ガチャリ。
ミサトの家に着くと、加持は玄関を開けた。
酔いつぶれたミサトを、肩で支えながら。
僕は僕で僕
(68)
<ミサト宅、玄関>
「ほら、着いたぞ。しっかりしろ」
加持は引きずるように、ミサトを玄関の中に入れた。
ミサトは完全に酔いつぶれ、今にも倒れそうだった。
「……しょうがないな」
ミサトを見ながら、加持はヤレヤレといった表情で呟いた。
「加持さん……」
そこへ、呟き声が聞こえてきた。
呟き声を聞き、加持は声の主を見て呟く。
「……アスカか」
そして、加持は真剣な表情で言葉をつなぐ。
「少し待ってくれるか?ミサトを運んでから話がある」
「…うん」
加持の言葉を聞き、アスカは静かに答えた。
ミサトを寝室に降ろすと、加持は居間に来た。
居間では、アスカが俯(うつむ)いて立っていた。
アスカを見て、加持は真剣な表情で話し掛ける。
「……元気そうで何よりだ」
「…うん」
加持の言葉に、アスカは顔を上げることなく答えた。
そんなアスカの様子に、加持は静かに話し掛ける。
「あの時、俺は逃げ出した。それは事実だ。……言い訳も弁解もする気は無い」
「仕事だったんでしょ?…加持さんの」
加持の言葉を聞き、アスカは顔を上げて訊ねた。
「まぁな。…だが、アスカを裏切ったことに変わりは無い」
加持はアスカの言葉を肯定し、自分の思いで否定した。
そして、加持は頭を下げながら言葉をつなぐ。
「すまなかった」
「もういい。……もういいの、加持さん」
加持の言葉に、アスカは微笑を見せて謝罪を受け入れた。
だが、加持は頭を下げたまま謝罪する。
「こんなことで、俺の罪が消えるとは思っていない。…すまない」
「もういいってば」
アスカは微笑んだ。
加持の言葉に、加持の行動に、加持の思いに、アスカは微笑を見せた。
アスカの言葉に、加持は顔を上げ口を開く。
「……すまん」
加持の言葉に、アスカは静かに頷いた。
そして、静かに沈黙する二人。
そんな中、アスカが口を開く。
「私は大丈夫。……私、一人じゃないから」
「友達、出来たのか?」
アスカの言葉を聞き、加持は優しげな表情で訊ねた。
「…うん」
加持の言葉に、アスカは静かに答えた。
「何でも話せる友達か?」
「…うん、それなりに」
「そうか、良かったな…」
「…うん」
会話を交わす二人は、まるで仲の良い兄妹のようだった。
本当に仲の良い、心の繋がった兄妹のような…。
「…それじゃあ、俺は失礼するよ」
アスカとの話を終え、とりあえず加持は出て行くことにした。
「加持さん…」
加持が出て行こうとすると、アスカが加持の背中にしがみついた。
そして、加持に優しく`しがみつき´ながら、アスカは話し掛ける。
「…まだ、加持さんのこと許せないかもしれない……。でも、少しは理解してるつもり」
そこまで言った後、アスカは目を瞑(つむ)り、ゆっくりと話す。
「……だから…ありがとう」
「………」
アスカの言葉に加持は何も言えず、ただ思う。
(アスカ…大人になったな……。)
<第三新東京市、喫茶店>
「じゃあ詳しいことは、マヤも知らないってことか…」
マヤの言葉に、青葉は真剣な表情で呟いた。
青葉とマヤは喫茶店に来ていた。
レイの就寝後、マヤに連絡を取り、ダミーについての情報を収集するためだった。
「ええ、技術面のサポートって言っても、重要な部分は先輩一人でやるみたいだから」
青葉の言葉を聞き、マヤは淡々と話した。
「赤木博士一人で?流石というか、凄いな」
マヤの言葉に、青葉は少しだけ驚いた表情を見せた。
青葉の言葉に、マヤは微笑みながら話す。
「まぁね。私の先輩だもん」
そう言った後、マヤは真剣な表情で呟く。
「でも……一人で背負い過ぎって気がする」
マヤが呟いた後、二人は沈黙した。
青葉はダミーのことを思考し、マヤはリツコのことを思い、静かに沈黙した。
そして、青葉が呟く。
「ダミーシステム、綾波レイ、プラグ設計、話は全て地下の中か…」
「何か悪巧みしてるでしょ?」
青葉の呟きを聞き、マヤが微笑みながら話した。
マヤの言葉に、青葉は苦笑しながら答える。
「悪巧み、か。悪いことなら、そうなるかもしれないな」
「どうなっても知らないわよ」
マヤは微笑を見せながら、青葉に忠告した。
だが、青葉は忠告を無視するように微笑ながら話す。
「知らない方がいいさ」
そして、青葉は自分に言い聞かせるように思う。
(知らない方がいい。……だが、知りたい。
人間ってのは理不尽な生き物だな。……まったく。)
<翌日。第三新東京市、中学校>
学校ではシンジ達がHR(ホームルーム)を受けていた。
HRでは、担任が出欠を取っていた。
「綾波、綾波は今日も休みか」
レイの席は空席であった。だが担任は`今日も´と言った。
ここ数日、どうやらレイは学校に姿を見せていないらしい。
シンジはレイの席を…窓際の席を見ながら思う。
(綾波……。ネルフに居るのかな……父さんと一緒に。)
レイの席を見つめるシンジを、さらに見つめる人物が二人いた。
その二人は、マナとアスカだった。
二人はシンジを優しく見つめていた。
<ネルフ本部>
セントラルドグマの最深部にある大深度地下施設中央部。
巨大な脳のような物体が宙吊りになっている。
その中心からは、大型のチューブのような物が下へと伸びていた。
チューブは、床にある大きな試験管のような物体に繋がれていた。
その中に『綾波 レイ』はいた。
レイは目を閉じて集中していた。
まるでエヴァの中にいるのと、同じ時のように。
試験管の前には、男が一人立っていた。
ネルフの司令、『碇 ゲンドウ』であった。
ゲンドウはレイを見つめ呟く。
「何を望む……」
だが、ゲンドウの言葉に、レイは何も答えなかった。
聞こえなかったのか、答えたくなかったのか、それはレイだけが知るところであった。
「碇司令。…宜しいですか?」
そこへ、リツコが入室して来た。
リツコの言葉に、ゲンドウは短く答える。
「ああ、構わん」
「データ採取及び、シンクロ可能な数値計測が終了しました」
レイのデータ採取が滞りなく実行されていることを、リツコは告げた。
「そうか…」
リツコの言葉に答えると、ゲンドウはその場から退室しようと踵(きびす)を返し歩き始めた。
ゲンドウの背中を見て、リツコは訊ねる。
「…レイは自分の意思で、この実験に参加しているのでしょうか?」
リツコの言葉に足を止めると、ゲンドウは振り向いて口を開く。
「意思……。…意思など必要ない。必要なのは、存在している事実だ」
「……」
ゲンドウの言葉に、リツコは何も言えなかった。
ただ、退室するゲンドウの背中を見つめることしか出来なかった……。
ゲンドウが退室すると、リツコは気を取り直してレイに話し掛ける。
悲しみを噛み締めたような微笑を見せて。
「レイ、上がっていいわよ」
リツコの言葉に、レイは短く答える。
「はい…」
<ターミナルドグマ>
セントラルドグマの深々度。
そこを青葉が歩いていた。
レイの参加している実験内容を探る為、危険を犯してまで調査していた。
だが、青葉は道を間違えていた。
セントラルドグマに行く筈が、更に地下のターミナルドグマへと来ていた。
「道、間違えたかなぁ…」
青葉は巨大なゲートの前に立つと、自分が道を間違えたことに気づき始めた。
「ああ、間違えたようだ。俺は言ったはずだ。…火傷するってな」
突然、青葉の背後で男の声が聞こえた。
「!」
驚き、青葉は振り向こうとした。
ピタッ。
背中に銃と思われる感触を、青葉は感じた。
「オッと、動かないでくれよ。手荒な真似はしたくないんでね」
男の声は、青葉の背中に銃口が向けられていることを示唆した。
静寂と緊張の中、青葉が両腕を上げて口を開く。
「加持リョウジさん、ですね?」
「お見知りおき光栄だよ。…青葉シゲル君」
加持は薄笑いを浮かべながら答えた。
加持の言動に、青葉は問う。
「貴方、何者ですか?」
そこへ、女性の声が響く。
「特務機関ネルフ特殊監察部所属、加持リョウジ。同時に日本政府内務省調査部所属、加持リョウジよ」
女性はミサトだった。
ミサトは加持の背中に銃口を向け、険しい表情で立っていた。
「古い肩書きだな、それ」
ミサトの言葉に、加持は苦笑しながら答えた。
「違うっての?」
加持の言葉を聞き、ミサトは銃口を下げることなく問う。
「日本政府とは切れた。嘘じゃないさ」
加持は薄笑いを浮かべ、ミサトに答えた。
だが加持の言葉を、ミサトは軽く受け流す。
「ま、いいわ。私にはどっちでも」
そんな中、両腕を上げたままの青葉が口を開く。
「あの、銃口下げてもらえませんか?」
「オッと失礼」
そう言って、加持は手を引っ込めた。
加持の手を見て、ミサトは微笑みながら話す。
「安心しなさい、青葉君。指鉄砲では中々死ねないから」
ミサトの言葉を聞き、青葉は振り向いて加持を見た。
加持は空(から)の両手を見せて、笑っていた。
「え…。ちぇっ、役者が違うな」
そんな加持を見て、青葉は舌打ちしながら苦笑した。
役者が違うことを思い知らされた、青葉であった。
「後をつけたのか?」
ミサトを背後に感じながら、加持が訊ねた。
「ええ、青葉君に注意がいってたから」
加持の問いに、ミサトは真剣な表情で答えた。
そして、言葉をつなぐ。
「これが貴方の仕事?それとも趣味かしら?」
「さぁ、どっちかな」
ミサトの問いに、加持は自分の答えを濁して答えた。
「これ以上関わると、間違い無く死ぬわよ」
ミサトは真剣な表情で、加持に忠告した。
加持は苦笑しながら答える。
「もう半分死んでるさ。これを見たときからな」
そう言った後、加持は手持ちのカードをゲートのスリットに通した。
カードを通した後、重い音と共にゲートが開いた。
「こ、これは…」
「な…」
ゲートの奥を見たミサトと青葉は、思わず声を上げた。
ゲートの奥には、巨大な十字架に磔にされた巨人の姿があった。
巨人には下半身が無く、両手は十字架に打ちつけられ、胸にはロンギヌスの槍が突き刺さっていた。
そして、その巨人は仮面を……七つの目を持つ仮面を着けていた。
ミサトは驚きながらも口を開く。
「エヴァ?…いえ、まさか……」
ミサトの言葉を補足するように、加持が口を開く。
「そう、セカンドインパクトから、その全ての要(かなめ)であり、始まりでもある……アダムだ」
「あのアダムが…ここに」
加持の言葉に、青葉は呟くだけだった。
アダムを見上げながら、ミサトは呟く。
「ネルフは、私が考えているほど甘くはないわね……」
つづく
あとがき
全体的に、加持を中心に話が進んだ第拾伍話でした。少し辛かったですね。(苦笑)
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