箱の中からは毛むくじゃらの、牙を生やした獣の群れが現れた。
病、貧困、犯罪といった、その後人類を悩まし続けた、ありとあらゆる災いの名を持つ獣が…。
だが人類は幸運だった。最後の箱の中身であり、最悪の中身である『前兆』は現れなかったのだから……。
僕は僕で僕
(73)
<特設作戦司令部>
特設作戦司令部では、シンジ達の状況報告と使徒殲滅作戦の準備が同時進行していた。
適度の緊張と慌しさが交差し、どことなく戦闘中の雰囲気を持つ司令部であった。
そんな中、青葉が報告する。
「国連軍への要請完了。0600時に作戦を開始する、とのことです」
「了解。チルドレンの方は?」
簡潔に青葉に答えた後、ミサトはシンジ達の状況を訊ねた。
ミサトの問いに、日向が沈痛の面持ちで答える。
「……そろそろ内部電源が限界です」
(先輩…。)
日向の言葉を聞き、マヤはリツコを見ながら思った。
今回の作戦を提案した、リツコの表情が気になったからであった。
「予定を一時間切り上げましょう。…あの子達が生きてる可能性のあるうちに」
マヤの視線に気づかず、リツコはミサトに話し掛けた。
そして、作戦を指揮しているミサトに認可を問う為、リツコは言葉をつなぐ。
「いいかしら?」
「当然。青葉君、戦自と国連軍に打電して頂戴」
ミサトは微笑みながら、リツコの言葉に答えた。
「了解です」
ミサトの命令を聞き、青葉は機敏に行動を開始した。
作戦準備が徐々に終了しようとする頃、マヤはリツコに訊ねる。
「生きて帰ってきますよね?先輩」
「帰ってくる。……そう信じてるわ」
マヤの言葉に、リツコは真剣な表情で答えた。
リツコの言葉に、マヤは頷きながら答える。
「…はい」
<第十二使徒内、初号機>
ピピピ…。
プラグスーツの手首に装備している、バッテリー警告装置が限界を告げるアラームを鳴らしていた。
初号機の電源も、プラグスーツも、刻一刻と限界に近づいていた。
「………」
アラームの音を聞き、シンジは目を開けた。
そして、スーツ手首の装置を見て、プラグスーツのバッテリーが限界に近づいていることを確認した。
プシュ。
突然、何を思ったのか、シンジはプラグスーツを脱ぎ始めた。
上半身だけプラグスーツを脱ぐと、シンジは虚ろな表情で呟く。
「……母さん。…返事をして」
<第十二使徒内、JA>
シンジが目を開けた頃、マナのプラグスーツも限界に近づいていた。
アラームを止めると、マナは薄く目を開ける。
「寒い……」
マナは膝を抱え、小さく呟いた。
そしてマナは言葉をつなぐ。
「プラグスーツも限界…。……でも…もう、どうでもいい」
静寂と沈黙がJAのプラグ内を支配する。
そんな中、マナは声を感じる。
-もう、いいの?……そう、良かったわね。-
呟き目を閉じた後、マナは声を聞いた。
何処かで聞いたことのある、懐かしく優しく暖かい声を……。
「母さん……」
目を閉じたまま、マナは自然と呟いていた。
呟いたマナの脳裏には、母との思い出が映し出されていた。
母に手を引かれ連れられていた思い出を、連れられる途中で小さな赤い球体を拾った思い出を。
ドクン……ドクン……。
マナが声を聞いた時、JAの心臓部では鼓動する音が繰り返し聞こえていた。
<第三新東京市>
作戦開始、数分前。
明け方が迫った第三新東京市では、第十二使徒を攻撃する準備が完了していた。
零号機と弐号機は、国連軍の戦車大隊と共に使徒の影部分(本体)を取り囲んでいた。
零号機の中でレイが呟く。
「準備完了……」
-了解。…投下後の突入になるから、タイミングだけは外さないようにね。-
レイの言葉を確認したミサトの声が、零号機内に聞こえてきた。
-1000分の一秒なんて、ホントに可能なんでしょうね?-
弐号機内で待機しているアスカが、作戦の可能性を訊ねた。
-大丈夫。細かな所はMAGI がフォローします。…貴方たちは、ミサトの合図で突入してくれればいいわ。-
アスカの問いに、司令部内にミサト共に居たリツコが答えた。
リツコの言葉を聞き、アスカは不敵に微笑みながら口を開く。
-りょーかい。…ま、マナとシンジに借りを返すには、十分すぎる作戦よね。-
アスカは二人に借りに近いものを感じていた。
マナには第六使徒の後、学校で精神的に救ってもらったという`借り´が。
シンジには第八、第九使徒での借りが。
二人からすれば、どうという事のない当然の事だったのだが、アスカには十分すぎる程の`借り´であった。
-国連軍、使徒に接近。作戦開始の合図を待つ、とのことです。-
作戦司令部内で、日向は国連軍の打電を聞き、ミサトに報告していた。
-了解。……二人とも、頼むわよ。-
プツ。
ミサトからの回線は、そう言って切れた。
レイは零号機の中で、使徒を見つめ思う。
(…あの中に碇君が居る。…あの中に霧島さんが居る。
……私達は使徒を倒し、二人を救出する。
…倒すだけじゃない。…救出する。……二つの作戦。)
(どちらが…重要?
