「ビールとタコキムチ、まだなの!?」

「あら、タコ酢もまだよ」

ミサト達は結婚式を終え、三人で居酒屋に来ていた。

 

 

 

僕は僕で僕

(67)

 

 

 


 

居酒屋は賑やかな雰囲気で繁盛している様子だった。

だが、その賑やかさは逆にミサトを苛つかせていた。

 

先程から十五分。

最初に注文したビールと枝豆は持ってきたものの、後から注文した品がこない。

「遅い!私、チョット文句言ってくる!」

あまりの遅さに、ミサトは堪らず座敷を立った。

そんなミサトを見て、リツコが冷静に話し掛ける。

「止めなさいよ。みっともない」

「いいの。私達は客よ。少しぐらいは偉そうにしなきゃ」

リツコの忠告を聞かず、ミサトはヒールを履いて厨房に向かった。

 

「相変わらずだな」

ミサトの様子に、加持は微笑みながら話した。

加持の言葉を聞き、リツコが訊ねる。

「でも、少しは変わったでしょ?」

「ああ、変わった。葛城がヒールを履くとは思ってもみなかったしな」

ミサトのヒールがあった場所を見ながら、加持が感慨深げに話した。

「学生時代からは想像出来ない?」

リツコはビールを飲み干すと、加持に訊ねた。

「学生時代、か…。あの頃は俺もガキだったし……あれは暮らしって言うより共同生活だったな」

加持は昔を思い出すように、懐かしげに呟いた。

「共同生活ね。……充実してた?」

加持の言葉を聞き、リツコが微笑みながら訊ねた。

リツコの表情を見て、加持も微笑みながら答える。

「それなりにね。…でも、ママゴトだった。現実は甘くないさ」

 

賑やかな雰囲気の中、二人は少しだけ沈黙した。

そして、加持が思い出したように口を開く。

「あ、そうそう。これ、猫のみやげ」

加持はポケットから小さな袋を出し、リツコに手渡した。

「あら、ありがとう。相変わらずマメねぇ」

リツコは袋を受け取ると、中から猫のペンダントを取り出した。

嬉しそうにペンダントを見ながら、リツコは言葉をつなぐ。

「京都、どうだった?」

「長年の恋人と別れてきた。優柔不断が原因でね」

加持は苦笑しながら、リツコの言葉に答えた。

「そう、少しは反省するかしら?」

加持の言葉を聞き、リツコは微笑みながら訊ねた。

「どうかな。向こうは他に男が居そうだし」

「引き際が肝心よ。これは友人としての忠告」

ペンダントを袋に直すと、リツコは加持に忠告した。

加持は苦笑しながら、リツコの言葉を受け入れる。

「忠告、ありがたく頂戴するよ。やっぱり恋人は人がいいからな」

 

「この変態欲情男!人間以外と付き合ってたのね!」

そこへ、ミサトが戻ってきた。

ミサトは右手にビールジョッキを三つ、左手にタコキムチとタコ酢を持っていた。

「ああ、人間の女に飽きた頃にな。でも、今は人間だ」

ミサトの問いに、加持は苦笑しながら答えた。

加持の言葉を聞き、ミサトは軽蔑の目で加持を見る。

そして、諦めたような表情で口を開く。

「鬼畜…。獣(けだもの)…。……変わったわねぇ」

「変わるさ。生きるってことは変わるってことさ」

ミサトの勘違いに、加持は笑いを堪えながら答えるのだった。

 

二人の会話を、リツコは笑いを堪えながら聞いていた。

そして加持の言葉を聞き、笑顔で口開く。

「ホメオスタシスとトランジスタシスね」

「何それ?」

テーブルに手に持った品を置きながら、ミサトがリツコに訊ねた。

ミサトが置いたビールを、それぞれに割り振りながらリツコは答える。

「今を維持しようとする力と、変えようとする力」

そして、自分のビールを一口飲むと、リツコは言葉をつなぐ。

「…その矛盾する二つの性質を、一緒に共有しているのが生き物なのよ」

 

リツコの言葉を聞き、加持は一言だけ話す。

「男と女だな」

 

 

<碇家、玄関>

 

「上がってよ。料理出来てるから」

アスカを笑顔で迎えると、シンジは居間に上がるように言った。

「おっ邪魔しま~す♪」

アスカは楽しそうに靴を脱ぐと、小走りで居間に向かった。

(…石鹸の香りがする。)

アスカが居間に向かった後、シンジは石鹸の匂いを感じた。

どうやら、アスカはお風呂に入ってきたようだった。

 

「わぁ…凄いじゃない、これ!」

居間に来たアスカは、料理の出来に声を上げた。

食卓の上には水炊きがコトコトと音を立て、食欲をそそる匂いを上げていた。

「大したこと無いよ。水炊きって結構簡単だし」

アスカの声を聞き、居間に来たシンジは微笑みながら言った。

「でも、食器は二人分なのね?」

テーブルの食器を見ながら、アスカはシンジに訊ねた。

「うん。父さん、今日は帰ってこないんだ」

少しだけ寂しそうに、シンジは言った。

シンジの言葉を聞き、アスカは顔を真っ赤にした。

そして、少し言葉に詰まりながら口を開く。

「…そ、それって、今夜は二人きりってこと?」

「あっ…」

アスカの言葉にシンジは驚いた表情を見せ、それから顔を赤くした。

 

「ま、まぁ仕方無いわよね。司令は忙しいし」

アスカは顔を赤くしながら、シンジに話し掛けた。

シンジも顔を赤くしながら、アスカに答える。

「う、うん。忙しいから仕方無いよね」

「「アハハ…ハハ…」」

二人は顔を赤くしながら、引きつった笑顔を見せた。

 

((二人っきり……。))と妙に意識しながら…。

 

 

<第三新東京市、飲み屋街の外れ>

 

ミサトと加持はガード下にいた。

リツコは他に行く場所があると言って去り、その場には居なかった。

 

ミサトは飲みすぎて、ガード下で嘔吐していた。

その背中を、加持は擦ってやっていた。

「大丈夫か?」

ミサトの背中を擦りながら、加持が訊ねた。

「え、えぇ…ウップ」

何とか加持に返事をしたものの、もう一度嘔吐するミサトであった。

 

 

三十分後。

加持はミサトを背中に背負って、ミサトの家までの道程を歩いていた。

辺りに人の気配は無く、電灯の明かりが二人を静かに照らしていた。

 

加持がミサトを背負いながら話し掛ける。

「いい歳してもどすなよ」

「悪かったわね。いい歳で」

ミサトは加持の背中に顔を埋めながら答えた。

ミサトの言葉に、加持は苦笑しながら話す。

「歳はお互い様か」

「そうよ」

加持の言葉に、ミサトは短く答えた。

ミサトの言葉を聞いた後、加持は呟く。

「葛城……タコキムチ臭いぞ」

 

(こ、この男、デリカシーに欠けるわね!)

加持の言葉に、ムカついたミサトは口を開く。

「タコキムチ臭い女は嫌い?プハァ~」

そう言って、ミサトは加持に息を吹きかけた。

「キムチくさッ!葛城、頼む!降りろ!」

ミサトの吐息攻撃に、加持は声を上げた。

「ヤーよ。降りてやんなーい♪」

ミサトは楽しそうに、加持の背中にしがみついた。

ミサトの言動に、加持は諦めの表情で`ため息´をついた。

そして、苦笑しながら口を開く。

「まぁ、いいか。どうせ俺達は臭い仲だしな」

「リツコのことも含めて?」

加持の言葉を聞き、ミサトは微笑みながら訊ねた。

ミサトの問いに、加持も微笑んで答える。

「ああ、そうだ。三人とも臭い仲だ」

「三人だったら違うわよ。三人だったら胡散(うさん)臭い仲よ」

そう言って、ミサトは楽しそうに笑った。

ミサトの言葉に、加持は苦笑しながら口を開く。

「なるほどな。確かに」

 

加持は、しばらく沈黙して歩いた。

加持の背中で、ミサトは`何か´を考えている様子だった。

そして、ミサトは真剣な表情で口を開く。

「加持君。…降りる。…降ろして」

ミサトの声が真剣なものに聞こえた為、加持は素直に降ろした。

ミサトはヒールを脱ぎ、裸足で地面に立った。そんなミサトを、加持は優しく見つめた。

そして電灯が照らす中を、二人はゆっくりと歩き始めた。

 

静寂の中、ミサトが口を開く。

「加持君…私、変わったかな?」

「……綺麗になった」

照れ臭いのか、加持はミサトを見ずに答えた。

そんな加持の様子に構うことなく、ミサトは話し掛ける。

「ごめんね、あのとき一方的に別れ話して…。他に好きな人が出来た……って言ったの、あれ嘘。バレてた?」

ミサトの問いに、加持は何も言わなかった。

「加持君と一緒に居ることも、自分が女だということも…何もかもが怖かったの」

ミサトは昔話をしていた。加持との別れたときの昔話を。

そして、ミサトは言葉をつなぐ。

「父を憎んでいた私が、父とよく似た人を好きになる……」

ミサトは自分を卑下するように、嘲(ののし)るような口振りで話した。

「全てを吹っ切るつもりでネルフに入ったんだけど……。…でも、それも父の居た組織」

加持と父親を比べていた自分、その自分の行動すら父の影響が隠せなかったこと。

ミサトは自分の行動が、父の影響のもとにあることを話した。

「結局、使徒に復讐することで、みんなゴマかしてきたんだわ」

話しながら、ミサトは泣き出しそうになっていた。

自分の愚かさに、自分の脆弱さに。

「ただ逃げただけ。父親という呪縛から逃げ出しただけ……。臆病者なのよ」

 

結局、ミサトの言葉に、加持は何も言わなかった。

沈黙して、歩く二人。

 

少し落ち着いたのか、ミサトは微笑みながら話し掛ける。

「ごめんね。ホントに酒の勢いで、今更こんな話…」

「もういい…」

加持は静かにミサトの言葉を遮った。

だが、ミサトは言葉を続ける。

「子供なのね。あの子達に何も言う資格ない」

「もういい」

言葉を続けるミサトに、加持はムッとした表情を見せた。

だが、ミサトは加持の表情を見ない。ただ、自分のことを赤裸々に話す。

「その上に、こうやって都合のいい時だけ男にすがる、ずるい女なのよ!」

ミサトは声を上げた。自分を侮辱する言葉を発しながら。

そして、更に声を上げる。

「あのときだって、加持君を利用してただけかもしれない!嫌になるわ!」

「もういい!やめろ!」

ミサトの声に、加持が声を上げた。

だが、ミサトは感情が高ぶっているのか止めようとしない。

「自分に絶望するわよ!」

 

「やめろ!」

加持はミサトを引き寄せ、自分の唇で強引にミサトの唇を封じた。

「ん……」

ポトリ。

ミサトは手に持っていたヒールを地面に落とした。

そして、空になった両腕で加持を優しく抱きしめた。

 

抱き合い、口づけを交わしながらミサトは思う。

(作戦成功、加持君ゲット~♪)

 

どうやら、先程ミサトの考えていた`何か´はこのことだったらしい。

流石はネルフの作戦部長、その肩書きは伊達ではなかった。

 

 

<碇家、居間>

 

シンジは水炊きを食べ終わった後、居間でくつろいでいた。

昼間のことを考えながら。

 

(僕の力で……母さんを取り戻す。

そうだよね……父さん。……だから、僕は初号機に乗っているんだよね。

でも、どうやったら母さんを……。

地下で見たアレが…関係してるのかな……。)

シンジの思考は整理されていた。

父の言葉、アスカの言葉、これまでの出来事、それらを繋ぎ合わせて結論を導き出そうとしていた。

 

「シンジ、この楽器は?」

そこへ、シンジの部屋を物色していたアスカが、楽器ケースを引きずりながら居間に顔を出した。

アスカの言葉に、シンジは微笑みながら短く答える。

「チェロ」

「ゴーシュが弾いてたやつね」

『セロ弾きのゴーシュ』のことを、アスカは言っていた。

勿論、有名な話なのでシンジも知っていた。

「そうだね」

アスカの言葉に、シンジは短く答えた。

「弾けるんでしょ?何か弾いてくれない」

アスカは楽しそうに、シンジに演奏をお願いした。

「うん、いいよ。」

アスカからチェロケースを受け取りながら、シンジは了承した。

そして、ケースからチェロを取り出しながら、言葉をつなぐ。

「聴きたい曲…。……何かリクエストある?」

シンジの言葉に、アスカは少し考える素振りを見せた。

そして、何かを思いつき口を開く。

「今のシンジが、弾いてみたいのが聴きたいかもしれない」

「そう……」

アスカの言葉に、シンジは静かに話した。

 

そして椅子に腰掛けた後、何を演奏するかを考えながら、シンジは調弦を開始した。

ギー、ギギー、キュ、キュ。

居間の中には、調弦する音が響く。

シンジは音を奏で、一つ一つの音を合わせ調整していく。

そして調弦が終わると、シンジは演奏する準備を完了させ口を開く。

「じゃあ…『調和の幻想』でいい?」

コクリ。

シンジの言葉に、アスカは頷いて答えた。

 

スゥ。

軽く息を飲み込むと、シンジは曲を奏ではじめた。

重く染みわたるように、部屋の中にチェロの音が響き渡る。

シンジの演奏は物悲しく、切なく、何かを訴えかけるような演奏だった。

そして、『調和の幻想』はシンジ演奏のように、物悲しく、切ない曲となっていた。

 

ピタリ。

「ふぅ…」

シンジは演奏を止め、息を吐き出した。

どうやら、シンジの演奏は終了したようだった。

 

パチパチ、パチ。

「思ったよりもイケるじゃない」

アスカが拍手と言葉で、シンジの演奏を誉めた。

シンジは照れ臭そうに、アスカに答える。

「ありがとう…。小学生のときからやってるから」

「継続は力なりね」

感心したように、アスカはチェロとシンジを見た。

「うん。別に嫌いじゃなかったし、誰も止めろって言わなかったから」

「もしかして、今のもそんな気持ちで弾いてたの?」

シンジの言葉を聞き、アスカは少し怪訝な表情で訊ねた。

「ううん、違う。思い出しながら弾いてた」

シンジは少し翳(かげ)りのある表情で、アスカの言葉を返した。

「誰のこと?」

アスカの問いに、シンジは暗い表情で答える。

「……母さん」

「そ、命日だもんね…」

シンジの言葉を聞いた後、アスカは呟いた。

 

シンジの一言で、その場は重苦しい雰囲気になっていた。

シンジは押し黙り、アスカは何を話していいか解らずにいた。

 

そして、アスカが口を開く。

「私、帰る。今日は楽しかったわ」

「僕も楽しかった」

シンジは微笑を見せた。

その微笑を見ながら、アスカはあることを思いついた。

そしてアスカは口を開く。

「……演奏の御礼上げるから、両手出して目を瞑(つむ)って」

「え、あ、うん」

シンジはアスカの言う通りに、目を瞑(つむ)り両手をアスカの前に出した。

 

アスカはシンジの目の前に来ると、体をかがめて顔を頬に近づけた。

カプ。

アスカは唇でシンジの耳を挟んだ。

「あ……」

アスカの行動に、シンジは思わず目を開けて小さく声を上げた。

シンジが目を開けると、アスカは笑っていた。

そして楽しそうに玄関に向かうと口を開く。

「じゃあね♪」

 

一人チェロ片手に椅子に座り、耳を真っ赤にしたシンジは呟く。

「耳が熱いや……」

 

 

 

つづく


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あとがき

タコキムチな展開でした。(笑)

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