テストという名の実験は、淡々と進んでいた。

その実験の最中(さなか)で、シンジが違和感を口にする。

「感覚が……変だ…」

 

 

 

僕は僕で僕

(57)

 

 

 


 

シンジ達は裸でエントリープラグに入っていた。

無論、それが実験の為であることは了承している。

 

「何か…違う……」

今度はレイが違和感を口にした。

「この感じ……こう…何て言うのかな?」

マナが違和感を言葉に出来ず、アスカ達に訊ねた。

「右手の感覚が…ボヤケた感じね……」

アスカは自分の右手を見ながら、マナの言葉を継ぎ足した。

 

-シンジ君、右手を動かしてみて?-

リツコは子供達の声を聞き、一番最初に違和感を感じたシンジに、右手を動かすことを頼んだ。

 

「はい…」

リツコの言葉に、シンジは従うだけだった。

 

 

<ネルフ、実験室>

 

子供達の口にした`違和感´の原因を探るため、リツコはMAGI にアクセスを開始した。

だが子供達の状態に、MAGI はモニターに`審議中´と表示した`対立モード´で答えるだけだった。

 

「ジレンマ……。つくった人の性格が良く出てるわね…」

MAGI の対立モードに、リツコは呟いた。

「赤木(ナオコ)博士のこと?」

近くで実験の様子を見守っていたミサトが、リツコに訊ねた。

「ええ、そうよ。……MAGI って母さんらしい」

ミサトの言葉に、リツコは優しい微笑を浮かべて答えた。

 

「?」

リツコの言葉に、ミサトはサッパリ訳が解らないといった顔つきだった。

 

 

<ネルフ、発令所>

 

リツコがMAGI にアクセスを開始した、同時刻。

発令所では、冬月の指示のもとジオ・フロント内の総チェックが行われていた。

 

「ここだな、変質しているのは」

青葉の映し出したモニターを見ながら、冬月が口を開いた。

「はい。三日前に搬入したパーツです」

冬月の言葉を聞き、青葉は変質した部分の説明を話した。

 

モニターには侵食と思われる部分が映し出され、その状況が克明にあらわになっていた。

侵食された部分を見て、冬月が呟く。

「第87タンパク壁か」

「ずさんな工事が原因じゃないですか?ここ最近、異常な忙しさでしたし」

青葉の隣でチェック作業をしていた日向が、会話に入ってきた。

「使徒相手に異常も正常も無いけどな」

日向の言葉を聞き、青葉は苦笑して見せた。

「まったくだ」

青葉の言葉に、冬月も苦笑して見せた。

そして言葉をつなぐ。

「だが、このままにして置くことも出来ん。早急に処置しておくように」

「了解です」

冬月の言葉に、青葉が答えた。

 

モニターの侵食部分を見ながら、冬月は思う。

(碇の奴がうるさいからな…。)

 

 

<ネルフ、模擬体実験室>

 

-エヴァ各機、模擬体との接続完了しました。-

作業員の声が、プラグ内に響いた。

 

(なんだ……これ?)

着実に進む実験の中で、シンジはプラグ内で奇妙な物体を発見した。

赤く光る球体のようなものを。

そして、シンジは無意識のうち……まるで導かれるように、赤い光球を手に取った。

 

「ツゥ!」

赤い球体を取った方の手、シンジの右手に激痛が走った。

シンジの右手に激痛が走った瞬間、シンジの乗った模擬体の右手は異様な動きを見せた。

模擬体の右手は勝手に動き出し、模擬体を固定している拘束具を引きちぎろうとした。

 

シンジには、模擬体の動きを制止出来なかった。

右手の激痛が治まらず、シンジは必死に痛みに耐えていたからだった。

そして、あまりの激痛に耐えきれず、シンジは悲鳴を上げる。

 

「ゥぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

 

<ネルフ、実験室>

 

「何?何が起こってるの?!」

周囲の状況に、リツコは困惑の表情を見せた。

だが、その周囲の状況に`シンジの叫び´は入っていなかった。

シンジの叫びは、突然起こった非常警報によってかき消されていた。

 

「シグマユニットAフロアに汚染警報発令!」

いち早く状況を把握しようとしていたマヤが、リツコへと声を上げた。

「第87タンパク壁が劣化、発熱しています!!」

「第6パイプにも異常発生!」

マヤに続き、次々と作業員の口からも報告される異常事態。

 

そして、その報告にマヤが止(とど)めをさすように叫ぶ。

「タンパク壁の侵食部が増殖しています!脅威的な速度です!!」

 

