ミサト達はネルフ内の廊下を歩いていた。

ミサトに食事を御馳走になる為であった。

だが、この中にシンジの姿は無かった。

 

 

 

僕は僕で僕

(50)

 

 

 


 

「何でもいいのよね?」

アスカが楽しそうな表情で、ミサトに訊ねた。

「はいはい、何でも好きなものを頼んで頂戴♪」

ミサトも微笑んで答えたが、心の中は別だった。

(給料前だけどね………。)

懐(ふところ)の寂しいミサトであった。

 

「で、何処で食事するの?」

マナがアスカに訊ねた。

アスカはチラリとマナを見ると、小声で耳打ちした。

「……なるほどね。その方がいいね」

アスカの言葉に、マナは納得したようだった。

 

「?」

ミサトは二人の行動を不思議な表情で眺めていた。

そしてレイに話し掛ける。

「レイは何処に行くか知ってるの?」

「………」

だがレイは何も答えなかった。

何処に行くか、レイも知らなかったからだった。

 

レイが無反応なので、ミサトはため息混じりに呟く。

「ま、何処でもいっか。皆、今日は頑張ってくれたし」

 

 

<初号機ケイジ>

 

シンジは初号機ケイジに来ていた。

ミサト達から誘われた食事を断り、修理中の初号機を見に来ていた。

 

初号機は装甲に多少の傷がついていたが、稼動には問題なさそうだった。

第十使徒との戦闘での被害は、比較的軽傷で済んでいたようだった。

「大丈夫みたいだ……」

シンジは初号機を眺めながら呟いた。

 

「あら、シンジ君。ミサト達と一緒じゃなかったの?」

シンジの側をリツコが通りがかった。

「え、あ、リツコさん…」

シンジはリツコの姿に気が付いた。

そして言葉をつなぐ。

「……初号機が気になって、見に来たんです」

 

「そう……」

リツコはやさしい表情で、シンジの言葉に答えた。

そして初号機を見ながら、言葉をつなぐ。

「一万二千枚の特殊装甲とATフィールドで、エヴァは守られているの。……守りたいものを守るためにね」

リツコは初号機から目をそらし、シンジを見た。

リツコは優しく微笑んでいた。

 

リツコの言葉にシンジは思う。

(……守りたいものを…守る。)

 

「エヴァは大丈夫よ。私たちに任せてなさい」

シンジの顔を見ながら、リツコが優しく話し掛けた。

「…はい」

シンジは静かに頷いた。

そして言葉をつなぐ。

「もう少し…少しだけ、初号機を見ててもいいですか?」

シンジはリツコに訊ねた。

 

「いいわよ。貴方の初号機でもあるしね」

シンジの言葉に、リツコは微笑んで答えた。

そう言った後、リツコはシンジの側から去った。

 

リツコが去った後、シンジは初号機を見つめながら呟く。

 

「……守ってくれて…ありがとう」

 

 

<ネルフ内、食堂>

 

「へ?ここ?」

ミサトは素っ頓狂な声をあげた。

その理由は、アスカに連れて来られた場所が、ネルフの食堂だったから。

 

「ミサト、給料前なんでしょ?」

ミサトの顔を見ながら、アスカは微笑んだ。

「給料前に無理は禁物ですよね♪」

マナも楽しそうに微笑んでいた。

 

「あんた達……」

少女の思いやりに、ミサトは呟くだけだった。

 

「……どこに座るの?」

会話する三人をよそに、レイが訊ねた。

「あそこ…に……」

アスカは空いてる席を指差した。だが、言葉を途中で切ってしまった。

 

アスカの指差した先に……加持がいたからだった。

 

「………私…帰る!」

加持の姿を瞳の中にいれると、アスカはその場から駆け去った。

 

「ア、アスカ?!」

アスカの行動に驚き、マナが声をかけた。

だが、アスカは振り帰ることなく、その場から去ってしまった。

 

アスカが驚いた理由を見つけ、ミサトは呟く。

「そういうこと…」

 

 

<ジオフロント、出入口>

 

数分後、アスカはジオフロントの出口に来ていた。

出口まで駆けてきたアスカは、少し落ち着いたのか歩調を緩めた。

 

(バカみたい……私。

逃げる必要なんて、どこにも無いのに………。)

自分の行動を滑稽に感じるアスカだった。

 

アスカはジオフロントの外に出て、時間が夜になっていることに気が付いた。

そして夜空を見上げて呟く。

「星が…綺麗。……憎いぐらいに…綺麗」

 

