ネルフのヘリコプターが、芦ノ湖上空を飛んでいた。

ヘリは第十使徒の衝撃で出来た、第二芦ノ湖を経由して飛んでいた。

そのヘリ内には、ゲンドウと冬月が何かしらの会話をしていた。

 

 

 

僕は僕で僕

(64)

 

 

 


 

「ナオコ君は相変わらず松代か?」

ヘリの中で、冬月がゲンドウに話しかけた。

「ああ、彼女は良くやっている」

冬月の言葉に、ゲンドウは短く答えた。

ゲンドウの言葉に、冬月は少しだけ微笑むと口を開く。

「彼の件はいいのか?京都に行ってるらしいぞ」

「好きにさせておくさ。……彼はこちら側だからな」

そう言って、ゲンドウはニヤリと笑った。

 

ヘリが芦ノ湖を通過すると、ゲンドウはシンジへかけた言葉を思い出した。

「今回、良くやったな……シンジ」

 

「フッ……」

思い出した後、ゲンドウは少しだけ笑った。

 

 

<京都>

 

(十六年前……全てはここからだ。)

京都のとある廃屋の中に、加持はいた。

加持の目的は、マルドゥック機関を確認する為だった。

 

ピクッ。

加持は人の気配を感じたのか、壁際に身を寄せた。

そして懐に手を入れ、護身用の銃を掴んだ。

(あの男……。)

廃屋の扉の隙間から覗き込み、加持は男を確認した。

 

外では四十を過ぎた辺りの女性が、野良猫に餌をやっていた。

加持はその女性を見て、`見知った男´と確認した。

女性の姿をした男を見て、加持は苦笑しながら思う。

(手が込んでるな……相変わらず。)

 

「マルドゥック機関と繋がる108の企業のうち、106がダミーだったよ」

女性の姿をした男が、加持を見ずに口を開いた。

加持は扉の隙間から答える。

「ここが107個目というわけか…」

「この会社の登記簿だ」

男が加持に書類を差し出した。

加持は登記簿に目を通して思う。

(……なるほどねぇ。…知った名前が多いな。)

 

「貴様の仕事はネルフの内偵だ。マルドゥックに顔を出すのはまずいぞ」

男が加持を威圧するような口振りで話した。

「心配無いさ。…内偵はここまでだ」

加持は微笑みながら、男に話した。

「何?……どういうことだ?」

男が背を向けたまま、加持に訊ねた。

加持は静かに微笑みながら話す。

「日本政府とは手を切る。……首相に伝えといてくれ、『煮え切らない男は捨てられる』ってな」

「ま、待て!」

加持の言葉を聞き、男が声を上げた。

男は扉を開け加持の姿を追ったが、既にその姿は消えていた。

 

加持は廃屋を一目散に逃げ出し、人通りの多い歩行者道路に来ていた。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

加持は息を切らしていた。

加持程の男が息を切らすほど、先程の状況は切迫していたのだろう。

息を切らしながら、加持は思う。

(副司令……貴方の言葉は正しかった。

マルドゥック機関。

エヴァンゲリオン操縦者選出のため設けられた、人類補完委員会直属の諮問機関。

そして、その組織の実態は………。)

 

思考しながら呼吸を整えると、加持は微笑を見せた。

そして口を開く。

「…はじまりか」

 

 

<学校、2-A廊下>

 

学校は下校前の掃除時間だった。

その掃除時間の中、マナは廊下を箒(ほうき)で掃除していた。

「霧島さん、ちょっといい?」

そこへ、ヒカリが話しかけた。

「何?」

「明日、暇?」

「うん、暇だと思うけど…。それが、どうかしたの?」

 

マナの言葉を聞き、ヒカリは考え込んだような表情で口を開く。

「デートして欲しいの」

 

「なッ!」

ヒカリの言葉に、マナは驚いた表情を見せた。

そして、ヒカリを見つめながら呟く。

「洞木さんって、ノーマルだと思ってたのに……」

「え?」

今度はヒカリが、マナの言葉に驚いた表情を見せた。

 

どうやら、二人は勘違いしているようであった。

ヒカリは妹のノゾミから頼まれ、妹の友人がマナとデートしたいことを告げたつもりだった。

だが、マナはヒカリ自身がデートを頼んだと思っていた。

 

