<数時間後、第三新東京市>

使徒の周囲を旋回しながら、ネルフのヘリが飛んでいた。

ミサトと日向を乗せ、ヘリは夕陽の中を飛んでいた。

 

 

 

僕は僕で僕

(71)

 

 

 


 

ミサトはヘリから使徒を覗き込み、その横で日向は何かしらのデータを打ち込んでいた。

ミサトは真摯な表情で、日向は真剣な面持ちで。

 

(エヴァによる攻撃は不可能ね……。)

ミサトは使徒を見ながら、使徒へのエヴァでの攻撃は不可能と判断した。

そして、ミサトは日向へと話し掛ける。

「国連軍へ応援要請を出して。それから、使徒を取り囲むように指示を出して頂戴」

「はい、了解です」

ミサトの言葉に、日向は短く答えた。

日向の言葉を確認すると、ミサトは思い出したように口を開く。

「あ、あと、二人にはエヴァから降りて、待機任務に就くように伝えておいて」

「了解です」

ミサトに答えながら、日向は思う。

(強いな……葛城さん。

シンジ君達が、飲み込まれたって言うのに……。)

 

数分間思考した後、日向は気づいた。

ミサトが強い理由に、強くならなければいけない理由に。

葛城ミサトは葛城ミサトである。

それは当然のことであり、変えようの無い事実である。

だが、ネルフにいる『葛城ミサト』は、作戦部長の『葛城ミサト』という理由に。

 

気づいた後、日向は思う。

(……そうか。…だから強い。…だから強くないといけない。

そういうことか……。)

 

そう思った後、日向はミサトを見た。

使徒を見るミサトの背中を、敬愛の眼差しで………。

 

 

<ネルフ中央制御室>

 

リツコはマヤと共に数値計測を行っていた。

第十二使徒の持つ現在体積と、予測増大数値の計測を。

マヤは数値を計測し、リツコはその数値を用紙に記入していた。

 

「二体ともアンビリカル・ケーブルの先は無かったそうよ」

計測の合間に、リツコが淡々とした表情で話した。

リツコの言葉に、マヤは真剣な面持ちで言葉を返す。

「…先輩は心配じゃないんですか?」

 

ポキッ。

マヤの言葉を聞き、計測用紙に記入していたリツコは、思わずシャーペンの芯を折ってしまった。

だが、そのことは気にせず、リツコは淡々とした表情のまま訊ねる。

「心配?なぜ?」

「霧島さんは、先輩と暮らしていた筈ですから…」

マヤはリツコの方を向かず、モニターを見ながら話した。

「だから?」

カチッカチッ。

マヤの様子を見て、リツコはシャーペンの芯を出し、再び記入を開始しながら言葉を返した。

リツコの言葉に、マヤは数値計測を中断して声を上げる。

「だからって……霧島さん、死ぬかもしれないんですよ!」

 

ポキッ。

再び、リツコはシャーペンの芯を折ってしまった。

そして先程と同じように、淡々とした表情で言葉を返す。

「死んだと決まった訳じゃないわ」

そう言うと、リツコは説明を始める。

「二人がエヴァを闇雲に動かさず、生命維持モードで耐えることが出来れば、16時間は生きていられるわ」

リツコの説明を聞き、マヤは落ち着いた表情で訊ねる。

「……先輩は…死なないと思ってるんですか?」

「思って無いわ」

リツコはマヤの言葉を否定した。

リツコの言葉を聞き、マヤは声を上げる。

「そんなッ!」

マナの声をリツコは手で制止し、優しげな表情で口を開く。

「でも、信じてる。…あの二人が生きてることを信じてるわ」

そして、そのままの表情で`ゆっくり´と言葉をつなぐ。

「……`思うこと´と`信じること´は、似てるようで違うのよ」

リツコの言葉を聞き、マヤは安堵の表情を見せた。

そしてリツコを見つめながら、マヤは微笑んで頷く。

「…はい」

マヤの表情を見て、リツコは微笑みながら口を開く。

「…作業を再開して頂戴。私達にも時間が少ないのよ」

「了解です」

マヤは微笑んでリツコに答えて、キーボードを叩き始めた。

カチッカチッ。

作業を再開したマヤの背中を見ながら、リツコはシャーペンの芯を出して記入を再開した。

シンジとマナのことを思い出しながら。

 

ポキッ。

だが、直ぐにシャーペンの芯が折れてしまった。

折れた芯を見ながら、リツコは思う。

(隠せないわね……。)

 

 

<特設作戦司令部>

 

司令部は、第十二使徒が肉眼で確認出来る場所に移された。

第三新東京市のビルの屋上に、簡易ではあったが指令するには充分な場所に。

 

「国連軍の包囲、完了したそうです」

施設内で国連軍の連絡を受け、青葉が口を開いた。

「そう。…それで、リツコの方は?」

青葉に短く答えると、ミサトはリツコ達の様子を訊ねた。

ミサトの問いに、日向が答える。

「もうじき使徒の説明を行うそうです。追って連絡があると思いますが」

「了解。……ちょっち外の空気吸ってくるわ」

簡単に言葉を返した後、ミサトは少し考えて外に向かった。

 

ミサトの退出後、日向が青葉に話し掛ける。

「お前も外に行ったらどうだ?」

「外?…何でだ?」

日向の言葉が理解出来ず、青葉は訊ね返した。

「外にいるレイちゃんだよ。…言うこと無いのか?」

日向はレイの名前を出して訊ねた。

日向の言葉に、青葉は短く沈黙し、そして口を開く。

「………俺が言うこと…無いな」

「そうか…」

日向は別に驚くことも無く、ただ言葉を返すだけだった。

 

日向に話した後、青葉は思う。

(俺が言うことは…無い。……言うったって…何を言うんだ。

俺が言わなくったって…自分で気づく。

レイちゃんは知ってるからな…。………自分を。)

 

青葉はレイを信頼をしていた。

今までの会話と同居した経験、それらを通し、レイという少女を信頼するに至っていた。

青葉の一方的な信頼かもしれないが……。

 

 

<特設作戦司令部・外>

 

「バカよ。シンジも、マナも、ミサトも、バカばっかり!」

司令部の外では、アスカが声を上げていた。

待機任務に就いたものの、どうすることも出来ない`もどかしさ´の中で。

 

「………貴方はどうなの?」

アスカの言葉を聞き、レイは壁にもたれながらポツリと訊ねた。

レイの問いに、アスカはムッとした表情を露(あら)わにしながら話す。

「私?私がバカな訳無いじゃない!飲み込まれるようなヘマしなかったし」

「碇君は違う。碇君は逃げようと思えば逃げれた……」

レイはシンジを庇ったのか、そんな言葉を口にした。

だが、アスカはレイの言葉を否定する。

「でも、逃げなかった。シンジはバカよ!」

 

「………」

アスカの言葉を聞き、レイは壁にもたれるのを止め、無言でアスカの前に立った。

レイの行動に、アスカはムッとした表情で口を開く。

「何?シンジの悪口を言われるのが、そんなに不愉快?!」

「……貴方、人に誉められたくてエヴァに乗ってるの?」

アスカの問いを無視し、レイは逆に訊ね返した。

「違うわ。自分で自分を誉めてあげたいから乗ってるの!」

自分の胸に手を置き、自分を鼓舞するかのようにアスカは話した。

アイスの言動を見て、レイが呟く。

「自分が一番好きなのね…。何よりも……」

「それが何だって言うのよ!」

売り言葉に、買い言葉、アスカは爆発寸前だった。

「貴方…」

アスカの言葉を聞き、レイは何かを話そうとした。

だが一人の人物が、二人を制止するかのように声を上げた。

 

「やめなさい、二人とも」

外の空気を吸いに来た、ミサトであった。

 

