1-283氏

283 名前:麗凰×シャル(1/8)[sage] 投稿日:2006/09/24(日) 18:09:33 ID:gzSY01Lj


イーリーでなくてすまん。書いたの忘れてたので今更上げてみる。半端にエロなし。多分コメディ。



じり、とシャーロットは椅子の上で身じろいだ。内腿がこすれて熱を帯びる。
爪先からせりあがってくるものが痛みであるのか痒みであるのか、分からなくなってきた。
「うぅ……」
スカートをぎゅっと握りしめる。もうどれくらいの間こうしていただろう。
腹時計のなる時間ではなかったし、腕時計は持っていない。シャーロットは安物の懐中時計を
いつもカバンに入れていて、いちいちそれを取り出して時間を確認するのだ。
――その方が探偵らしいでしょう?
腕時計持ちなよと弟に呆れられてはそう答え、結果ますます呆れられるのが彼女の日常風景。
その日常に戻るまで、あと何分我慢すればいいのか。青い目にじわと涙がにじむ。
掛け時計は背後でカチカチと音を立てていたが、生憎と振り返る気力を使い果たしていた。
振り向いて目にした時のうつろいが、思ったより長くても短くても、絶望を憶えるに違いない。
「つ、つらい……これは確かにつらいです……っ」
冷や汗を流してシャーロットは呟いた。
朱鷺のビル。ビルの一室。広いばかりで簡素なリーレイの部屋。部屋の中の長椅子。
その椅子の上に、金髪の探偵は羞恥に耐えるように頬を染め、唇を噛みしめて座していた。

……正座で。

事の起こりは今日の午後。リーレイが、散歩中にバッタリ顔を合わせたシャーロットを、
自身の根城に連れて来た二時間ほど前にさかのぼる。
なつかれ、ねだられれば否とは言えないシャーロットは、好奇心も手伝ってこのビルまでやってきた。
さすがに中を詳しく案内されることはなかったものの、日々をつつましく過ごすシャーロットには
見るものすべてが驚きだった。
素直に瞳を丸くし、驚きの声を上げるシャーロットに、リーレイも少し楽しげな表情を見せていた。
そのままリーレイの部屋に移り、何となくカードゲームを始めることになった。
勝負強いのがリーレイならば、ビギナーズラックなのか何なのか、妙に運強いのがシャルである。
カジノで行われるようなゲームしか知らないリーレイにシャーロットが色々と手ほどきをし、
スピードから神経衰弱まで、さまざまな遊びを夢中に――というか半分以上むきになってやった。
子供らしい遊びをほどんど知らないリーレイと、弟に「今度こそあと一回で終わりだよ!」と
言われるまでゲームをやめないシャーロット。勝負は飽きることなく重ねられた。
「ふふふ……やりますね、リーレイさん」
「ム。お前も、やる。しぶとい」
もう何度目になるか、今にもリングの上でクロスカウンターを繰り出しそうな顔で、両者配られた
カードを手に取る。するどく光る瞳。額を流れる汗。つい不敵に笑ったりしている口元。
絵札が場に投げられようとしたまさにそのとき。

284 名前:麗凰×シャル(2/8)[sage] 投稿日:2006/09/24(日) 18:10:36 ID:gzSY01Lj


「リーレイ! いつまで寝ている!」
厳しく肌を鞭打つような声が、ドアの音と共に飛び込んできた。
恐れ入るよりは驚きがまさって、シャーロットがぽかんとしていると、リーレイはぱたぱたと
まばたきをし、ついでポンと古風に手を打った。
「仕事。これから。忘れてた」
「えっ!?」
「遅刻、ちょっと。でも、気にしない。大丈夫」
ぶい、とどこで覚えたか二本指でサインなど決めてみせるリーレイに、
「大事無いか否かは私の判断することだ。少しは気にしろ。いや大いに気にしろ馬鹿者が」
冷ややかな男の声が降りそそいだ。冷たいだけでなく、相当不機嫌そうだった。
何だか会うたび怒ってる方ですねえ。白髪増えそう。きれいな黒髪なのに、もったいない。
シャーロットは呑気に小首をかしげる。
そして思ったままを口に出した。
「え、えーっと、こんにちは、麗凰さん! そんなに怒ると白髪増えちゃいますよ?
ここは笑顔でリラックスなどしてみるのもひとつの手かと――」
「またお前か小娘……」
冷ややかで不機嫌だった麗凰の表情に、うんざりとくたびれきったものが加わる。
シャーロットに読心能力があれば、「この俺が心身とも必要以上に老ける事などあるものか。
お前にさえ出くわさなければ」という声が聞こえてきたことだろう。

腕組みをした右手の指で苛々と左の腕を叩きながら、麗凰はよく通る声で言った。
「つまりこういうことか? お前はこの異人娘との戯事に没入していて、今回の打ち合わせの
時間を失念していたと? 腑抜けるのも大概にしろ。……その気持ちも分からんでもないが」
小声で付け足された言葉に、リーレイが目を丸くする。
何やら苦悩の面持ちで、麗凰はおっとり笑うシャーロットを見、深い溜息を吐いた。
ふたたび顔を上げ、じろりと二人をねめつける。
「麗蕾。今後はこのような失態、許さんぞ。この娘も、二度とここには連れてくるな」
リーレイの大きな瞳がかげりを帯びる。「うん」と答える声も力ない。
そんな少女を見て、シャーロットは頭で考えるより早く、身を乗り出して叫んでいた。
「あのっ、わ、私は! これからもリーレイさんと遊びたいです!」
「……何?」
「リーレイさんはお友達ですから。来ちゃいけないのなら、うちに呼んでもいいですか?
そ、そりゃここと比べたら猫の額みたいな所ですけど……私にとっては象の背中です!」
胸を反らすシャーロットに、麗凰が顔をしかめる。
「ええい何を訳の分からん事を滔々と……リーレイ、お前も喜ぶな!」
「うれしい。友達。およばれ。キュウ」
「はわわわわ、だっ、だから腰のまわりは、だめ……!」

285 名前:麗凰×シャル(3/8)[sage] 投稿日:2006/09/24(日) 18:11:43 ID:gzSY01Lj


と、麗凰が卓上に散らばったカードを眺め、片眉を上げた。
「ならば運で決めるか」
「……はあ?」
「麗蕾。私と小娘、それぞれ一枚」
シャーロットの問いを黙殺して、リーレイに声をかける。
リーレイは無言のままカードを集め、よく切ってカードを一枚ずつ二人に送った。
「捲る手間が惜しかったので配らせた。話は簡単だ。札の数字が大きい方が勝者。
もしお前が勝てば、今回だけは愚妹の行動に制限を加えないでおいてやろう。
だが私が勝てば、私は私の意志を通す。――意味は解るな?」
「解り、ますけど」
理不尽だ。シャーロットは頬を膨らませる。
妹の友人関係に異議を唱えるなら、カードなんかでなく話し合って決めるべきなのに。
そう思いはしたが、麗凰はこれ以上の譲歩など決してしてくれないだろう。
「リーレイさんは……それでいいんですか?」
おずおずと聞くと、リーレイは華飾りをゆらしてこっくり肯いた。
「いい。駆け引き、兄さん、珍しい。大抵、問答無用。……ラッキー?」
「リーレイ!」
苛立たしげに麗凰が凄む。れ、と舌を出してリーレイは口元を大きな袖口で覆った。
シャーロットは覚悟を決めてカードに手を伸ばす。
「こうなれば仕方ありません。当たるも八卦、当たらぬも八卦っていいますしね!」
「それは占いだ」
頭痛をこらえる顔つきで麗凰が札を捲る。眉ひとつ動かないポーカーフェイス。
対するシャーロットは、絵柄を見た途端に顔を明るくした。これなら。これならいけるかも。
その表情を見ても、麗凰はまるで動じない。垂直に立てた右手の人差し指と中指に
カードを挟み、くるりと手首をひるがえして表を見せた。
「スペードの十二」
「ハートのクィーンです!」
僅かに麗凰は目を細める。ちらと妹を見やり、素っ気なくカードを卓に放り出した。
シャーロットはと言えば、どうしたものかと頭を抱えていた。
「えーっと……引き分けですか。引き分けですよね。引き分けの場合って……もう一回?」
「無用だ」
ふたたび腕を組んで麗凰は言った。物憂げに溜息を吐く。
「こんな児戯にこれ以上時間を割いていられるか。……もういい。こちらが折れてやる。
リーレイが貴様とどうしようが私の知ったことではない。だが、二度はないぞ」
二対の青い瞳がきょとんとしばたたかれる。
みるみるシャーロットの唇に笑みが広がった。
「本当ですか! ありがとうございます!」
「礼には及ばん。貴様にも暫しの間、反省してもらうつもりだからな」
にっこりと、この部屋に入って初めて麗凰が微笑する。
ものやわらかな微笑だが、両眼が全く笑っていない。
「ど素人が疑いも危機感も抱かずほいほい裏社会の人間の誘いを受けるものではない。
麗蕾を足止めし、私に刃向かった貴様が未だ呑気面をさらして生きていられるのは単に
運が良かったからだ。もう一度言うが、二度はないと思え。その軽挙な振る舞い、麗蕾が
ここに戻ってくるまで充分に猛省しておけ。そうだな――」
す、と長い指が椅子を指差した。
「――日本らしく、小一時間ほど正座でもしながら」

