チュンチュン・・・・・・チチチ・・・・・・・・・・・・。 ありふれた朝。 明るい日差しが顔にかかり、否が応でも覚醒してゆく。 だけど、悪い気はしない。 カーテン越しの日差しは柔らかいし、秋口になっている太陽光も真夏のそれと違ってきつさが無い。 そろそろ起きなきゃいけないのだけど、あんまりその気がしない。 布団の中が心地よいのもあるが、 まだ、“起こしてもらってない”から起きたくない。 ──起っきろ~~!! バカシンジ!!── いつも起こしてくれるこの声。 この声がないと僕は・・・・・・・・・・・・。 ぱちっ いきなり瞼が開いてしまう。 不思議そうに天井を見つめた後、ふと横を見ると目の前にはアスカの顔があった。 『わっ、わぁああっ!!』 と、いつもは慌てるのに・・・・・・・・・、 なぜだろう? 今日のシンジはおかしかった。 「あしゅかぁ~・・・・・・」 完全に惚けたような声を出し、その目の前の少女に抱きついて頬ずりを始めたのだ。 「え?! や、あん♪ シンジぃ~~・・・・・・・・・」 余りといえば余りの心地よさに酔っ払ったような声を上げ、身をゆだねるアスカ。 彼女を抱きしめるシンジの手は腰に回され、愛しそうに愛撫を続けながらツツツと下へ滑ってゆく。 『あ、あれ?』 流石に異変に気付いたアスカであったが、相手がシンジであった事と、妙にポイントをついた動きに身体 が逆らってくれない。 『シンジ?!』 その少年の掌が腰から下・・・・・・彼女のお尻にまわされた時、アスカの脳を甘い電撃が襲う。 懐かしい“あの時代”の・・・・・・二人で夫婦同然の生活を送っていた時代の記憶が噴出する。 彼の手の動きは正に“あの時の”動きなのである。 このまま抱かれるのか? このまま・・・・・・シンジと地獄のような甘い時を迎えるのか? ・・・・・・・・・・・・・・・・・それもいいかもしれない・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ──自分はシンジの“女”だった── いや、過去形ではなく、現在進行形だ。 ──そして、シンジは自分の“男”だ── 彼以外の異性なんか必要ない。 五十六億八千万歩譲って必要だとしても、それはいずれ生まれるであろうシンジとの愛の結晶が男の子だっ たと仮定しての話である。 あの“赤い世界”で、自分は世界中の意思を見た。 そして、自分を深く愛してくれて必要としてくれていたのはシンジだけである事を“理解”している。 そして、自分が必要としているのもシンジである。 いや、シンジ“だけ”なのだ。 だから逆らえない。 逆らう“能力”が身体に無い。 だけど、 だけど・・・・・・・・・・・・・・・。 今のシンジはヘンだ。 自分の中で何かが警鐘を打ち鳴らす。 正に死ぬ思いで肩に力を入れ、 身を裂くような痛みにも似た苦しさの中、 歯を食いしばってシンジから顔を離すと、 どごんっ シンジにヘッドバットを敢行した。 「痛ったぁ~~~・・・・・・・・・」 非常に情けない声で額を押さえるシンジ。 「起きた? バカシンジ」 そう問い掛けるアスカは、無理に近い行動をとった為か些か息が荒い。 「え? う、うん・・・・・・」 なんとか重い頭を振って意識を戻す。 何か夢を見ていたことには違いない。 だが、やっぱり思い出せない。 それに、今言われた「バカシンジ」に何かが反応している。 その“何か”すら解からない。 とにかく早く起きなきゃ皆心配するし、ヘタに駆け込まれたら・・・・・・・・・・・・。 って、 「ア、アスカ?! なんて格好してんだよ!!」 「え?」 ふと気付いて自分を見てみる。 ブラウスのボタンは全て外され、ブラのホックも外されている。 スカートのホックすら取り払われて半ば脱げていたし、オレンジストライプのショーツも少しずれていた。 物凄い手際である。 やっぱりヘンだ・・・・・・・・・。 頭に何かが引っかかっている。 それがアスカには解からなかった。 なぜなら・・・・・・・・・。 「ああっ!! ナニやってんのよ二人でぇ!!」 マナの怒声が突き刺さったからだ。 「え? あ、そ、その・・・・・・・・・」 シンジもしどろもどろである。 「シンちゃん・・・・・・ず~る~いぃ~~」 レイが制服を脱ぎながら突撃してきた。 「ちょ、ちょっとレイ!!」 アスカが間に割ろうとするが、スカートが絡まって転んでしまう。 「アスカちゃん、ショーツがズレてる?! フケツよ!!!!」 マヤがいそいそとタンクトップに手をかけていた。 アスカの抜け駆け(?)に反応して、皆もアヤシク服を脱ぎだそうとする。 「勘弁してよぉっ!!」 焦りまくったシンジはパジャマの部屋から飛び出し、そのまま洗面所へと飛び込んで行った。 「「「「あ~ん・・・シン(ちゃ~ん)ジ(くぅ~ん)~~」」」」 そんないつもの騒動。 いつもの光景。 だが、そんなシンジ達を見つめるカヲルの眼が不思議そうな色を浮かべていた。 「違和感・・・・・・? なんだろう・・・・・・・・・シンジ君・・・・・・・・・」 洗面所で顔を洗って、タオルで拭いた自分の顔を見る。 いつもの顔だし、いつもの自分。 だが、さっき目覚めて最初に眼に入ったモノ・・・・・・・・・。 アスカの顔より先に見たモノ・・・・・・。 部屋の天井を見たときに感じた、 『知らない天井だ・・・・・・・・・』 と、 倉庫兼自分の部屋に入るはずも無い朝日を見たのは・・・・・・・・・・・・何だったんだろう? 崩壊の足音はすぐ近くに聞こえている。 だけど皆気が付かない。 楽しすぎて、幸せすぎて、 だから足音も聞こえない。 だけど、耳元に迫る足音は無視しちゃいけなかった。 その事に気付いたのはもっと後の話。 自分らの愛する少年が、非常に不安定な状況であることを忘れてはいけない。 いや、“いけなかった”。 はっぴぃDay’S 28・STEP 僕に至る病(前編) きっかけと状況はともかく、恋人を得たケンスケ。 なんだかなぁな関係とはいえ、ハルコとの付き合いは順調である。 「ウソだっ!! オレはイヤだって逃げたのに・・・・・・ムリヤリ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「大丈夫よ~。あたしだってあんな事したの初めてだったんだから、お似合いじゃな~い?」 ナニをしたのかは甚だ謎であるが、妙に色気を出すハルコを見、“漢”達は殺気ムンムンであった。 「フォーエバー・フレンドリーキィーーーック!!!」 ドコからか響いてくるフラレンジャーことムサシの必殺技の声。 彼はクスハという存在がいる証拠(注:当然でっち上げ)を教えてもらい、元気満々でケンスケの露払い を行っている。 ナゼにケンスケの露払い? 簡単である。 『あの鬼畜野郎を殺すのはオレだ!! オレが殺す!! その邪魔をする者は消す!!!』 ・・・・・・ということなのだ。 ケンスケにとっては殺戮者が減って嬉しいのだが、ザコを消されていってるだけで、精鋭達は残ってゆく。 結局、“四天王”とか“神将”とかフシギな称号を持つ“つわもの”が襲ってくるのである。 そして、それら厄介な存在に単身戦いを挑んでいるのが“失恋戦士フラレンジャー”である。 戦えば戦うほど彼の恋は成就しないのであるが(失恋強化服を着ている為w)、自分に酔っているフシがあ る為、殆ど気にしていない。 なんとも本末転倒な話である。 ともかく、“逃亡者”から“傍観者”になんとか格上げされた相田ケンスケ少年は、ハルコによって肉欲の 日々を送って・・・・・・・・・・・・・・・。 いや“送らされて”いた。 「ケダモノ・・・・・・・・・・・・」 “虫”を見るような眼でヒカリに見下されているケンスケ。 もはやフケツを通り越している。 とは言うものの、そのヒカリだって微々たるものであるがトウジとの関係を進ませていた。 「ケンスケの奴はしゃあない・・・・・・アレがあいつの運命なんや。 わしらも“あたたかい目”で見守ったらな・・・・・・」 「トウジ・・・・・・」 既に名前で呼び合っていたりする。 実はコッソリと関係を進ませているのだから油断がならない。 2-Aは特にカップル率が高く、また年齢を無視したかのように想い合っている事が多い。 中学生という、思春期で微妙な精神の子供達の中で、2-Aの恋人達は本気で想い合う仲を見せている。 当然ながら筆頭は“殿様”碇シンジと“大奥”連中である。 シンジにしても迷惑そうにしてはいるが、いつも彼女“達”に気を使っており、如何なる演技をしようと 具合の悪いことや悩んでいる事を嗅ぎつけられてしまう。 当然、シンジの事も彼女達にはバレバレだ。 それを追従する形でトウジ&ヒカリペアがいる。 ケンスケペアは想い合っているか? というとかなり微妙な話となるので計算に入れられない。 (ハルコ:ヒドイ~~~) だから、その筆頭たるシンジの様子がおかしい事は少女達にはすぐに察知されていた。 ドコがおかしいと聞かれると返答に困る。 おかしい事はおかしいのだが、何がおかしいのか解からないのだ。 強いて言うのなら“上の空”と言ったところだろうか? とにかくシンジは内に篭る。 まるで殻に篭る理由を探しているかのように。 “前”の世界では自閉症扱いされたくらいなのだ。 一瞬、“それ”かと思った。 だが、アスカとレイが自分の記憶と照らし合わせても、記憶の中にこんなシンジは見つからなかった。 眼の焦点が合ったり、ぼやけたり、 顔色がやたら白くなったり、もどったり、 落ち着かない時の癖、掌を握ったり開いたりを繰り返したり、急にやめたり、 天井を見上げたり、前に視線を戻したり・・・・・・・・・。 落ち着き無くやっているのではない事がやたらと少女達を不安にさせた。 そして、HRが始まる。 いつもの様に遅れてきたミサト。 生徒に笑われる彼女。 いつもの光景だ。 だが、アスカとレイの心臓が痛む。 いや、心が痛む。 何かが起こる。 途轍もなくいやな予感がする。 不安・・・・・・? 違う・・・・・・。 “恐怖”だ。 「んじゃ次。シンちゃ~ん」 びくぅっ!!! いつもの点呼。 だが、アスカ達の心臓が跳ね上がる。 ヤダ・・・・・・・・・ヤメテ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 何に対して? 解からない・・・・・・・・・。 でも・・・・・・・・・。 「・・・・・・ミサト・・・・・・さん? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・出撃ですか?」 「「ひっ・・・・・・・・・」」 小さな悲鳴が二人の喉から漏れた。 だが、クラスメイトの笑いが二人の悲鳴をかき消した。 「はぁ~? ナニ言ってんのよ?!」 ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、 心臓が痛い・・・・・・。 なんだろう・・・・・・・・・? 『ふぅん・・・・・・冴えないわね』 アスカ・・・・・・? 『あなたは死なないわ・・・・・・・・・』 レイ・・・・・・? 『もう・・・・・・いいの・・・・・・・・・?』 母さん・・・・・・? 『すまなかったな・・・・・・・・・シンジ・・・・・・』 父さん・・・・・・? パッパッパッパッパッパッ 点いては消えるフラッシュ。 段々と明滅の途切れが無くなる閃光。 頭の中の導火線に点火され、火花を散らせながら爆発が蛇のようにのたうつ。 『シンジ・・・・・・アタシね・・・・・・・・・』 あれ? アスカ・・・? 『シンちゃん・・・・・・あのね・・・・・・今度会ったら・・・・・・』 レイ・・・・・・? 『シンジくん・・・・・・また、会おうね・・・・・・・・・』 マナ? 『シンくん・・・・・・・・・あたしね、あたし・・・・・・・・・』 あ、あれ? マヤさん・・・・・・? 『また会えるよシンジ君・・・・・・勘だけどね・・・・・・』 カヲル・・・・・・君? 『だめよ、シンジ。アスカちゃんに嫌われるわよ?』 母・・・さん? 『シンジ。初孫は男がいいぞ』 父さん・・・・・・・・・? 切り替わる場面。 流し込まれるようなイメージ。 全く違う場面が、同じ時間帯で目まぐるしく入れ替わる。 否定しようとする場面が、 肯定しようとする場面が、 其々が納得でき、否定できる筈なのに反対の答えを出す自分がいる。 ナンデ否定スルノ? ナンデ肯定スルノ? アア、ソウカ。 アア、ソウカ。 ──ソコにいたんだ── 唐突に納得した。 唐突に事実を受け入れられた。 痛みは感じない。 苦しさも無い。 ただ、凶悪なほどの脱力感がシンジを襲った。 彼が解かったことは唯一つ。 僕は、“僕”じゃない。 僕は“僕”なんだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 彼の事を・・・・・・。 いや、彼“だけ”を想う少女達の悲鳴だけが僅かに脳をかすめた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 それが彼の・・・・・・・・・碇シンジの意識が弾け飛ぶ直前の事であった・・・・・・・・・。 * * * * * * * * * 「それで・・・・・・・・・シンジの容態は?」 重苦しい沈黙を破るようにゲンドウが口を開いた。 ユイは真っ青になったまま項垂れている。 実の息子ではないが、キョウコも同様で、弱々しく夫に支えられていた。 「はっきり言わせてもらうが・・・・・・・・・余り良くない」 霧島教授にしてはクドくないが、はっきりと言い過ぎな感もある。 だが、回りくどいことを好まないゲンドウにとってはありがたかった。 「・・・・・・・・・それで、どういうことなんですか?」 ユイがゲンドウに支えられる形で頭を上げ、霧島に眼を向けた。 泣いていた訳ではないが、眼が充血している。 「・・・・・・・・・シンジ君は今まで固定化された記憶の欠片を取り戻していない。それを一度に取り戻したから 肉体と精神がジレンマに耐えられなかったのだ」 固定化された記憶とは、失った記憶のことである。 つまり、事故にあう前の“こっちの世界の”シンジの記憶だ。 「で、でも、シンジ君はうちのアスカを覚えてましたよ?!」 と、キョウコ。 「そのなのだ。 理由は解からないのだが、シンジ君はずっと一緒にいたアスカ君はもとより、しばらく会っていないレ イ君、マナ、カヲル、そしてマヤ君まで覚えている」 「じ、じゃあ記憶喪失なんて・・・・・・」 「いや、極めて珍しい事なのだが、生活と両親の事のみ忘れている」 「「え?」」 初耳である惣流夫婦。 「気を悪くしないで聞いてほしいのだが、シンジ君は多重人格のような状況にあった。 信じ難い事だが・・・・・・・・・・・・・・・・シンジ君の心には全く同じ人格、性格の二人が同居しているのだ」 アスカ達は無言でベッドに横たわるシンジを見つめていた。 いつかこんな日が来る様な気がしていた。 その不安を振り払うように明るくシンジに接してきた。 レイも、マナも、そしてカヲルも、マヤも、そんな気がしていた。 だけど、この幸せを、生活を手放したくなかったから必死に眼を背けていた。 このままの日々が続くと思っていた。 信じ切っていた。 だが・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 「シンジぃ・・・・・・・・・」 その縋る様な声にも反応してくれない。 いつも優しい笑みを浮かべてくれる少年が、 ピクリとも身体を動かさず、 ただ、昏睡し続けていた。 しかし、誰も気が付かない。 “あの世界”でもそうだった。 そして“ここ”でもそうなのだ。 何かが生まれる時は苦しみが付き纏う。 何かが変わる。 彼女達の関係に決定的な何かが。 それに伴う痛みと苦しみ。 その見返りは・・・・・・・・・・・・・・・・・・彼女達には見えない世界で行われていた・・・・・・・・・。
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