<夜、リツコのマンション>

「お腹空いたなぁ…」

マナは晩御飯の準備をしようと、冷蔵庫を覗き込んでいた。

 

 

 

僕は僕で僕

(90)

 

 

 


 

ピンポーン。

そこへ玄関のチャイムが鳴った。

「はーい」

その音を聞き、マナは急々と玄関に向かった。

ガチャッ。

そして玄関の扉を開けると、微笑みながら口を開く。

「どちら様ですか?」

ニコッ。

扉の外では、一人の人物が微笑みながら立っていた。

「え、どうしたんですか?」

予想だにしなかった人物の来訪に、マナは少し驚いた表情で訊ねた。

マナの言葉を聞き、微笑を浮かべた人物は、そのままの表情で口を開く。

 

「じゃ、行きましょうか♪」

 

 

<ミサトのマンション>

 

マユミは居間で寛(くつろ)いでいた。

テレビをつけたまま、居間の床に座って、料理の本を読んでいた。

ガチャ。

そこへ浴室の扉が開き、バスタオルを羽織ったアスカが姿を見せた。

アスカはタオルで頭を拭きながら、マユミへ話しかける。

「どう?何の料理にするか決まった?」

「……そうですね。今日は冷凍食品にします」

アスカの言葉に、マユミは料理の本を閉じて、微笑みながら答えた。

冷蔵庫にある食材と、調理時間を考慮した結果であった。

マユミの言葉を聞き、アスカは拍子抜けした表情で話す。

「な〜んだ、期待して損しちゃった」

「ごめんなさい、明日の晩は作りますから」

アスカの言葉に、マユミは小さく微笑みながら話した。

その言葉に、アスカは自室に戻りながら口を開く。

「別に謝んなくてもいいわよ。それよりも、晩御飯作ってくれる?お腹空いちゃった」

「はい」

アスカの後姿を見て、マユミは微笑みながら答えた。

 

バタン。

「さてと…」

アスカの部屋の扉が閉まると、マユミは晩御飯を作るため、立ち上がる仕草を見せた。

そこへ、電話の鳴る音が響く。

マユミは小走りで電話機のもとに行き、受話器を取った。

「はい、葛城ですが……あっ」

受話器の向こう側の声を聞き、マユミは驚いた表情を見せた。

そして、静かに言葉をつなぐ。

「…はい、知ってます。…今からですか?……はい、まだです。……はぁ。…解りました」

ガチャン。

相手の用件を聞き終えると、マユミは受話器を置いた。

そして、微笑みながら優しげに呟く。

「……カニ。…いい人かもしれない」

 

 

<松代、ネルフ日本第二支部>

 

第二支部の食堂では、赤木親子とミサトとコダマが食事を済ませ、食後の休憩をしていた。

ミサトとコダマは赤木親子に向き合う形で座っている。

 

食後に運ばれてきた紅茶を一口飲むと、ナオコは微笑みながらリツコに訊ねる。

「参号機、使えそうなの?」

「ええ。直ぐにでも起動テストできるわ。……パイロットがいれば、だけど」

そう答えた後、リツコは珈琲に砂糖を入れながらミサトを見た。

ミサトは真っ暗な窓の外を見ながら、真剣な表情で口を開く。

「…その件なんだけどさ。……電話があったわ」

そして灰皿に置いてあった自分のタバコを取ると、ミサトは言葉をつなぐ。

「彼、乗ってくれるって。無条件、無保証でね」

「…そう。保証はして上げるんでしょう?」

ミサトの言葉を聞き、リツコは静かに訊ねた。

煙草を一口吸い、白い煙を吐き出すと、ミサトは答える。

「ええ。面倒な手続きは`こっち´で、やってあげたわ」

 

リツコとミサトの会話を聞くと、コダマが口を開く。

「チルドレンの話ですか?」

「そう。少年少女を虐待する大人の話よ。酷(ひど)い二人でしょ?」

コダマの言葉を聞き、ナオコは冗談混じりに話した。

その冗談に、リツコとミサトは引きつった表情で呟く。

「……じょ、冗談に聞こえないわよ、母さん」

「なはは。…ホント、洒落にならないわ」

二人の呟きに、ナオコは苦笑しながら話しかける。

「あら、そう聞こえたの?嫌ねぇ、心の荒(すさ)んでる人達は」

案外、毒舌家のナオコであった。

 

「「あはは…はは……」」

ナオコの毒舌に、二人は乾いた笑い声を立てるだけであった。

 

 

<ミサトのマンション>

 

ガタ、ガタッ。

流し台の棚から、マユミは何かを取り出そうとしていた。

その様子を見て、アスカが不思議そうな表情で話しかける。

「何やってんの?冷食じゃなかったの?」

「いえ、変更です。……さっき電話があって、カニを持って来るそうですから」

土鍋を戸棚から出すと、マユミは微笑みながら話した。

マユミの言葉が理解出来ず、アスカは訊ねる。

「誰が持ってくるの、カニ?」

「えっと…」

マユミが名前を言う仕草を見せると、玄関のチャイムが鳴る。

ピンポーン。

その音を聞き、マユミが微笑みながら口を開く。

「多分、カニです。…会った方が早いみたいですね」

「そうね」

その言葉に頷くと、アスカとマユミは玄関に向かった。

カニを持って来た人物を確認する為に。

 

 

<松代、食堂>

 

食堂では和やかな雰囲気の中、会話が弾んでいた。

 

「それで、妹が言うんです。…お姉ちゃんの料理はスパイシー過ぎるって」

コダマが身の上話を交えながら、日常的な話をしていた。

その言葉に、リツコが微笑みながら言葉を返す。

「ミサトの口には合うんじゃない?ミサトの味覚ってN2兵器並に強力だし」

「何よぉ。女は辛口の方が、愛嬌が有って可愛いんだから」

ムスッとした表情で、小さな抵抗を見せるミサトであった。

ミサトの小さな抵抗に、ナオコが苦笑しながら口を開く。

「確かに、葛城さんにも一理あるわね。味覚は別としても」

「そうね。味覚は別ね」

「同感です」

ナオコの言葉に、リツコとコダマも続くのであった。

その言葉を聞き、ミサトは乾いた笑い声を立てながら話す。

「なはは…包囲殲滅される気分って、こんな感じなのね」

ミサトの言葉に、三人は笑い声を上げた。

ネルフ日本支部を支える女性達の、つかの間の休息であった。

 

それから少し会話した後、ミサトは食堂の時計を見ながら、思い出した様に口を開く。

「あ、もう、こんな時間。悪いけど私行くわ。…手続きの確認もあるし」

「…明日、午後一で起動テストするから、そのつもりでね」

ミサトの言葉を聞き、リツコは真剣な表情で話した。

その言葉に、ミサトは席を立ちながら答える。

「了解。…彼に伝えておくわ」

そう言った後、ミサトは食堂から去った。

 

ミサトの去った後、リツコが落ち着いた物腰でナオコに訊ねる。

「MAGI �の準備、完了してるの?」

「ほぼ完了ね。…あとは、最終チェックと本部のオリジナルとの相性調整。…そんな感じかしら?」

リツコに答えた後、ナオコはこれからの予定をコダマに訊ねた。

コダマはポケットから手帳を取り出して答える。

「はい。…明日、相性の調整後に、最終チェックを実施する予定です」

その返事を確認すると、ナオコはネルフ本部のMAGI のことをリツコに訊ねる。

「オリジナルの方は、いつでもいいの?」

「ええ。こちらに問題点は無いから、そのままで大丈夫でしょ」

リツコは簡潔に準備が出来ていることを話した。

その言葉を聞き、コダマが微笑みながら話す。

「日頃のチェックの賜物ですね」

「ま、そんな所ね」

自慢気にする訳でもなく、リツコはサラリと言葉を返した。

そして、腕時計を見ながら言葉をつなぐ。

「さてと、私も行くわ。…参号機のデータ分析が残ってるし」

「流石はE計画の責任者。仕事熱心ね」

娘の言葉を聞き、ナオコは冗談を混じえ、楽しそうに話した。

その言葉に、リツコは淡々と言葉を返す。

「死にたくないだけよ」

そして、席を立ちながら静かに言葉をつなぐ。

「………母さん。…カヲルという名前に覚えは無い?」

「カヲル?…。……いえ、知らないわ」

少し考える仕草を見せた後、ナオコは自分の知る範囲に`その名´は刻まれていないことを話した。

ナオコの言葉を聞き、リツコは小さく微笑みながら話す。

「…そう、それならいいの」

リツコの微笑を見た後、ナオコは思い出したように話しかける。

「霧島さん達、元気にしてる?」

その言葉を聞き、リツコは含み笑いを浮かべながら答える。

「……今頃、カニでも食べてるんじゃないかしら」

 

 

<ミサトのマンション>

 

「はい。カニのボイル、出来上がりっと」

「カニ鍋の方も、いい具合みたいね」

「サラダは、こんな感じだな」

ミサト宅のキッチンでは、日向、マヤ、青葉の三人が晩御飯を作っていた。

その声は、居間にいる少女達にも聞こえていた。

 

 

<å±…é–“>

 

居間では、テレビをつけ流しにして、少女達が会話をしていた。

少女達の中には、レイとマナの姿があった。

青葉とマヤに連れて来られたらしい。

 

台所から聞こえてくる賑やかな音の中、アスカが訊ねる。

「何で、あの三人が来ることになったの?」

「…葛城三佐の意見。…そう聞いてる」

「私は、リツコさん頼まれたって、伊吹さんに聞いたよ」

レイとマナは自分たちが来た理由を、それぞれ違う理由で説明した。

その二つの理由を聞き、アスカは納得が言ったように話す。

「ミサト達の頼みだから断れない。…そんな所ね」

 

そこへ、アスカの背後から声が聞こえてくる。

「アチチッ、そいつは違う。マヤが赤木博士に聞いたんだ。…出張してる間の子供達は、どうなるんですか?ってね」

カニのボイルした物を載せた皿を、日向は熱そうに持ちながら話した。

その言葉を疑問に思い、アスカは日向に訊ねる。

「でも、二人は頼まれたって聞いたのに?」

カタッ。

「照れ臭いんだよ、あの二人。…それに、頼まれずに志願して来たなんて、俺でも言えないしな」

皿をテーブルに置くと、日向は微笑を見せながら話した。

その言葉を聞き、マナが微笑みながら口を開く。

「大人の都合って、色々と大変なんですね」

「ま、そういうことさ」

マナの言葉に、日向は苦笑いで答えるのだった。

 

「そういえば…碇君は来ないんですか?」

苦笑する日向に、マユミが不思議そうな表情で話しかけた。

その言葉を聞き、日向は寂しげに微笑みながら答える。

「俺が迎えに行ったんだけど…。一人の方が落ち着くからって、断られちゃってね」

「そうですか…」

マユミは残念とも違う、淡々とした表情で呟いた。

マユミの呟きの後、アスカがムッとした表情で、どことなく寂しげに口を開く。

「強引にでも、連れて来れば良かったのよ。……アイツ、遠慮してんのよ」

「まぁ、でもシンジ君らしいよね」

アスカの言葉を聞き、マナが微笑みながら話した。

 

「碇君じゃないけど、碇君は碇君……」

日向と少女達が会話していると、ポツリとレイが呟いた。

 

「…どういう意味?」

レイの言葉の意味が解らず、マナは訊ねた。

マナの問いに、レイは無表情に答える。

「私の知ってる碇君は…碇君。…そういうこと」

『?』

結局、レイの言葉の意味を理解できない、日向と少女達であった。

 

 

<ネルフ、司令室>

 

司令室には三人の男がいた。

ゲンドウ、冬月、いつもの二人に、今回は加持の姿も加わっていた。

 

「本当に、これで良かったんですね?」

加持は司令席に腰を下ろし、不埒(ふらち)な態度でゲンドウ達に訊ねていた。

その言葉に、静かにゲンドウが答える。

「…もともと、日本政府には何の期待もしていない」

「戦自然り、日本政府然り、か?…」

ゲンドウの言葉に、冬月が苦笑しながら続いた。

二人の言葉を聞き、加持は真剣な表情で話す。

「しかし、このままでいけば、日本政府が委員会に機密を漏洩する恐れが」

「それは無かろう。情報を得ても、漏洩は出来ん。……あの内容は、委員会の存在自体が問題点だからな」

冬月は加持を見つめ、それからゲンドウに目をやりながら話した。

その言葉の後、ゲンドウが加持を見据えながら口を開く。

「…君は身の保身を考えるべきだ。…ゼーレか、我々か」

 

ゾクッ。

ゲンドウの視線と言葉に、加持は背中に悪寒を感じた。

そして悪寒感じた後、直ぐに腰を司令席の机から離すと、身なりと姿勢を正す。

カツッ。

足を綺麗に揃えると、加持は敬礼しながら口を開く。

「これからも御世話になります。司令殿、副司令殿」

そう言った後、加持は微笑を見せた。

その行動を見た後、冬月は苦笑しながら加持に話しかける。

「変わり身の早い男だな、君は…」

「いえ。…物事の真実に近い側で、全ての真実を見届けたいだけです」

この言葉は、加持の本心からの言葉であった。

その言葉を聞き、ゲンドウは静かに話しかける。

「解った。…君はこれまで通り」

「内偵と、ネルフ内の情報操作ですね。…では♪」

ゲンドウの言葉を遮るように、加持が言葉をつなぎ、敬礼した手を軽く振って、その場から去った。

 

加持の去った後、冬月が渋い表情でゲンドウに訊ねる。

「いいのか?」

ゲンドウは静かに答える。

「……彼は使える男だよ」

 

 

<ミサトのマンション>

 

居間のテーブルでは、マヤ達の作った料理が並んでいた。

そして、その美味しそうな匂いと湯気の中で、食事は黙々と進んでいた。

 

パキッ、パキッ。

パキッ、パキッ、パキッ。

バリッ、バリリッ、バリッ。

バリッ、ムシャ、ムシャ。

擬音ばかりで、会話の少ない、黙々とした食事であった。

あまりに会話が少ないことに気づき、青葉はカニを食べる手を止め、隣の日向へ小声で話しかける。

「おい?何か話せよ」

「話すって何を?皆、カニに集中してるのにか?」

日向は小声で言い返すと、青葉の視線を食卓に促(うなが)した。

青葉が食卓に視線を移すと、そこにはカニの殻を一心不乱に砕く少女達の姿があった。

原因は只一つ。

青葉たちの持ってきたカニが、とても美味しかったからである。

だか、少女達の中にも例外はいる。

ベジタリアンのレイだった。

レイのサラダを食べる姿を見て、青葉は微笑みながら声をかける。

「そのサラダ、俺が作ったんだ。美味しいかな?」

「いつもと同じ……」

青葉の問いに、レイは淡々とした表情で言葉を返した。

いつも青葉が作ってるサラダを食べてる為、レイの言葉も当然であった。

レイの言葉に、青葉は落胆した表情で呟く。

「…そ、そう」

青葉の呟きを聞き、レイは口を開く。

「いつもと同じで……少しだけ…嬉しい」

「!」

レイの言葉に、青葉は驚いた表情を見せた。

そして、直ぐに微笑んだ表情を見せて口を開く。

「…ありがとう」

 

このとき、青葉は確信した。

レイに、感情というものが芽生えていることを。

 

 

 

つづく


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あとがき

今回はゴチャゴチャとした出来で、読み難いと思います。大変申し訳無いです。m(_ _)m
とりあえず、次回から起動テストです。

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