<暗闇の会議室>

ゲンドウは、老人達に呼び出された。

これまでの戦闘報告と、第十一使徒侵入の話を含めてのことだった。

 

 

 

僕は僕で僕

(61)

 

 

 


  

「まずは、三度目からだな」

キールと呼ばれる老人が、報告書のようなものを手にして口を開いた。

 

<報告書>

 

第三の使徒、『サキエル』襲来。

使徒に対する通常兵器の効果は認められず、国連軍は作戦の遂行を断念。

全指揮権を特務機関『ネルフ』へ委譲。

 

三人目の適格者、サードチルドレン。

碇シンジ。

 

エヴァンゲリオン初号機に搭乗、初出撃。

使徒とエヴァによる、第一次直上会戦。

エヴァ初号機、頭部損壊、左腕損傷、パルス逆流、使徒の前に初号機は完全に沈黙。

エヴァによる初の実戦は、完全な敗北に終わる。

 

最初の適格者、ファーストチルドレン。

綾波レイ。

 

初号機敗北後、零号機に搭乗、初出撃。

第二次直上会戦。

零号機、綾波レイ、驚異的な戦闘能力で第三使徒を殲滅。

この戦闘でエヴァのATフィールド発生を確認する。

 

この結果として、未知の目標に対し、戦闘経験`0´の少年を初陣に挑ませ、敗北を喫した事実。
十四歳の少年に勝利を望むのは、大き過ぎた希望だったと判断する。
だが、第三使徒を完墜せしめたのが、十四歳の少女であったことも、また事実。
この、綾波レイの戦闘は特筆に値するものである。
ただ、作戦課としては更なる問題点を浮き彫りにし、多くの反省点を残した苦汁の戦闘であった。

『第三新東京市街戦』 中間報告書
責任者 葛城ミサト一尉

 

ワシの妹は、まだ小学二年生です。
こないだの騒ぎで怪我をしたんで、見舞いに行ったんです。
怪我させた奴もおるっちゅうんで、そいつにもパチキをお見舞いするつもりでした。
せやけどワシには出来ませんでした。妹を怪我させた奴は重症で、面会謝絶やったんです。
話に聞くと、ワシの妹を助ける為に怪我したそうです。
ワシは、そいつに貸しが出来ました。
貸りたもんは返さないかん、ワシはそう思います。

鈴原トウジの作文より、抜粋

 

第四の使徒、『シャムシエル』襲来。

当時、地対空迎撃システム稼働率48.2%

戦闘形態への移行率96.8%

 

いつも友達と学校とかで避難訓練ばっかりやってたから、いまさらって感じで、実感無かったです。
男の子達は遠足気分で騒いでたし、私達も`怖い´って感じはしませんでした。

洞木ヒカリの作文より、抜粋

 

使徒、第三新東京市上空へ到達。

エヴァ二機による、第三次直上会戦。

初号機、外部電源切断のアクシデントに見舞われるも………使徒、殲滅。

ネルフ、原型を留(とど)めた使徒のサンプルを入手。

だが、分析結果の最終報告は未だ提出されず。

 

第五の使徒、『ラミエル』襲来。

難攻不落の目標に対し、葛城一尉、ヤシマ作戦を提唱、承認される。

 

戦自選抜の適格者、アウトサイド・チルドレン。

霧島マナ。

 

零号機を基礎モデルとした三体目のエヴァに搭乗、初出撃。

同深夜、使徒の一部、ジオフロントへ侵入。

ネルフ、ヤシマ作戦を断行。

初号機大破後、ヤシマ作戦、完遂。

 

以後、霧島マナ及びJA、ネルフの管轄下に入る。

 

碇は何も言わない。
でも、あのとき目標の加粒子砲から、初号機が身を挺(てい)してエヴァ二体を守ったんだと思う。
いや、そう確信する。
その理由として一つ。綾波だ。
綾波は自分の存在を希薄に感じているように見えていた。
だが、あの日から変わった。
自分の存在を確かめるような、存在意義を見出したような、そんな感じを受ける。
碇は`ピグマリオン´とも違う`何か´を綾波に伝えたと思う。
自分の生死を賭けて。

相田ケンスケの個人資料より、抜粋

 

