十二番目の使徒。

第十二使徒は、唐突に第三新東京市上空に出現した。

何の前触れも無く、何の予兆も起こさず、不意に出現した。

 

 

 

僕は僕で僕

(70)

 

 

 


 

上空に浮かぶ第十二使徒は、白と黒のストライプ模様の入った球体の姿をしていた。

巨大な球体は何をする訳でもなく、ただ第三新東京市上空を浮遊していた。

 

 

<ネルフ作戦司令部>

 

使徒出現の報を受け、ネルフは速やかに行動を開始した。

第三新東京市……否、人類を守る`切り札´として。

 

「突然現れたってこと?」

使徒出現を確認したミサトが、オペレーター達に状況確認をしていた。

「はい。富士の電波観測所は、何も探知していないそうです」

ミサトの言葉を聞き、日向が言葉を返した。

「出現からの動きは?」

少しでも使徒の情報を得ようと、ミサトは更に日向に訊ねた。

ミサトの問いに、日向は簡潔に答える。

「以前、上空で沈黙を守ったままです」

日向の言葉を聞き、ミサトは中央モニターに映し出された使徒を見る。

そして、真剣な表情で作戦を考える。 

(頭上の敵ね……。

にしも、情報が少なすぎるわ。)

 

ミサトが思考していると、使徒を観測していた青葉が口を開く。

「パターン・オレンジ。ATフィールドの反応無し」

「新種の使徒?!」

青葉の報告に、リツコは驚き声を上げた。

使徒の反応ならば『パターン・青』と報告される為、リツコの驚きも当然であった。

「間違いありません。オレンジです」

リツコの声を聞き、青葉は念を押すように報告した。

そして、リツコの思考を助けるように、マヤが口を開く。

「MAGI は判断を保留しています」

 

「リツコはどう思う?」

オペレーター達の報告を聞いた後、エヴァの発進を決めかねたミサトは、リツコに訊ねた。

リツコは考える素振りを見せながら、ミサトに答える。

「何とも言えないわ。……でも、あの物体が地球上の物では無いことは確かね」

「それで充分よ」

リツコの言葉にミサトは短く答えると、命令を下す。

「直ちにエヴァ全機発進させて。あ、あと出来るだけ距離は離して頂戴」

 

ミサトの作戦は、シンプルなものであった。

取りあえず距離を置き、情報を収拾してから作戦を新たに練り、可能ならばその場で迎撃というものだった。

 

 

<数分後、第三新東京市街>

 

発進されたエヴァ四機は、ビルの影に隠れるように身を潜めていた。

いつ使徒から攻撃が開始されても対処出来るように、慎重に身構えながら。

 

「…動き、ありませんね」

先程から動きの無い使徒を見て、初号機の中のシンジが呟いた。

-……こちらの様子を見てるのかしら?-

シンジの言葉に、ミサトは何かを考えてる口振りで答えた。

「セオリーなら、ここで斥候でも出すんじゃない?」

弐号機の中にいたアスカが、ミサトの思考を助けるように口を開いた。

アスカの言葉を聞き、ミサトは少し考えた後に結論を出す。

-……そうね、それでいきましょう。誰か、希望者はいる?-

「私が。……私で良かったら」

誰よりも早くミサトに答えたのは、JAの中にいたマナだった。

『自分を磨く。戦いでシンジを支える』

そんな思いで、マナは斥候に志願したのであった。

 

-霧島さんね…。……OK。斥候、お願いするわ。-

ミサトは少し考えた後、マナの言葉を受諾した。

「零号機、JAのバックアップに入ります…」

ミサトの言葉を確認し、零号機の中にいたレイが素早く反応した。

そして、レイの言葉に気づき、シンジもミサトに話しかける。

「あ、初号機もバックアップに入ります」

マナ以外がバックアップ行動に入る中、アスカは何かを考える素振りで沈黙していた。

そしてマナをモニターに映しながら、真剣な表情で話し掛ける。

「…無理、しないでよ。私達がいるんだから……」

「わかってる…」

アスカの言葉に、マナは微笑を浮かべて答えた。

 

そして、弐号機がバックアップ行動の準備に入り、JAが斥候の準備をする間、ミサトが子供達に話しかける。

-皆、気をつけて行動しなさい。何を仕掛けてくるか、全く予測できないから。-

子供達は声を揃え、ミサトに答える。

『了解』

 

 

<数分後>

 

JAは速やかに使徒の付近まで接近していた。

だが、使徒に動きは無い。

 

「バックアップの準備、出来た?」

使徒に何らかの接触を試みようと思ったマナは、他のエヴァに準備が出来たかを訊ねた。

「ちょっと待って、ケーブルが邪魔して…」

「まだ…」

アスカとレイは市街で思ったように動けず、バックアップ準備が出来ていなかった。

そんな中、初号機に乗ったシンジが口を開く。

「僕はいいよ」

配置された場所が良かったのか、初号機のバックアップ準備は完了していた。

初号機をモニターに映して、マナは口を開く。

「じゃ、バックアップお願いするね」

マナの言葉に、シンジは短く答える。

「わかった」

コクリ。

シンジの言葉を聞き、マナは微笑んで答えた。

マナの微笑みからは、強い意志と固い決意の感じ取られた。

 

「JA、攻撃を開始します!」

ズガガガッ。

そう言うと、マナはJAが装備していたパレットガンを、使徒めがけて連射した。

だが、JAの攻撃を受けた第十二使徒は、突如姿を消した。

…使徒は第三新東京市上空から、忽然とその姿を消した。

 

「嘘?!」

使徒にめがけ連射していたマナが驚声を上げた。

マナに続くようにシンジも驚声を上げる。

「使徒が消えた!」

 

 

<ネルフ作戦司令部>

 

第十二使徒が空中から消えた様子は、ネルフ内の中央モニターにも映し出されていた。

そして、その状況にネルフは慌しく対処していた。

 

「何、どうなったの?!」

中央モニターを見て、リツコが声を上げた。

リツコの声に、青葉が焦り混じりに叫ぶ。

「パターン青!使徒発見!じ、JAの真下です!」

青葉の報告を聞き、ミサトは(この使徒はヤバイ!)と一瞬で判断した。

そして、ミサトはマナのモニターに叫ぶ。

「霧島さん、逃げてッ!!」

 

 

<第三新東京市街>

 

ミサトの叫びはマナに届いた。

だが、JAは逃げなかった。……否、逃げ出せなかった。

JAの真下に現れた第十二使徒の影に、ジワジワと足元から飲み込まれそうになっていたからだった。

 

「だ、駄目です!動けない!動けません!」

使徒の影に足の膝まで飲み込まれ、JAは身動きが取れなくなっていた。

ズガガガッ。

焦ったマナは使徒の影に、パレットガンを連射した。

だが、使徒の影には全く効き目が無かった。

使徒の影に恐怖し、マナは叫ぶ。

「リツコさん!ミサトさん!助けて!」

 

-脚部切断の信号を送って!-

-駄目です!信号受けつけません!-

-プラグ排出は?!-

-駄目です!全く信号を受けつけません!-

マナの叫びを聞き、作戦司令部はマナを助け出そうと必死になっていた。

だが、ミサトとオペレーター達の切羽詰った会話が、子供達のモニターに虚しく聞こえるだけだった。

 

「マナッ!」

シンジはJAの状態を見て、駆け寄ろうとした。

そこへ回線が入る。

-近寄っては駄目!そこは、信号を受けつけない空間みたいなの!-

マナが使徒に取り込まれそうになり、リツコは悲痛の入り混じったような声で、シンジに指示した。

「クソッ!」

リツコの言葉に、シンジは悔しそうに口を開くと、JAのアンビリカル・ケーブルを力強く握った。

そして、叫ぶ。

「絶対、離さない!引き戻す!」

初号機は力強くアンビカル・ケーブルを引いた。

マナを救う為、マナを助け出す為、マナを使徒に飲み込ませない為に。

 

「!」

JAのケーブルを引きはじめて直ぐに、シンジは初号機の足元の異変に気がついた。

JAの真下にあった影が広がりを見せ、初号機をも飲み込もうとしてることに。

(……でもッ!駄目だ!)

シンジはケーブルを引くことを止めなかった。

確かに、使徒の影はシンジにも恐怖だった。

だが飲みこまれる恐怖よりも、マナを助け出すことが、シンジの心で優先された。

 

 

その頃、JAから距離のあるエヴァ二体では。

 

「えぇぇぃ!うざったい!」

マナの叫びを聞き、アスカは声を上げていた。

行動を制限させられていたアンビリカル・ケーブルを自ら切り離し、弐号機はJAのもとに駆け出した。

猛スピードで駆け出した弐号機の中で、アスカが口惜しそうに呟く。

「バカ…無理するなって言ったのに……」 

 

その頃、同じように零号機も自らケーブルを切断していた。

そして、駆け出した零号機の中で冷静にレイが呟く。

「ケーブル切断…。JA救出に向かいます」

 

 

<ネルフ作戦司令部>

 

JAが飲み込まれそうになり、司令部は混乱の極みにあった。

そんな中、青葉が叫ぶ。

「使徒、増大しています!……ヤバイ!初号機、完全に使徒の範囲内です!」

青葉の報告を受け、ミサトはシンジのモニターに叫ぶ。

「何やってるのッ!シンジ君、早く逃げなさい!!」

 

シンジの焦り混じりの声が、司令部に響く。

-駄目です!マナがッ!マナがッ!-

 