……どちらも重要。……倒して救出する。
…………………………二人を…救う。)
そう思った後、レイは操縦桿を握る手に力を込めた。
<第十二使徒内>
グァッ!
初号機は第十二使徒内で、口を開け暴走していた。
そして、初号機は叫ぶ。
-ウゥォォォォッ!-
初号機は叫んだ後、強力なATフィールドを展開した。
非常に強力な、虚数空間という負のエネルギーを持つ空間すらに干渉する程のエネルギー量で。
ピキッ、ピキッ、ビキッ。
信じられないことに、虚数空間に無数の亀裂が入った。
いや正確に言うと、虚数空間では無く、使徒の持つ内向きのATフィールドに亀裂が入ったのであった。
初号機が暴走する間、その中にいるシンジは思う。
(…息苦しい。…もつの?……僕の体は。)
酸素の薄いLCLの中、シンジの意識は何度も遠くなりかけた。
だが、完全に意識を無くす迄には至らなかった。
マナを救う。この場所から脱出する。
その目的だけが、シンジの体を支えていた。
「グッ!」
突然、シンジは`うめき声´を上げた。
初号機のプラグ内では、シンジの首は見えない手にキリキリと絞めつけられているようだった。
シンジは苦しそうに`うめき´ながら話す。
「ジ……ジェ…JA、か」
第十二使徒内では、JAも初号機と同じように暴走していた。
JAは初号機の背後から首を絞めつける。
妖しく目を光らせて。
シンジは意識を集中させ、首を絞められながらも口を開く。
「……か…母さん」
-ガァッッ!-
シンジの声が聞こえたのか、初号機は首を掴んでいる、背後のJAの腕を掴んだ。
グシャッ。
そして、力の限りJAの腕を握り潰した。
握りつぶした音はプラグの中にも届き、シンジは声を上げる。
「止めて!もういい!もういいんだ!……早く…ここから出よう」
「こんな所からは…早く……」
<第三新東京市>
-ウォォォォォッ!-
第三新東京市では、異常事態が起きていた。
使徒に攻撃を開始しようとした寸前に、その異常事態は起きた。
突如、使徒の球体(影)が裂けだし、初号機の腕が見え出したのであった。
「そんなこと有り得ないわ!エネルギーはゼロに限りなく近い筈よ!」
司令部では事態を理解出来ず、リツコが声を上げていた。
リツコの声に、マヤがモニターしながら声を上げる。
「いえ、間違い無く初号機の反応です!JAの反応もあります!」
「二体とも暴走したって言うの?!……信じられない」
リツコは中央モニターに映る光景に目を奪われながら話した。
そして言葉をつなぐ。
「なんてものをコピーしたの……私達は」
その状況に、ミサトは以外にも冷静であった。
ミサトはリツコの言葉を聞き、真剣な表情をして思う。
(エヴァがただの第壱使徒のコピーなんかじゃないことはわかる。
でもネルフは、使徒をすべて倒した後、エヴァをどうするつもりなの?)
(エヴァは……パンドラの箱。
パンドラの箱は…獣の箱。
箱には、まだ残った獣がいる。……それが暴走の原因?)
ミサトは思考したが、直ぐにその思考を中断させた。
シンジ達の救出作戦を展開させる為だった。
<初号機内>
(…帰ってきた。……マナ、帰ったよ。)
シンジは口に出さず、思考だけでマナに話しかけた。
もう、シンジには話しかける気力も体力も残っていなかった。
(……ありがとう…母さん。)
そう思った後、シンジは意識の幕を下ろし、深い眠りの途についた。
<第三新東京市>
シンジの深い眠りに入っても、初号機の暴走は止まることがなかった。
-グゥォォォォォ!-
初号機は雄叫びを上げ、第三新東京市に姿を現し、その背後ではJAが潰された腕を再生しようとしていた。
上空の球体を切り裂いた際に受けた、使徒の返り血を浴びたままで。
その様を見て、アスカは怯えた表情で呟く。
-……私、こんなのに乗ってるの?-
-………。-
レイは、その様子に何も言わず、ただ使徒の影を見つめるだけだった。
<数時間後、JA格納庫>
暴走が止まった後、初号機とJAは直ちにネルフの手によって収容された。
マナとシンジの安否を気遣った上での行動だった。
プシュ。
エントリープラグの開閉口が開く。
開閉口から差し込む外の光に、マナが目を細める。
そんな中、マナは誰かに抱き付かれ、その人物の声を聞く。
「霧島さん、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
何度も謝罪の言葉を口にして、マナにすがり付くように泣くミサトであった。
ミサトの泣き声を聞きながら、マナは呟く。
「お腹空いた……」
マナが呟くと、ミサトの背後で一人の人物が微笑みながら口を開く。
「医療チェックが終了次第、食事を用意させておくわ」
マナの帰還が心から嬉しそうな、リツコであった。
「リツコさん……。…そう…私、帰ってきたんだ」
「…おかえりなさい」
リツコは優しくマナに微笑んだ。
マナもリツコに答えるように優しく微笑んで口を開く。
「ただいま……」
ヨロヨロとした足取りで、ミサトに肩を貸してもらいながら外に出ると、マナは虚ろな表情で思う。
(ただ、会いたかった。……ただ、生きていたかった。
ただ、それだけ……。)
<初号機格納庫>
「シンジ、シンジ、シンジ!」
誰かの呼ぶ声がする。
その声で、シンジは目を覚ました。
「シンジ……」
シンジが目を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
ネルフには居なかった筈の父の姿が、そこに在ったからだった。
「父…さん?……」
その光景に、シンジは呟くだけだった。
シンジの呟きを聞き、ゲンドウは短く微笑んだ。
そして、ゲンドウはシンジが意識を回復したのを確認すると、周りの人物に声をかける。
「後は頼む。…私はJAを見てくる」
ゲンドウは急遽、第三新東京市に戻ってきていた。
老人達からの呼び出しを受け、移動している途中に初号機が取り込まれた、という情報を得たからだった。
そして、ホンの数十分前にネルフに到着したという訳であった。
ゲンドウが去った後、シンジは医療班に身体チェックをされながら思う。
(父さん……。僕に…微笑んでくれた。
僕に…父さんが……。)
そう思った後、シンジは再び目を閉じた。
<数時間後、JA格納庫>
JA及び初号機は、使徒の血の洗浄作業に入っていた。
その様子を、リツコとゲンドウが見守っていた。
洗浄作業を眺めながら、リツコが淡々と話す。
「シンジ君達がエヴァの秘密を知ったら、許してもらえないでしょうね」
リツコの言葉に、ゲンドウは短く答える。
「……シンジは知っている」
「!」
ゲンドウの言葉に、リツコは驚いた表情を見せた。
いや、驚かざる得なかった。
今まで極秘裏にひた隠しにしていた情報が、シンジに漏れていることに。
リツコの表情に気づかず、ゲンドウは言葉をつなぐ。
「遅かれ早かれ、シンジは知ることになっていた。…私の息子だからな」
ゲンドウの言葉を聞き、リツコは初号機を見上げて思う。
(私の息子……。
いいえ、違うわ。……私達の息子。
司令の心は、多分そう言ってるのね………。)
そう思った後、リツコは寂しそうに微笑んだ。
つづく
あとがき
最初の三行は『パンドラの箱』の一節です。
それと、戦闘描写はヘッポコ過ぎです。読み辛いと思いますが、お手やわらかに。(苦笑)
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