「シナリオ外の事件だな」

JAに関する報告書の段で、キールが口を開いた。

「しかし結果は予測範囲内です。むしろシナリオ遂行が早くなったと判断します」

キールの言葉に、ゲンドウは表情を変えることなく答えた。

そして、話は報告書に戻る。

 

 

第六の使徒、『ガギエル』太平洋上で遭遇。

 

二人目の適格者、セカンドチルドレン。

惣流・アスカ・ラングレー。

 

エヴァ弐号機にて、初出撃。

海上での近接戦闘及び、初の水中戦闘。

旧伊東沖遭遇戦にて、使徒殲滅。

 

「この遭遇戦で国連海軍は全艦艇の三分の一を失ったな」

暗闇の中、一人の男が口を開いた。

「失ったのは君の国の船だろう。本来は取るに足らん出来事だ」

その男の言葉を遮るように、また一人別な男が口を開いた。

「左様。その程度で済んだのは、またしても幸運だよ」

止めを刺すように、キールが口を開いた。

会話の進む中、報告書は休むことなく進む。

 

 

第七の使徒、『イスラフェル』襲来。

初の分離・合体能力を有す。

しかしエヴァ零号機、同JAの二点同時過重攻撃にて、使徒殲滅。

このときJAは、初の暴走を経験する。

 

何も覚えていません。
あのときは、ただ必死で無我夢中で……何が起こったかなんて記憶してないです。
でも、使徒を倒せたことは良かったと思います。
また、会えるから…。

霧島マナの病院内会話記録より、抜粋

 

第八の使徒、『サンダルフォン』襲来。

浅間山火口内にて発見。

 

ネルフ、指令A-17を発令。

全てに優先された状況下において、初の捕獲作戦を展開。

電磁光波柵内へ一時的に拘束。

だが、電磁膜を寸裂され、作戦は中断。

即座に作戦目的は、使徒殲滅へと変更される。

 

エヴァ弐号機、作戦を遂行。

使徒、殲滅。

 

同日、エヴァ零号機、JA、損傷復旧及び改装作業終了。

再就役。

 

第九の使徒、『マトリエル』襲来。

エヴァ時間差射出による、初の四機出撃。

初号機の突貫により、使徒殲滅。

 

第十の使徒、『サハクィエル』襲来。

成層圏より飛来する目標に対し、エヴァ四機による直接要撃にて、使徒殲滅。

 

第十一の使徒、『イロウル』ネルフ本部内に侵入。

MAGI に侵入を果たすが、侵入後、使徒殲滅。

 

 

「もし接触が起これば、全ての計画が水泡と化したところだ」

報告書の内容に、男の一人が碇を見据えながら口を開いた。

「接触は回避されました。私達がここにいる。……それが、事実です」

男の言葉に、ゲンドウは動じることなく返答した。

 

ゲンドウの言葉を聞き、老人と呼ばれる者達は、怪訝な表情でゲンドウを見つめた。

そして、キールが口を開く。

「碇、君が新たなシナリオを作る必要は無い」

威圧的で、なおかつ攻撃的な話し振りだった。

 

その言葉に、ゲンドウは短く答える。

「わかっております。全てはゼーレのシナリオ通りに……」

 

 

<シンジの病室>

 

シンジが目覚めて、数日が経過した。

この数日は密度の濃いうえ、内容の多い身体検査の数日だった。

だが、身体検査も問題無く終わり、シンジは翌日退院という事の運びになっていた。

 

「味気無いな……」

病院の食事を一口食べて、シンジは無表情に呟いた。

 

そして、シンジは病院食を近くのテーブルのようなものに置くと、窓の外を見た。

窓の外は雨が降っていた。

「雨……」

そう呟き、シンジはベットから立ち上がって窓の側に向かった。

窓の側に来ると、窓に付いた雨粒を`何となく´指でなぞった。

無論、内側から触ったのでシンジの指は濡れない。

 

雨粒をなぞりながら、シンジは思う。

(この…無くした感じは何だろう……?

検査を受けても……消えない。眠っても……消えない。考えても……消えない。

僕は……何かを無くした。

何を無くしたんだろう………。)

 

目覚めてからのシンジは、喪失感を感じていた。

まるで胸にある肋骨を全て毟(むし)り取られたような、喪失感を。

 

シンジが思考する中、病室の扉が開いた。

「誰……」

シンジが振り返ると、そこにはレイが立っていた。

レイの姿を瞳に入れると、シンジは言葉をつなぐ。

「綾波…。……お見舞い?」

コクリ。

シンジの問いに、レイは頷いて答えた。

「そう…。……ありがとう」

そう言った後、シンジはレイに簡易椅子を用意した。

 

「食事……取らないのね」

テーブルに置いてある病院食を見ながら、レイが話し掛けた。

「うん…食べなきゃいけないんだけど……」

レイに答えながら、シンジはベットに腰掛けた。

 

「明日に響くわ……」

シンジを見ながら、レイがポツリと呟いた。

以前、シンジがレイに語った言葉を。

 

レイの言葉に、シンジは優しい微笑を見せた。

そして、静かに口を開く。

「……うん、食べる。…食べなきゃね」

そう言って、シンジはテーブルに置いた病院食を膝に置いた。

ゆっくりと病院食を食べながら、シンジはレイに話し掛ける。

「綾波は…何かを無くしたって感じたことある?」

 

「………」

シンジの言葉に、レイは俯(うつむ)いて沈黙した。

そして、静かに顔を上げシンジに話す。

「私は自分を無くしていた。……でも、碇君が私にくれた」

レイの言葉に、シンジは少し驚いた表情を見せた。

そして、優しく微笑みながら話し掛ける。

「僕は何もあげてないよ…。……綾波が自分で手に入れたんだ。…明日も。…自分も」

 

そうシンジが言った後、二人は沈黙した。

シンジには病室の空気が、とても穏やかに感じられた。

 

そして、少し寂しそうな表情をしながら呟く。

「……僕は何を無くしたんだろうね」

シンジの呟きを聞き、レイが静かに口を開く。

「…何かを無くしたのなら、また見つければいい。……一人で見つけれないのなら…私も手伝う」

レイの言葉は、シンジには心強い言葉だった。

 

「……ありがとう」

シンジはレイの言葉に、優しく微笑んで答えた。

ポトリ。

`ありがとう´そう言った後、シンジの口から御飯粒がこぼれた。

御飯粒はシンジの膝に落ちた。

シンジのこぼした御飯粒を拾ってあげようと、レイは手を伸ばした。

「あ、いいよ」

そう言って、シンジが手を出した拍子に、レイの手に触れてしまった。

「ご、ごめん!」

顔を真っ赤にしながら、シンジは触れた手を素早く離した。

 

「なぜ謝るの……?」

シンジが手を離すと、レイは呟きながら指を絡ませてきた。

親指と親指を、人差し指と人差し指を、中指と中指を、そして全ての指を……。

 

「あ、綾波……」

ゆっくりと揉まれるように絡みつく指に、シンジは顔を赤くして呟いた。

レイは指を絡ませながら呟く。

「碇君は間違ってない。……だから、謝る必要なんて無い」

「う、うん」

レイの言葉に答えながら、シンジは思う。

(綾波の手……柔らかい。)

 

そこへ病室の扉が開いた。

「シンジ、見舞いに来てやったわよ……ゲッ!」

「リンゴ持ってきたんだけど……ナッ!」

シンジが扉を見ると、アスカとマナが立っていた。

二人はシンジとレイの様子に、硬直してしまっていた。

 

「アスカ?マナ?………あッ!」

二人の様子を不思議に思い見つめたが、直ぐにその理由に気づいた。

シンジは慌てながら、レイの指を解いた。

 

だがシンジの行動は、アスカとマナには手遅れだった。

青筋を引きつらせながら、二人は口を開く。

「ビンタと張り手、どっちがいい?」

「シンジ君達にはリンゴあげない!私とアスカで食べる!」

 

アスカ達の来訪と共に、賑(にぎ)やかになるシンジの病室。

そんな中、シンジは思う。

 

(……何が無くなったのか…僕には解らない。

…でも、僕は…まだ生きてる。

……何が無くなったか…見つけなきゃいけない。

…でも、見つかるか解らない。)

 

(だけど…大丈夫だと思う。

僕は……まだ生きてるから…。)

 

 

 

つづく


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あとがき

報告書に関する感想。
今まで苦労して書いてきた戦闘が、たったの数行………虚しいです。(苦笑)

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