 

<ネルフ内、食堂>

 

「どうしてアンタがここにいるのよ?」

ミサトは不機嫌な表情で、加持に訊ねた。

ちなみに、ミサト達は加持と向き合う形で座っていた。

 

「カレーを喰いたかったんだ。…そんなに悪いことなのか?」

そう答えた加持は、皿に残った最後の一口を平らげた。

ちなみに皿の中身はカレーだった。

 

「アスカ…一緒に来てたの。でも、アンタの顔見るなり帰ったわ」

ミサトは真剣な表情で加持に話した。

少し考えた後、加持は口を開く。

「……俺が悪いのか?」

加持がミサトに訊ねた。

「それは……」

加持の言葉を聞き、ミサトは返す言葉に詰まった。

実際、加持が食堂にいたのは偶然であり、アスカが帰ったことは加持の責任では無かったからだった。

 

「ま、多少の責任は感じるけどな」

そう言って、加持は席を立った。

「なら何で!」

加持の言葉に、ミサトが声を上げた。

 

ミサトの言葉に、加持は少しだけ沈黙した。

そして真剣な表情で口を開く。

「…アスカは優秀だ。葛城もそう思ってるよな?」

加持の言葉に、ミサトは頷いて答えた。

ミサトの答えを確認し、加持は言葉をつなぐ。

「それなら、必ず自分で理解できるはずだ。…俺もアスカを信じてる」

そう言い残して、加持は食堂から去った。

 

「……ったく、あのバカ。結局、詫びの一つも言わなかったわね」

加持の去った後、ミサトはボヤいた。

そしてマナ達を忘れていたことに気が付いた。

「あ、ごめんね、取り乱しちゃって。アイツとは、いつもこんな感じだから気にしないで」

そう言って、ミサトは取り繕(つくろ)った微笑を見せた。

 

「……羨ましいな」

隣に座っていたマナが、ポツリと呟いた。

 

「羨ましい?誰が?」

ミサトがマナに訊ねた。

「アスカって…皆に心配してもらって……少しだけ羨ましいなって」

マナは寂しそうに呟いた。

 

「霧島さん……」

ミサトはマナの言葉に呟いた。

そして優しく微笑み言葉をつなぐ。

「もし、霧島さんが同じ状況だったら、私は間違いなく同じように心配するわ。…レイだって同じよ」

「…嘘でも嬉しいです」

マナはミサトの言葉に微笑んだ。

「嘘じゃないわよ」

マナに微笑んで答えると、ミサトは勢いよく言葉をつなぐ。

「さ、食事にしましょ。レイは決まった?」

 

ミサトの言葉を聞き、レイは一言で答えた。

「にんにくラーメン、チャーシュー抜き」

 

 

<リニア停車駅>

 

アスカは帰りのリニアに乗るため、停車駅でリニアが来るのを待っていた。

そこで一人の人物を見かけた。

耳にS-DAT、いつも通りの冴えない表情、碇シンジだった。

 

「シンジ……」

アスカは近づいて声を掛けようと思った。

だが、止めた。

シンジと話す気分ではなかったからだった。

 

アスカはシンジに気づかれないように、そっと忍び寄った。

アスカは、シンジの行動が目の届く範囲まで近づいた。

 

(ボケボケッとしちゃって、私がココにいることも知らないで…。)

シンジを優しく見つめながら、アスカは微笑んだ。

アスカはシンジを見ていることで、不思議と落ち着きを取り戻しつつあった。

 

そこへリニアが着いた。

シンジはアスカに気づかず、リニアへと乗り込んだ。

アスカは幸い方向が一緒だったので、シンジが乗ったリニアに乗り込んだ。

 

(アイツ…何処行ったのかしら?)

先に乗り込んだシンジを探すため、アスカはリニア内を見回した。

(あ…いた。)

アスカはシンジの姿を見つけ、嬉しそうに微笑んだ。

 

シンジは四人席に足を伸ばして座っていた。

アスカに背を向ける形で、S-DATを聞いていた。

S-DATから聞こえる音楽の拍子を、指と膝でトントンと刻みながら。

 

アスカはシンジに気づかれないように、裏側の席に座った。

シンジと背を合わせる形で。

 

そして、静かにリニアは動き始めた。

アスカはシンジを背中に感じながら思う。

 

(このまま…遠くに……誰もいない所まで…。)

 

 

つづく


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あとがき

これで、第十使徒編は終了です。少し短めですが、次回がありますので。

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