<夜、ネルフ内>
(病室って退屈…。……煙草も吸えないし。)
マナのベットの横で椅子に腰掛けながら、リツコは穏やかな表情で思考していた。
僕は僕で僕
(80)
「話は後にしましょう」
自分の語った言葉を守る為、リツコは病室へと来ていた。
マナはリツコの研究室で熟睡したまま、ネルフ内の病室へと運ばれていた。
熟睡するマナを発見した、ミサトの提案であった。
「寝る子は育つ」
それが、ミサトの提案であった。
熟睡するマナを見ながら、リツコは優しく微笑みながら思考する。
(…私が事実を話したら、霧島さん……私を怨む?
それとも…殺してくれる?
……無理よね。…殺す価値なんて無いもの…私には。)
そう思った後、リツコは自嘲する微笑を見せ、窓の外を見ながら呟く。
「星が……綺麗ね」
「ん、ん〜」
リツコが窓の外を見て呟くと、マナが体を伸ばしながら目覚めた。
マナは体を起こし、クルクルと辺りを見回した後、リツコの姿を見て口を開く。
「あれ?リツコ…さん?」
「おはよう。…良く眠れたみたいね」
マナが起きたのを確認すると、リツコは微笑みながら話しかけた。
「おはようございます。…私、研究室で寝ちゃったんですよね?」
マナはリツコに微笑んで答えると、なぜ自分がここで寝ているのかを訊ねた。
リツコは微笑みながら答える。
「ミサトが運ばせたの。『寝る子は育つ』とか言ってね」
「胸も育ってくれるといいんですけどね♪」
リツコの言葉を聞き、マナは冗談混じりに言葉を口にした。
マナの言葉に少しだけ笑うと、リツコは話しかける。
「心配無いわよ。今の医学は優秀だから、豊胸手術って手段もあるわ」
「そんなのヤですよぉ〜」
露骨に嫌そうな顔をして、マナは話した。
リツコの案は、マナには選び難い選択だったのであろう。
「冗談よ♪」
マナの表情と言葉に、リツコは自分の案を一笑に伏した。
そして、微笑みながら言葉をつなぐ。
「まぁ、大人に成るにつれ、胸も心も成長するから安心しなさい」
ホッとしたのか、マナは胸に手を置いて微笑みながら話す。
「それなら安心です」
穏やかな雰囲気の中、沈黙する二人。
しばらく沈黙した後、マナが真剣な表情で口を開く。
「………話、ですか?」
「ええ…」
マナの方から話を切り出された為、リツコは多少動揺しながら答えた。
マナは俯(うつむ)きながら話す。
「……私、知ってます。…エヴァの中に誰がいるか」
「……」
リツコは何と答えていいか解らず、ただ沈黙した。
「これで、いいですか?」
話すことが辛かったのか、マナは瞳に涙を滲(にじま)ませながら訊ねた。
マナの瞳を見て、リツコは話しかける。
「…あのね、霧島さん。私、あなたに話さな」
だが、リツコの話の途中で、マナは声を上げた。
「やめて下さい!聞きたくないです!」
「霧島さん……」
マナの声に、リツコは驚いた表情で呟いた。
ベッドのシーツを握りながら、マナは辛そうに声を上げる。
「誰も嫌いになりたく無いんです!リツコさんも!ミサトさんも!アスカも!綾波さんも!シンジ君も!」
「……」
マナの言葉を、リツコは黙って聞くだけだった。
声を上げ、落ち着いたのか、マナは声を落として話す。
「…ごめんなさい。……でも怖いんです。…エヴァが…エヴァを操縦する自分が」
マナは、エヴァのことを知ることが怖かった。
自分の中でも収まりきれていない真実に、これ以上の真実を入れることは…恐怖でしかなかった為だった。
マナの言葉の意を悟り、リツコは優しく話しかける。
「…聞きたくなったら、いつでも訊ねて頂戴。……貴方達には話すべきだと思っているから」
マナは穏やかな表情で答える。
「…はい」
ピ、ピ、ピ……。
二人の話が終わると、リツコの白衣から妙な発信音が聞こえてきた。
だが、その音は直ぐに止まった。
「!」
リツコは発信音に気づき、白衣からモニターを取り出した。
モニターはマユミを監視する為に使っていた、あのモニターであった。
リツコはモニターを操作しながら思考する。
(作動してる?!
この数値……第三新東京市、直上!!)
ガラッ。
思考した後、リツコは直ぐに病室の窓を開けた。
そして呟く。
「…還ろうとしてるの?」
<鈴原家>
夜。
台所では、鈴原兄妹が夕食の準備を進めていた。
普段から祖父と父親がいない為か、その手際は見事であった。
電気釜にスイッチを入れると、トウジは妹に話しかける。
「米、といだで」
トウジの言葉に、妹はフライパンの火加減を調節しながら答える。
「じゃあ後は、私がするからいいよ♪」
「まだ手伝ってもええで」
妹一人に任すのが忍びないのか、トウジは優しく微笑みながら話した。
トウジの言葉に、妹は微笑んで答える。
「いいよ。お兄ちゃんが料理したら、何か変だもん」
「ま、そやな」
妹の言葉に苦笑すると、トウジは台所から居間へと向かった。
居間の長椅子に横になりながら、トウジは浮かない表情で思考する。
(親父の奴、何か変やったな……。
「帰ったら話がある」やなんて……。)
<碇家、マンション>
シンジは部屋にいた。
明かりを点けず、真っ暗な部屋の中で膝を抱えて俯(うつむ)きながら。
ゲンドウは今日も帰ってこなかった。
連日の激務をこなしているためか、ただ単に帰りたくないだけか、ゲンドウは帰宅していなかった。
だが、そのことは今のシンジには、どうでもいいことであった。
暗闇の自室でシンジは思考する。
(…君との約束は守る。
……だけど、もし僕と望む所が違っていたら、その時は…その時は……。)
そう思考した後、シンジはニヤリと少し歪んだ微笑みを見せた。
<青葉のマンション>
レイは電話を受けていた。
「今日は泊まりになるかもしれない」
そういう用件の、青葉からの電話であった。
-じゃあ、そういうことで。戸締りには気を付けてね。-
青葉は用件を伝え終わったようだった。
「はい」
ガチャン。
レイは短く答えた後、電話を切った。
電話を切った後、レイは少しの間だが、その場に立ち尽くした。
「………」
何を語ることも無く、レイは立ち尽くし、そっと涙の通った後を触った。
そして呟く。
「……乾いてる」
<ミサトのマンション>
アスカは自室のベットに横になって眺めていた。
洗い終わったばかりの、シンジのお弁当箱を眺めていた。
眺めながらアスカは呟く。
「シンジのお弁当箱ねぇ〜」
そんなことを呟きながら、アスカは思う。
(これに中身入れていったら驚くわよね。)
そして、アスカは妄想モードに入った。
<アスカの妄想>
教室には、アスカとシンジの二人しかいない。
しかも都合良く、昼食時間であった。
アスカは優しく微笑みながら、シンジにお弁当箱を手渡して話しかける。
「これ、作ってきたから食べて」
「え、いいの?…ありがとう」
シンジは断らず、いつもの笑顔でアスカからお弁当箱を受け取った。
そして、いつの間にか二人は学校の屋上にいた。
アスカの手料理を屋上で食べながら、シンジは驚いた表情で口を開く。
「うん、美味しい。凄いよ、アスカ」
「そんなこと無いってば」
ここぞと言わんばかりに、アスカは頬を赤くし笑顔を見せた。
アスカの笑顔を見ながら、シンジは呟く。
「アスカの旦那さんになる人は幸せだよね、きっと…」
「な、何バカ言ってんのよ!」
より一層、アスカの頬が真っ赤になった。
アスカの頬の赤さなど気にせず、シンジは話しかける。
「でも、幸せだと思うよ。こんなに美味しい料理を毎日食べれるなんて」
シンジの言葉に、アスカは指をモジモジさせながら口を開く。
「じゃあ…毎日食べる?」
「え?」
アスカの言葉に、シンジは驚き、そして頬を赤く染めるのであった。
<再び、アスカの自室>
「よっし!これよ!これで行くわよ!」
妄想を終えると、アスカはベット上に立ち、力強く声を上げた。
「クェ?…」
そんなアスカの様子を、部屋の襖(ふすま)の隙間から、ペンペンが不思議そうな顔で覗いていた。
<ネルフ本部、喫茶室>
ミサトと加持は喫茶室で重ぐるしい雰囲気の中にいた。
加持の持っていた書類、参号機のパイロット、四人目の適格者が原因であった。
ミサトは喫茶室の椅子に座り、書類を見ながら呟く。
「この子なのね。……参号機のパイロットって」
加持は壁にもたれながら話す。
