シンジ達を救出した、その日の夜。

リツコの研究室では、マナ達の病院内会話記録の映像が流されていた。

その映像を椅子に腰掛けながら見た後、リツコは深い`ため息´をついた。

 

 

 

僕は僕で僕

(75)

 

 

 


 

「まさか、二人とも知っているなんて……」

左手の人差し指と中指で`こめ髪´を押さえながら、リツコは小さく呟いた。

そして、右手は病院内の記録を、もう一度頭から再生させていた。

 

「私ね、解った。…あ、母さんだって……母さん、ここに居たんだって」

 

映像記録がマナの言葉を映し出すと、リツコは思考する。

(ディラックの海から生還出来たのは、これに間違いないわ。

守るべきものを守ろうとする『意思』が働いた。…これに尽きる。)

そう思った後、リツコは呟く。

「霧島さんと……話さないと…」

 

シンジに関しては、リツコは一応の信頼を置いていた。

父への信頼がある間は、シンジはエヴァに乗ってくれるであろうという信頼を。

 

プツ。

何度か記録を見た後、リツコは映像のスイッチを切った。

そして、椅子から立ち上がりながら思う。

(遅かれ早かれ…知ることになっていた。

……この点に関してだけは、司令と同意見ね。)

 

そう思った後、リツコは研究室を後にした。

 

 

<暗闇の会議室>

 

数日後、暗闇の会議室には、査問会という名目で呼ばれたミサトの姿があった。

そして、ミサトを取り囲むように老人達の姿も存在していた。

人類補完委員会が招集した査問会には、勿論ゲンドウの姿もあった。

彼らの姿は、暗闇に隠れハッキリとは目視出来ない。

 

暗闇の中、議長であるキールが口を開く。

「今回の事件の当事者である、パイロットの直接尋問を拒否したそうだな、葛城三佐」

「はい、パイロットの情緒は大変不安定です。今ここに立つことが良策とは思えません」

キールの言葉に、ミサトは簡潔に答えた。

ミサトの言葉を黙認し、老人達が訊ね始める。

「では、聞こう。代理人、葛城三佐」

「先の事件、使徒が我々人類にコンタクトを試みたのではないのかね?」

老人達の問いに、ミサトは答える。

「被験者の報告からは、それを感じ取れません。イレギュラーな事件だと推定されます」

「記憶が正しいとすればな」

老人の一人が、怪訝を含んだ言葉でミサトに話した。

老人の言葉に、ミサトは話す。

「記憶の外的操作は認められませんが」

ミサトの言葉を受け流し、老人達は問いかける。

「使徒は人間の精神…心に興味を持ったのかね?」

「その返答は出来かねます。
はたして使徒に心の概念があるのか、人間の思考が理解できるのか、まったく不明ですから」

ミサトは老人の言葉に答えることが出来なかった。

使徒の意図を知ることなど、今の段階では不可能だったからである。

ミサトの言葉を聞き、老人は訊ねる。

「今回の事件には、使徒がエヴァを取り込もうとした、という新たな要素がある。
これが、予測されうる第十三使徒以降とリンクする可能性は?」

「これまでのパターンから、使徒同士の組織的なつながりは否定されます」

この質問に関して、ミサトはある程度の見解を持っていた。

これまでの戦闘と蓄積された使徒のデータからして、使徒が組織的に行動するとは考えられなかった。

ミサトの言葉に、老人の一人が甲高(かんだか)い声で話す。

「左様、単独行動であることは明らかだ。これまではな」

「それは、どういうことなのでしょうか?」

『これまで』という言葉に、ミサトは違和感を憶え、思わず老人達に訊ねた。

ミサトの発言に、キールが口を開く。

「君の質問は許されない」

「はい」

「以上だ。下がりたまえ」

「はい」

キールの言葉に二度答えた後、ミサトは会議室を後にした。

 

ミサトの退出した会議室の中、キールが口を開く。

「どう思うかね、碇君」

「使徒は知恵を身に付け始めています。残された時間は」

ゲンドウの言葉に、キールが間髪入れずに言葉をつなぐ。

「あと僅か、ということか」

 

 

<鈴原宅>

 

第三新東京市は朝を迎え、鈴原宅も朝を迎えていた。

ちなみに、鈴原家の朝は`ご飯´と決まっていた。

 

「なんや、また味噌汁に目玉焼きかい?親父、手ぇ抜き過ぎとちゃうかぁ?」

制服に着替えて食卓の前に来るなり、トウジは悪態をついた。

そんなトウジを見て、先に食卓に着いていた妹が微笑みながら口を開く。

「おはよう、お兄ちゃん」

「おはようさん。…爺ちゃんから連絡は?」

妹に微笑みながら答えると、トウジは食卓に着きながら祖父のことを訊ねた。

ちなみに、トウジの家族構成は祖父、父、妹の四人家族であった。

トウジの問いに、妹は嬉しそうに答える。

「さっき電話があったよ。今月で仕事は終わるって♪」

「ホンマか?そんなら、アメリカから帰ってこれるんか?」

妹の言葉を、トウジは驚きと喜びの混じった表情で訊ねた。

妹は顔を喜びで一杯にして頷く。

「うん♪」

 

トウジは妹の表情を見て思う。

(こいつは、爺ちゃんっ子やからなぁ……。

…ま、ええか。…笑顔ってのは、ええことや。)

 

 

<ネルフ本部>

 

マナは学校へ行かず、ネルフに来ていた。

リツコからの連絡を受け、ネルフへ来るように電話を受けたからだった。

 

床ごと移動する長い廊下に乗りながら、マナは思考する。

(話って…何だろう?

やっぱり、エヴァのことかな?それとも、他のことかな?)

マナは思考したが、答えは出なかった。

そうこうして思考しながら足を進めるうちに、マナはリツコの研究室へと辿り着いていた。

「着いちゃった…」

考えが定まらずに研究室に着き、マナは思わずポツリと呟いた。

 

(どうしよう…。)

少しの間、マナは研究室に入ることをためらった。

そして数十秒後、思考が定まったのか、マナは目を閉じる。

「スゥ…ハァ……」

 

目を閉じ深く深呼吸した後、マナは研究室のドアを開けた。

 

 

<学校、2-A>

 

教室では、朝のHRが始まっていた。

 

そんな中、担任が出席簿を見ながら話す。

「相田君と綾波君それに霧島君は、また休みか」

 

担任の言葉を聞き、シンジは思考する。

(相田ケンスケ…。綾波レイ…。霧島マナ…。

……うん、大丈夫みたいだ。)

そう思った後、シンジは口元を隠しながら不敵な笑みを見せた。

自分を納得出来たことが、嬉しかったのかもしれない。

 

「鈴原」

担任が不意にトウジの名を呼んだ。

ガタッ。

「は、はい!」

担任に珍しく名前を呼ばれて多少緊張したのか、トウジは席を立って返事をした。

担任はトウジに話しかける。

「綾波君のプリントが`たまってる´ので、届けておくように」

「はい!」

元気良く返事をしたトウジであったが、実際の所、担任の話は聞いていなかった。

頭の中は、昼食時間のことを考えていたからである。

 

 

<ネルフ、アメリカ第二支部>

 

ネバダにある、ネルフのアメリカ第二支部では、S2機関の最終段階の詰めに入っていた。

無論、マユミもネバダの職員達と一緒に、その姿を見せていた。

 

忙しげに作業する職員達を、マユミは少し離れた場所から見つめていた。

作業を見つめながら、マユミは思う。

(S2機関……。私が乗らなくても…。)

「山岸君。ここに居たのかね」

マユミが思考していると、不意に話しかけられた。

誰かとマユミが顔を見ると、以前に何度か顔を合わせた`良く笑う´科学者であった。

マユミは科学者の顔を見て訊ねる。

「博士…。…私は乗らなくてもいいんですよね?」

「いや、乗るよ。このS2機関は不完全だからね。…だから、君がサポートしなきゃいけない」

そう言って、科学者はポリポリと頭を掻きながら言葉をつなぐ。

「四号機のS2機関はキッカケが必要でね。…その為には、どうしても君の力が必要だったりするんだよ」

「不完全ですか…」

科学者の言葉に、マユミは少し怯えた感じの声で答えた。

その声を感じ取ったのか、科学者は話す。

「不完全といっても心配は要らない。操縦者には害が無いように設計しているからね」

そう言って、科学者はニカッと笑った。

「…わかりました」

科学者の言葉を聞き、マユミは少しだけ安堵した笑みを見せた。

マユミの笑みを見て、科学者は笑顔で話す。

「笑顔はいいもんだ。……孫の笑顔を思い出すよ」

「お孫さん、居るんですか?」

科学者の言葉に、マユミが訊ねた。

科学者は微笑みながら答える。

「うん。君と同い年と小学二年生のが二人ね」

 

