シンジの言葉の後、ミサトは少しの間だけ沈黙した。

そして真剣な表情で口を開く。

「……シンジ君、今の私に初号機の指揮権は無いわ。司令に直接聞いてくれるかしら?」

 

 

 

僕は僕で僕

(84)

 

 

 


 

-父さんに?………解りました。…お願いします。-

ミサトの言葉を聞き、シンジは回線を司令席に繋いで欲しいことを伝えた。

「司令席に回して頂戴」

ミサトは青葉に頼むと、チラリと司令席の様子を窺(うかが)った。

ゲンドウは動じること無く、中央モニターで戦況を見ていた。

「回線、司令席に繋ぎます」

ミサトが司令席を見つめる中、青葉の報告する声が無機質に響いた。

 

 

<司令席>

 

「…何の用だ?」

司令席に繋がれた回線に、ゲンドウは無粋な言葉で答えた。

だが、シンジは臆すること無く答える。

-僕を…戦わせて欲しいんだ。-

「駄目だ。初号機に傷をつけることは許さん。そこで傍観していろ」

ゲンドウは躊躇無く、シンジの願いを拒絶した。

その言葉に、シンジは懇願するように話す。

-でも…アスカ達だって戦ってるんだ。……僕だけ見てるなんて出来ないよ。-

「……言いたいことは、それだけか?…切るぞ」

シンジの懇願を無視し、ゲンドウは回線を切ろうとした。

ゲンドウの行動に、シンジは真摯な瞳で静かに話しかける。

-父さんが許さなくても…僕と初号機は戦う。……それが、どんな形になっても。-

そう言って、シンジはゲンドウの瞳を見つめた。

シンジと瞳を合わせると、ゲンドウはニヤリと笑った。

そして口を開く。

「…戦いたければ戦え。だが、初号機と共に生還しろ。……これは命令だ」

-……ありがとう、父さん。-

ゲンドウの言葉に、シンジは精一杯の微笑を見せた。

 

プツ。

初号機との回線を切ると、ゲンドウはミサトに命令する。

「…初号機の参戦を許可する」

 

 

<市街地、JA>

 

-痛ッゥ〜。-

瓦礫に埋もれたJAの中で、マナは頭をプルプルと振っていた。

どうやら、四号機に殴り飛ばされたようだった。

カチッ。

頭を振った後、マナは直ぐに計器類のチェックに入った。

-モニターよし、計器類よし。……まだ動くね。-

 

ググッ。

マナの言葉の後、JAは瓦礫の中から体を起こし、四号機が追撃して来ない理由を見つけた。

(凄い……。…片腕で戦ってる。)

マナが見たものは、片腕で四号機と戦っている零号機の姿だった。

零号機は右腕を司令部により切断され、片腕だけで四号機と戦闘をこなしていた。

だが、片腕で四号機の相手をするのは、無謀とも取れる行為であった。

 

-右。-

右から来る四号機の攻撃を予測し、レイは呟き操縦桿を握った。

ブンッ!

零号機は咄嗟に頭をかがめ、四号機の攻撃は空を切った。

だが、頭をかがめた所には、四号機の膝が零号機の腹部を狙っていた。

ドゴッ!

四号機の膝を喰らい、零号機の体は宙に浮いた。

そこへ、四号機はトドメと言わんばかりに右のストレートを叩き込んだ。

四号機の攻撃力は尋常なものでは無く、零号機の体はJAの直ぐ側まで吹き飛ばされてしまった。

-ッ………まだ…。-

痛みに少し顔を歪めたが、直ぐにレイは体勢を立て直し戦う仕草を見せた。

そんなレイに、マナは話しかける。

-綾波さん…私も戦う。-

-………。-

マナの言葉に、レイは何も言わなかった。

けれど、少しだけ微笑んで見せた。

 

なぜ微笑んだかは、レイ自身にも理解できなかった。

だが、不思議と二人には通じ合うものがあった。

レイの微笑みに合わせるように、マナも微笑み返したから……。

 

 

<中央作戦司令部>

 

