<夜、リツコ宅>

マナは自室で考えていた。

シンジのことを。

 

 

 

僕は僕で僕

(65)

 

 

 


 

「デート…か……」

ベットにうつ伏せになりながら、マナは呟いた。

 

シンジとの屋上での会話後、マナはヒカリに言った。

デートをする、と。

半分は勢いで決めた為、マナには未だ迷いがあった。

 

「なんだかなぁ……」

そう言って、マナは枕に顔をうずめた。

そして思う。

(…シンジ君のバカ。……鈍感。……グズ。

………ホントにデートしちゃうんだから…。……ホントに。)

 

「ただいまぁ」

マナが考えていると、玄関からリツコの声が聞こえてきた。

 

パンッ。

リツコの声を聞き、マナは体を起こして頬を軽く叩いた。

そして笑顔を作り、リツコへと声を上げる。

「おかえりなさーい」

 

 

<リツコ宅、居間>

 

「ご飯出来てますよ」

リツコの帰宅を確認すると、マナは微笑んで話しかけた。

「ごめんなさい。今日は、いいわ。外で済ましてきたから」

手に持っていた買い物袋をテーブルに置くと、リツコは微笑んで答えた。

「う~ん、残念。結構いい出来だったんですけど…」

そう言って、マナは残念そうな顔を見せた。

「明日の朝にでも頂くことにするわ。あ、そうそう……はい、これ」

マナに答えると、リツコは買い物袋の中から一着の洋服を取り出した。

 

「わぁ…白いワンピース。これ……私にですか?」

リツコから洋服を受け取り、マナは嬉しそうな顔をしながら訊ねた。

「勿論。霧島さんに似合いそうだと思ってね」

マナの喜ぶ顔を見て、リツコは優しい笑顔で答えた。

「……ありがとうございます」

リツコの言葉と思いに、マナは洋服を抱きしめながら感謝の言葉を言った。

マナの言葉に、リツコは少しだけ微笑んだ。

そして自室に戻りながら、リツコは口を開く。

 

「明日はネルフに泊まるから…先に寝てなさい」

リツコの表情には、どことなく翳(かげ)りがあった。

 

 

<ミサト宅>

 

「え、シンジも明日出掛けるの?」

アスカは居間でテレビを見ていたが、ミサトの言葉に思わず体を起こした。

「そ、私達は結婚式、シンジ君達は墓参り。冠婚葬祭とは良く言ったもんよね」

ミサトはラフな格好に着替えながら、アスカの言葉に答えた。

 

だが、ミサトの言葉は、アスカには届いていなかった。

アスカは不敵な笑みを見せながら呟く。

「チャ~ンス」

 

「ん、何か言った?」

着替え終わると、ミサトは冷蔵庫からビールを取り出しながら訊ねた。

「別にぃ~」

どことなく楽しそうに言葉を返すアスカであった。

そして言葉をつなぐ。

「明日、私も出掛けるわね♪」

 

 

<碇家、居間>

 

「…ごちそうさま」

シンジは一人で食事を済ませると、静かに口を開いた。

一人で食事をすることに、シンジは慣れ始めていた。

多忙なゲンドウと、一緒に食事をすることは極稀であった為である。

 

カチャ。

食器を流し台に置くと、シンジは少しの間だけ思考する。

(……母さんの墓参りか。

実感無いな……。母さん、か…。)

 

シンジが考えていると、そこへ電話が鳴った。

シンジは小走りに受話器を取った。

「はい、碇です」

-シンジ。…私だ。-

電話をかけてきたのはゲンドウだった。

「父さん、どうかしたの?」

-今日は戻らない。…明日、直接来い。-

ゲンドウは墓参りの場所へ、シンジに直接向かうように伝えた。

「……うん、わかった」

ゲンドウの言葉に、シンジは静かに答えた。

少しの沈黙の後、ゲンドウが話し掛ける。

-明日、十年前の話をする……。-

 

