シンジはアスカに付き添われ、ゆっくりと歩き始めた。

シンジの腕に、アスカは自分の腕を絡ませた。

今にもシンジが倒れそうだったから。

 

 

 

僕は僕で僕

(66)

 

 

 


 

「何があったのよ?………そんな顔して?」

アスカが心配そうに、シンジの顔を見た。

「…………別に」

深刻な表情で、シンジは一言だけ話した。

シンジの表情を見て、アスカは口を開く。

「話したくないなら、それもいいわ」

シンジと腕を組むアスカは、どことなく照れ臭そうな様子だった。

そんなアスカの様子と違い、シンジは暗い表情で思考する。

(母さんが……生きてる。……エヴァの中で。

………その為に父さんは生きてる。………その為に僕の力が…。

母さんが…エヴァの中で生きてるから……父さんは生きてる。

だから僕は……。)

 

シンジの頭は破裂しそうなぐらいに、同じ思考を繰り返していた。

まるで…答えの無い問題を解くように。

 

 

<第三新東京市、駅近郊>

 

マナは走り出していた。

シンジとアスカの姿を見て、その場から逃げ出すように。

 

(霧島さんじゃないか?……。)

駅近郊の本屋で立ち読みをしていた男が、駅前を走るマナを見かけた。

男は本を棚に戻すと、マナの後を追うように走り始めた。

その男は、ネルフ作戦局所属の『日向マコト』だった。

 

マナは近くの公園まで走ると、走ることを止めた。

疲れなどの所為ではなく、ただ馬鹿らしくなったからだった。

無意味に、逃げ出すように走ることが。

マナは呼吸を整えながら呟く。

「なんだかなぁ……私…」

 

「ハァ、ハァ、…霧島さん、足速いんだね」

しばらくして、日向がマナを追い公園に辿り着き話し掛けた。

日向の姿を見て、マナは不思議そうな顔をして口を開く。

「日向さん?どうしたんです?」

「どうしたって…。走ってる霧島さん見たら、追っかけたくなって……」

息を整えながら、日向は自分がマナを追った理由を話した。

「それで、走って追いかけたんですか?呼び止めてくれれば良かったのに…」

日向の言葉を聞き、マナは少しだけ微笑を見せた。

マナの言葉に考える素振りを見せると、日向は口を開く。

「…なるほど、呼び止めればいいんだよな。……馬鹿みたいだな、俺」

マナの言葉を聞いた後、日向は自分の行動を笑った。

「骨折り損ですね」

日向の笑いにつられるように、マナも少しだけ笑った。

 

昼下がりの公園は、少しだけ穏やかな雰囲気になっていた。

そんな中、日向は微笑みながら訊ねる。

「何で走ってたの?人間は理由が無いと走らないからさ」

「それは……」

日向の言葉に、マナは深刻な表情を見せた。

マナの表情を見て、日向は少し慌てながら口を開く。

「あ、話したくないんならいいんだ。誰にも話したくないことがあるしね」

マナは何かを考えたのか、真剣な表情で日向に話しかける。

「あの…日向さんって好きな人います?」

一瞬、マナの言葉に、日向の表情は硬まった。

そして焦り混じりの表情で口を開く。

「ま、待って!チョット待って!俺には好きな人がいるし、その人を裏切ることは出来ない!」

日向は勘違いをしていた。

マナが自分に告白しようとしているのかと思っていた。

勿論、マナにその気は無い。

 

「は?何言ってるんですか?」

日向の言葉を理解出来ず、マナが訊ねた。

「え?違うの?」

どうやら日向は自分の勘違いに気づいたようだった。

「違いますよ。それに、日向さんは恋愛対象に見えません」

マナはキッパリと、日向の勘違いを否定した。

マナの言葉に、日向は表情をこわばらせながら呟く。

「け、結構キツイこと言うんだね」

 

日向の勘違いに少しだけ微笑むと、マナは口を開く。

「少し、相談に乗ってもらえますか?」

 

 

<碇家、玄関>

 

「もう、大丈夫。……ありがとう」

シンジは玄関の中に入ると、アスカに感謝の言葉を言った。

「別にいいのよ。暇だったし」

シンジの言葉を聞き、アスカは照れ臭そうに微笑んだ。

アスカの微笑を見て少し落ち着いたのか、シンジは話し掛ける。

「アスカは感じる?……弐号機の中にいるとき、何か?」

「……そんなこと考えてたのね」

シンジの問いに、アスカは呆(あき)れた表情を見せた。

そして言葉をつなぐ。

「…自分自身…自分に一番近い感じがする。…そんなところかしら」

自分なりに弐号機に抱いているイメージを、アスカはシンジに話した。

「自分に一番近い……。…そうだね、そうかもしれない」

アスカの言葉を聞き、シンジは静かな微笑を見せた。

 

グゥ~。

唐突に、アスカのお腹の音が鳴った。

その音に、アスカは恥ずかしそうに俯(うつむ)いた。

朝から駅前でシンジを待っていた為、アスカは朝食も昼食も取っていなかった。

 

「僕、お腹空いてるんだ。…良かったら、一緒に食事しない?」

シンジは優しく微笑みながら、アスカを食事に誘った。

コクリ。

顔を真っ赤にしながら、アスカは頷いた。

シンジの誘いを断る理由なんて、アスカには考えつかなかったから。

 

 

<公園>

 

「もしも…好きな人が振り向いてくれなかったら……どうします?」

マナの相談とはシンジに関してのものだった。

「振り向いてくれなかったら…か。……そうだな」

マナの質問に、日向は考える素振りを見せた。

そして何かを思いつき、言葉をつなぐ。

「とりあえず、振り向かせる努力をするな。…自分を磨くなり、その人を支えるなりして」

「支える……」

日向の言葉を、マナは噛み締めるように呟いた。

「悩んでいたら、一緒に悩んで。困っていたら、一緒に困って。……楽しんでいたら、一緒に楽しんで」

ミサトのことを思い出しながら、日向は優しい表情で話した。

「それって素敵ですね」

日向の表情と言葉に、マナは微笑を見せた。

「でも、中々気づいてくれないんだな。これが」

マナの言葉を聞き、日向は苦笑しながら話した。

「気づいてくれますよ。…きっと」

日向を励ますように、マナは微笑みながら話した。

マナの言葉を聞き、日向は微笑みながら答える。

「ありがとう。…あれ、俺が相談受けてるみたいだな」

日向は自分の言動を笑った。

「ホントですね。私が相談してた筈なのに」

日向の笑顔につられるように、マナも少しだけ笑った。

 

日向と話しているうちに、マナの心は落ち着きを取り戻していた。

マナは不思議と穏やかな気持ちになっていた。

 

「何か、悩んでたのが馬鹿らしくなっちゃいました」

少しだけ笑った後、マナは微笑みながら話した。

「ま、深刻ぶるより、明るく振舞っていた方が霧島さんらしいな」

そう言って、日向は笑顔を見せた。

「何ですか、それ。私が馬鹿みたいじゃないですか」

マナは冗談でムッとして見せた。

「ごめん、ごめん。暗く悩むより、明るく悩んだ方がいいと思ってさ」

マナの表情に苦笑しながら、日向は話した。

「明るく悩む……。そうですね、その方が私らしい気がします」

マナは微笑みながら言った。

そして言葉をつなぐ。

「日向さん、ありがとうございました」

「俺は何もしてないよ。霧島さんが自分で結論を出したんだ」

マナの言葉を聞き、日向は優しく微笑んだ。

「そんなこと無いです。日向さんの言葉、覚えてましたから」

日向に答えた後、マナは言葉をつなぐ。

「ホントに、ありがとうございました」

 

穏やかな雰囲気の中、マナは微笑みながら思う。

(支えて、磨いて、振り向かせて……うん、いいかもしれない。)

 

 

<碇家>

 

「ほうれん草のおひたし、サバの塩焼き、貝のお吸い物、白菜のお漬物、御馳走様でした♪」

少し遅めの昼食を食べ終わった後、アスカは微笑みながら口を開いた。

アスカよりも先に食事を平らげたシンジは、同じ食卓に着きデザートのリンゴを剥いていた。

(やっぱり、一人での食事よりも楽しいな……。)と思いながら。

 

「シンジって主夫が向いてるのかもね」

シンジのリンゴを剥く様子に、アスカは微笑みながら話しかけた。

「嫌いじゃないんだ。…料理って」

そう言って、シンジは剥き終わり小さく切ったリンゴを皿に入れた。

そして皿をアスカに見せ、言葉をつなぐ。

「食べない?」

シンジの言葉に、アスカは微笑みながら答える。

「いただきます♪」

 

シンジの剥いたリンゴを、アスカは嬉しそうに食べている。

アスカの様子を眺めながら、シンジもリンゴをかじる。

そんな二人を、午後の日差しが柔らかく照らしていた。

 

「こういったのって……いいよね」

二人で食事をする行為のことを、シンジは素直に心地良いと思い呟いた。

シンジの言葉に、アスカは顔を赤くしながら訊ねる。

「私と……食事をするってことが?」

「ううん、一人じゃないってことが」

そう言って、シンジは微笑んだ。

(こッ、この…馬鹿シンジ!!)

シンジの言葉に、アスカの心は青筋を立てた。

だが、表情はかろうじて微笑んでいた。多少、引きつった微笑だったが。

 

二人はデザートを平らげると、これからどうしたものか?と顔を見合わせた。

そして、アスカが気不味そうな表情で口を開く。

「私、帰るわね。…今日は御馳走様」

そう言って、アスカは食卓から立ち上がった。

「別にいいよ。二人での食事って楽しかったから」

シンジも立ち上がり、アスカに微笑みながら話した。

「楽しかった?……ホントに?」

シンジの言葉に、アスカは嬉しそうに訊ね返した。

アスカの問いに、シンジは微笑みながら答える。

「うん、楽しかった…」

 

シンジの言葉を聞き、アスカは嬉しそうに微笑みながら玄関に向かった。

そして、靴を履きながら口を開く。

「今晩にでも一緒に食事する?」

「へ?」

アスカの言葉に、シンジは素っ頓狂な声を上げた。

シンジの声に、アスカは微笑みながら話す。

「ミサト、今日は結婚式で帰りが遅いって言ってたから…私が一緒に食事をしてあげる」

「えぇぇぇ?!」

アスカの言葉に、シンジは驚声を上げた。

「嫌なの?」

シンジの声を聞き、アスカは少しムッとした表情で口を開いた。

「あ、いや、別に……でも、父さんが…」

シンジは驚きを隠せず言葉に詰まりながら、アスカの好意を遠慮しようとした。

だが、シンジの言葉を遮るように、アスカが話し掛ける。

「司令がいても、私は構わないわ。食器も三人分あるみたいだし」

「そ、そう」

シンジは戸惑いながらも、アスカの言葉を了承した。

シンジの言葉を聞き、アスカは楽しそうに口を開く。

「じゃ、またね」

「じ、じゃあ…」

シンジは引きつった笑顔で手を振るのであった。

 

「ハァ~」

アスカの去った後、シンジは`ため息´をついた。

別にアスカのことが嫌いでは無いが、今日ぐらいは一人で考えたいことがあったからだった。

考えても答えの出ない、自宅に帰り着くまで考えていた問題を。

 

そして、シンジは今晩の食事のことを考えた。

(…三人分の食事か。……三人分?……三人分の食器?)

シンジは何かを疑問に思った。

以前に感じたことのある、不可解な疑問を。

「あっ……」

シンジは気がついた。不可解な疑問の答えを。 

そして、以前にゲンドウから聞いた言葉を思い出す。

「わからないのか?」

 

思い出した後、シンジは呟く。

「わかったよ……父さん…」

 

 

 

つづく


(65)に戻る

(67)に進む

 

あとがき

砂糖の入れ過ぎな展開でした。(笑)

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル