えじゃないって事か」
「……」
「まあ、こんなに天気が良いんだ。仕方ないよな」
「……」
「ところでどうする?俺としてはこうしてシャーネと並んで歩けるだけでも幸せなんだが」
「………」
「ははは。さて……どうしようか。この前行ったレストラン、どうだった?」
「……」
「あの時はうやむやになったんだっけ。じゃあ今日はあそこにしようかな。キースの奴のオススメらしいし」
「……」
「……そう、そこ。何だ、シャーネも知ってたのか。なんか俺の友達もそこ行ったとか何とか言ってたからさ、これは行っておかなきゃいけないと思ってね」
「……」
「もっともそいつは誘うのに手こずった上に、どっかのカップルも混ざっちゃって仕方なくデートから外食に予定替えしたんだけどな?」
「……」
「そうなんだよ! しかもそいつ、好きな女と数年も同棲してるのに告白やキスすらしてないんだってよ?もうDNAに対抗してるレベルだよな?」
「……」
「まあ俺にはシャーネがいるからそんな悶々とした日々を送らなくてもいい訳だけど……どうしたシャーネ、顔が赤いぞ?」
「……」
「ああ、悪かったって。こんな時間からそんな事言うなよ、照れるじゃないか」
「……」
「ああ、シャーネはやっぱり笑ってるのが似合うなあ」
「……」
「……」
「」
「」
……。

睦み合う幸せな者達が、ここに二名。


(ある扉外の会話・in小声)
「……あの二人の会話、聞いてるとこっちがおかしくなりそうですね」
「ねえニースぅ、その、やっぱり盗み聞きとかは良くないんじゃないかなあ…なんか静かになっちゃったし、その、ね、まずいんじゃ…」
「……ジャグジー……」
「ど、どうしたのニース、なんだか顔が赤いよ!? やっぱり中で……」
「……」
「え、まさか、ニース、ここで……―――うわぁぁぁっ!!!」

襲われる半泣きが、ここに一名。


○●CASE・三兄弟の場合

「……ああ、そういうことでしたら、あの通りの……そうそう、あそこの店はオススメらしいですよ。ええ。……フィーロ、そのくらい自分で……まああなたがそんな事をしてたらすぐばれそうですが」

通話を終えたラックが、リンッと音を立てて電話に受話器を置く。
部屋には兄弟三人、そして別のテーブルで花を切っているチックがいた。
アイリスの花をイーディスに貰い、切り戻しているようだ。

「……はあ」
「フィーロの奴、どうしたって?」
「……」
「誰かを食事に誘うようで……まあ、それで私に電話を。フィーロはそういうのに良い店とか余り詳しくないようだしね」
「あいつがぁ?何だって……ああ、あのエニスって姉ちゃんか」
「まああの小さな子も一緒に……とは言ってましたが。色々とからかわれてるみたいですね、あの様子だと」

マルティージョにおける彼のからかわれ具合は、数回遭遇しているため既知の事実である。彼が極度の奥手であることも。
おおかたデートに誘おうとして、食事に落ち着き、そして2人きりというのはあれなので誰かを誘った―――そうラックは推察した。
今、テーブルの上のゲームは珍しくラックが勝っている。

「あいつの奥手は昔っから変わらねーな、ガハハハハ! しっかしこのジャックの持ってる8の字、これ何だ?」
「……」
「他の奴2人が持ってるのは細い棒みたいのじゃねえか。こっちのクイーン2人は花だしよ」
「剣じゃないの? ジャックって兵士だし……この勝負は降りる。そんなフルハウスには勝てないよ。珍しくスリーカードだったのに」
「……」
「ああ? 何だよ、兄貴も降りるのか。……ってあれ?何でフルハウスだって解ったんだ?」
「……」
「お、兄貴、帰るのか?」

