ヤシマ作戦の説明が進んでいる。

そこへ、一本の連絡がはいる。

「碇司令、戦自から直通回線です」

 

 

 

僕は僕で僕

(9)

 

 

 


 

直接回線の内容は戦自のJAに砲手をやらせるならば、出撃させても良いとのことだった。

ミサトは強固に反対したが、碇ゲンドウの一言で決まってしまった。

「構わん、戦自に砲手をやってもらおう」

 

 

<二子山山頂付近、仮設ネルフ本部>

 

レイ、シンジ、マナがミサトの作戦説明を聞いている。

 

「霧島さんには砲手をやってもらいます、レイとシンジ君は霧島さんを守ってくれればいいわ」

ミサトは笑顔無く淡々と説明する。

「…了解…」

そっけなく返事をするレイを見つめるシンジ。

「シンジ君は、どうなの?」

シンジの返事を促すミサト。

「は、はい了解です」

シンジの返事に頷くミサト。

「霧島さんも、砲手しっかりね」

「はい、了解しました」

霧島マナの顔には、まだ不安の色が残っていた。

 

「では、作戦開始時まで各自持場で待機しておくこと」

 

そして、エヴァのパイロットの3人は待機場所へと向かった。

 

 

<仮設ネルフ本部>

 

ミサトとリツコが二人きりで会話をしている。

 

「しっかし、頭にくるわね!なんで戦自に砲手なんかやらせなきゃいけないのよ!」

ミサトは怒り心頭に愚痴をこぼしていた。

「頭にきてる理由はそれだけ?」

いたって冷静に対処するリツコ。

「それだけじゃないわ!なんで戦自がエヴァを持ってんのよ!」

ミサトの怒りはおさまらない。

 

「…母さんよ」

リツコは冷静に、そう答えた。

 

「母さんって……リツコの母親のこと?」

ミサトは怒りを忘れ驚きの顔でリツコを見つめる。

「そう、母さんよ」

「なんでリツコの!…」

リツコに問いただそうとしたミサトはリツコの険しい表情に気付く。

「母さんは、MAGIの開発責任者だったのよ。それが、ある事をきっかけに開発途中に姿を消したの」

「でも…MAGIの開発やってたんなら、エヴァの開発なんて出来ないんじゃないの?…」

葛城ミサトは赤木リツコに問う。

「甘いわよミサト、母さんはMAGIの開発を担当していた。そしてMAGIとエヴァ、どちらが完成が早かったか考えてみなさい」

 

少し考えたミサトは答を得た。

 

「なるほどね、わかったわ。エヴァはMAGIのバックアップで動いている、だから直接MAGIにアクセスすれば」

「そうよ、母さんは姿を消してから1人でエヴァの設計を手がけた。でも、必要な情報とエヴァに関する知識が足りない。」

リツコはそこまで言うと一息ついた。

そして言葉をつなぐ。

「そこで、MAGIにアクセスしてきたの」

 

「なんで、すぐに対処しなかったの?」

「しようとしたわ、でも碇司令が「好きにさせておけ」と言ったのよ」

「なぜ、碇司令が…」

「知らないわ、そんなこと…」

少し寂しそうに話すリツコ。

 

「じゃあ、ネルフの極秘事項は駄々漏れってわけ?」

「それはないわ、エヴァに関すること以外は私が母さんの相手をしたから」

言葉をやわらげて話すリツコ。

「相手って?」

「ウォーゲームよ、母さんがアクセスしてきて私がそれに対処するの…楽しかったわ…」

少し微笑むリツコ。

「母親の存在を確認できたってこと?」

ミサトも微笑みながらリツコに問う。

「ええ、でもね寂しくもあったわ。MAGI越しでしか存在を確認できないってことがね…」

リツコは、そう話すと悲しみをこらえる様に下を向いた。

「そう…」

ミサトはリツコを見つめることしか出来なかった。

 

 

<戦略自衛隊・本部仮テント>

 

ナオコは1人思考の中にいた。

 

(結局、私は何をやっているのだろう…。

碇ゲンドウへの憎しみだけでエヴァをつくりあげた…。

憎しみ…碇ゲンドウは私を否定した…。)

 

(10年前…私とゲンドウは愛し合っていた…いいえ…私が一方的に愛していた…。

彼も私を愛してくれていると…信じていた…。

でも、彼は私ではなく…私の能力を欲しかったにすぎなかった…。

それに気付いた時…殺してやりたかった…殺して…殺して…殺して…。)

 

(でも、殺せなかった…バカね私…)

 

(結局、私はネルフを去るしかなかった…。

それが、碇ゲンドウを苦しませる、唯一の方法と思っていたから…。

でも、彼は私の代用品を見つけた…)

 

そして、ナオコは呟いた。

「…リツコ……」

 

 

<ネルフ本部>

 

ゲンドウと冬月が話をしている。

 

「碇、本当に会いに行く気か?」

訊ねる冬月。

「けじめは会ってつけるものだろう冬月」

「そうだが…辛いな…」

「私よりも彼女の方が辛いだろうがな…」

ゲンドウと冬月は、そう言って戦自のテントが映し出されたモニターを見る。

 

「けじめか…」

冬月は1人呟いた。

 

 

<エヴァ及びJA・パイロット待機場所>

 

マナはネルフのパイロットの2人を見ている。

シンジとレイは会話をする訳でもなく、只じっと座って出撃の時が来るのを待っている。

 

「碇シンジ君、一つ質問してもいい?」

マナがシンジに訊ねる。

「何?」

微笑み返事をするシンジ。

「使徒と戦うこと怖くないの?」

「怖いよ…とても…」

シンジの顔は真剣になる。

「パイロットを辞めたいとは思わないの?」

 

少しの沈黙のあとシンジが口を開く。

 

「それは…できない」

「なんで?」

「僕が逃げたら、使徒との戦闘で傷つく人は減ると思う?」

「それは…あっ」

マナは気付く、シンジの優しさに。

 

シンジは使徒と戦う人は出来るだけ少ないほうが良いと思っていた。

使徒との戦いで苦しむのは少ない方が良いと。

 

その想いに気付くマナ。

「ごめんね、シンジ君。戦闘の前に、こんな事聞いちゃって」

「いいよ、誰だって怖いんだよ戦うことは」

微笑みながら答えるシンジ。

「そうだね…」

微笑みながら頷くマナ。

 

「霧島さんはどうして戦ってるの?」

シンジが訊ねる。

「私の場合は…まだ答は出てないわ…」

まだ起動実験が成功しただけで戦闘の経験もないマナ。

JAのパイロットになって日の浅いマナにとっては、答を求めるのは酷というものだろう。

 

沈黙するシンジとマナ。

 

 

「人には…明日があるわ…」

レイが口を開く。

 

 

「人は明日の為に生きている…」

言葉を繰り返すレイ。

「綾波…」

呟くレイを見つめるシンジ。

「でも、私には…明日は見えない…」

寂しそうに呟くレイ。

「綾波さん、明日が見えないなんて」

マナがレイを見つめ話す。

「時間よ…行きましょ…」

マナの言葉を遮る様に話し立ち上がるレイ。

「綾波…」

そして、シンジは呟く事しか出来なかった。

 

 

 

「……さよなら……」

レイは一言そう言い残し零号機に向かった。

 

 

<それから十分後。二子山山頂付近>

 

二子山山頂付近の森に身を潜めるエヴァ三機。

マナの乗るJAは、エヴァ専用陽電子砲(改)を第五使徒に向けて照準合わせをしている。

その間、零号機はJAを守る形で盾を持ち、初号機は零号機の後ろに位置している。

  

 

<二子山付近・ネルフ仮設本部>

 

モニターに映し出されるチルドレン達の緊張した表情。

 