「直ちに救援に向かってくれる?」

ミサトのシンジに対しての命令は簡潔なものであった。

ミサトの言葉に、シンジは口を開く。

-はい。……でも…それからどうするんですか?-

「四機での救出作戦を展開させるつもりだけど、何か代案でもあるの?」

シンジの言葉に何か有ると思い、ミサトは訊ね返した。

シンジは答える。

-白兵戦じゃ、四機がかりでも捕まえることは出来ないと思います。倒すのは別だけど……。-

そう言って、シンジは戦いが気になるのか、ミサトの映るモニターから目を逸らした。

ミサトは訊ねる。

「……それなら、この状況をどうするの?」

-この前、本を読んでたんです。…歴史の。-

ミサトから目を逸らしながら、シンジは答えた。

シンジの意を理解出来ず、ミサトは更に訊ねる。

「それが?」

-中世の戦闘形態を、一変させた武器って知ってますか?-

シンジの言葉に、司令部の面々は少々驚いた表情を見せた。

まさかシンジの口から理知的な言葉が出てくるとは、思いもしなかったからであった。

だが、ミサトは驚きの表情を見せず、考える素振りを見せていた。

そして、考えがまとまったのか、真剣な表情で口を開く。

「……なるほどね。…でも、今からじゃ、陽電子砲は使えないわよ」

 

中世の戦闘を一変させた武器。

それは、銃に他ならなかった。

銃の発明により、それまで文化的に辺境であったヨーロッパが、世界を動かす原動力になっていったのは周知の事実である。

 

ミサトの言葉に、シンジは顔を上げて話す。

-そんなに強力じゃなくていいんです。頭の装甲を削れる程度なら…。-

「パレット・ライフルなら有るけど…それでいく?」

ミサトは思いつく限りの武器で、一番強力と思われるものを提案した。

そこへリツコが口を挟む。

「待って。…パレット・ライフルじゃ、あの装甲は削れないわ。ポジトロン・ライフルを使いましょう」

「ポジトロン・ライフル?何それ?」

聞き慣れない武器の名前に、ミサトは訊ねた。

リツコは説明する。

「戦闘効率の悪い戦自の陽電子砲を、技術三研と三課が協力して小型化した新兵器よ。
おととい、プロトタイプが完成したばかりだけど……使えると思うわ」

-それで構いません。…お願いします。-

リツコの顔をモニターに映しながら、シンジは了承の言葉を口にした。

シンジの言葉を確認すると、ミサトは射出位置の確認をする為、日向に訊ねる。

「こっからだと、どこが近いかしら?」

日向は答える。

「弐号機の射出口が一番近いと思われます」

「…アスカに頼んでも、いいわね?」

少し考えた後、ミサトは射出位置が一番近いアスカに、狙撃も頼む案を訊ねた。

シンジは真剣な表情で答える。

-はい。アスカには四号機の頭を狙うように言ってください。-

「了解。……装甲破壊後、行動に隙が出来次第、シンジ君達はエントリープラグの射出操作。…そういうことね?」

ミサトはシンジの作戦を看破していた。

作戦部長としては当然であったが、作戦部長を承諾させる作戦を提案したシンジには目を見張るものがある。

ミサトの言葉に、シンジは小さく微笑みながら話す。

-はい、流石です。……じゃあ、僕は救援に行きますから。-

プツ。

そう言って、シンジからの回線は切れた。

 

「流石です…か……」

初号機との回線が切れた後、ミサトは微笑みながら呟いた。

ミサトの微笑を見て、リツコも微笑みながら話しかける。

「凄い子ね。…シンジ君って」

「凄過ぎるわ。作戦課に欲しくなるくらいにね」

ミサトの言葉は、シンジに最大級の賛辞を送っていた。

 

そして、職員の声が響く。

「ポジトロン・ライフル射出位置」

 

 

<市街地、弐号機>

 

ガシッ。

弐号機は射出されたポジトロン・ライフルを掴み取った。

片足を損傷している為、多少グラつきながらであったが。

 