二人が会話をしていると、作業員の一人が話を遮る。

「スズハラ博士、準備完了しました」

「了解しました。…司令官は来てますか?」

作業員の言葉に、スズハラ博士と言われた`良く笑う´科学者が訊ねた。

作業員は答える。

「はい、実験室で成り行きを見守るとの事です」

「成り行き、ね…」

作業員の言葉に、スズハラ博士は薄ら笑いを浮かべながら答えた。

そして、マユミを見て言葉をつなぐ。

「山岸君、聞いての通りだ。…ま、気楽に乗ってくれると助かるよ」

「はい、頑張ります」

マユミは硬い表情と言葉で、スズハラ博士の言葉に答えた。

マユミの言葉と表情に、スズハラ博士は苦笑しながら話しかける。

「駄目、駄目、頑張っても駄目だよ。…なんとかなる、で乗ってもらいたいんだから」

「なんとかなる…ですか?」

スズハラ博士の意図が理解出来ず、マユミは訊ねた。

「そう、なんとかなる。世の中そういうもんだよ」

そう言って、スズハラ博士はニカッと笑った。

スズハラ博士の言葉に、マユミは微笑を浮かべながら答える。

「……はい」

 

 

<リツコの研究室>

 

「失礼しま~す♪」

マナは元気良く研究室の中に入った。

考えていたことなど、気づかせないようにして。

 

「あ、霧島さん、いらっしゃい」

カチャ。

リツコはコーヒーを手に椅子に座って休憩していたが、マナが来たのを確認して椅子から立った。

「コーヒー飲んでたんですか?リツコさん好きですね♪」

リツコの様子が相変わらずだった事に、マナは微笑を見せて話した。

マナの言葉に、リツコは微笑みながら話す。

「霧島さんも飲む?何なら炒れるけど」

「いえ、私は遠慮します。……それより、話って何ですか?」

リツコの言葉を遠慮し、マナは話を単刀直入に切り出した。

「話…。…そうね、その為に来てくれたのよね」

コーヒーカップを机に置きながら、リツコは呟くように話した。

そして、リツコは真剣な表情で言葉をつなぐ。

「霧島さん、正直に答えて。……JAの中で何を感じたの?」

 

「!」

リツコの言葉に、マナは驚きを隠せなかった。

多少の覚悟はしていたが、いざ現実に訊ねられると、多少の覚悟など吹き飛んでしまっていた。

 

「この話は、ここだけにしておくから…」

そう言って、リツコはマナを見据えた。

「………」

マナはリツコの目を見て何も言えず、ただ俯(うつむ)いてしまうだけだった。

マナを寂しげな表情で見つめながら、リツコは悲しげに話しかける。

「…もし霧島さんがJAで感じたことが、私の考えと一致するなら…私も話すことがあるから……」

 

「………」

リツコが話しかけても、マナは顔を上げること無く沈黙するだけだった。

マナの様子に、リツコも何も語れず沈黙する。

沈黙と静寂だけが研究室の中を支配する。

 

そして数分後、マナが顔を上げて何かを話そうとする。

「私…」

だが、その声はリツコには届かなかった。

マナが何かを話そうとした瞬間、緊急警報がネルフ日本支部に鳴り響いていたからだった。

-緊急警報発令。緊急警報発令。-

警報音と共に、無機質なアナウンスの声も聞こえてきた。

使徒襲来を知らせる警報では無く、緊急事態を知らせる警報音とアナウンスが鳴り響いていた。

 

「緊急警報?!」

警報を聞き、リツコは多少緊張した表情を見せた。

そして、リツコは緊張した面持ちで言葉をつなぐ。

「霧島さん、話は後にしましょう。それで、いいかしら?」

「は、はい」

マナは`こと´の事態を把握できず、ただ頷いて答えるだけだった。

「それじゃあ後で」

そう言い残し、リツコは慌しく研究室を後にした。

 

研究室に一人残ったマナは、俯(うつむ)き寂しげな表情をしながら呟く。

「……私、話そうとしてた」

 

 

 

つづく


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あとがき

トウジの家族構成は本編の設定からです。祖父の博士としての設定に関しては独自のものです。
説明不足で読み難いと思いますが、その点はご容赦の程を。

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