第十使徒の襲来から、数日後。

ある日の朝。

リツコは飼い猫に食事をあげようとしていた。

 

 

 

僕は僕で僕

(51)

 

 

 


 

「ほら、チクワ…おいで」

リツコが猫の食事を見せながら、飼い猫に話し掛けた。

だが猫はキッチンの隅に隠れて、出て来ようとしなかった。

ちなみに、リツコの飼い猫は`チクワ´という名前だった。

 

「困った子ね」

どことなく楽しそうに、ため息をつくリツコだった。

 

(あら?)

チクワを見ながら、リツコは何かに気づいたようだった。

そして優しい笑顔で呟く。

 

「そういう事だったの……」

 

 

<数十分後、キッチン>

 

リツコとマナは朝食を取っていた。

リツコはニコニコとした笑顔で、目玉焼きを食べていた。

「何か、いいことがあったんですか?」

妙に機嫌の良いリツコに、マナが訊ねた。

「いいこと?………そうね、いいことだと思うわ」

マナの言葉に、リツコは少し考えると、楽しそうに言葉を返した。

 

(……ボーナスでも出たのかな?)

そんなことを考えながら、マナは食事をする手を進めた。

そこへリツコが口を開く。

 

「できたみたいなの…」

 

 

<数時間後、教室>

 

「妊娠~!!」

アスカが声を上げた。

「アスカ、声が大きいよ」

マナがアスカに注意した。

マナの周りには、いつものメンバーが顔を揃えていた。

どうやら、マナは今朝の出来事を話していたようだった。

 

「リツコさんって……進路相談のときの金髪の人?」

ヒカリがマナに訊ねた。

「そうよ。でも、あのリツコが…」

ヒカリに答えながらも、アスカは納得がいかない顔振りだった。

そして言葉をつなぐ。

「それで、いったい誰の子供なの?」

アスカがマナに訊ねた。

「うん、私も聞いてみたんだけどね……」

マナは思い出したように口を開いた。

 

「さぁ?誰の子かしら。……でも、どんな子が生まれるか楽しみね♪」

今朝のリツコの言葉を、マナは口にした。

 

「何それ?!相手もわからないっての!」

アスカは驚き、声を上げた。

「アスカ、声が大きいって」

マナが、再びアスカに注意した。

「霧島さんも大変ね。これからは子守りもしなきゃいけないのよね…」

ヒカリがマナに話し掛けた。

「うん。でも、それもいいかなって思ってる。きっと…素敵なことだとおもうから」

マナは優しい表情で、ヒカリの言葉に答えた。

 

そこへ、シンジが微笑みながら口を開く。

「お祝い……しなきゃいけないね」

「うん…それで皆に相談したんだけどね」

シンジの言葉を聞き、マナが話した。

 

しばしの間、どうやって祝えば喜んでもらえるかを悩み、沈黙する四人。

四人?

どうやら、三人抜けているようだった。

 

「……恐れていたことが起こったみたいやな」

トウジは真剣な表情で呟いた。

「いや…まだ我々には最後の切り札が残っている」

ケンスケは不敵に笑いながら、トウジに答えた。

「切り札?……。な?…まさか!」

トウジが真剣な表情で、ケンスケを見つめた。

「その、まさかさ…。その人の名は…」

ケンスケは不敵に微笑みながら、言葉を続ける。

 

「「ミサトさん!!」」

トウジとケンスケの見事なシンクロだった。

 

ボカッ!

そう叫んだとたん、頭を小突かれる二人。

二人は誰かと顔を見ると、アスカとヒカリだった。

「人が真剣に悩んでるのに、何やってんのよ!ホント、バカね!」

「鈴原ッ!少しは真面目に考えて!」

 

猫掴みにされ、マナの席まで運ばれる二人であった。

 

シンジは微笑みながら、連れて来られた友人の様子を見つめた。

そして、側にいたレイに話し掛けた。

「綾波は、何か思いつかない?」

「私?………私…妊娠を知らないから……」

レイがポツリと呟いた。

「あ、綾波…」

レイの言葉に、顔を真っ赤にするシンジだった。

シンジは何を想像したのだろう……?

 

「何なら、ワシが説明を」

「いや、待てトウジ。説明なら、この俺が」

鼻息を荒くさせながら、レイに近寄る二人であった。

 

「「このバカッ!」」

結局、アスカとヒカリに小突かれる二人だった。

 

 

<数分後、教室>

 

「本気で打ちおった…」

頭を抱えながら、トウジが呟いた。

「手加減を知らないよな。ホントに」

頭をさすりながら、ケンスケも呟いた。

「でも、何で僕まで仲間はずれになったんだろう?」

シンジは、何が何だかといった様子だった。

 

「相変わらずだな、シンジは…」

ケンスケは疲れた表情で、シンジを見た。

「綾波を見とればわかるって」

トウジは笑いながら、一言だけ話した。

 

シンジはレイの方を見た。

レイは顔を赤くしながら、少女達の話に耳を傾けていた。

 

「あ、そうか…」

シンジは、なぜ自分が疎外されたか気がついた。

そして、シンジは顔を赤くした。

 