「ふ〜ん、これがポジトロン・ライフルね」

ポジトロン・ライフルを確認すると、アスカは物珍しそうに話した。

アスカの言葉に、モニターに映るミサトが話す。

-ええ。プロトタイプだから二発しか撃てないけど、アスカならいけるでしょ?-

「ま、私ぐらいしか居ないしね」

ミサトに答えながら、アスカは苦笑して見せた。

アスカの余裕とも取れる笑みに、ミサトは念を押すように話しかける。

-解ってると思うけど…。-

「四号機の頭部、それ一点を狙えでしょ?一度聞けば十分よ」

アスカは面倒臭そうに答えて見せた。

そんなアスカに、ミサトは真剣な表情で話す。

-任せたわよ。…アスカ。-

「りょ〜かい」

あくまでも自分のペースで答えるアスカだった。

 

ガチッ。

弐号機にポジトロン・ライフルを装備させると、アスカは真剣な表情になっていた。

そして、そのままの表情で思考する。

(私が倒す。…私が……倒す。)

 

 

<市街地、四号機付近>

 

四号機を相手に、零号機とJAは健闘していた。

そう、健闘と言っていい程の戦闘内容であった。

何度か四号機を跪(ひざまず)かせ、尚且つ現時点でも瓦礫まで蹴り飛ばしたのだから。

だが、それも限界に近づきつつあった。

零号機とJAは、既に損傷度も戦闘能力もピークだったから。

  

ググッ。

これで何度目になるのか、瓦礫の中から四号機は体を起こした。

そして、零号機に標的を絞り突進してきた。

-来たよッ!-

JAの中で、マナがレイに声を上げた。

-!-

レイは咄嗟に反応して避けたが、四号機は直ぐに標的を変え、JAの懐に飛び込んだ。

尋常でない速度で飛び込まれ、マナは身動き出来なかった。

-あッ!-

ガシッ。

四号機はJAの両脇を両腕で絞り込むように捕らえた。

そのまま圧迫させ、胴体と下半身を切断させるのが目的かもしれない。

JAの中で、マナは焦り混じりの表情で目を閉じて思う。

(ピ…ピンチかも…。)

 

ガスンッ!

突如、マナの耳に衝撃音が聞こえた。

何ごとかと、マナが目を開けてモニターを見ると、そこには見慣れた少年の顔があった。

-遅れたね。-

シンジは少しだけ微笑んで見せた。

初号機は四号機の首筋に攻撃を仕掛け、JAの窮地を救ったのであった。

 

-シンジ君…。-

-………。-

少年の微笑みに、マナは安堵の笑みで、レイは無表情で答えた。

 

 

<弐号機付近>

 

その頃、弐号機の中で、アスカはポジトロン・ライフルの操作方法を習得していた。

弐号機内に映し出された簡易マニュアルを読みながら、アスカは呟く。

「えっと…これがトリガーで…これが調整機……意外と簡単になってるのね。」

アスカの様子に、ミサトが訊ねる。

-どう?いけそう?-

「まぁね。でも、足をやられてるから、こっから直接狙うわよ」

アスカは弐号機の現状を理解していた。

そして、直接現時点から標的を狙うことを告げた。

アスカの言葉に、ミサトは話す。

-頼むわ。合図はシンジ君が出してくれると思うから。-

「はい、はい。」

プツ。

面倒臭そうに答えると、アスカはモニターのスイッチを切った。

 

ガチャッン。

足を庇った中腰の姿勢の弐号機は、ポジトロン・ライフルを身構えた。

モニターに照準を映し出すと、その中に四号機を捉えながら、アスカは思考する。

(勝負は一瞬、チャンスは一度、狙撃の標的は四号機頭部……それ一点のみ。)

 

(……行くわよ、アスカ。)

そう思った後、アスカは唇を軽く舐めた。

 

 

<四号機付近>

 

四号機との接近戦に加わった初号機は、思わぬ苦戦の中にいた。

損傷度の激しい零号機とJAを守りつつ、一向に攻撃の手を緩めない四号機を相手にする。

苦戦しない方が、不思議というものである。

 

四号機が零号機の右側に回りこむ気配に気づき、シンジは声を上げる。

-綾波ッ!右ッ!-

-!-

零号機は瞬時に体を反らして対処した。

ブンッ。

四号機の攻撃は空を切り、零号機の胸をかすめた程度であった。

シンジは安堵の息をもらすこと無く、直ぐにマナに声を上げる。

-マナは綾波の右側をサポートして!-

-うん!-

シンジの指示に従い、零号機の右側に配置を変えるJAであった。

JAの動きを確認した後、モニターに弐号機を映しながら、シンジは思考する。

(この状況で…狙える?……アスカ。)

 

シンジが思考して気を抜いた瞬間、マナの声が初号機に響く。

-そっちに行ったよ!-

-え?-

戦いの中で、戦いを忘れてはいけない。

戦いの基本を、シンジは軽く見ていたのかもしれない。

四号機は初号機に肘打ちを叩き込むと、立ったままの状態で首を絞めつけた。

-グッ!-

短い苦痛の声を発すると、シンジは決断した。

(……ここしか無い!)

バキッ!

初号機は両方の拳(こぶし)で、四号機の指関節を力の限り殴りつけた。

人間の指という関節は、小さな衝撃でも意外に脆いもので、角度や衝撃度によっては簡単に骨折してしまう。

そして、人型兵器であるエヴァも例外では無かった。

四号機は指の関節を何本かやられ、絞めつける力に支障きたしていた。

ググッ。

力が緩んだことに気づくと、初号機は四号機の両腕を払いのけた。

そして、四号機が怯(ひる)んだのを見ると、シンジは声を上げる。

-アスカ!今だ!-

 

距離を置き、狙いを定めていた弐号機の中でアスカは叫ぶ。

「いっけぇぇぇぇぇぇ!」

ポジトロン・ライフルは四号機の頭部を狙い、陽電子のエネルギービームを照射した。

 

-!-

弐号機が照射した瞬間、シンジは四号機の前に立つ零号機の姿を見た。

その姿を見て、シンジは驚きの表情で思う。

(…綾波レイ?……何でそこに。)

零号機は四号機が怯んだのを見て、攻撃の手を加えようとしていたのであった。

この時、シンジは作戦のミス気づいた。

自分が提案した作戦を、アスカと自分しか知っていなかったことに。

-綾波ッ!!-

咄嗟に、初号機は零号機を払いのけ、四号機の前に立った。

ズドォォォォォォォォン!!

初号機が四号機の前に立った瞬間、陽電子のビームが二体の頭部を貫いた。

 

その状況に、司令部は瞬時に対応していた。

-パルス逆流してます!-

-神経接続断線!-

-初号機パイロット、脳波に異常が見られます!!-

初号機の状態を、職員達が焦り混じりに報告する。

その状況に、リツコは声を上げ命令を下す。

-初号機パイロットの生命維持モードを最大に!直ちに救助班を向かわして!-

 

声を上げる職員達を他所に、冷静に状況を見ていたミサトがマナへと声を上げる。

-霧島さん!今よ!四号機のプラグを強制排除!-

-え?あ!はいッ!!-

ミサトの声に気づき、マナは四号機のもとに駆け寄った。

四号機は頭部を撃ち抜かれたものの、膝を落とすこと無く、再生しようとしていた。

-このッ!-

プシュッ!

JAは四号機のプラグを引き抜いた。

 

ググッ………グッ。

プラグを引き抜くと、四号機の再生と活動は止まった。

 

 

<弐号機内>

 

初号機の頭部を撃ち抜いた事態を確認すると、アスカは俯(うつむ)き手を震わしていた。

自分の手で、シンジを撃ち抜いた事態に対して…。

 

アスカは手を震わしながら呟く。

「こんな馬鹿な話……最低じゃない」

 

 

 

つづく


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あとがき

どこかで中断したいです。
長く間を置いた方が、いいような気がしてます。

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