「霧島さん、照準の固定はOKかしら?」

モニター越しに確認するミサト。

「はい、照準よろし」

緊張して答えるマナ。

「霧島さん、作戦の指揮権はネルフに一任されているの、だから戦自の言葉使いはやめてね♪」

微笑んでマナに話し掛けるミサト。

「すみません葛城一尉」

「だから、やめなさい、その言葉使い。まだ14歳でしょ、ミサトでいいわ、ミサトで」

すこし、呆れ顔でマナに話し掛けるミサトは微笑んでいる。

「わかりました、ミサトさん」

緊張の糸がほぐれたかの様に微笑むマナ。

「そうよ霧島さん、その笑顔を戦闘後にもう一度見せてね♪」

「はい、ミサトさん」

 

(この戦闘、負けられない…)

霧島マナは、そう思った後、一つ深呼吸をした。

 

「それから、シンジ君とレイ聞いてる?」

「はい、聞いてます」

「…はい…」

「命令は一つ、JAを守って」

「…守ればいいのね…」

レイは表情を崩さずに答える。

そんな、レイを見つめるシンジ。

 

「ミサトさん、お願いがあります」

シンジが口を開く。

「何、シンジ君」

「僕にオトリをやらせてください」

「な、何バカなこと言ってんのシンジ君!第五使徒の加粒子砲を直接食らったら、どうなるかわかって言ってるの!」

「わかってます…どうなるか…でも、これしかないんです」

シンジはミサトの目を見つめる。

 

「いいわ…好きにしなさい、でも生きて、必ず生きて帰ってきなさい♪」

微笑むミサト。

「はい!わかりました!」

微笑みながら、返事をするシンジ。

「レイ、聞いてのとおりよ、初号機はオトリを務めるから零号機はJAを守ることに専念して」

「……はい…」

「綾波、後で話があるから…」

シンジがモニター越しにレイに話し掛ける。

「……後?…」

「そう、戦闘後にね」

微笑みながらレイに話し掛けるシンジ。

 

「葛城一尉、時間です」

日向がミサトに報告する。

「了解、霧島さん日本中の電気を貴方に預けるわ」

 

「ヤシマ作戦、スタート!」

 

慌ただしくなる、仮ネルフ本部。

日本中から電力が集められ、EVA専用陽電子砲(改)に電力が供給される。

 

「ミサト、なぜシンジ君の行動を許可したの?」

リツコがミサトに問う。

「ん~、それはねシンジ君の目よ、死に行く人間の目じゃなかったから♪」

「それだけ?」

呆気に取られた顔でミサトに話し掛けるリツコ。

「そうよ、それだけ♪」

微笑むミサト。

「頭が痛くなってくるわ…ミサトの話聞いてると」

頭を軽く触るリツコ。

そんなリツコを見てミサトは微笑む。

 

だが、ミサトがシンジの行動を許可したのは、それだけではなかった。

シンジの作戦の方が勝算が高いと、ミサトの戦術家としての勘が認めさせたのだった。

 

「初号機が第五使徒に接近を開始します!」

 

 

<第五使徒とエヴァ三機>

 

走り出す初号機、途中でアンビリカルケーブルを切り離し、第五使徒へ接近しようとしている。

 

「目標に高エネルギー反応!」

マヤが叫ぶ。

「なんですって!」

リツコは予想外の出来事に驚いていた。

 

「あたれ!」

マナが叫ぶ。

JAは第五使徒へ向けエヴァ専用陽電子砲(改)のビームを照射する。

それと同時に第五使徒も加粒子砲をJAへ向け照射した。

 

歪むビーム、第五使徒の加粒子砲も歪む。

第五使徒、エヴァ両方とも目標の狙撃を失敗した。

 

「目標を外した?!」

マナは戸惑っていた。

 

「さらに目標から高エネルギー反応!」

マヤが叫ぶ。

「もう一度照射する気!」

ミサトが叫ぶ。

 

この時、初号機は第五使徒に接近していた、そしてプログナイフを握り跳ねた。

「この!させない!誰も傷つけさせない!」

シンジは叫ぶ。

 