 

<第三新東京市街>

 

初号機は、足のスネまで影に飲み込まれかけていた。

だがシンジの奮闘も虚しく、JAの下半身は使徒の影に飲み込まれていた。

使徒の影……否、使徒そのものに。

 

ズルズル…。

初号機が握るJAのケーブルは、虚しく使徒に飲み込まれる。

「シンジ君、もういい!逃げて!」

マナは泣きながら、シンジのモニターに叫んだ。

マナの声を聞き、シンジは声を上げる。

「良くない!逃げない!僕が逃げたら、僕自身が許さない!」

「シンジ君……」

シンジの声に、マナは俯(うつむ)いて呟くだけだった。

 

 

その頃、弐号機と零号機。

 

弐号機と零号機はJAのもとに駆け寄っていた。

尋常ならざる速度で一目散に、マナを救い出す為に。

 

二人が全速力で向かっていると、ネルフから回線が開く。

-止まりなさい!命令です!JAから離れなさい!-

ミサトの声だった。

 

ピタッ。

ミサトの声に、弐号機と零号機は足を止めた。

そして、アスカが声を上げる。

「命令って、どういうことよ!シンジとマナを見捨てる気!?」

-………命令です。…下がりなさい。-

アスカの声に、先程とは打って変わって、心を押し殺したようなミサトの声が聞こえてきた。

「クッ!」

ミサトの言葉に、アスカは悔しそうに唇を噛んだ。

-使徒!弐号機に接近!-

アスカが舌打ちすると同時に、青葉の声が聞こえてきた。

「!」

アスカは弐号機の足元を見て、使徒が足元に接触しようとする様を見た。

「こんなのッ!最低ッ!!」

使徒を見てアスカは一言発し、その場から退避を始めた。

アスカの発した言葉は、使徒に、シンジとマナに、ミサトの命令に、そして自分へのものだった。

 

「零号機、後退します」

そう言った後、レイは緩やかな速度で後退を始めた。

零号機のモニターに初号機とJAを映しながら、いつでも救出活動に入れるようにと思いながら。

 

 

再び、初号機とJA。

 

(……駄目だ!……引っ張っても…駄目だ!)

JAのケーブルを引っ張っていたシンジは、その行為が無意味に近いことを悟った。

底なし沼にはまった者が、更にはまった者を救うことは、奇跡に近い行為であることを。

そこへ、ネルフから回線が入る。

-ザッ…ザザ…シン…君……げなさい。-

回線にはノイズが混じり、通信すらも困難な状況になっていた。

JAは下腹部まで飲み込まれ、初号機も膝辺りまで飲み込まれている状況に。

「ごめんね。……私が志願したから」

その様子を察したのか、マナからの回線が入った。

JAと初号機の回線には、何の問題も無かった。どうやら使徒の中に、二体とも居る為と思われる。

マナの言葉に、シンジは呟く。

「マナ……」

 

呟いた後、シンジは思う。

(……引っ張ることが駄目なら……、一緒に…一緒に行こう。

……それしか、無い。)

シンジは決めた。

JAと共に、マナと共に、使徒に飲み込まれることを。

 

そしてマナの映るモニターに、シンジは気丈にも微笑んで話し掛ける。

「マナを一人にしない。……僕も行くから」

 

 

<ネルフ作戦司令部>

 

中央モニターには、使徒に飲み込まれるJAと初号機の姿が映っていた。

どうすることも出来ない、苛立ちと、悲しみと、悔しさの中で。

 

「シンジ君…霧島さん……」

モニターを見ながら、ミサトは悲しみを…自分の無力を堪えるように呟いた。

「JA、完全にロスト…。…初号機、二十秒後に完全にロストします」

青葉は落胆した声で、JAが使徒に飲み込まれたことを報告した。

 

二十秒。

初号機が飲み込まれるまでの、二十秒は沈黙と静寂の二十秒であった。

誰一人口を開くことなく、ただ初号機が飲み込まれる様を見るだけだった。

 

二十秒後、青葉が沈痛の面持ちで口を開く。

「初号機、完全にロスト…。…使徒の増大もストップした模様です」

「…了解」

青葉の報告に、ミサトは答えるだけであった。

 

皆が沈痛の表情を見せている中、一人だけ別の表情をしている人物がいた。

その人物は思考する。

(……影が本体ね、間違い無く。…それなら、あの影は?ブラックホール?

…………違う…虚数空間の影。…これが、一番近い気がする。

……だとすると…。)

 

そこまで考えると、その人物は小さく誰にも聞こえない声で呟く。

「……デイラックの海」

 

その人物は、赤木リツコだった。

 

 

 

つづく


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あとがき

第十二使徒に飲み込まれる人物は、かなり前から決まっていました。
でも問題は、ここからだったりします。(苦笑)

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