「気づいたな、シンジ」

「やっぱ、シンジも男やな」

二人はニヤニヤと笑いながら、シンジに話し掛けた。

 

二人の言葉を聞きながら、シンジは更に顔を赤くする。

そして思う。

 

(僕は…エッチだ。)

 

 

<夕方、碇家のマンション>

 

「ただいま…」

いつものように、シンジが帰宅した。

玄関の中に入り、靴を脱ごうとしたシンジは気がついた。

いつもより、靴の数が多いことに。

そして思う。

(……父さん、帰ってきたんだ。)

 

シンジは小走りにキッチンへと向かった。

そしてキッチンに入り、新聞を読む父の姿を瞳に映した。

ゲンドウはキッチンの椅子に腰掛け、新聞を読んでいた。

 

「お、おかえりなさい。…父さん」

シンジは嬉しそうに微笑みながら、父へと話し掛けた。

「ああ、昼頃に帰ってきたんだがな…」

ゲンドウは、そう言って新聞をテーブルの上に置いた。

そして言葉をつなぐ。

「……変わったことは無かったか?」

「うん、特に変わったことは……」

そう父に答えようとしたが、シンジはあることを思い出した。

 

「何かあったのか?」

ゲンドウがシンジに訊ねた。

ゲンドウの言葉を聞き、シンジはゆっくりと口を開く。

「リツコさんが妊娠したみたい……」

 

ズルッ。

椅子から滑り落ちそうになる、ゲンドウであった。

 

 

<葛城家、マンション>

 

珍しく早い帰宅をしたミサトと、アスカは会話をしていた。

 

「うっそ…リツコが妊娠?!」

アスカの言葉に、ミサトは驚きを隠せなかった。

「私も、最初は疑ったわよ。でも、リツコも年齢が年齢でしょ」

リツコが居ないことをいいことに、アスカは散々なことを言っていた。

 

アスカの言葉を聞き、ミサトは少し考えた。

そして、ゆっくりと口を開く。

「……あり得るわ。……謀ったわね…リツコ」

 

「謀ったって…何が?」

アスカがミサトに訊ねた。

「先を越されたってことよ」

不機嫌な表情で、ミサとはアスカに説明した。

ミサトの言葉に、アスカは納得した表情で口を開く。

「あ、ミサトって、結婚も子供も`まだ´だったわね」

 

「何か妙に`まだ´に力を込めてない?」

ミサトが青筋をヒクつかせながら、アスカに訊ねた。

「え!?してないわよ。それに、行かず後家なんて思ってもないわ」

アスカは苦し紛れに、本音を話していた。

その本音はサクッと、ミサトに止(とど)めを刺した。

 

アスカの言葉を聞き、ミサトは怒気を含ませ声を上げる。

「市中轢(ひ)きまわしの上、獄門磔に処す!そこになおりなさい!」

最近、○岡越前を見たミサトであった。

 

「ちょ、ちょっとした冗談よ。そんなに本気で怒らないでよ」

逃げるように後ずさりをしながら、アスカは話した。

「冗談にしては、タチが悪すぎたわね」

ミサトは不敵に笑いながら、ジリジリとアスカに詰め寄った。

 

追い詰められそうになり、アスカは口を開く。

「そんな風だから、婚期を逃がすのよ!」

逆ギレしたアスカは、言うだけ言って逃げ始めた。

「言うに事欠いて……。待ちなさい!アスカ!」

 

グルグルと部屋の中を駆け回る二人。

だが、どことなくアスカは楽しそうだった。

 

この日。

久しぶりに、葛城家に活気が戻ったのであった。

 

 

<赤木家のマンション>

 

いまだリツコは帰宅しておらず、マナは一人で猫に餌を上げていた。

 

「チクワ君、元気?」

マナは少し寂しそうな表情だった。

猫のチクワは、チクワ色の斑点模様があった。

それで、チクワという名前なのかもしれない。

 

「嫌われてるのかな……私」

近づかないチクワに、マナは呟いた。

呟いた後、マナは食事を作ろうと思い、キッチンに立った。

 

マナがキッチンに立つと、チクワは餌に近づき食べ始めた。

そんな猫に気づき、マナは微笑みながら思う。

(警戒心が強いだけかな……。

人も…猫も…。)

 

そう思った後、マナは腕まくりをして口を開く。

「さてと、準備をしなくっちゃ♪」

 

マナは微笑みながら、料理を作り始めた。

ある準備の一環として。

 

 

<ネルフ実験室>

 

リツコとマヤが実験室にいた。

実験室では、近いうちに予定されている『直接ハーモニスク・テスト』の準備をしていた。

 

「クシュン!」

突然、リツコがクシャミをした。

「先輩、風邪ですか?」

マヤが心配そうな表情で、リツコに訊ねた。

「いえ、そんなんじゃ無いと思うんだけど…」

マヤに答えつつ、リツコは思う。

(今日で四回目……。……母さんに診て貰おうかしら?)

 

身の回りで起こっている出来事を、いまだにリツコは知らない。

 

 

 

つづく


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あとがき

更新をお休みしている間に思いついた話です。
でも、少し壊れてます。(笑)

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