「飛んだの!初号機が!」

「違うわミサト!ジャンプしたのよ!」

リツコは初号機の行動に驚きながらも、的確な答えを出す。

 

第五使徒は初号機の存在に気付いた、そして目標を切り替え初号機へ向かって加粒子砲を発射する。

第五使徒の体に張りつこうとした初号機は加粒子砲を撃ちこまれる。

地面に叩きつけられても、なお加粒子砲を撃ちこまれる初号機。

 

「グアァァァァァ」

シンジの悲鳴にも似た叫びがネルフ仮設本部内に響く。

「シンジ君!」

ミサトは叫ぶ。

 

その頃、JAと零号機。

「あと十秒!はやく!はやく!はやく溜まりなさいよ!」

マナは焦っていた。

目の前で初号機が第五使徒の加粒子砲を浴びていることに。

 

「充電完了!発射します!」

マナは叫ぶと同時に発射していた。

 

初号機に完全に気をとられていた第五使徒はJAの照射したビームに撃ちぬかれた。

崩れ落ちる第五使徒。

そして、初号機は加熱され装甲を溶かされ倒れている。

 

「目標、完全に沈黙」

マヤは報告する。

「初号機パイロットの状態は?…」

ミサトはシンジの安否を気遣う。

 

「初号機パイロット、脈拍・呼吸ともに正常です!生きてます!」

マヤはシンジが生存していたことを笑顔で報告する。

 

ミサトはため息を一つ吐いた後、命令した。

 

「ヤシマ作戦を終了します!」

 

 

<初号機とJA・零号機の前>

 

マナとレイは初号機のエントリープラグの前にいた。

第五使徒が沈黙すると同時に初号機のもとに駆け出し、エントリープラグを取り出したのはレイだった。

 

「熱っ!」

マナがエントリープラグのバルブをこじ開けてシンジを救出しようとしたのだが、バルブは加粒子砲により熱していた。

「……かわって…」

そういってレイは熱したバルブを掴む。

「クッ…」

熱さに一瞬顔を歪ませるレイ。

しかし、レイはバルブを離さず回そうとする。

それでも、バルブは回らない。女の子一人の力では開くモノではなかった。

 

「綾波さん…あなた…」

レイの姿を見て呟くマナ。

 

「…開いて…」

呟き、バルブを回そうとするレイの視界に、もう一つの手が加わる。

その手の持ち主はマナ。

「綾波さん、二人なら開くかもしれないわ」

微笑み話すマナ。

そしてバルブは回り始めた。

 

バルブが開くのと同時にエントリープラグ内にはいるレイ。

 

「…碇君…」

レイの見つめる先にはシンジがいた。

 

「………」

シンジは目を閉じて動かない。

「…碇君…」

レイはシンジに近づき、声を掛ける。

 

「碇君…」

目が覚めるシンジ。

「……綾波…そうか…勝ったんだね…使徒に」

うつろな瞳でレイを見るシンジ。

「…ええ…碇君……」

レイはシンジを見つめ話す。

 

「綾波…戦闘後に話があるっていったの…憶えてる?…」

シンジは目を閉じ、ゆっくりと口を開く。

「…ええ……」

 

シンジは閉じた目をゆっくりと開き綾波に語り掛ける。

 

「明日が見えないなんて…悲しいことを言うなよ…さよならなんて…悲しいこと言うなよ…」

「………」

黙してシンジを見つめるレイ。

「綾波だって生きてたら明日は来るし、明日が来れば、また綾波に会えるんだ…だから`さよなら´なんて言うなよ…」

そう言った後、ゆっくりと目を閉じるシンジ。

 

一方その頃、マナ。

「碇シンジか…憶えておかなくちゃね♪」

マナは手の火傷を見つめながら呟いた。

 

 

 

<同時刻、戦略自衛隊・仮本部テント>

 

「久し振りだな、赤木ナオコ博士」

「10年振りね、碇ゲンドウ」

 

碇ゲンドウと赤木ナオコが対峙していた。

 

 

つづく


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