……コクリ。
頷きながらコートを羽織るキースの顔は、どことなく嬉しそうでもある。
ここ数日は事務所に詰めっきりだったため家に帰るのが久しぶりとなるからだろう。

「はーあ。俺も帰るかな」
「ああ、じゃあ後の仕事はやっておくよ」

扉の向こうに消えた長男を見送った後、ベルガもごそごそと帰り支度を始めた。

「仕事も大体片付いて、あとは店への使いくらいじゃねえか。誰かに任せちまえよ」
「……まあ、そうですねえ……ああ、チックさん」

丁度事務所内にいたチックが鋏を片付けようとしていたところを見つけ、呼び止めた。

「はいー?」
「この荷物を店の方へ運んでおいてくれませんか? 一応書類やらが入ってるので、誰か一緒に連れて行って下さい」

夕刻を迎えて人も少なかったので、そのお使いが終わったら帰っても良いとチックに告げる。

「わかりましたー」
「よろしくお願いします」

チックは誰かいるか探しに別の出口から出ていった。
すぐに向こうからやけにハイテンションな声がしてくるので、マリアが帰ってきていたのかもしれない。
あの二人ならとりあえず荷物の安全性は大丈夫だろう――チックが居れば、店までは着くだろうし。

「はあ……」

残った書類を片付けてしまった後で戸締まりを頼み、事務所を後にする。
……と、鞄に入っていた書類の存在を忘れていたことを思い出し、憂鬱になった。
書類と言うよりただの連絡事項なのだが、よく考えればこっちをお使いに頼んだ方が良かったと、さらに憂鬱になる。
場所はミリオネア・ロウ。ジャグジー・スプロット率いる不良集団宛の連絡だから、あの2人は以前行った事があるのだ。
せっかく全ての仕事を片付けてしまったのだから、これも今日中に片付けてしまおう―――そう考えるラック。
しかしそれが邂逅を、呼び寄せるとは考えようもなく。


……ミリオネア・ロウ。
金持ち達の屋敷が建ち並び、近づきがたい雰囲気を醸し出している。
(あの不良達が居候している屋敷は確かこの辺りだった筈……ん)
この周辺に居る人間で、ボロい身なりをした人間はその不良集団しかいない……筈だ。
となれば、今目の前の屋敷に入っていったの男女二人はおそらくその一団の内の一人なのだろう。
「ヒャッハア!」「ひゃっはあ!」
自分の顔を見て慌てていたのも合わせ、どうやらその屋敷がそうであると判断した。
……おそらくはあまり歓迎されないだろうが。
ラックは溜め息をつきながら屋敷へと向かった。


一方、不良集団が集まった部屋では

「ヒャッハア」
「ひゃっはあ」
「ヒャッハアー」
「ええええええっ!!!! そんな、な、なんでガンドールの人がっ、しかも幹部、っどどどうしよう絶対何かやっちゃったんだどうしよう絶対消されるよ!」
「落ち着いてジャグジー、ああ、気絶しないで!!」
「姉さん、どうします?」
「ここは一応ジェノアードさんに借りてる場所ですし……騒ぎになったら迷惑かけます。時間も時間ですし……」
「ぬあ、俺、出るか?」
「ドニーは出ないで下さい、話がこじれます。とりあえず誰か出ないと……」


そしてエントランス。
ノッカーを叩いたが誰も出てこないのを見て、ラックは恐れられてしまったのかと溜め息を重ねる。
―――やれやれ、恐怖を与えるのはベル兄の役目だっていうのに。
ともあれ誰も出てこないなら帰ろうかと踵を返そうとするが、少女の声によって止められる。

「あの……どなたでしょうか?」

少女は声をかけただけだ。だがラックは、それだけで全ての挙動を止めてしまった。
聞いたことがある、この声を。
―――失念していた。そして、知らなかった。完璧に。
イブ・ジェノアードがNYの別荘に偶然居合わせた事を。
ジャグジー達が伝手を頼ってこの別荘に居着いていた事を。
そして、あの33年の事件の時、二人のその場所を教える為のメモを書いたのが自分であると言う事を。
繋がりのない筈の、完全に別のカテゴリ分けされていた二人の人物、こちら側であるジャグジーと表側であるイブ。
それが同時に存在するという奇妙な偶然に、自分が立ち会ったことにラックは困惑している。
そして考えた末―――彼は彼女に対して第一声を放つ。


慌てた不良集団が大勢で詰め寄せ新たな喧騒を生むまでに 二人が交わした会話は、彼等しか知らない。


○●CASE・フィーロの場合

外から帰ってきたフィーロとエニス、店を出るところだったアイザックとミリアは、示し合わせたようなタイミングで鉢合わせた。
アイザック達は何やら興奮気味で、フィーロ達を見てさらにテンションが上がったようだ。

「あ!フィーロ!」
「エニスも!!」
「安心しろよ!子供を運んで来る鳥さん達はみーんな俺達が盗み出してやったからな!」
「鳥さん達がきっと子供を運んで来てくれるよ!」
「お、おい」

呼び止めようとするが、もう既にエネルギーのベクトルが外に向かっているようで、二人は勢いよく扉から走り出ていってしまう。
残されたのは、ポカンとしたフィーロとエニスの二人。
「何だったんだろう?」「さあ……」 といった遣り取りをしながら、二人は奥の酒場の方へ入る。
中で迎えるのは見知った組員や、幹部達だった。

「アイザックさん達、いつも通りですね」
「……まあ、そうだな。でも子供がどうとか話してたけど……」

「「「「「「「「 子 供 !? 」」」」」」」

重要ワードに触れたのか、店内の視線がいっせいに2人に向けられる。

「そうか……ついにあの2人も」
「まあ2人で1人みたいな勢いでくっついてるしな」
「確かに、あの2人が別々にいるとこ見たことねえな」
「ふむ。いずれはそうなるじゃろうと」
「だがまああの2人に子供……想像出来ねえがよぉ」
「ていうか前にもこんな事あったけど皆忘れてんのか?」
「……まああいつをからかう恰好のネタとなっているから、誰も口にしないんだろうが……まあいい」

あちこちで巻き起こるぼそぼそとした囁きの嵐。
そして、決まったパターンのように アイザック達の話の筈が、徐々に照準が若い幹部へと移っていく。

「で、お前はまだなのかよ、フィーロ」
「え?何で俺が」
「とぼけるなよ?バレバレなんだから」
「そうだよフィーロお兄ちゃん。分かりやすいんだから。この前だって、あの二人が来なかったら食事にも誘えなかったんでしょ?」

黙って聞いていたチェスが不意打ちを食らわせてきた。

「ななな……まさかお前、前日の話を聞いて―――」
「何のことだかわからないよ?」

「なんの話ですか?」
「エニス!?」

エニスは自分の知らない所で話が進行しているのに気づき、何の話なのか聞こうとするが―――それはもちろん、フィーロの焦りを早めることになる。

「あ、エニスお姉ちゃん。そういえばこの前、あの二人と食事に行ったじゃない?」
「ええ。あのフィーロさんが見つけたお店、良いお店でしたね」
「チェ、チェス!?」
「それでね、お兄ちゃんはラックさんのところに電わ―――むがっ」
「よしそこまでだチェス。ちょっとお話ししようか?」
「もががが」

フィーロは苦笑いを浮かべながら何かを口走りそうになったチェスを抱えて裏へと向かった。
残されたのは笑い転げる幹部と呆れる幹部と、取り残されたエニス。
未だ恋愛感情という者を理解していない彼女が今の会話を始めから聞いていたとしても、おそらくフィーロが見栄を張ろうと良い店を探したことは気づかなかっただろう。
彼女は、楽しく食事できたことで満足しているからだ。

「一体何だったんでしょう……?」


○●CASE・馬鹿ップルの場合

「ねえアイザックぅー」
「なんだいミリア?」

泥棒カップルは自分たちのアパートで、夜のゆったりした時間を過ごしていた。
室内の壁には宝石からがらくたにしか見えないような色々雑多な物が、平等に並べ飾られている。
彼等にとっての宝物であるそれらは、雑多であるはずにも関わらず、明るすぎない照明に照らされて互いに調和していた。
家具等の装飾や種類、そもそもベッドがキングサイズであったりクローゼットの代わりに箪笥があったり、そういうものも軽く明かりを落とした状態では特に違和感がない。
二人は寝室の真ん中をどんと占領しているキングサイズのベッドに二人で寝転がり、ゴロゴロとしていた。
ミリアはぽつりと、呟いた。

「私達、なんで子供がいないのかなぁ……」
「子供?」
「今日聞いたんだけど、男女が一緒に寝てると、10月後に子供ができるんだって」

『みんなで食事に行こう!』と呼び出した、フィーロやエニス、チェス達を待つ間にマルティージョの酒場で聞いた話だった。

「なんだって!じゃあ俺とミリアに子供がいてもおかしくないぞ!」
「でしょ?なのになのに、いないって事は……子供達、どこかに行っちゃったのかなぁ……」

子供の行方を心配してか、ミリアは涙ぐんでいる。
アイザックは即座にそれを否定し、ミリアを安心させようと必死で頭を回転させる―――

「えーと……違うぞミリア!……きっとあれだ!妖精さん達の仕業だな!」
「妖精さん?」
「刑務所にいた時妖精さんと会ったんだ!きっと子供達は妖精さん達が匿ってくれてるに違いない!」
「ベビーシッターだね!ベビーフェアリーだね!」

妖精を持ち出した後で、前にヤグルマから聞いた話がアイザックの脳裏に蘇る。

「そういえば子供達は鳥さんに運ばれてくるらしいぞ!」
「幸せの青いコウノトリだね!」
「そうともさ! 幸せにしてる夫婦をもっと幸せにするために子供を妖精さんのところ運んで来るんだ!……ハァッ!!?」
「どうしたのアイザック?」

何か非常にまずいことに気が付いてしまった様子のアイザックの顔を、ミリアはのぞき込む。
お腹に手を当て冷や汗を流し、ぐぐぐ、とミリアの方に顔を向ける。

「ミ、ミ、ミリア……今日のご飯……何だったっけ?」
「へ?フィーロやエニスと一緒にお店で鳥料r……チキ……ン……はわわああぁぁ!!」
「どどどどうするミリア!俺達は子供を運んで来る鳥さん達を……」
「たたた食べちゃったぁぁ!!」
「ミリアァァ!!!」
「アイザックゥ!!!」

ぐわしっ という擬音と共に、きつく抱き合う。

「そうか!きっとフィーロ達に子供が出来ないのも、俺達が鳥さん達を食べてたからに違いない!!」
「大変だよアイザック!このままだとエニス達にも子供が出来ないよ!!」
「そんな事になったらフィーロ達もチェス君も悲しむぞ!」
「一大事だね!」
「よし、それなら一刻も早く何かしなくちゃな!」
「何を?」

食べてしまった鳥達をお腹から出して助け出すわけにもいかず、代わりに助けられる鳥はいないものかと思案する。
ふと、興行しに訪れていた動物園のことを思い出し、アイザックははたと手を打った。

「うーん……そうだ!今日行った動物園の鳥さん達を盗み出してやろう!」
「それで鳥さん達を放してあげるんだね!」
「そうさ、鳥さん達も狭い所から出られるし、フィーロ達にも子供が出来る!一石二鳥だ!」
「鳥さん達全員合わせて一石百鳥だね!」
「逃げた鳥さん達も子供を作って……未来の人達もみんな子供が出来るぞ!一石万鳥、いや、一石百億鳥だ!」
「すっごおい!」
「なあーに、動物園の人たちには、この前盗んだ宝石でもプレゼントすれば、きっと喜んでくれるさ!」
「大喜びだね!狂喜乱舞だね!」
「よし、じゃあ動物園に忍び込む格好を決めなきゃな!」
「これはどう?」

ミリアはごそごそと、どこかでみたようなカボチャのかぶり物を出してくる。
ついでに畳んであったマントも出してきて、しゅるりと体に纏ってみせた。

「それはこの前やったなぁ……あ、動物に紛れるためにこんなのは?」

白と黒の模様が入った、着ぐるみ。―――パンダ。

「アイザック、格好良い!」
「そーか?じゃあミリアはコレだな!」

耳が目立つ南の獣の着ぐるみ。―――コアラ。

「動物でお揃いだね!」
「じゃあ今日の夜決行だ!でもその前にちょっと寝ないとな!コアラもパンダも1日殆ど寝てるんだぞ!」
「睡眠補強だね!」
「よし、じゃあ寝るぞミリア!」
「アイザック、おやすみ!」
「おう、おやすみミリア!」

二人並んで、衣服が散乱したベッドの上に倒れこむ。
アイザックの腕はミリアの肩に、ミリアの腕はアイザックの体に回され。
2人は、微笑みながら抱き合いながら、幸せそうに眠りについた。
夢の中でも一緒だというように、幸せそうに笑いながら―――


寝過ごした2人が白昼堂々動物園の鳥達を逃がす事件を起こすのは、まだ数時間ほど先の話。

そして、それがまた新しい騒ぎを起こすのかは―――彼等も、悪魔でさえもまだわからないことだった。






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