「……幸か不幸かは知らないがな」
「何で加持が、こんなことまで首を突っ込んでるの?」
ミサトは怪訝の表情で訊ねた。
加持は苦笑しながら答える。
「ご意見ごもっとも。…ま、深入りし過ぎたってとこだな」
加持の言葉を聞き、ミサトは真剣な表情で訊ねる。
「……教えて。地下のアダムって何?こうも都合良くチルドレンが見つかる理由は何?」
「葛城にも知らないことが有るってことさ」
薄ら笑いを浮かべて答えると、加持はその場を後にしようとした。
ガタッ。
「チョット待ちなさい!」
だが、加持の前にミサトがムッとした表情で立ちはだかった。
「らしくないな。葛城が俺に頼るなんて」
ミサトの行動に、加持は話す。
ミサトは加持に顔を近づけると、真剣な表情で呟く。
「なりふり構ってらんないのよ」
「アダムに関しては俺の言うことじゃない。だが、チルドレンに関しては言える」
ミサトの言葉を聞き、加持は自分が話せる事と、そうでない事があると答えた。
ミサトは訊ねる。
「何?」
「コード707を調べてみるんだな」
そう言って、加持はミサトの元を離れ喫茶室の出口まで歩き始めた。
ミサトは俯(うつむ)きながら呟く。
「707……シンジ君の学校?」
ミサトの呟きに、加持は出口付近で足を止め口を開く。
「それから後一つ。…マルドゥック機関は存在しない。裏で操ってるのはネルフそのものさ」
<中央作戦司令部>
作戦司令部では、リツコの指示のもと先程の信号の原因を究明していた。
夜間ということもあり、リツコの他にはマヤと青葉しか姿を見せていなかった。
リツコは訊ねる。
「それで結果は?」
「はい。極短い間ですが、確かに空間に歪みが存在していたようです」
マヤは一瞬ではあるが、空間に歪みが存在したことを説明した。
マヤの説明に、青葉も続く。
「エネルギー質量から計算して、MAGI は先の第十二使徒と同義のものと判断しています」
二人の説明を聞き、リツコは短く答える。
「そう、理解できたわ」
そして、マヤへと言葉をつなぐ。
「マヤ、四号機のデータで計算して」
「消滅から、生命維持の限界を…ですか?」
リツコの説明が多くなかった為、何をするべきかをマヤなりに考え訊ね返した。
マヤの問いに、リツコは短く答える。
「ええ、そうよ」
二人の会話を聞きながら、青葉は思う。
(凄いな…この二人。)
短い会話の中で互いを理解し、その命令をこなす。
余程、互いを知らなければ出来ないことであった為、青葉は素直に驚き感動していた。
青葉が驚いていると、リツコが声をかける。
「青葉君は子供達に連絡して頂戴。緊急召集よ」
「え、あ、はい。葛城三佐は宜しいのですか?」
リツコの声に多少戸惑いながら、青葉はミサトを無視していいのかを訊ねた。
青葉の問いに少し考えた素振りを見せると、リツコは口を開く。
「そうね。ミサトに連絡してから、召集の了承を取ってくれる?」
青葉は答える。
「了解です」
<喫茶室>
加持の去った後、ミサトは椅子に座り直しながら思考していた。
(調べ物は後回しとしても…問題は`これ´ね。)
「はぁ…」
ミサトは手に書類を持ちながら`ため息´を吐いた。
そして、ミサトは気(け)だるそうに思考する。
(……影響が大きいわ。
ショックだろうなぁ…あの子達。)
ピ、ピ、ピ。
ミサトが思考していると、携帯が鳴った。
携帯を取り、ミサトは口を開く。
「はい、葛城です」
-青葉です。至急、司令部に来て貰えますか?-
電話の声は青葉であった。
『至急』という言葉に、ミサトは訊ねる。
「何?使徒でも発見したの?」
-いえ、四号機を発見したそうです。-
青葉は簡潔に事実を報告した。
青葉の報告に、ミサトは思わず声を上げる。
「なっ?!」
ミサトの声に構わず、青葉は話し続ける。
-それから念の為、子供達を緊急召集したいのですが…。-
「そ、そうして頂戴。私も直ぐそっちに向かうから」
多少慌てながらも、ミサトは青葉に了承の指示を出した。
「了解です」
プツ。
青葉の声を聞いた後、ミサトは携帯を切った。
そして思考する。
(参号機の次は四号機……。
……四号機に操縦者はいるのかしら?)
そこまで思考した後、ミサトは喫茶室の時計を見た。
そして呟く。
「…考える暇、無いわね。」
<中央作戦司令部>
「お待たせ。詳しく状況を聞かせてくれる?」
司令部に到着早々、ミサトは口を開いた。
ミサトの単刀直入な言動に、リツコは苦笑しながら答える。
「ディラックの?それとも四号機の?」
「両方お願いするわ」
リツコの言葉に、ミサトは真剣な表情で答えた。
リツコは淡々と説明を始める。
「ネバダで起きた消滅原因、そのディラックの余波が第三新東京市に現れた。そう考えて頂戴」
「余波?使徒じゃないんでしょ?」
リツコの説明に、ミサトが訊ねた。
「ええ、使徒では無いわ。使徒の余波、即(すなわ)ち虚数空間だけが、この第三新東京市と繋がってるの」
そう答えた後、リツコはモニターに、余波が現れたと推測される場所を映し出した。
モニターの映像を見ながら、ミサトは訊ねる。
「なぜ?一度出入り口は塞いだ筈でしょ?」
「なぜ?Why?疑問符は簡単よね。訊ねるだけでいいんだから」
ミサトの問いに、リツコは皮肉をこめて話した。
リツコの言葉に、ミサトはムッとした表情で話す。
「答えになってないわよ。赤木博士」
ミサトの言葉に、少しの間沈黙すると、リツコは口を開く。
「…ここに出現した理由は解るわ」
「……」
ミサトは真剣な表情で何も語らず、リツコを見つめる。
リツコは冷静な表情で話す。
「還るべき場所だから……ここが」
「四号機…パイロットは居るの?」
リツコの言葉に納得したのか、ミサトはもう一つの疑問を訊ねた。
リツコは答える。
「居るわ。極秘裏に派遣した適格者が」
「「「!」」」
リツコの言葉に、その場にいた三人は驚いた表情を見せた。
そして、ミサトが声を上げて訊ねる。
「それ、どういうことなの?!」
「後日書面で伝えるわ」
リツコは淡々とした表情で、ミサトの言葉を返した。
あまりに冷静なリツコに、ミサトは腹を立て声を上げる。
「リツコッ!」
だが、リツコは冷静に言葉を返す。
「何?聞いたでしょ?書面で伝えるって。極秘事項を書面で伝えるのは当然でしょ?」
「クッ!」
ミサトは口惜しそうに唇を噛み締めた。
険悪な雰囲気の中、マヤがリツコを牽制しようと話しかける。
「せ、先輩……」
マヤの声に気づいたのか、リツコはマヤに話しかける。
「マヤ、データ分析急いで。今回、影の部分が無いから四号機が問題よ」
「は、はい」
マヤは慌しく、モニター操作を始めた。
そんな中、ミサトは唇を噛み締めたまま思考する。
(……四号機、チルドレン、アダム、全ては極秘裏に?
私達を無視して……。
……………真実が……欲しい。)
ミサトが思考していると、不意に明るい男の声が聞こえてきた。
「遅れました!」
仮眠室で仮眠を取っていた日向であった。
日向はミサトの姿を見て、楽しそうに話しかける。
「いや〜参りました。少し仮眠したら寝癖がボワッてなっちゃって、直すのに必死でしたよ」
「……そう」
日向の言葉に、ミサトは素っ気無い返事を返すだけだった。
「?………」
ミサトの返事に拍子抜けしたのか、日向は自分の持ち場へと大人しく着いた。
そして、隣に据わっている青葉に小声で話しかける。
「何かあったのか?」
「……お前、寝癖直ってないぞ」
青葉は無表情で日向に答えた。
「え、嘘だろ?おい?」
青葉の言葉に、日向は慌てて自分の髪の毛を触り始めた。
日向の行動を見て、青葉は一言。
「嘘だ」
「何だよ、それ」
青葉の言葉に、日向はムッとした表情を見せた。
日向の表情を見ると、青葉は口を開く。
「…そういうことさ」
つづく
あとがき
良きにしろ、悪しきにしろ、シンジを書くのは辛いです。
書き直した方がいいのかもしれない…と思う、今日この頃。(苦笑)