「……ミサト」

ミサトの姿を見て、アスカは呟いた。

「確かにシンジ君は無謀ね。だから…帰ってきたら叱ってあげなくちゃ」

二人の会話を聞いていたのか、ミサトはビルの屋上から夕陽を眺めながら話した。

ミサトの背中を見ながら、アスカは訊ねる。

「…マナも?」

「彼女には私が謝らなきゃね…。私の作戦ミスだから、今回の戦い」

アスカの言葉に、ミサトは少し声のトーンを落として話した。

現時点で誰よりも辛いのは、作戦を直接指揮したミサトなのかも知れない。

 

ミサトとアスカが会話をするのを尻目に、レイは夕陽を見ていた。

(夕陽……。)

レイは思い出していた。以前にシンジが話した言葉を……。 

「だから、僕は夕陽が好きなんだ」

優しく微笑んだシンジの笑顔と言葉を、レイは思い出していた。

 

そして、レイは誰にも聞こえない声で呟く。

「……生きてる」

 

 

<第十二使徒内>

 

初号機とJAは破損すること無く、使徒の内部を漂っていた。

ディラックの海と想定される、別次元の空間を。

 

「生きてる……まだ…僕は」

初号機の中で、シンジは`ゆっくり´と目を開けて呟いた。

そして、シンジはモニターの機器を操作した。

カチッ、カチッ、カチッ。

「駄目だ。……ソナーが還って来ない」

(どうしよう……。)

そう呟いた後、シンジは絶望的な心境に陥ってしまった。

無限の広がりを見せるディラックの海に…絶望的な虚数空間に。

 

-シンジ君?-

シンジが膝を抱えて落ち込んでいると、JAからの回線が開いた。

「マナ……。…電源が勿体無いよ」

マナがモニターに映ったのを見ると、そう言ってシンジは微笑んで見せた。

 

初号機はJAのアンビリカル・ケーブルを離さなかった。

それが、マナとシンジが会話できる理由であり、虚数空間での唯一の希望であった。

 

-うん…。でも、心配で…。-

以前の第十一使徒の時のことが、マナは気がかりであった。

何度呼びかけても返事が無かった、あの時のことが……。

「大丈夫。…僕は大丈夫。……それよりも寝てた方がいいよ。起きてると、余計なこと考えるから」

そう言って、シンジは優しく微笑んだ。

シンジも飲み込まれたことは恐怖であったが、少しでもマナを元気付けようとして。

-でも、寝れな~い。充分過ぎるほど寝ちゃったから♪-

シンジの言葉に、マナは楽しそうに笑って見せた。

「そうだね。寝ることがこんなに辛い事だなんて、僕も思わなかったし」

マナに答えるように、シンジも笑って見せた。

 

少しだけ穏やかになる二人の雰囲気。

そんな中、マナが真剣な表情で訊ねる。

-大丈夫だよね……。…助かるよね、私達?-

「助かるよ。…外にはミサトさんもリツコさんも居るんだし、きっと助けてくれる」

シンジは自分に言い聞かせるように、力強くマナに話した。

「うん…それじゃ切るね。電源勿体無いし…」

プツ。

シンジの言葉に静かに答えると、マナは回線を切った。

 

初号機の中で、シンジは虚ろな表情で呟く。

「生命維持モードに切り替えてから12時間…。…僕の命も…あと4~5時間」

呟いた後、シンジは頭を振り口を開く。

「駄目だ、駄目だ、駄目だ。…僕だけじゃない。…マナも居るんだ」

一人話した後、シンジは右手を力強く握った。

 

右手を握ったまま、数分が過ぎる。

そして、シンジは`ゆっくり´と口を開く。

「………でも、怖い。……怖いよ…母さん」

 

虚数空間に恐怖しながら、母という言葉を口にした。

十四歳の『碇 シンジ』という少年が……。

 

 

 

つづく


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あとがき

何か苦手。
こんな筈では?!……だったりします。(苦笑)

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