 

<学校、2-A教室>

 

数分後。

教室ではトウジがシンジに向かって叫んでいた。

「ワシのこの手が光って唸る!シンジを倒せとかッ!」

ボカッ。

突然、トウジの叫びが途中で遮られた。

「鈴原!真面目に掃除しなさいよ!」

トウジの後頭部を、ヒカリが箒(ほうき)で殴ったのであった。

ヒカリの攻撃に、トウジが声を上げて反抗する。

「痛いやないかい!決め台詞やったのに!」

「決め台詞も、お約束も無いの!今は掃除時間でしょ!」

正論を言ったヒカリは、トウジに反論の余地を無くさせた。

「うっ、しゃあない。続きはまた今度や」

トウジは渋々とヒカリから箒(ほうき)を受け取るのであった。

 

そんな二人を見て、シンジが微笑みながら話す。

「何か、お似合いだね」

 

ボッ。

シンジの言葉を聞き、二人の顔は火がついたように赤くなった。

「こ、こらッ、何言うんじゃ!」

「そ、そうよ!」

二人は顔を赤くしながら、シンジへ抗議した。

「あはは、ごめん。でも、二人はお似合いだと思うよ」

シンジは笑いながら、窓際へと視線逸らした。

 

ギュッ。

窓際では、レイが雑巾をバケツから取り出して絞っていた。

窓から入る昼過ぎの強い日差しを受け、レイの姿は少しだけ輝いて見えた。

 

「綾波…」

その光景に、シンジは思わず呟いた。

 

「シンジ君、話があるんだけど……」

シンジがレイを見つめていると、不意に話し掛けられた。

「え、あ、何?」

シンジは声が聞こえていなかったのか、訊ねながら声の方を見た。

そこにはマナがいた。

「あのね、少しだけいいかな?」

「え、今?」

「うん…」

マナは真剣な表情でシンジに話した。

「…わかった。委員ちょ……?」

シンジは掃除を抜けるので、委員長に話し掛けようとした。

だが、途中で言葉を止めた。

顔を真っ赤にしてギクシャクとロボットのように掃除をする、ヒカリの姿が目に入ったからだった。

その近くでは、トウジがヒカリと同じようにして掃除をしていた。

 

「まぁ、いいや。……行こ、マナ」

「うん…」

二人の行動を見て話し掛けることを諦めたシンジは、マナの後について行った。

 

 

<学校、屋上>

 

シンジとマナは屋上に来た。

屋上には人の気配は無く、ただ青空が広がっていた。

 

「話って、何?」

屋上に着くなり、シンジはマナに訊ねた。

「うん……。……シンジ君、覚えてる?前にここで話したことがあるの?」

以前、シンジに呼び出されて屋上で会話したことを口にした。

「覚えてるよ。……あの時はマナに怒られたよね」

そう言って、シンジは微笑みを見せた。

 

「もういい!わかった!シンジ君!だから死ぬなんて言葉は言わないで!」

以前、マナがシンジに言った言葉である。

 

「怒ったんじゃない……お願いしたんだよ」

そう言って、マナは屋上の手すりから下を覗いた。

「どうしたの?……何かあったの?」

マナの様子がいつもと違うと感じ、シンジは声をかけた。

「あのね…。洞木さんにね、頼まれちゃった。……明日、知り合いの子とデートしてって」

シンジの方を向くことなく、マナは話した。

「そう…」

シンジは別に興味が無いといった感じだった。

「シンジ君は…私が他の人とデートしてもいいの?」

シンジの方を振り向き、マナは訊ねた。

マナの言葉に、シンジは口を開く。

「別にいいんじゃないかな?……マナが良ければ」

 

「バカッ!」

パンッ!

シンジが話した途端、マナは頬を引っ叩いた。

そして、屋上から駆け去った。

一人残ったシンジは、叩かれた頬を抑えながら呟く。

 

「泣いてたの?マナ……」

 

 

<数時間後、ネルフ実験室>

 

子供達はシンクロテストの為、ネルフに来ていた。

無論、誰一人欠けることなく。

 

「霧島さんのシンクロ率、この前より下がってるわね」

「はい、何かあったんでしょうか?」

JAのデータを見ながら、リツコとマヤは会話をしていた。

「色々あるんじゃない?思春期だし」

二人の会話を聞き、ミサトが微笑みながら口を開いた。

「じゃあミサトが使徒に説得してくれる?『思春期ですので、手加減して下さい』って」

ミサトの言葉に、リツコは冗談混じりに話した。

「使徒って人間の言葉を理解するんですか?」

リツコの言葉を聞き、マヤが真剣な表情で訊ねた。

 

マヤの問いに、リツコとミサトは声を揃えて答える。

「「冗談よ」」

 

思わず声を合わせた二人は、顔を見合わせ少しだけ笑った。

そして、リツコが口を開く。

「明日、何着ていくの?」

「あぁ、結婚式ね。ピンクのスーツも、紺のスーツも着ちゃったし…」

リツコの言葉に、ミサトは考える素振りを見せて呟いた。

「オレンジのは?最近着てないじゃない」

子供達のシンクロデータを確認しながら、リツコが訊ねた。

「……そんなの持ってたっけ?」

リツコの言葉に、ミサトはとぼけた表情を見せた。

「キツイのね…」

「ストレスでしょうか?」

「ストレス?図太さを絵に描いたような人が?」

ミサトに聞こえるように、リツコとマヤは会話をした。

「聞こえてるわよ、あんた達」

二人の会話に、青筋を立てるミサトであった。

 

「霧島さん、もう少し深く集中してみて」

ミサトを怒気をすり抜けるように、リツコはJAのモニターに話しかけた。

-はい………。-

どことなく沈んだ感じの声で、マナは返事をした。

マナの声を聞き、リツコは何かを考える素振りを見せた。

そして口を開く。

「……シンクロ率は?」

「依然、変化ありません」

「そう。……今日はこのぐらいにしておきましょう。マヤ、後のこと頼むわね?」

マヤの報告を聞き、リツコはテストの終了を決断した。

そして、ムスッとしているミサトを見て、リツコは苦笑した。

 

後のことを頼まれたマヤは、リツコに訊ねる。

「どこに行かれるんですか?」

リツコは楽しそうに微笑んで答える。

「太ったシンデレラの為に、ドレスを買いに行くのよ」

 

リツコの言葉に、ミサトが声を上げる。 

「誰が太ったってのよ!」

 

 

<ネルフ、エレベーター内>

 

テストを終えたシンジは、レイと共にエレベーターの中にいた。

レイはシンジに背を向け、シンジはレイの背中を見ていた。

 

「………明日、父さんと出掛けるんだ」

ポツリと、シンジが呟いた。

だが、レイは返事を返さず沈黙している。

そんなレイに構うことなく、シンジは言葉をつなぐ。

「綾波は…知ってるの?……父さんが何を考えているか?」

「知らない……」

レイは静かに、そして短く答えた。

「そう……」

レイの言葉に、シンジは小さく返事を返すだけだった。

「それが聞きたくて、昼間から私を見ていたの?」

シンジの方を向かずに、レイは訊ねた。

「………ううん、違う」

シンジは俯(うつむ)きながら、レイに返事をした。

 

シンジは昼間からレイを見ていた。

それは、レイに聞いてみたかったからだった。

シンジが地下で見たものが、なぜ……………。

だが、シンジは聞けなかった。

誰にも口外するなと、ゲンドウから口止めされていたからだった。

 

レイに昼間の事を聞かれ、シンジは`あること´を思い出した。

そして、口を開く。

「掃除のときさ、今日の。……雑巾、絞ってたろ。…あれってなんか、お母さんって気がした」

「……お母さん」

シンジの言葉を、レイは繰り返すように呟いた。

レイの呟きが聞こえなかったのか、シンジは話し掛ける。

「案外、綾波って主婦とかが似合ってたりして」

 

シンジの言葉に、レイは頬を桜色に染め呟く。

「何を言うのよ…」

 

 

 

つづく


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あとがき

終わる可能性、終わらない可能性。
頭の中は豆腐状態。落ちたらベチャッと潰れます。(苦笑)

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