2-157氏


200 名前:なつのおわりのよるのゆめ【中編】(0/13)[sage] 投稿日:2008/05/18(日) 21:38:02 ID:ZMDbqVne


投下行きます。>>163-183の続きになります。
エロカップリングは「新羅×セルティ」
諸注意などは>>162に。

申し訳ありませんが、当初の想定以上に長くなったので、
今回は『中編』と言うことで、投下をさらに二回に分けます。
『後編』部分もほとんど目鼻は出来上がってますので、近日中に。

201 名前:なつのおわりのよるのゆめ【中編】(1/13)[sage] 投稿日:2008/05/18(日) 21:39:33 ID:ZMDbqVne


あれだけ酷い目にあってたから、ほっときゃ故郷に帰るかも……
なんて、淡い期待も抱いてたけど、甘かった。
なんだかんだでさっきの遊馬崎との情交で随分と力を補給できたらしく、
またもや『夢魔』は姿を消して、次なるエモノを物色していた。
……学習能力ない奴だよなあ。
欲望の強い人間ほど中身は化け物ってのにいいかげん気づけばいいのに。
ま、あの行動力とバイタリティだけは見習うべきところもあるかもしれないけれど。
 
夢魔の視線の先を見れば、私も見知ったふたりの男女が言い争っている。
門田と狩沢。
ダラーズの『細胞』を成すチームの面々で、さっき遊馬崎が一戦やらかしたバンも彼らの持ち物だ。
 
「E.G.ファイナルまだーーーーっ!?」
「……ったく、せっかく遊馬崎を隔離したってのに、狩沢、てめえが発作起こしてどうすんだ」
「発作…そう、瑞っ子なら誰もが罹患する病なのかもしれない……」
「年中病気みたいなもんだろうが、お前らは」
「だって……だって、きいてよドタチン! 秋山ってば酷いんだよ!」
「……今度はどこの漫画のキャラだ? 秋山が誰だか知らんが二次元の会話を俺に求めるな」
「違うよ! 秋山は三次元人だよ! EGもミナミノミナミノも終わらせてないのに、
今度は龍盤七朝だなんて完結する気配ゼロの新シリーズ初めてどうするつもり!?」
「作家かよ……続きが読みたきゃ、道で叫んだりせずソイツに手紙でも出すんだな……」
「手紙なんてもうとっくにダース単位で出したに決まってんじゃん! 
お、オマケに、オマケにっ……古橋もシェアワールドで龍盤七朝に参加するらしいんだけど、
ブラックロッド東方編で使うつもりだったネタを龍盤七朝に使うとか言い出してて……
書く気なくなっちゃったの?! 東方編を! 私、もう何年も待ってんだよ!」
「いいかげんうるせえ! てめえもバンで頭冷やして来い!」
「ふぇええええ〜〜ん、ドタチンが睨むぅ〜」
 
ハタから覗き込むだけなら、二人の姿は痴話喧嘩にでも見えたかもしれないだろうけど、
実際には理不尽に喚き騒ぐ女を、保護者である男が言い宥めているに過ぎない。
それに『相方』である遊馬崎がいないのでは、狩沢の語りも空回りするだけだ。
 
……が、どうやら『痴話喧嘩』だと思った奴が一人いた。
 
レルードが狩沢をガン見している。
きっと狩沢の欲望に惹かれてしまったのだろう。
だけど『好きなライトノベルの新作が読みたい』なんて欲求を夢魔がかなえてやれるはずもなかろうし、
次もまた……レルードは酷い目にあうに違いない。
狩沢も遊馬崎と同じく頭のネジが2,3本トんでる人間だし、ヘタすりゃ新刊不足の欲求不満の吐け口として
尋問の時のノリで拷問じみたプレイをはじめかねない。
それこそ作品が作品だけに『空き缶と鉛筆』とか……かもな。うわ怖い。
嫌だぞ。私はそんなハードSM見たくない。
 
―――仕方ない。止めるか。力ずくで。
 
夢魔の呼吸を読み、バイクを無音で転がして緩やかに接近し、背後に立つ。
仮にも相手は『羽つき』だ。空に逃れられてしまっては私では止めようがない。
そうなる前に一発で決めなきゃならない。
門田から捨てられた(ように見える)狩沢が、トボトボとバンを停めてある路地に向かって歩き出す。
その狩沢に接触しようとした夢魔が一歩を踏み出した瞬間を狙って、
私は『影』で鎌を作り、漆黒の刃を伸ばして夢魔の首筋にひたりとあてがった。
 
              ♂♀
 

202 名前:なつのおわりのよるのゆめ【中編】(2/13)[sage] 投稿日:2008/05/18(日) 21:42:04 ID:ZMDbqVne


殺気を飛ばし、夢魔を威嚇する。
突然の事に夢魔も状況が理解できておらず、ただおびえた顔をして静かに私のほうを振り返った。
ドゥルン。
私は『愛馬』のエンジンを一声嘶かせると、ヘルメットの内側から目のない『視線』で睨みつける。
 
「……なんだ? 君から感じる気配は……吸血鬼ではなさそうだが……
いや、待て、この気配、どこかで……」
 
記憶を探って何らかの知識を掘り出しているようだったが、
やがて私の正体に見当がついたのだろう、恐怖に打ち震えた声で一声叫んだ。
 
「デュ……デュラハン?!」
 
知っているなら話が早い。せいぜい怖がってもらうことにしよう。
基本的に、レルードのような力を求めるタイプの小物は格上と分かった存在には絶対逆らわない。
私は『影』を広げて黒霧を成し、ただでさえ薄暗い路地を、漆黒の闇に染めていく。
効果は抜群。夢魔の顔はより一層の恐怖にゆがめられていった。
 
「馬鹿な! 馬鹿な馬鹿な馬鹿な! 死を呼ぶ天使が、漆黒の戦乙女が、
人間はおろか、妖魔や吸血鬼からでさえも
魂を自在に引き剥がす事のできる『弔問者』が、どうしてこんなところに?!」
 
―――へー、デュラハンってそんな芸当が出来たんだ。
 
私にまともに機能する舌と声帯があったなら、思わずそう口走ってしまっていたにちがいない。
残念ながら私には『魂を引き剥がす』なんて真似は出来ない……できるのかもしれないが、
生憎とその辺の知識と技術は『首』の方が持っているのだと思う。
 
なんにせよ、これだけビビらせる事が出来たなら十分だろう。
私はゆっくりと夢魔の首から鎌を剥がすと、
胸元からいつものPDAを取り出し、文字列を打ち込んで差しだした。
 
『驚かせてすまない。私はセルティ。この街に住むデュラハンだ』
 
夢魔は私が口を使って喋らない事を不審がっていたが、
やがて一つの結論に達したのか、恐る恐る尋ねてきた。
「貴女は……もしかして首を……?」
正解。理解が早くて助かる。ま、自慢できた話じゃないけれど……。
『恥ずかしながら』

幾分か緊張が薄らいだ夢魔に向かって私はPDAになおも文を打ち込んでいく。
『さっきから観察させてもらっていたが、君は私の仲間をたぶらかして、
精気を吸おうとしていたな。命を奪おうとしていたな』
 
“さっきの情交を出刃亀してました”と言ったも同然だったが、
夢魔はそこに気づいた風は無く、単に自らの疑問を口にした。
「仲間? 何を言って……私はデュラハンの精気を吸おうとした事など一度も――
待った、貴女の魂が……そんな、信じられない!! 
繋がってる……この街の人間と魂で『縁』が繋がってる! 一体、どういう……」
 
『縁』か……
確かに私は最近ではこの池袋を第二の故郷のように思い始めている。
私はいまや、この街に、そして新羅との生活にすっかり染まってしまっていた。
……そうだ、せっかく面白い芸のできる奴が目の前にいるんだ。
新羅との『縁』を深める為にちょっとだけ手を貸してもらうことにしよう。

203 名前:なつのおわりのよるのゆめ【中編】(3/13)[sage] 投稿日:2008/05/18(日) 21:44:07 ID:ZMDbqVne


最大限に威圧しながら、入力済みのPDAを夢魔の眼前にずいと突き出す。

『失敗続きとはいえ、お前は私の仲間に、私のすむ街に手を出した
―――責任は、取ってもらうぞ』
「せ、責任っ?!」
 
殺されるとでも思ったのだろうか。夢魔の顔がますます青ざめていく。
脅かしすぎるのもどうかと思うが、私はほんの少し協力して欲しいだけだ。

『見逃す代わりに、私の欲望を叶えろ』
「それは……どういう……」
『夢魔は人の心が見えるんだろう、欲望を叶える事ができるんだろう? 
それとも妖精が相手では能力が使えないとでもいうのか?』
「不可能ではないと思いますが、やってみた事がないもので……」
 
いつの間にか夢魔の口調があるじに仕える下僕のそれになっている。
ちょっと脅かしすぎちゃったかもしれない。

『かまわない。やるだけやってみてくれ』
「けれど私は今、傷を負って力を失ってる状態でして……」
 
おや、力を出し渋るつもりかな。嘘はいけないぞ、今はそれなりに満たされてるだろうに。
私だって、そっちがそう出るなら痛めつける以外にもやりようはあるんだぞ。
 
『ふーん、さっきはあんなにお楽しみだったのに、まだ物足りないのか、レルード』
「……何で、私の名前、その、あの、え……えええぇぇぇええっ!?」
 
PDAの文字を追っていたレルードの目に徐々に理解の光がともったかと思うと
羞恥のせいか叫びだし、恐怖に青ざめていた顔が、今度はさっと朱に染まる。
 
「み、み、見てたんですかぁっ?!」
『だから、ずっと観察してたって言っただろうに』
「見てたんだったら、止めてくださったらよかったのにっ……」
『止めたし。助けたさ。でなきゃ、お前はまだあの男に犯され続けてるところだ』
「あ……」
 
遊馬崎が急に動かなくなった一件を思い出したのだろう。レルードは急にしおらしくなった。


204 名前:なつのおわりのよるのゆめ【中編】(4/13)[sage] 投稿日:2008/05/18(日) 21:46:00 ID:ZMDbqVne


「……ありがとうございます」
『別に恩に着せるつもりはないけど、もうちょっと考えて行動しようよ。
ついでに言うと、さっきお前が見てた女は、あの男の相方で同類だ……また酷い目にあいたかった?』
「いえ、まさか……申し訳ありません」
 
重症の二次元嗜好者に弄ばれる恐怖と理不尽さを思い出したのか、レルードはぞくりと体を震わせた。
それにしても流石は『夢魔』だ、こういう物憂い顔はキッチリ絵になる……と、いうか実に嗜虐心をそそる。
私はちょっとだけ意地悪な気分になった。
 
『それにしてもさっきは随分可愛かったよ、レルード。あんなに甘い声あげちゃったりして』
「ち……違うんです! あれは夢魔としての職能っていうか……」
『後、すっごい恥ずかしいおねだりもしてたよね、確か“私のはしたない   』
「わー! わー! ダメです! それ以上言わないで……いや書かないで!」
 
顔を真っ赤にして、レルードは書きかけのPDAを取り上げようとしてくる。
ふふ、壊されちゃかなわないし、いじめるのはこの辺りまでにしといてやろう。
 
『……で、あれだけ満足させられた後で、力が足りないって事もないと思うけど、協力してくれるね?』
「う……うぅ、はい、わかりました……」
『お前の出方次第では私の“欲望”を食わせてやってもいいし』
「それならまあ、かまいませんけど……あの、あんまりヘンなシュミとかないですよね?」
『私自身は多分ノーマルだと思う……けど、相方のほうがなあ……』
「……相方? まあ、心を見せてもらえばわかります、行きますよ?」
『オーケー』
 
そしてレルードは集中したかと思うと私の心を覗き込んで行く。
やがて目を見開いた彼女の顔は驚きに彩られていた。
 
「……まさかとはおもいましたが。お相手は、人間、ですか」
『言っとくけど、相方に手ェ出したら殺す。普通に殺す。食べていいのは私の“欲望”だけだ』
「わ、わかってますって……」
『それで……この件、やれそう?』
「いくつか用意していただくものが必要ですが、可能かと」
『そっか』
 
なら、後は私の覚悟次第と言うところか。
新羅のシュミを考えたら、こんなのは正直嫌われてしまう可能性もある。
けれど、子供じみた願いとはわかっていたが、どうしても、新羅との間にかなえておきたい望みがあった。
そうして物思いに耽っていると、レルードがなにやらいいたそうにこっちを見ている。
 
「あの……私からも一つお願いが」
『なんだ?』
「仮にも夢魔がヒトにいいように弄ばれてしまったと言う件……その、どうか、御内密に」
 
これからの結果如何では、私は“ヒトにいいように弄ばれて”しまうかもしれない
……いやむしろ、そう言うのを望んでる自分に気づき、内心くすりと笑った。
 
『わかったよ、そんなの言いふらしたりなんかしない。……じゃ、はじめようか』
 
              ♂♀
 

205 名前:なつのおわりのよるのゆめ【中編】(5/13)[sage] 投稿日:2008/05/18(日) 21:48:36 ID:ZMDbqVne


いつものマンション。いつものドアだ。だって言うのに、ドアノブを握る手がどうしようもなく震える。
果たして新羅は『この姿』の私を受け入れてくれるんだろうか、それとも拒否するだろうか?
さっきからそのことばかりを考えて、ぐるぐると思考が渦巻いている。
結局、ドアを押し開け中に入る勇気がでたのは、五分ほどそうやって悩んだ後になった。
 
「あ、お帰りセルティ。どうだった、夢魔とやらは見つかっ……」
帰って来た私の姿を見て、新羅は静かに息を呑み込んだ。
新羅の目には普段どおりの黒いスーツを着込んだ私がみえているはずだ。
しかし、ただ一点、夢魔の力が正しく発動していれば、いつもと違う箇所がある。
「セルティ、お前……」
新羅は私の『顔』をみて夢見るようにそうつぶやき、二人の目と『目』はみつめあう。
「新羅」
透き通った『声』として恋人の名が部屋の中に響き渡る。
ああ、そうだ、実に久しい。これが私の『声』だった。
 
だが、新羅はこの状況を簡単に信じはしないだろう。
そして、新羅の目に理解の色が浮かび、一つの結論を口にする。
「セルティ、これは……もしかして夢魔の……」
「何も言うな、新羅」
私は静かに『首』を振り、そのまま新羅に向かって一歩踏み出す。
―――怖い。
これを聞くのは本当に怖い。だけど聞かなきゃならない。
『表情』のコントロールなんて慣れてないから、私は今、きっと心情そのままに怯えた顔をしてるのだろう。
 
「……首のある私は、嫌いか?」
 
そう。今、新羅の目には『首』の付いた私が写っているはずで、
私自身にもまた『首』から上が存在している実感がある。
少なからず『首無し女フェチ』の気がある新羅が今の私を見てどう思うのか、
それはどうしても知っておきたい事柄の一つだった。
そして新羅はいつもと変わらぬ優しい微笑みを浮かべると、自分の思いを口にした。
「馬鹿だな……言ったろ? お前に首があってもなくても関係ないってさ」
―――よかった。
私はほっと息をつき、胸をなでおろす。そういえば、息つく感触と言うのも実に久しい。
けれど新羅は、椅子に座ったままで、一つだけ納得がいかないと言った表情で言葉を続けた。
「……そんな事を聞くためだけに、俺に幻を見せているのか?」
もちろん違うさ、こうしている事の本題は別にあるよ、新羅。
私は前に身を倒し、テーブルの上に寄りかかるようにして手を置いた。
そして、座る新羅の顔に自分の『顔』を近づけて、ささやくようにこう呟く。
 
「借りを、返そうと思ってな」
「借り?」
「前に新羅は、私を殴って――キスの代わりだと言っただろう?」
「あれは、借りでもなんでもないだろ?」
 
私は静かに首を振りながら、さらに『顔』を寄せる。
互いの息が届く距離。幻覚だってのは解るけど、私は新羅の息遣いを確かに肌で感じていた。 
「私の、夢だったんだ」
「え?」
ああ、こいつと来たら、頬が真っ赤でまるで思春期の少年だ。
そういえば、帰ってきてから四字熟語を一つも口にしてないし、
一人称も『俺』だ。よっぽど緊張して余裕がないんだろう。
ふふ……可愛いやつめ。
 
「私は――もう、この街に染まったんだ。心はこの街の人間と同じだと言っていい。
いや、そう望んでいる。そんな私が『夢魔』に望んだ事は――わかるだろ?」
 
「――お前とキスがしたい。それが、今の私の欲望だ」
 
              ♂♀

206 名前:なつのおわりのよるのゆめ【中編】(6/13)[sage] 投稿日:2008/05/18(日) 21:51:07 ID:ZMDbqVne


こうして、私たちは唇を寄せ合った。
柔らかい。そして暖かい。それが第一印象。
ただ唇を合わせるだけのキス。
それだけでも恋人と触れ合ってるのだと言う実感がわいて、心を喜びが満たしていった。
やがて、どちらからともなく重ねた顔が離れていき、先ほどまであわせていた新羅の唇が言葉を発する。
 
「夢みたいだ……セルティ」
「力を借りてるのが夢魔だけに、実際夢かもな」
「酷いな……でも、震天駭地の出来事としか思えないし、夢だと言うなら僕の好きにさせてもらうよ」
 
新羅は私の手をとり、テーブル越しの私の体を椅子の方へと引き寄せる。
私も抵抗はしない。引かれるままに、テーブルを乗り越え新羅に近づき、
そのままどさりと体を預けて新羅の膝上へと座り込む。
 
「……重いか?」
「羽化登仙の気持ちだけに、重さなんて感じないよ」
「ばーか……それでうまいこと言ったつもりか」
「こんどは僕から……な?」
「わかった……」
 
そして新羅は私に再び口付ける。
新羅は私の唇を舌でなぞり、唾液を絡めてくる。
さっきとは違う、深いキスを求めてるのだと気づいて、私は唇を開いてそれを受け入れる。
 
「……んっ」
「うぁ……んんぅ……」
 
新羅の舌が私の歯列や頬裏を撫で回す。
実在しないはずの箇所を刺激されているにもかかわらず、私は確かにくすぐったさにも似た快感を覚えていた。
だけど責められてばかりと言うのも性に合わない。私もまた『舌』を伸ばして、新羅の口腔へと進入させていく。
これまた私には存在しないはずの器官であるのに、リアルな感触をともない新羅の粘膜と触れ合っていた。
 
「く……うぁ……」
「……ん…んぅ……んんっ?!」
 
そして驚くべきことに、私は舌先に失った知覚のはずである『味覚』を感じていた。
……これは塩、の味か? いや違う。違うがどこか覚えがある。
なじみの薄い感覚だけによくわからない……けど、
愛しい男から感じるものだと思うと、それは例えようもなく心地よかった。
ええと、好ましい味覚のことを言うんだっけ……そうだ『おいしい』だ。
新羅はとてもおいしいな。
 
「ぷは…はぁ……はぁ……」
「んぅ……ぁ…」
 
私たちはどれほどキスを続けていたんだろうか。
相当に長い時間であったことは間違いなく、流石に人間である新羅には
呼吸が辛くなってきたようで、未練を残しながら唇は離れていった。
 
「驚いた……妖精の唾液ってのは甘いんだね。まるで果物みたいだったよ」
「うっ……そ、そうか」
 
いやゴメン、新羅。その『甘さ』は、妖精とか関係ないんだ……
まあ、明日、この幻術が解けたときにでもちゃんと説明しよう。
話題を逸らしたくて私は新羅に矛先を向ける。
 
「新羅の方こそ、結構おいしかったぞ」
「……なんだいそりゃ?」
「え、いや、なんでもない……」

207 名前:なつのおわりのよるのゆめ【中編】(7/13)[sage] 投稿日:2008/05/18(日) 21:52:20 ID:ZMDbqVne


……まいった、失言かもしれない。
化け物である私がそんなこと言ったら、『人喰い』の類だと思われても仕方ないじゃないか……
自分自身が『魔の物』の一種であることに引け目も負い目も無いけれど、
それでもやはり、人間とは違う存在ということだけは忘れないようにしないと。
 
「セルティ。また余計なこと考えてない?」
「……あ」
 
新羅がそっと、私を抱きしめてくる。
確かに物事を悪い方に考えてしまうのは私の悪いクセだが、
それを察してこうしてくれる、新羅の優しさが今は嬉しい。
 
「さっきも言ったろ、君が何であろうと僕の愛は変わらないって」
「うん……ありがとな」
 
……ああ、こうやって腕の中に納められていると、なんだかとっても幸せだ。
私は体から力を抜き、新羅の胸にしなだれかかる。
伝わってくる新羅の体温と鼓動を感じると、より一層の安心を覚える。
 
「あれ……これって……」
「どしたの、セルティ?」
 
しかし、そこで髪と服から漂うにおいから、
先ほどから新羅に感じていた『味』の当たりが付いてしまった。
これは、さっき出るときにひっかぶせて行った―――
 
「新羅……お前、カニ玉のにおいと味がする……」
「ああ、アレね。美味しかったよ」
「……あんなの食べたのか!?」
「君の愛がこもってたからね。捨てるわけなんてないさ」
「なら、せめて風呂ぐらい入っておけ、馬鹿!」
「じゃあさ、セルティ……」
 
そこで新羅は珍しく言いづらそうにためらいを見せた。
 
「……いっしょに入らない?」
 
―――ふざけるな、調子に乗るな、馬鹿。
そう言おうとした。間違いなくそう伝えるつもりだった。断固拒否の構えだった。
 
「……うん」
 
けれど……私の『首』は恥ずかしげにうなずいていたんだ……
 
              ♂♀
 

208 名前:なつのおわりのよるのゆめ【中編】(8/13)[sage] 投稿日:2008/05/18(日) 21:54:38 ID:ZMDbqVne


「……のぼせないの、セルティ?」
「―――大丈夫、この程度の事で私はのぼせ上がったりなんかしないぞ……子供じゃないんだから。
そう、私は大人だ。私はクールだ。ラジカセで喋りだすぐらいにはクールだ」
「相当のぼせてるね、コレは……」
 
結局、勢いで一緒に浴室に入ってみたものの、裸身を晒す勇気が出ず、
新羅にシャワーを浴びさせたまま、私は湯船に浸かりっぱなしだったりする。
いや、別に裸を見せなきゃいけないわけじゃないんだけどさ……
 
「ところでさ、セルティ……聞いていい?」
「……何を」
「今夜のこれってどこまで現実なんだい」
 
確かに夢魔が絡んでるという事が分かるだけに、新羅が不安がる気持ちもよく分かる。
だけど……どこまで話せばいいものか。あんま話すと興醒めする部分もあるしさ。
 
「九割方、そうだと思ってくれて大丈夫だと思うけど……」
「それにしちゃ随分と、僕にとって都合が良すぎる展開が続きすぎててさ……」
「違う、お前だけじゃない」
「……え?」
「言ったろ。私の欲望はお前とキスがしたい事だと。
だったら、こういうのもまた私の望みでもあるんだ……恥ずかしいけどさ」
「セルティ……」
「それでも信じられないってんなら、頬でもつねってやろうか?」
「是非とも!」
「……この、変態」
 
よぉし、望みというならやってやろうじゃないか。
とりあえず浴槽の中から『影』を伸ばして『指』を作り、新羅の頬を嫌というほどねじり上げてやる。

「い、いひゃい、いひゃいいいいいよ、せるふぃ! いひゃたたったたたた!!」
「……ふん。これで満足か?」
「ほっぺたに穴があくかと思ったよ……まあ、目が覚めたというか、夢じゃなさそうだ」

いつものケンカ。いつもの雰囲気。ふふ、おかげでちょっとだけリラックスできた。
―――よし、ここで、勇気出さないと。こーゆーのは年上がリードしてやるべき、だよな?
 
「新羅。背中……流してやろうか?」
「えっ、えええええっ? ちょッ……そんな、いつもだったら俺としては哀訴嘆願っていうか
こっちからお願いしたいぐらいだけど、急に言われても吃驚仰天な訳で僕も心の準備が、いやそのあのッ!」
「日本語をしゃべれ。日本語を。あと一つのセリフのなかで『僕』と『俺』をいっぺんに使うな。
……と、言うかもう、待ってられない。勝手にする」

意を決して立ち上がり、湯船から出る。しぶきが上がり、攪拌された湯から白い湯気が立ち上った。
 
「セルティ! そんな、急に出たら、見えちゃう! 
いや見たくないわけじゃないんだけど……って、なんだ」
「何だとは何だ。不服か?」
「いや、それはそれで。すっごく似合ってるよ」
「ん……ありがと……」
 
流石にいきなり全裸を見せる程の勇気は出なかったので、『影』を『水着』の形成し身に纏ってごまかした。
見られる羞恥心になれるために、自分なりにギリギリ限界にまで露出度は上げといたつもりだけど……

209 名前:なつのおわりのよるのゆめ【中編】(9/13)[sage] 投稿日:2008/05/18(日) 21:57:14 ID:ZMDbqVne


「じろじろ見るな。恥ずかしい……」
「水着は見せる為の服だよ、セルティ。だったら見てあげないと」
「うるさい! ごちゃごちゃ言わないでとっとと背中出せ!」
 
新羅を浴室の椅子に腰掛けさせた後、ハンドタオルにボディソープをたらして泡立て、
今度はそれを新羅の肌に延ばし、塗り広げ、こすって汚れを落としてやる。
そうこうするうちに、私の脳裏に過去の記憶がよみがえりはじめていた。
 