プツ、ツー、ツー、ツー………。

そう言い残し、ゲンドウは電話を切った。

 

電話が切れたのを確認すると、シンジは受話器を置いた。

そして呟く。

「明日……。明日……」

 

 

<青葉宅、居間>

 

青葉はギターを手にして一段落していた。

レイは自室でパジャマに着替えていた。

 

「明日、ネルフに行きます…」

レイはパジャマに着替えた後、居間に来て青葉に話しかけた。

レイの言葉に、青葉はギターのチューニングの手を止め答える。

「ああ、聞いてるよ。司令に呼ばれてるんだって?」

「はい……」

青葉の言葉に、レイは短く答えた。

「レイちゃんは、知ってるのかい?なんで呼ばれたか?」

「いえ、知る必要…無いから……」

 

レイの言葉に、青葉は何か考える素振りを見せた。

そして呟く。

「そうか…。知らないんだ……」

呟いた後、青葉は思う。

(ダミーか……。そうだな…知らない方がいいよな。……知らない方が、うん。)

 

 

<翌日、結婚式>

 

ミサトとリツコは結婚式に来ていた。

長々とした祝辞、友人達からの贈る歌、結婚式は滞りなく進んでいた。

 

「来ないわね、リョウちゃん」

リツコが加持の空席を見て、ミサトに話しかけた。

リツコとミサトは丸テーブルにつき、結婚式の雰囲気の中にいた。

「あのバカが時間通りに来た試しなんて、いっぺんも無いわよ」

ミサトは加持の席札を見ながら、札をフッと吹き飛ばした。

「あら、仕事の時は遅れたこと無いわよ。ミサトの時だけじゃないの?」

ミサトの言葉に、リツコは微笑みながら答えた。

 

「いや、お二人とも、今日は一段とお美しい。時間までに仕事抜けらん無くてさ」

歯の浮くような台詞と言い訳を口にしながら、加持はミサト達の席に座った。

「どーでもいいけど、何とかならないの?その無精髭。あ、ほら、ネクタイまがってる」

加持の到着を悪態で歓迎すると、ミサトは加持のネクタイを直してやった。

「そうしてると、夫婦みたいね」

ミサトの行動に、リツコは思わず冷やかした。

 

ギュッ。

「え?」

リツコの言葉に、ミサトは思わず顔を赤らめた。

そして言葉をつなぐ。

「な、なにバカ言ってんのよ!」

 

ミサトの言葉を聞き、リツコは冷静に言葉を返す。

「加持君、死ぬわよ」

 

ミサトにネクタイを力強く締められ、加持は落ちる寸前であった。

 

 

<第三新東京市、墓地>

 

「……母さん」

シンジが呟いた。

 

英語で『碇 ユイ』と刻まれた墓標の前に、シンジはいた。

そして、その背後にはゲンドウが立っていた。

 

「初めてだな…ここに二人で来るのは」

シンジの背中を見ながら、ゲンドウが話しかけた。

「うん…。……怖かったんだ。…父さんに会うの」

シンジは墓標を見つめながら、ゲンドウに答えた。

シンジの言葉に、ゲンドウは何も言わず、ただ墓標を見つめた。

 

そして、ゆっくりと口を開く。

「十年前、ユイは我々の前から消えた。…死んではいない、消えた。……それだけだ」

 

「!」

ゲンドウの言葉を聞き、シンジはある女性の言葉を思い出した。

「……そして、その目で見ているの。彼女がエヴァに取りこまれる様子を…」

赤木ナオコの言葉だった。

 

そして、シンジは驚いた表情で振り返った。

シンジの表情を見て、ゲンドウは静かに口を開く。

「驚く必要は無い。……その為に私は生きてきた」

「消えたって……取り込まれたってことなの?!答えて、父さん!」

冷静なゲンドウの様子に、シンジは声を上げて問い詰めた。

「覚えていたのか…」

シンジの言葉に、ゲンドウは少しだけ驚いた表情を見せ呟いた。

だが、表情を直ぐに隠し言葉をつなぐ。

「そうだ。……ユイは取り込まれた。……未だ初号機の中で生きている」

 

「そんな……」

ゲンドウの言葉に、シンジは呆然とした表情を見せた。

シンジが呆然としていると、そこへネルフのヘリが到着した。

どうやら、ゲンドウを迎えにきたらしい。

 

ヘリが到着したのを確認すると、ゲンドウは口を開く。

「理解しろとは言わぬ。だが、お前の力が必要だ。……それだけだ」

そう言って、ゲンドウはヘリに乗り込んだ。

シンジが呆然とした顔でヘリを見ると、その中にはレイが座っていた。

「綾波…レイ……。」

シンジの呟きと共に、ヘリは上昇を開始した。

上昇するヘリを見つめながら、シンジは思う。

 

(僕の力が………。)

 

 

<第三新東京、駅>

 

シンジは混乱する意識の中で、どうにか駅まで辿り着いた。

父の言葉を、少しでも理解しようとしながら。

 

「シ~ンジ♪」

駅の出口まで来ると、シンジは誰からか声を掛けられた。

だが、シンジの耳には届かなかった。

父の言葉を、深く考えていたからだった。

 

「こらッ!バカシンジ!」

今度は大声で、シンジは呼び止められた。

「え?誰?」

シンジが声の方を向くと、そこにはアスカが立っていた。

私服の姿で、まるでデートに行く為の格好をして、アスカが立っていた。

 

「アスカ……デート?」

アスカの姿を見止め、シンジが話しかけた。

「べ、別にそんなんじゃないけど…。暇だから、誘われてもいいかな~って思って…」

恥ずかしそうに顔を赤くしながら、アスカは言葉を返した。

「そう…。でも、ごめん。……そんな気分じゃないんだ」

シンジは暗い表情を見せ、アスカに話した。

「……何かあったの?」

シンジの表情を見て、アスカが心配そうな表情で訊ねた。

「何か……。そう、何か……。でも、何が何だか……」

シンジは独り言のように呟いた。

 

「何言ってんの?アンタ、大丈夫?」

シンジの顔を覗き込むようにして、アスカは訊ねた。

「…うん、大丈夫。……大丈夫、きっと」

混乱しているのか、シンジは言葉の意味が解らないことを、アスカに呟いていた。

シンジの言葉を聞き、アスカは`ため息´をついた。

そして口を開く。

「いいわ。シンジの家まで付き合ってあげる。…何か心配だしね、アンタ」

 

無論、アスカの顔が赤くなっていたのは言うまでも無い。

 

 

<駅、近郊>

 

マナはデートの途中で帰って来てしまっていた。

理由は、あまりにも自分と違うと感じたからだった。

そんな理由で、白いワンピース姿で駅の近郊を歩いていた。

 

(……ホントに普通の学生だった。

使徒のことなんかと、全然無関係で…学生気分で……。

私にも染み付いちゃったのかな……戦闘の匂い。……血の匂い。)

 

そんなことを考え、歩きながら思考するうちに、マナは気づいた。

なぜ、自分が普通の男の子に恋愛感情を持てなかったのかを。

 

(あの子達は、平和の中で生きる喜びを楽しんでる。

でも、シンジ君……ううん、私達は違う。

戦いを終えた後、生きる喜びを噛み締めてる。……どうしようもないぐらいに…生きる喜びを。)

そう思ったあと、マナは小さく微笑んだ。

 

「!」

思考を終え、辺りを見回すとマナは驚いた。

シンジとアスカが、腕を組んで歩いていたからだった。

その様子を見た後、一粒の涙がマナの頬をつたった。

マナは半笑いのような泣き顔で呟く。

 

「何、泣いてんだろ…私………」

 

 

 

つづく


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あとがき

話が複雑になってきてます。理解出来ない所は指摘して下さい。
加筆と修正で調整したいと思います。

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