286 名前:麗凰×シャル(4/8)[sage] 投稿日:2006/09/24(日) 18:12:28 ID:gzSY01Lj


そのときは、『なぁんだそんなことですか!』と拍子抜けして笑ったシャーロットだったが、
「こ……これは確かに、きつい……かも……」
十数分を過ぎた頃から、とても笑っていられる状況ではなくなった。
金の髪青い瞳のシャーロットだが、一応は生まれも育ちも畳の国の住人である。
もっとも、生家はありふれた洋風建築で、今もホテル住まいの身。
茶道華道香道に日本舞踊の類などたしなんだこともない。つまるところ、
「ふ、ふふ……人は試練を乗り越えてこそ、ひとまわり大きくなれると言いますしね……!」
――ものすごく苦手らしかった。


二人が出て行ってから、もう何分経過した頃か。
「な……なんでしょう……実はこの椅子、ただの椅子と見せかけて鉄板がしこんであるとか
そんなオチ!? 何て言ったってリーレイさんのですもんね……」
シャーロットは汗をだらだら流しながら、意味もないたわごとを呟いていた。
そうでもしないと意識が保っていられない。
聞きかじりの知識で、長時間の正座のときは右と左に体重移動をするといいというのが
あったが、ちょっとでも動くとすさまじい痒みと痺れが襲ってくる。
シャーロットは何やら情けなくなってきた。
たかが正座でここまで苦悩している人間など、全世界にシャーロットひとりだけだろう。
誰かが見張っている訳でもなし、いっそ足を崩せばいいのだが、妙なところでシャーロットは
生真面目だった。一度交わした約束を破れない性質なのである。
「いや約束っていうか……挑戦状? 挑戦状なら、名探偵たるもの受けて立たなければ
なりませんし……」
ここに弟がいたのなら、『推理の余地が全くない挑戦状を受け取る馬鹿はいないよ』と
突っ込んだろうが、あいにく彼は自宅で家計簿と首っ引きだ。
「うー……こうなったら歌って気でもそらすしか……」
握りしめすぎて赤くなった手首をさすりながら、シャーロットがうめく。
昔教育テレビで聞いたなつかしのメロディが、サビの部分だけぐるぐる回りだした。そこに
蒼青電波でおなじみのテーマ曲が混じってきて、途中からまったく別の歌になる。
「……そういえば私、音痴でした」
万策尽きたと言いたげに、シャーロットはぐったり肩を落とした。
キィ、とドアが鳴ったような気がする。
何度も聞いた空耳だった。
どうせ今度も違うに決まってる。そう思いながらも、ついつい視線をそちらへやってしまう。
そしてシャーロットは彼女の青い目をいっぱいに見開いた。
「……なんて顔をしてる」
酷く呆れた様子で、麗凰が扉のノブを握って佇んでいた。


287 名前:麗凰×シャル(5/8)[sage] 投稿日:2006/09/24(日) 18:13:51 ID:gzSY01Lj


な……なんて顔って」
シャーロットは機械的に言葉を繰り返す。怒るだけの気力も判断力も奪われ気味で、
ぼうっと口を開いた彼女に、麗凰は肩を竦めた。
「馬鹿のような顔と言えば解るか? ……ああ失礼、馬鹿のようではなくて馬鹿の顔か」
扉を閉めて、すたすたと部屋に入ってくる。呆れ顔でもう一度言った。
「全く馬鹿としか言いようがないな。律儀に一時間以上も正座をしている馬鹿があるか。
正直者は馬鹿を見るというがまさにそれだ。貴様は何故そうも馬鹿に生きられるのだ?」
さすがにこれにはカチンと来て、シャーロットは麗凰を見上げた。
一分間の間にこうも馬鹿と連呼されたのは初めてだ。多分。シャーロック以外の相手には。
「……貴方が仰ったんじゃないですか、正座しておけって」
「ほう? 私の所為だとぬかすか?」
「えーっと……ほとんど私のせいですけど、ちょっとは貴方のせいでもあると思います!」
「私は正座しておけとは言ったが、立つなとは言っていない。歩くなとも命じていない。
解釈の余地などいくらでもあったろうが。それだから貴様は馬鹿だと言うのだ」
麗凰が口の端を吊り上げる。
シャーロットは基本的に人を疑わない少女だったが、麗凰のこの発言には疑問を覚えた。
好きに解釈したらしたで、揚げ足を取るタイプじゃないかしら、この人。
むっとした顔で睨むと、麗凰はますます可笑しげに目を細める。
「……じゃあ、もう立ってもいいんですね?」
「同じ台詞を二度言わせる気か」
「では遠慮なく!」
足の痛みも忘れて、シャーロットは膝を崩し、ふかふかの絨毯の上に足を踏み出した。
感覚がない、と思ったのは一瞬の事。
「――え?」
視界が綺麗に反転した。


ごん、と後頭部を打った感触は鈍いものだった。
そんなに痛くない。痛くないけどどうして天井があんなに遠くて背中がふわふわで、
そう――麗凰さんが私を覗き込んでるんでしょうか。
シャーロットはゆっくりとまばたきをする。
「……死んだか?」
「生きてます!」
慌てて答えると、麗凰は軽く目を見開いた。くく、とその喉から声がもれる。
笑われているのだと気づいて、シャーロットは頬を染めた。これは笑われても仕方がない。
痺れすぎて足の感覚がなくなって、動かした瞬間にすっ転んだのだ。


288 名前:麗凰×シャル(6/8)[sage] 投稿日:2006/09/24(日) 18:14:56 ID:gzSY01Lj


うわあ、と恥ずかしさに顔を覆うシャーロットの耳に、低い声が流れ込んでくる。
「意外性があるのかないのか解らん女だな。実に予想通りの反応と言うか……」
「ふぇ?」
「リーレイに抱きつかれて、いつも妙な叫び声を上げているだろうが。だから余程に神経が
過敏なのだろうと踏んで、正座でもしておけと言ったのさ。丁度いい罰になったろう?」
けろりと麗凰が言う。
カッと頭に血が上ったが、シャーロットはもう怒る気にもなれなかった。
このまま埋まってしまいたい。忸怩たる表情で、シャーロットは仰向けのまま横を向く。
ふと、体が絨毯を離れ、四肢が重力に引かれる感覚があった。シャーロットは瞬きをする。
「え、え、ええ?」
「暴れるな、馬鹿者」
声が聞こえた瞬間にびしっと固まった。気づいたときには抱き上げられて、麗凰の身体ごと
ソファにおさまっていた。
「う、え、ええええええええ!?」
「やかましい。騒ぐな」
うんざりと麗凰が口を開くが、そう言われても無理な話だった。自慢じゃないが男のひとに
抱きしめられたことなんて一度もない。(親兄弟は除外)(それだってないに等しい)
「招かれざる馬鹿娘といえども客人は客人、床に転がしておいては一族の品位に関わる。
大人しくしていろ」
麗凰の声が耳からというより、抱かれた胸のところから脈打つように響いてくる。
ぐん、と身体の奥に何かを差し込まれるような、低い声だった。訳もなく膝を閉じてしまう。
その途端、脚の痺れが神経を這いずり回って、シャーロットは肩をちぢこまらせた。
この痛みさえ治ったら全部終わる。そう、それまでの辛抱です!
ひそかに両の拳を握りしめたシャーロットは、次の瞬間、自分でも何処から出したのか
分からないような声を上げた。
「あ、……っ!?」
ぞろりと足を撫でられる感触に肌が粟立つ。爪先まで痺れが走って、動けなくなった。
何が起きているのか理解できなかった。ふたたび、ぐ、と足裏を押さえられる感覚があって、
シャーロットは息を呑んだ。目の前がチカチカする。
「な……なん、」
「放っておくよりはとっとと慣らした方が治りが早い。耐えろ」
実に無造作に麗凰は言い放ち、シャーロットを抱えているのとは反対の手で、彼女の
足をなぞった。マッサージの丁寧さなど欠片もない、圧迫しこすり上げて痛みで痺れを
緩和させるような手つきだった。
「や、あの、お気持ちはありがたいのですがっ、ちょ……あ、やっ……んんっ」
シャーロットは切れ切れの息で懇願する。
触られるたびに足が攣りそうになる。長時間の正座に匹敵する拷問だった。


289 名前:麗凰×シャル(7/8)[sage] 投稿日:2006/09/24(日) 18:15:50 ID:gzSY01Lj


「っあ! お願い、ですから、あの……もう、――ッ!」
おかしい。ふれられているのは足だけなのに、全身が痺れて熱くなってくる。
散々痛いと叫んだ所為か、脹脛をしだく手つきはわずかに穏やかなものになっていた。
けれどそれはそれでむず痒くて仕方ない。
シャーロットは身をよじって、麗凰の胸に顔を擦りつけた。シャーロットが力をこめて
寄りかかっても、微動だにしない。
「ん、んぁっ……」
痺れとくすぐったさに耐え切れなくなって手も伸ばす。ぎゅっと衿元の下にしがみつく。
涙の滲む目でふと見上げると、当たり前のことだが、息のかかりそうな間近に麗凰の
顔があった。リーレイによく似た、端整な面差し。状況も忘れてつい見とれた。
まるで無表情だった麗凰が、不意にうすい笑みを浮かべた。
シャーロットの耳朶に唇を寄せ、囁きを落とす。
「お前に触れたがる麗蕾の気持ちも分からんではないな」
「は……?」
「普段は姦しいばかりの野の鳥が……存外、良い声で鳴く」
かっと頬に血がのぼった。
言葉の意味はよく分からなかったが、今まで聞いたこともないほど楽しげで、ひどく
艶めいた麗凰の低い声が、強いアルコールのように注ぎこまれて耳を灼いた。
目が回る。
何か間違っている、こんなのはおかしいと警鐘がひっきりなしに鳴り響いているのに、
身体が認識してくれない。どこもかしこも痺れて、火照って、動こうとしない。
「ええっとその、ど、どういう意味でしょうかっ」
「訊くな。……正直言って私も深く理解したくない」
せめてものように、回らない口を必死に回転させると、麗凰が苦々しげな顔になった。
我に返った口調でうんざりと呟く。シャーロットは目をしばたたいた。
足の痛みも痺れも一瞬忘れるくらいだった。頭に浮かぶのは疑問符ばかりだ。
はっとシャーロットは目を輝かせた。
「ということは、ここは推理を働かせるべきですね!」
「……万が一ひねり出された真実で、誰ひとり幸せになれないとしてもか?」
「大丈夫です。私が幸せにしてあげますから!」
何といっても名探偵。
収まるところにすべて収めて大円団で締めくくるのはお手の物だ。
にっこり笑って答えると、麗凰が苦虫を数十匹まとめて噛み潰したような顔になった。
何の故か完全に気力を喪失したらしい麗凰を、さて何となぐさめてあげようかと
シャーロットは思案する。
――と。またもや視界が反転して、景色が変わった。


290 名前:麗凰×シャル(8/8)[sage] 投稿日:2006/09/24(日) 18:16:43 ID:gzSY01Lj


「り、」
「……つくづく腹に据えかねる小娘だ」
長く広い、麗蕾愛用のソファにシャーロットを組み敷いて、麗凰は呟いた。
シャーロットは何か言おうとするものの、両の手首を掴まれて、その痛みに声が出ない。
真上にいる男をじっと見上げる。
手首は痛かったし、絡み合って触れている足も痺れが取れなくてつらかったが、
ひどいことをされているとは思えなかった。
酷薄な表情が何よりも似合うその顔に今刷かれているものは、むしろ苦渋に近かった。
「麗凰さん……?」
男の唇に嘲笑が浮かぶ。誰よりも自らをあざ笑うようなそれに言葉をなくす。
「いいだろう。貴様が謎を暴こうというならそれも一興。最後まで付き合ってやる」
「は……」
聞き返すより早く、覆い被さってきた唇に喉奥から声を奪われた。息も。体の自由も。
重なりあった器官から水音が響く。耳に近い場所だからか、はっきりと聞こえた。
くちゅ、と音がするごとに勝手に身体が震える。
(し……舌? 舌入ってますか!? というかこれは多分キスなんですがええもちろん
そうに決まってますがキスってそういうものなんですかシャーロック!)
当然答えは返らない。助けてくれる人もない。
けれど手首を封じる力は随分とゆるやかになっていたし、その気になれば嫌だと
喚いて逃げ出すことだって出来そうだった。――なのに何故そうしないのか。
「わ、私、はじめて、なんですけどもっ」
ようやく解放されて何とかそう伝えると、なんとも言えない溜息が落ちた。
「……成る程。私は本気で気が違ってしまったらしいな」
「何が――んぅッ……!」
頭の芯が溶けるように熱い息が、シャーロットの唇を割り開き、中を蹂躙した。
もともと弟に馬鹿にされっぱなしの頭の歯車が、ますますその動きを遅くしていく。
身体が熱い。息も出来ない。
たまらない思いでシャーロットは、それでも震える手を必死に伸ばして、麗凰の服を
ぎゅうと掴みしめた。探偵の勘というものがあるなら、これがまさにそうだった。
どんな答えが待っているにしろ、この人が犯人です。――きっと。




変に長くてこの出来で申し訳ない。81氏じゃないけど選択肢
→1.リーレイが現場目撃で強制終了。「兄さん、邪魔した。ごゆっくり」
→2.普通に最後まで







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