「そういやさ、こうやって背中を流してやるのも随分久しぶりだよな」
「ざっと18年ぶりぐらい?」
「あー、そんなになるか。ちっちゃかったよなあ。と、言うか今と違って可愛かった」
「今は可愛くなくて悪かったね……」
 
20年以上は前の話になる。
新羅の父親である森巌に言われるままに、日本でのねぐらをこの部屋に定め、私は池袋に住み着いた。
ところが、森巌の奴と来たら、家にサッパリ寄り付かないもんだから、
まだまだ小さかった新羅の世話を私が見ることになってしまっていた。
 
「いまだから言うとさ。あの頃の俺、セルティと一緒にお風呂はいりたくてゴネてたこともあったんだよね」
「……ったく、このエロガキ」
「ガキは無いよ……僕ももういい大人なんだから」
「私の五分の一も生きていないような奴は、ガキで充分だ!」
「……だけど、子供は、こんなことしないよ」
 
新羅は首だけ振り向くと、私の顔を引き寄せ口付ける。
不意を撃たれてなすがままにされてしまったが、けっこう無理な体勢だったせいか唇はすぐに離れていった。
「……ね?」
「ばか……」
ああ、畜生。今ぜったいに顔赤い。
『首』がなかったらそう言うのとも無縁なのに……こんなのも悪くはないけどさ。
けれど、私ばかりが恥ずかしがってるってのもシャクだし。
――いじめかえしてやる。
 
「ふん、ガキじゃないってんなら、こーゆーのも余裕で受け流してくれるわけだよな?」
「……え、何するの、セルティィィィィィイイイイ!! って、当たってる! 当たってるって!」
「あててんだよ!!」
 
私は新羅を後ろから抱きしめると、その背中に自分の胸をぎゅうと押し付けてやっていた。
もう……湯あたりしてどうにかなったのか、自分がこんな大胆なことしてるだなんて信じられない。
 
「ヤバイってセルティ、ほんとヤバイから!」
「何がヤバイって? この程度でうろたえるとか、ホントお子様だな、お前は」
「その……もう手遅れなんだけど、股間がお子様ではありえない形状にだね……」
「!!」
 
言葉に思わず目が行った。
遊馬崎みたいな馬鹿でかいのじゃないけど……想像してたのよりは、その……ずっと。
「……ここだけ随分とオトナじゃないか」
いやいやいや、何を言ってるんだ私は……だけど、童顔の新羅のイメージよりも、ここは、もっと凶悪で……
「あの……セルティ、あんまり凝視されると僕もう……」
「お前だってさっき、私の水着姿じろじろ見てただろ……おあいこだ」
「あ、あんまりイーブンな条件には思えないんだけどっ!?」
「……ならさ、そんな風にした責任、とってやろうか?」
「え?」
 
ああ、私はどうにかなってしまったに違いない。……こんな事を言うつもりだなんて。
 
「それ、苦しいんだよな? 楽にしてやるよ」
 
              ♂♀

210 名前:なつのおわりのよるのゆめ【中編】(10/13)[sage] 投稿日:2008/05/18(日) 21:58:52 ID:ZMDbqVne


『影』ではなく、自前の指を眼前の肉茎に伸ばし、つんと突いてみる。
それだけで、新羅のその部分のみならず、体全体がびくりと震える。
 
「つっ…セルティ……」
「……ん、痛いのか?」
「いや、別に痛くはないというか、むしろ気持ち良いというか
……ホントにこのまま続けてもらっちゃっていいの?」
「何を今更……スキンシップとか言いながら、私に触ってくるときの度胸はどこ行ったんだ」
「こんな時いつもは暴力がセットでくるから……なんか、逆に安心できなくって」
「……痛いのが望みだってんなら、そうするぞ」
「できれば、柔和温順な感じでお願いしたいんだけど……」
「だったら最初からおとなしくしてろ!!」
 
私は内心の羞恥をごまかす為に一声怒鳴ると、今度はペニスの幹の部分に一本一本指を絡めて行く。
硬い。そして熱い。血管が張り詰めて、脈打つ鼓動まで伝わってきそうだ。
 
「新羅の…あったかい……」
「セルティの手も暖かいよ……」
「なんか、びくびくしてる……」
「セルティも、震えてる……怖い?」
「べっ、別に怖くなんか……ちょっと驚いただけで」
 
なさけない話だけど、新羅の言うとおり、確かに手の震えが止まらない。
そんな私の緊張をほぐすように、新羅は優しく肩に手を置いてくる。……こっちもあったかい。
 
「えと……動かせばいいんだよな?」
「セルティの好きなようにしてくれたら……あ、でもあんまり痛いのは、勘弁」
「わかってる、痛くなんかしないさ。だから、安心して、その……気持ちよくなって」
「うん……」
 
ペニスに絡ませた指をゆっくりと上下させていく。
動かすほどに新羅の口から熱い吐息が漏れ出すのが聞こえる。
何度か扱きあげるうちに、新羅の感じるポイントがわかってきて、
時に優しく、時に激しく、その部分を責め立てる。
 