「実験中止!第6パイプを物理閉鎖!!」

リツコの決断は速かった。

ネルフを技術的に預かる者としての速断(そくだん)だった。

 

「駄目です!侵食止まりません!………侵食部こちらに向かっています!」

モニターを見ながら、マヤが叫びに近い声を上げた。

「模擬体に接触するつもり?!」

マヤのモニターを見ながら、リツコが声を上げた。

 

モニターには侵食された部分が赤く表示されていた。

いつもは青い正常状態で表示されているモニターは、赤く染まりつつあった。

「ッ、速い!」

リツコはモニターを見て、驚きの声を隠さなかった。

そして、実験室から直接自分の目で模擬体を見ようと、ガラス張りの張り出しへと向かった。

 

ガラス張りでは、ミサトが冷静にその状況を把握していた。

そして、リツコが側に来たことに気づき声を上げる。

「リツコ!シンジ君の模擬体が危険よ!」

ミサトの言葉を聞き、リツコがシンジの乗った模擬体を見ると、模擬体では既に侵食が始まっていた。

模擬体の右手は、赤く点滅し、使徒の侵食をあからさまにしていた。

 

「子供達を外に出して!!速く!」

その状態に対しても、リツコは速断だった。

 

もっとも、それしかなかったのかもしれないが……。

 

 

<ネルフ、発令所>

 

異常事態は発令所でも確認し、非常警報が鳴り響いていた。

一番先に侵食を発見したのは、発令所であった為、至極当然のことであった。

そして、侵食という異常事態に対し、発令所も混乱の中にあった。

 

そんな中、冬月のもとに一通の回線が入っていた。

-間違いありません、使徒です!直ちに、セントラルドグマの物理閉鎖を要求します!-

焦りの入り混じった、リツコからの報告だった。

「使徒?!侵食が使徒だというのか?!」

リツコの言葉に、冬月は驚きを隠せず声を上げた。

-はい、説明は後で行います!今は被害を食い止めることが先決です!-

リツコは現状を改善する為、冬月の許可を仰いだ。

「了解した!閉鎖後、直ちに作戦司令部に席を移す!君達も向かうように!」

そう言って、冬月は回線を切ると命令を下す。

 

「セントラルドグマの物理閉鎖だ!シグマユニットと隔離しろ!!」

 

 

<数分後、ネルフ作戦司令部>

 

作戦司令部では、この異常事態に対して、ゲンドウが姿を見せていた。

そして、その傍(かたわ)らには冬月も駆け付けていた。

 

「わかっている。よろしく頼む」

ゲンドウは誰かと話していたのか、回線を手に話をしていた。

そして回線を切り、周囲にいた職員達に冷静に話し掛ける。

「誤報だ。探知機のミスだ。日本政府と委員会にはそう伝えろ」

そう言って、ゲンドウはネルフ内に鳴り響く警報を止めさせた。

 

ゲンドウの言葉を聞き、冬月がゲンドウの耳元で囁(ささや)く。

「場所がマズイぞ…」

「ああ…アダムに近すぎる」

冬月の言葉にも、ゲンドウは動じた様子は見せず、冷静に答えるのだった。

 

そして、慌しく侵食に対峙する職員たちを見ながら、ゲンドウが声を上げる。

「初号機を発進させろ!他の三機は破棄しても構わん!!」

 

「!」

作戦司令部で侵食の様子を窺(うかが)っていたミサトは、ゲンドウの言葉に驚いた表情を見せた。

そして、ゲンドウを見ながら思う。

(初号機を最優先……。他の三機を破棄してまで………。)

 

「葛城三佐、子供達はどうしますか?」

ミサトの思考を中断させるように、側にいた日向が話し掛けた。

「使徒の侵食を食い止めることで、今は手一杯よ。使徒撃退後の回収で構わないわ」

ミサトの決断は、現状では正しいものだった。

 

最も、シンジの叫びは誰にも届いていなかった為でもあるが……。

 

 

<更に数分後、作戦司令部>

 

司令部では、ネルフ内に出現した細菌サイズの使徒への対処を行っていた。

だが、それは手探りでの対処だった。

 

「侵食速度、以前変わりません!」

司令部に席を移したマヤが、リツコへと報告した。

「酸素……オゾンを注入してみて!」

モニターで使徒の様子を見ていたリツコは、使徒が酸素に弱いのでは?と推測した。

「オゾン、注入します!」

リツコの言葉を聞き、青葉が声を上げた。

 

モニターには、使徒が侵入した模擬体格納施設の映像が映し出されていた。

施設にオゾンが注入され、使徒が次第にその侵食範囲を狭(せば)める様子が映し出される。

 

「おぉ、効いてる。効いてる」

その様子に、青葉は思わず安堵の笑みを見せた。

「やれやれ、ですね」

青葉の隣に座っていた日向からも、笑顔が見られた。

 

ほんの一時だが、ネルフ内の緊張が緩(ゆる)んだ。

その一瞬!突如として使徒が活動を活発化させた。

 

「使徒、活動を再開!以前よりも速度が…爆発的速度です!!」

モニターで使徒を監視していたマヤが、使徒の進行速度に焦り混じりで報告した。

「逆効果だったの?!」

マヤの言葉を聞き、リツコは驚かざる得なかった。 

まるで使徒が、成長しているような感を得たからだった。

 

「!」

そんな中、青葉は異常事態が起きていることに気づく。

使徒の侵入だけでも異常事態なのだが、それよりも更に異常事態が起こっていることに。

そして、青葉は驚声を上げた。

「何者かが、MAGI に侵入しています!」

「保安部…保安部からの侵入です!うぁっ!コードが全部読まれてやがる!!」

青葉の言葉を聞き、日向は直ちに侵入経路を探し当てた。

だが、それは使徒の侵入速度と、解析能力の高さを露呈するものだった。

使徒が保安部のメインコンピュターをハッキングする様子が、中央モニターに映し出された。

 

「……主電源カットだ」

混乱する司令部の中で、冷静に状況を把握していたゲンドウが命令を下した。

「「了解です!!」」

ゲンドウの言葉を聞き、青葉と日向の両名が声を上げた。

二人は机からキーのようなものを取り出し、I /O(アイ・オー)システム(主電源)へと差し込んだ。

 

「どうぞ!!」

主電源カットの準備ができ、青葉は日向へと声をかけた。

「了解!三、二、一」

青葉を一瞥すると、日向は簡易の秒読みを開始した。

カチャリ。

そして、二人は同時にキーを回した。

………。

だが、MAGI の主電源は切れなかった。

MAGI の主電源をストップさせる方法は、間違っていなかったのだが…。

 

「もう一度いきます!」

電源が切れないことで、青葉が再試行するため声を上げた。

だが、それから二度繰り返したが、主電源は切れなかった。

 

「使徒、更に侵入!!メルキオールに接触を開始しました!」

主電源の切れない最中(さなか)で、マヤが突然声を上げた。

「次から次へと、こんちくしょう!」

次々と侵されていく状態に、日向は焦り混じりに口を開いた。

 

「リプログラム(再プログラム)されてる!」

モニターに映し出されるMAGI の状態を見て、リツコが声を上げた。

 

「メルキオールがネルフ本部の自律自爆を提訴!」

マヤが、メルキオールが完全に使徒に占有されたことを告げた。

だが、直ぐに言葉をつなぐ。

「あ、残りの二基が否決しました!」

一瞬、マヤが安堵の笑みを見せた。

だが、直ぐにその`笑み´はかき消された。

「今度はバルタザールがメルキオールにハッキングされてます!!」

青葉が驚きと焦りの入り混じった声で報告した。

 

モニターには、MAGI がハッキングされていく様子が克明に映し出されていた。

まるで、人間を嘲笑うかのように。

 

その様子に、ホンの数秒間だけリツコは思考し、そして決断した。

「ロジックモードを変更!シンクロ単位を15秒単位に!!」

 

リツコの指示を聞き、職員達が慌しく動き出した。

そして数秒後、侵食が止まったように見えた。

 

「侵食が止まりました!」

青葉が笑顔で報告した。

「まだよ!まだ侵食速度が緩んだに過ぎないわ!」

青葉の言葉に、リツコは気の緩まない言葉で返した。

 

そして、思考する。

(緩んだから…どうなるっていうの?

対策方法……。対処法……。)

リツコは既に次のことを考えていた。

 

そこへ、冬月が号令する。

「直ちに主だった者は会議室へ集合だ!緊急会議を行う!」

 

リツコは冬月の言葉に思考を中断させた。

そして、ハッキングの緩んだMAGI を見て、寂しそうに呟く。

 

「辛いわね…。この状況……」

 

 

 

つづく


(56)に戻る

(58)に進む

 

あとがき

前回書いた、最初の三行の意味。
少しずつ展開しています。シンジを通して少しずつですが……。

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル