<指令室>

チルドレン達は召集され、指令室で私服のまま待機していた。

そこへ、ミサトが入室してきた。

 

 

 

僕は僕で僕

(81)

 

 

 


 

「夜分の集合、御苦労様」

入室し、チルドレンの前に立つと、ミサトは淡々とした表情で話しかけた。

「何?使徒でも出たっての?」

突然呼び出されたことに対して、アスカがミサトに訊ねた。

アスカの問いに、ミサトは淡々と答える。

「いえ、使徒では無いわ。四号機の存在が確認されたの」

 

『!』

ミサトの言葉に、チルドレン達は驚いた表情を見せた。

 

そして、アスカが驚いた表情のまま口を開く。

「四号機って、アメリカで建造途中だった奴?!」

「そうよ。でも建造途中じゃ無くて、完成してたみたいだけど」

ミサトの表情は、どことなく翳(かげ)りがあった。

アスカに答えると、ミサトは説明口調で言葉をつなぐ。

「今朝、アメリカ第二支部で事故があったの。先の第十二使徒の余波と思われる事故がね…。
その余波で第二支部は消滅した筈だけど、エヴァ四号機までは消滅しきれなかった。……そんな所ね」

「余波って……あの空間ですか?」

ミサトの言葉に、マナが不安そうな表情で訊ねた。

以前、飲み込まれた時の`恐怖´を思い出したのかもしれない。

ミサトは答える。

「ええ、そう。あの空間が引き起こしたと思われる事故があったのよ」

「で、私達に何をしろって言うの?」

ミサトの言葉を聞き、アスカは結論を欲していた。

腕組みをしながら、ミサトはチルドレン達に話しかける。

「救出作戦、…それだけよ」

「救出って……四号機の中に誰か居るんですか?」

ミサトの言葉を聞き、シンジは淡々とした表情で訊ねた。

「え、ええ…」

(…以外に冷静なのね。……シンジ君。)

シンジに答えながら、ミサトは驚いた表情を見せ思考した。

そして、ミサトは手許の資料を見ながら言葉をつなぐ。

「パイロットは『山岸マユミ』、日本人、14歳。以前、シンジ君達と同じ学級に在籍していた女の子ね」

 

ミサトの説明を聞き、シンジは思考する。

(山岸マユミ?………どこかで聞いたことある名前だ。

!……あぁ、図書室の。)

シンジは以前、図書室の読書カードで『山岸マユミ』の名を見たことを思い出した。

 

「ねぇ、知ってる?『山岸マユミ』って子?」

シンジの思考を他所に、アスカがマナに話しかけた。

マナは考える仕草を見せながら答える。

「う〜ん、チョット待って思い出すから」

「レイは?」

マナが考え込んでいるので、アスカはレイに訊ねた。

レイは短く答える。

「…知らない」

どうやら『山岸マユミ』は、レイが覚えるほどの影響は与えていないようだった。

「あ、解った!思い出した!」

レイが答えて直ぐに、『山岸マユミ』を思い出したのか、マナが声を上げた。

マナの声に、アスカが訊ねる。

「誰?」

思い出しことが嬉しいのか、マナは楽しそうに話す。

「えっとね…メガネ掛けて、ストレートの綺麗な黒髪の子♪」

「………そんな子…いたっけ?」

思い出せないのか、記憶に残っていないのか、アスカは拍子抜けした表情で呟いた。

アスカの呟きに、マナは微笑みながら話す。

「ほら、良く本を読んでたじゃない。後ろの席で」

「シンジは覚えてる?」

どうにも思い出せず、アスカはシンジに訊ねた。

「え、僕?…顔は思い出せないけど、名前は知ってる」

不意に声を掛けられ少し驚きながらも、シンジは自分の知ってることを話した。

シンジの言葉に、アスカは拍子抜けした顔で口を開く。

「知らないのは私とレイだけかぁ…。つまんないのぉ…」

 

パン。

チルドレン達の会話が一通り済むと、ミサトが手を叩き注意を促した。

そして口を開く。

「はい、話はそこまで。救出作戦の説明をするから、こっちに注目」

ミサトの言葉に、チルドレン達は会話を止め、ミサトに注目した。

チルドレンの視線を集めると、ミサトは説明を始める。

「まず、四号機が空間から脱出すると想定される場所を包囲します。
それから、暴走している可能性があるので、起動停止するまで周囲の被害を最小限に抑えて頂戴」

「この前は上手くいったのよ。弐号機と零号機で、華麗に市街地から誘導したんだから」

ミサトの説明を聞き、アスカが自慢げに前回の救出作戦の過程を話した。

アスカの話に、マナは乾いた笑い声で答える。

「あはは…誘導された本人は、覚えてなかったりしちゃったりして」

 

パン。

「はい、そこ。話を聞く」

救出作戦の説明を他所に会話を進める二人に、ミサトは先程と同じように注意を促した。

そして説明を続ける。

「四号機のデータの繊細はMAGI から送られてくるので、各自機体の中で確認すること。
あと………もし抵抗が激しいようなら自己防衛程度の反撃を許可します」

そう言った後、ミサトはチラッとチルドレン達の表情を見た。

チルドレン達は`反撃´という言葉に動じること無く、いつも通りの表情をしていた。

その表情を見て安心したのか、ミサトは微笑みながら口を開く。

「作戦開始予想時刻は0600時。それまでは待機任務に着いて頂戴」

 

「!」

ミサトの言葉に、アスカはギクッとした表情を見せた。

そしてムッとした表情で思う。

(お弁当作るの…間に合わないじゃない。

………こうなったら30分でケリをつけて、20分で帰って………あ、やっぱり駄目。…間に合わないじゃない。)

そう思った後、アスカは小さな`ため息´を吐くのであった。

 

そんなことをアスカが考えていると、ミサトがチルドレン達に号令をかける。

「以上、解散」

「はい…」

「はい」

「は〜い♪」

ミサトの号令を聞き、チルドレン達は指令室から退室しだした。

だが、ミサトの声に気づかなかったのか、アスカは一人腕組みして考え込んでた。

「ん?アスカ、どうしたの?解散していいわよ」

アスカが立ち止まっていることに気づき、ミサトが声をかけた。

ミサトの声に気づくと、アスカは困った顔で訊ねる。

「……レトルト食品って、やっぱり味で解る?」

どうやらアスカは、料理時間の短縮算段をしていたようだった。

 

「はぁ?」

アスカの問いに、拍子抜けした声を上げるミサトであった。

 

 

<指令室前、廊下>

 

作戦の説明を終えたアスカを除いた三人は、レイを先頭に指令室前の廊下を歩いていた。

「ふぅ……」

指令室では明るく振舞っていたマナであったが、指令室を出ると軽い`ため息´をついた。

マナの`ため息´は、リツコとの会話が原因であった。

 

「どうしたの?」

マナの`ため息´に、シンジが訊ねた。

「ど、どうもしないよ。……なんとなく、疲れちゃったかなって思っただけ」

シンジの言葉に多少動揺しながらも、マナは答えた。

「…そう」

マナの言葉に、シンジは微笑みながら頷いた。

そして、思い出すようにして言葉をつなぐ。

「四号機があったんだね。……参号機もあるのかな?」

「知らない。…そんなこと」

エヴァの事を考えたくないのか、マナの返事は素っ気無いものだった。

マナの返事を聞き、シンジはレイに話しかける。

「綾波は知ってる?参号機があるか?」

「……知ってどうするの?」

先頭を歩いていたレイは、シンジ達の方を振り向くこと無く訊ね返した。

レイの言葉に動ずること無く、シンジは微笑みながら話す。

「別に…ただ、知りたいだけだから」

 

シンジの言葉を聞くと、レイは二人の方を振り向いた。

そして、シンジに向かって口を開く。

「貴方……やっぱり違う」

「違うって…何が?」

レイの言葉に、マナが不思議そうな表情で訊ねた。

少しの沈黙の後、レイは口を開く。

「……碇君じゃない」

 

レイの言葉に、妙な雰囲気で三人は沈黙した。

そんな雰囲気の中、シンジは小さくクスッと笑って口を開く。

「…僕は…僕だよ。僕は『碇シンジ』だよ」

パシーン。

「碇君を帰して!」

シンジの不敵な言動に、レイは思わず手を上げ声を上げた。

レイに叩かれた頬に手を添えると、シンジは無表情に呟く。

「……綾波」

シンジが呟いた後、穏やかで無い空気を感じたマナが話しかける。

「や、止めようよ。喧嘩は嫌いだよ」

「………」

マナの言葉を聞き、レイは何を語ることも無く、踵(きびす)を返して待機室へと歩き始めた。

レイの後姿を見ながら、シンジは呟く。

「……痛いや…何となく」

 

「大丈夫?」

シンジの呟きを聞き、マナは心配そうに顔を覗き込んだ。

頬を抑えながら、シンジは答える。

「え、あ、うん。頬っぺたは痛くない…。痛いのは……」

「どこが痛いの?…」

シンジの言葉に、マナは訊ねた。

頬から手を離すと、シンジは虚ろな表情で答える。

「痛いのは……胸骨(きょうこつ)の辺りかも…」

 

「?」

(胸の…骨?)

言葉の意味が理解出来ず、シンジの顔を覗き込むマナであった。

 

 

<司令室>

 

司令室では冬月とゲンドウの他に、リツコが姿を見せていた。

三人は四号機の件について話をしていた。

 

「ふむ。……すると、四号機は我々の直上にある。…そう言うことかね?」

四号機に関する報告を聞き、冬月が確認の為に訊ねた。

リツコは答える。

「はい。遅くとも0600時には、虚数空間から脱出すると思われます」

「生命維持の限界が呼び水となるか……。…皮肉なものだな」

リツコの言葉に、冬月は渋い表情を見せた。

冬月の言葉に構わず、リツコは報告内容を訊ねる。

「……作戦指揮を葛城三佐に一任してますが、宜しいでしょうか?」

リツコの問いに、ゲンドウが無表情に話す。

「構わん。好きにさせたまえ。……ただし、初号機に傷をつけさせるな」

「………はい」

少しの間の後、リツコは翳(かげ)りのある表情で答えた。

そして言葉をつなぐ。

「報告は以上です。…ご質問はありますか?」

冬月が訊ねる。 

「S2機関…搭載されていると思うかね?」

「その可能性は有ります。使用しているかどうかは不明ですが」

冬月の問いに、リツコは搭載の可能性を否定できなかった。

更に冬月は訊ねる。

「使用してるとすれば、エヴァ四体で捕獲出来るかね?」

「五分五分と判断します。……作戦課では無く、技術部としての意見ですが」

本来作戦課では無い為、リツコは技術部からの見解を話した。

リツコの見解を聞き、冬月は呟く。

「それ程の物かね。…S2機関は」

「半永久的な動力源ですから、コアを完全に破壊しない限り、再生を繰り返すと思われます」

冬月の呟きに、リツコは説明を補足した。

「解った。下がってくれたまえ」

そう言って、冬月は退室の許可を出した。

「はい」

短く答えると、リツコは司令室を後にした。

 

二人きりになった司令室で、冬月が独り言のように呟く。

「葛城博士が提唱したS2理論…月日の流れか……」

 

 

<作戦課、対策室>

 

作戦課の対策室では、救出作戦の最後の詰めが行われていた。

作戦部長のミサトを中心とした作戦会議であった。

 

「以上。これが私の立てた包囲救出作戦。誰か意義のある人は?」

作戦説明も終わり、ミサトが他の意見が無いかを訊ねた。

そんな中、日向が挙手し訊ねる。

「先の救出作戦を考慮に入れても、そこまでの重包囲を敷く必要があると思えませんが?」

「ええ、そうね。前回と同じなら、ここまで重包囲網を敷かないわ」

そう言って、ミサトは微笑を見せた。

そして、表情を真剣なものにして言葉をつなぐ。

「でも前回と違うことが有るわ。…四号機はS2機関を搭載している可能性がある。
つまり最悪の可能性を考慮したら、やっぱり重包囲がベストなの。……そんな所ね」

ミサトの説明に、他の作戦課の職員が質問する。

「葛城三佐は、S2機関が作動している可能性があると?」

「当然。ま、作動していても、取り押さえるぐらいの包囲網は出来た筈よ」

そう話した後、ミサトは他に質問が無いか訊ねる。

「他に、質問は?……いないのね。じゃあ、これで対策会議を終わります」

そう言って、作戦課の対策会議は`お開き´となった。

 

数分後。

対策室には、ミサトと日向だけが残っていた。

ミサトは苦笑しながら、日向に話しかける。

「日向君、悪かったわね。質問の真似事させちゃって」

「いえ、別に構いませんよ。…これで作戦課の連中も作戦内容を理解した筈ですし…」

作戦課の職員達の席を見ながら、日向は話した。

 

少しの間の後、ミサトは口を開く。

「…ごめん、先に司令部に行ってくれる?…考え事があるから」

「あ、はい。…失礼します」

そう言い残し、日向は対策室を後にした。

 

ミサトは対策室に一人になり、S2機関の資料を見つめた。

そして寂しそうに、それでいて懐かしそうに呟く。

「S2機関かぁ…。とんでもないもの考えてくれちゃってぇ……」

 

 

 

つづく


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あとがき

本編から少しでも離れてくれると、途端に書き易くなります。
不思議なもんですね。(笑)

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