「気持ち良いか……新羅?」
「ああ……すっごい気持ち良いよ……」
「よかった……こんなの、触るの、初めてだから……」
 
刺激を続けるうちに、ペニスの先端に粘性の水滴が溜まっている事に気がついた。
これ、アレだよな。先走り……とかいう奴。
その粘液を指先ですくいとり、ペニス全体に絡めてやると、それが潤滑油がわりとなって、
一層スムーズに新羅の弱点を可愛がってあげる事が出来るようになった。
 
「セ、セルティ……ちょっと、刺激、強すぎ……」
「……ああ、うん」
 
新羅がなんか抗議してるが耳に入らない。
聞こえてはいるが、意味を持った言葉として理解できていない。
私自身もまた、この行為にいつのまにかそれほどまでに興奮してしまっていた。

211 名前:なつのおわりのよるのゆめ【中編】(11/13)[sage] 投稿日:2008/05/18(日) 22:01:20 ID:ZMDbqVne


先走りはますます溢れ出し、私の指と新羅のペニスを汚していく。
なんだか、いとおしい。新羅の分身であるこの器官が例えようもなくいとおしい。
 
ちゅ。
 
「って、セルティっ!?」
 
―――気づけば、新羅のペニスに私は口付けしていた。
 
「新羅の…ヘンな味がする……」
 
『味覚』自体、慣れない知覚ではあるけど、それを差し引いても随分変わった味だ。
苦味と酸味が入り混じり、独特の臭気まで感じられる。
普通の感覚だったら『まずい』と断言できるタイプの味だろう。
だけど……私はそんな奇妙な味を、もっと感じたいと望んでいた。
 
「……んぅ…ちゅ、でも、おいしい、かも」
 
そうだ。『おいしい』だ。心地よい味覚は『おいしい』だ。たぶん、新羅のだからおいしいんだ。
更に深くその味覚を知りたくなって、私はとうとう新羅のペニスにむしゃぶりついてしまっていた。
舌を伸ばして根元から先端まで舐めあげて味わい、先端に吸い付いて一番濃い味を楽しむ。
 
「くぁ…セルティっ……止めっ、そんな、舐めたりしたら……っ!」
「…ん、はぁ……止めて…いいのか……? 口でしてやれるのなんて、たぶん、これが最初で最後だぞ?」
「……う、やっぱり、止めないでくれると、その、僕としては嬉しい」
「あは、男ってホントにこういうのが好きなんだな……」
 
新羅が感じれば感じるほど、そのペニスはおいしくなってくる。
私はそれに気づいて、今度は亀頭部分をくわえ込み、口腔全体を使って愛してあげた。
『舌』を伸ばして鈴口をつついてやり、『唇』をすぼめて先走りを吸い上げる。
どちらも私は本来もたないはずの器官なのに、新羅は実際に感じてくれている。
ひょっとして私はなかば無意識のうちに『影』を絡ませて、新羅のを愛撫しているのかもしれない。
 
「……ま、なんだっていいか。新羅が感じてくれるなら」
「な……何の事だい、セルティ?」
「ふふ、こっちの話。……それよりどうだ、気持ちいい?」
「そりゃもう……んんっ…とろけそうなくらいに」
「男のクセに気持ち悪い声を出すなよな……」
 
本当は、声を出すぐらい新羅が感じてくれているというのがとても嬉しい。
もっと新羅のこういう声を聞きたくなって、私は手と口の動きを加速していく。
 
「うあ……ああっ……セルティ…ヤバいって、そんな、それ以上されたらっ……!」
「……されたら、どうなっちゃうんだ、新羅?」
もちろん、聞かずとも、このままだったらどうなるかぐらいは知ってる。
けれども少し意地悪な気分になってたので、新羅の口から直接言わせてみたくなっていた。 
「くぁ……で、出ちゃうってば……」
「いいよ……新羅だったら。このまま、最後までイっちゃえよ……!」
 
そう告げて、私は新羅のペニスを喉奥まで飲みこめるだけ飲みこみ、強く吸い上げてやると、
新羅の吐息と喘ぎがますます激しくなってくる。
存在しないはずの私の耳を刺激するその音が、今はとても心地良い。
 
「ダメ…俺、もう…げんか……いっ!」
「ん、んんっ……!」
 
吸い込みがトドメになったのか、新羅の叫びとほぼ同時にペニスが破裂したんじゃないかと思うぐらい、
大きくはじけ、中に詰まっていた濃厚な精液がたっぷりと私の口内に浴びせかけられていた。
新羅、射精してるんだ。私の口で、新羅、ちゃんと気持ちよくなってくれたんだ。
ああ、なんだか嬉しいな……

212 名前:なつのおわりのよるのゆめ【中編】(12/13)[sage] 投稿日:2008/05/18(日) 22:03:03 ID:ZMDbqVne


 
「ごめん……セルティ、ホントごめん……」
 
なかば反射的な行動なんだろうが、謝りながらも新羅は腰を深く突き出し、私の喉奥を一層深く犯してくる。
別に謝らなくってもいいのに……。
そして、気づけば私は、口腔で受け止めた大量の精液をそのまま飲み下していた。
そうするのが当然のことのように思えたし、一滴だってこぼしたくはなかった。
もちろん、『モノを飲みくだす』なんて、私にはできるはずもないんだけれど、
喉奥を粘り気のある液体が流れ落ちていく感触までリアルに感じ取れた。
 
―――そして、私は自分が『魔の物』の一種だという事を思い知らされる事になる。
 
「あぁ、ああ……美味しい。新羅の…美味しいよ……」
 
そう、初めて味わった男の『精』はそれはそれは美味だった。
『愛しい男のものだから』なんて、言い訳が白々しく聞こえるぐらいの強烈な味覚体験で、
その『味』は、頭を灼き、魂を貫き、妖精としての本能がもっともっと欲しいと唸りをあげていた。
口内に出された分だけでは物足りず、ペニスをしごいて
尿道に残った分までを搾り取り、夢中になって一滴残らず舐め取る。

「新羅の……すっごく美味しい。もっと欲しいよ、もっと飲みたい……ね、出してよ」
「セルティ……そんな、無茶、言わないで……」
「だって、美味しいんだもん……いや、あれ……私、何で、こんな……」

しばし『精』の味に陶然とした後……自分が余りにも浅ましい姿を晒してる事に気づいて愕然となった。
それだけではない、胃の腑に落ちた『精』は熱く疼き、
それを糧にして体の奥底からほの暗い力が沸き立つのを感じていた。
……なんてこった、これじゃ……私も『夢魔』の類となんら変わりない。

「う、うう……」
「……新羅?! しっかりして! 新羅?!」

新羅の上体がぐらりと揺れて、浴室の床に倒れこみそうになり、
私はあわてて新羅の体を抱きかかえた。
見れば、新羅の顔は青白く、呼吸も乱れている。
夢魔が約束をたがえて新羅に手をつけたのかとも思ったが、違う。奴の気配はあたりに無い。
……ああ、それに私のこの身体に満ち満ちる、溢れんばかりの『力』はどうだ。
バス一台を3分で鉄屑の山に変えてしまう事さえ出来そうな、この『力』。
 
―――間違いない。私が、新羅を『喰って』しまったんだ。

213 名前:なつのおわりのよるのゆめ【中編】(13/13)[sage] 投稿日:2008/05/18(日) 22:05:14 ID:ZMDbqVne


「ごめん、新羅、私が……私のせいで……」
 
崩れ落ちた新羅を抱きかかえながら呼びかけると、新羅は私の頭をそっと撫でてくる。
 
「君のせいじゃない。仮に責任があるとすれば、分不相応にも君に懸想してしまったこの俺の方さ。
それに……君と愛し合う事でこんな風になるかもしれないって事は可能性としては考慮してたし、
覚悟だってとっくの昔に決まってる」
「だって……だって……」
「泣かないで、セルティ……」
「新羅ぁ……」
「……君、結構泣き虫だよね。後、怖がりだし」
「誰が泣き虫の怖がりだ……いや、ごめん、そうかもしれない」
 
私と愛し合う事で、新羅は命を失ってしまうかもしれない。そして私は新羅を失う。
それはとても恐ろしい想像だった。
 
「新羅が死んじゃうかもって思ったら、なんか、目の前が暗くなって……ああ、やっぱり私は化け物なんだ」
「セルティ、自分をそんな卑下しないで」
「……でも、新羅」
「じゃあ、この際、人間代表として、化け物であるところの君に言おう」
すると新羅は私の目をまっすぐに見つめて、深く静かに、しかし確実な意思を込めてこう宣言した。
 
「人間を舐めるんじゃないぞ、化け物」
 
鋭い言葉が矢となって私の心を貫く。けれどなぜか、貫かれたその痛みが今は心地いい。
 
「人間を舐めるんじゃない。知恵と知識、そして勇気。持てる力をつくして戦う。それが人間だ。
言っただろう、最大限の努力をして、君との運命のゲームで勝利を掴むって。
何度だって言うぞ。俺は決して君を離しはしない。
そのためなら他人の愛も、死も、俺自身も、君の思いさえも利用しつくしてみせる。
――そして、君の愛という最高のカードを得た今、俺がこの程度の事で死んだりなんかするものか」
 
まだ顔色は優れないものの、新羅はどうにか身を起こし、浴室の椅子に座りなおして私に向き合った。
余りにもまっすぐな、新羅の目と言葉が気恥ずかしくて、ついつい私は顔を逸らしてしまう。
……でも、ずいぶん気は楽になった。新羅はいつだって化け物である私を、そのままの形で愛してくれる。
 
「……素っ裸で言うセリフじゃなきゃ、最高にカッコよかったのにな」
「もう、セルティ、茶化さないでよ……俺は真面目なのに」
「ごめんごめん。それに……格好は私も言えた義理じゃなかったな、ふふふ」
「それに、万が一があったとしても、君に命を吸われて死ぬなら本望さ。
なんなら……俺が全然そんなの恐れてないって事、これから証明してあげようか?」
「新羅、それって……」
 
続く言葉を予見して、想いはさまざまに渦巻いた。高まる想いを押さえつけ、新羅の言葉をただ待った。
 
「セルティ、君を抱きたい。今夜この後すぐにでも」
 
 
              ♂♀
 
 







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