綾波レイは感じていた。

何かを感じていた。

頭の中に訴えてくる何かを………レイは感じていた。

 

 

 

僕は僕で僕

(63)

 

 

 


 

<ネルフ、第一回機体相互互換試験>

 

レイは初号機の中にいた。

初号機とレイがシンクロするかを試験する為に。

 

初号機の中でレイは感じている。

何かを……。

 

 

<レイの思考>

 

山……重い山。時間をかけて変わるもの…。

空……青い空。目に見えるもの……目に見えないもの。

太陽……一つしかないもの。

水……気持ちのいいこと。……碇君?

花……。同じものがいっぱい……いらないものもいっぱい。

空……。赤い、赤い空……夕陽の空。赤い色……嫌いじゃない。

 

流れる水…。

 

血……血の匂い。血を流さない女。

赤い土から造られた人間……男と女から造られた人間。

街……人の造り出したもの。

エヴァ……人の造り出したもの。

 

人は何?

神様が造り出したもの?

人は人が造り出したもの?

 

私にあるものは命。……心。心の容れ物……エントリープラグ。

それは、魂の座。

 

これは誰?……これは私。

私は誰?私は何?私は何?私は何?私は何?

 

私は自分……碇君が教えてくれた自分。

この物体が自分……自分を作っている形。

眼に見える私……でも私が私でない感じ。……とても変。

体が溶けていく感じ……私がわからなくなる。……私でない人を感じる。

 

誰かいるの?この先に?

 

碇君?

 

この人知ってる…。葛城三佐、赤木博士……みんな。

クラスメイト。……弐号機パイロット……JAパイロット。

 

碇司令?

 

あなた、だれ?あなた、だれ?

あなた………だれ?

 

 

<初号機、エントリープラグ内>

 

思考を一通り終えると、レイは目を見開いた。

そして呟く。

「碇君の匂いがする……」

 

 

<実験室>

 

実験室ではレイの様子を逐次モニターしていた。

実験室には、リツコ、マヤ、ミサトが顔を揃えていた。

 

「数値の方はどう?」

マヤのモニターを覗き込みながら、リツコが訊ねた。

「起動数値ギリギリです。……この数値では使えませんね」

起動はするが戦闘には不適当と、マヤはリツコに告げた。

「…そう。…起動すれば充分よ」

リツコは少し冷めた表情でマヤに答えた。

 

リツコの言葉に、マヤは怪訝の表情を見せながら思う。

(ダミーシステム………。)

 

マヤが思考していると、モニターからシンジの声が聞こえてきた。

-準備できました…。-

 

「あ、少し待ってね。一度レイちゃんを上にあげるから」

シンジの声を聞き、マヤは気を取り直して返事をした。

-はい、わかりました。-

プツ。

そう言って、シンジからの通信は切れた。

 

シンジの通信が切れた後、マヤは少しの間考える。

(……私が悩んでも、どうにもならない。

……実験は進むし、時間は過ぎる。……そんなものよね。)

 

そしてマヤは普段の表情で、リツコへと声を上げる。

「初号機パイロット、準備完了とのことです」

 

 

<弐号機、プラグ内>

 

機体相互互換試験は、零号機と初号機だけであった。

弐号機とJAは機体連動試験を行うことになっていた。

 

-弐号機、起動しました。異常無しです。-

アナウンスが、弐号機の起動に何の問題も無いことを告げた。

機体連動試験とは起動テストと同じ意味であった。

 

「あったりまえでしょ」

いかにも当然といった表情で、アスカは口を開いた。

 

-アスカ、聞こえてる?-

アスカがムッとした表情をしていると、プラグ内にマナの声が聞こえてきた。

「聞こえてるわよ。マナの方は起動したの?」

マナの声を聞き、アスカが訊ねた。

-うん。-

アスカの問いに、マナは短く答えた。

 

マナの言葉の後、アスカは少しだけ沈黙した。

そして、何かを考えるように口を開く。

「この試験…何で初号機と零号機だけなのか……。マナ、知ってる?」

-………知らない。-

少しの間の後、マナは言葉を返した。

「そ、ならいいわ……」

呟いた後、アスカは弐号機のプラグ内で目を閉じた。

 

そして思う。

(私達は知らない。………違う、知らされない。)

 

 

<実験室>

 

「弐号機、JA、共に起動しました。異常無し、との報告です」

別の実験室で行われている実験経過を、マヤがリツコに告げた。

 

「パーソナルパターンって、零号機と初号機だけが似てるのね」

弐号機とJAのデータを見ながら、ミサトが呟いた。

「だからシンクロ可能なのよ」

ミサトの呟きを聞き、リツコが答えた。

 

リツコの言葉を聞き、ミサトは真剣な表情でリツコに訊ねる。

「今回の試験、誰の提案?」

「上層部よ」

リツコは零号機のモニターを見ながら答えた。

「碇司令?」

上層部の人間で心当たりのある人物を、ミサトは例えに出した。

 

「………」

だが、ミサトの問いに、リツコは沈黙で答えた。

リツコの沈黙する表情を、ミサトは怪訝な表情で見つめていた。

 

 

<零号機、プラグ内>

 

シンジは零号機内にいた。

多少緊張しながら。

 

-若干の緊張が見られますが、神経パターンに異常無し。-

マヤの声が、零号機を格納した施設に響いた。

 

-さすがに他のエヴァに乗ったら緊張するのね。-

アスカの声が、シンジの乗ったプラグ内に響いた。

「うん、少し…」

アスカの言葉に、シンジは淡々とした表情で言葉を返した。

-シンジ君、零号機に集中して。-

プラグ内にリツコの声が聞こえてきた。

 

リツコの言葉を聞き、シンジは零号機に集中した。

いつも初号機に集中するのと同じように。

 

そして、シンジは静かに呟く。

「綾波の匂いがする……」

 

-何が匂いよ。変態じゃないの?-

-アスカ、それ言い過ぎだよ。-

零号機のプラグ内に、アスカとマナの話す声が聞こえて来た。

-二人とも、少し静かにして頂戴。シンジ君が集中できないわ。-

二人の声に、ミサトが注意を促(うなが)した。

-何よ、シンジばっかり。-

-ごめんなさい、回線切ります。-

プツ。

そう言って、アスカとマナの回線は切れた。

 

アスカとマナが回線を切ったが、シンジは気づかなかった。

シンジは深く集中していたからだった。

 

数分後。

集中してたシンジが、唐突に口を開く。

「ッ!何だこれ?…。あ、頭に入ってくる……。直接、何か……」

頭を左手で押さえ込むようにし、シンジは言葉をつなぐ。

 

「あ、綾波?…綾波レイ?綾波レイだよな……この感じ…」

 

 

<シンジの意識>

 

シンジが呟いた後、意識の中にレイの姿が入った。

裸の少女、だがまだ幼さの残る少女、レイと思われる少女の姿が。

 

その少女はシンジの意識に接近している。

まるで意識の海を泳いでいるように。

そして、その少女がシンジの意識に最接近すると、ニヤッと笑った。

不気味と感じられるほどの笑顔で。

 

その少女の笑顔を見ても、不思議とシンジの意識は恐怖に怯えなかった。

それどころか、恐怖と違うものを感じていた。

深い悲しみを、寂しさが漂う悲しみを。

 

少女の笑顔を見つめながら、シンジの意識は呟く。

「泣かないで……僕も君と同じだから…」

 

「僕も…悲しいから……寂しいから」

 

 

<実験室>

 

「凄いわ…。…初号機と変わらない数値を出すなんて」

零号機のモニターを見ながら、リツコが驚きの表情で呟いた。

「先輩……この試験、やはりダミーシステムですか?」

リツコの表情と違い、マヤは沈痛とも言える表情で話し掛けた。

「ええ、備えは必要よ。人が生きていく為にはね」

リツコは冷たいとも取れる表情で答えた。

 

リツコの言葉に、マヤが口を開く。

「先輩を尊敬してますし、自分の仕事はします。でも、納得は出来ません」

「潔癖症はね、辛いわよ。人の間で生きていくのが…」

マヤのことを指摘しているのか、リツコはそう答えた。

「………」

リツコの言葉に、マヤは顔を背けるようにして俯(うつむ)いた。

 

リツコは冷たい表情のまま、言葉を続ける。

「汚れたと感じたときにわかるわ、それが……」

 

 

<零号機、プラグ内>

 

シンジは目を開けた。

そして、虚ろな表情で呟く。

「綾波…レイ……。僕と同じなの?……」

 

「!」

呟いた後、シンジは自分の言葉に驚きの表情を見せた。

そして思う。

(同じ……僕は同じって言ったの?!

僕と綾波が同じ!?……………何で…そんな言葉を。)

 

シンジは自分の言葉を理解出来なかった。

だが、正確に言うと違う。

 

深層心理下の自意識を、シンジは理解出来なかった。

 

 

<数時間後、司令室>

 

パチッ。

冬月は将棋盤に桂馬を指していた。

 

「赤木君の件は問われずか…」

冬月が詰め将棋の本を読みながら、側にいたゲンドウに訊ねた。

「こちらも問わなかった。……暗黙の了解ということだ」

ゲンドウは両手を組しながら、冬月に答えた。

「だからと言って、何も手を出してこないとも限らんぞ。……今、ゼーレが動くと面倒だ、色々とな」

視線をゲンドウに向けることなく、冬月は話した。

冬月の言葉に、ゲンドウは静かに答える。

「切り札は全てこちらが擁している。彼らは何もできんよ」

 

沈黙する二人。

そして、冬月がゲンドウに話し掛ける。

「アダム計画はどうなんだ?」

「順調だ。2%も遅れていない」

「ロンギヌスの槍は?」

「予定通りだ。作業はシンジが行っている」

会話を進める二人の言葉に、シンジの名が口にされた。

 

シンジの名を聞き、冬月は呟く。

「シンジ君か……。…あれを見て、なんと言うかな」

 

 

<セントラルドグマ>

 

シンジは初号機に乗り、深層部にあるターミナルドグマへと向かっていた。

長く巨大なトンネルを通りながら。

初号機は手にロンギヌスと呼ばれる槍を持っていた。

 

初号機の中でシンジは思う。

(父さん……何を考えているの?

これも父さんの仕事なの?……。

僕に何をして欲しいの?…………父さん。)

 

(……父さん。僕には……父さんが解らない。)

 

シンジは思考を進める。

そして、初号機も速度緩めることなく、ターミナルドグマへと足を進めた。

 

 

 

つづく


(62)に戻る

(64)へ進む

 

あとがき

展開が進むにつれ、話がシリアス一辺倒に。
他の登場人物も書くスペースが無くて、四苦八苦の状態かもしれません。

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円~!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル