僕は、綾波にぶたれた。
綾波に…嫌われているのかな、僕。
でも、懐かしい感じだ、この痛み
僕は僕で僕
(5)
<戦闘終了後の初号機ケイジ>
レイがシンジの頬をひっぱたいた。
シンジの頬が赤く腫れあがるくらいに、強く激しくひっぱたいた。
作業員も手を止め成り行きを見守っている。
「戦闘の邪魔をしないで…」
それだけ言い残すと、レイは立ち去った。
残されたシンジは呟く。
「綾波レイ…僕とは違う。…でも懐かしい感じがする」
<作戦司令本部>
戦闘が一段落し、落ち着いた雰囲気の司令部。
マヤ、シゲル、マコト達が会話をしている。
「青葉君、今日はすき焼きにするの?」
マヤがカラカイ半分に青葉に訊ねる。
「あれは忘れてくれよマヤ」
3人で少し笑った後、黙りこむ青葉。
「どうしたんだ青葉?」
マコトが訊ねる。
「なぜ、3週間一緒に暮らした俺じゃなく、シンジ君なのかを考えていたんだ」
どうやら、綾波レイが喋りかけた事らしい。
「心境の変化ってのかな?」
いたって模範回答のマコト。
「私は違うと思うわ、あの会話は自然だったもの」
マヤが自分の考えを述べる。
「綾波レイと碇シンジ、二人のチルドレン。つながりは…不明」
そう言って黙り込む3人。
「もしかしてさ~青葉君、シンジ君に妬いてるの?」
「な、なに言ってんだマヤ!」
「慌てる所がなおさら怪しい~♪」
「そういうマヤこそ、俺に妬かないの?」
青葉は軽く聞いたつもりだった。
「何で私が青葉君の事なんか!」
凄い勢いで否定するマヤ。
気まずい空気の3人。
「ま、いいか。先帰るわ俺。副司令にも許可もらってるし」
青葉は気まずくなった原因は自分と判断し立ち去る事にした。
「ああ、じゃ明日な」
「じゃあね、また明日。青葉君」
「じゃ、明日」
まだ明日がある。まだ生きていれるんだと、ネルフ入社当時に3人で決めた別れの挨拶。
まだ、その決め事は守られていた。
青葉が去った後、日向とマヤ。
「マヤは、本気じゃなかったんだろ?」
「そうよ……でも、今はこのままでイイじゃない」
「今は、今だけなんだぞ…」
「わかってる…」
<司令室>
リツコと冬月。
「赤木君、綾波レイに関しての調査及び情報収集の必要はなくなった」
冬月は、いたって事務的に言った。
「一つ質問してよろしいですか?」
「なにかね?」
「碇司令の命令ですか?」
冬月へ問うリツコの顔は真剣だ。
「いや、違う」
察しの速いリツコは、この一言で理解した。
老人達が命令したのだと。
「わかりました、調査及び情報収集を破棄します」
「もう一つある、碇からの伝言だ」
「何ですか?」
冬月が重そうに口を開く。
「今週には帰るそうだ」
「は?」
「今週には帰る、そう赤木君に伝えてくれとの事だ」
「司令らしいですね」
微笑みながら、本当に不器用な人とリツコは思った。
「ああ、まったくだ!」
冬月は苦い顔をしながらも、不器用な奴だと思った。
<ネルフ内、独房>
シンジは独房にいた。
2度目の命令違反。
今回はさすがに使徒を倒したとはいえ、怪我をしていたとはいえ、温情措置は下らなかった。
ミサトも今回は冷たかった。
「自分の命を考えてから行動しなさい!今日はそこで反省しなさい!」
最後にそう言ってミサトは去った。
独房に一人、シンジは考えていた。
今日という日に起こった事を。
無我夢中だった。ただ、綾波を助けたかっただけだった。
<使徒との戦闘>
防戦一方の零号機と使徒の間に入る初号機。
たった一撃だった。
一撃の攻撃が使徒を倒した。
使徒のコアを貫く初号機のプラグナイフ。
これで、決まりだった。
<再び独房>
なのに、綾波は…。
僕が、間違った事をしたのかな?
ミサトさんも怒ってたな…。
「運良く使徒を倒せたからいいものを、倒せなかった時の事を想像出来るシンジ君!」
使徒を倒せなかった時…。
間違い無く僕は死ぬな…。
死んだら泣く人いるかな?
父さんは泣いてくれるかな?
ミサトさんやネルフの人達泣いてくれるかな?
綾波は………!
ハッと目を開くシンジ。
「綾波…」
呟くシンジ。
綾波は僕の頬をひっぱたく時、悲しい目をしていた。
悲しい目をしていた…。
「綾波……」
もう一言呟き、シンジは目を閉じ、そして眠った。
<綾波の帰り道>
一人で家路への道を帰る綾波。
碇君…。
私を助けてくれた…。
なぜ、たたいたの私…。
わからない…。
碇君が私を助けてくれたとき…。
碇君…泣いてた…。
碇君が壊れていく感じがした…。
碇君…壊れないで…そう思った…。
碇君は…なぜ私を助けたの…命令違反をしてまで…。
わからない…。
碇君に話し掛けたとき…。
なぜ…話し掛けたのか…わからなかった…。
…同じ所にあるのなのかもしれない…答は…。
……碇君。
<その日の夕食。青葉のマンション>
レイと青葉が食事をしている。
献立は、サラダにパスタ。数少ない青葉のレパートリーの中の一つである。
綾波レイとの食事には会話が無い。
けれど、青葉は話し掛ける。
少女が心を開いてくれる日まで。
「レイちゃんは最近調子どうだい」
笑顔で話し掛ける青葉。
「いつもと同じです…」
「そう…」
レイの答えに寂しそうな表情の青葉。
(会話が続かないな…こんな時どうすれば…そうだな)
「今日、戦闘前にさシンジ君に話し掛けただろ、どうして話しかける気になったんだい?」
ピクリと反応するレイ。
「………」
「聞いちゃ、まずかったかな」
すまなそうにレイの顔を見る青葉。
「……わからない……」
「そうか…レイちゃんもわからないのか…」
(綾波レイ本人にわからない事を、俺がわかるはず無いか…)
<一週間後、学校>
シンジは病院を退院した。
久し振りの学校は、いつもと変わらずに存在していた。
小さい頃は学校なんて無くなればいいのにと思っていたシンジ。
だが、エヴァに乗り始めてからは違った。
学校に行ける。
ただ、それだけで幸せだった。
「お、シンジやないかい!」
「おかえりシンジ!」
暖かく迎えてくれる友人がいる。
それだけでシンジは幸せだった。
「みんな、変わりなかった?」
優しく微笑むシンジ。
「変わった事か?一つだけある!」
ケンスケが得意げに話す。
「俺の体験を、ネルフが資料として提供してくれって言ったんだ」
「なんの?」
「シンジとエヴァに乗ったときの事だよ」
「ああ、あのこと」
「俺の貴重な体験からエヴァの新兵器の開発でもするのかな?シンジ聞いて無いか?」
「いや、なにも。でも出来たらスゴイよね」
そう笑いながらも、シンジは気付いていた。
なぜ、あの戦闘に資料が必要かを。
リツコさんも不思議がってたもんな、僕がノイズ混じりでシンクロ率をアップさせたって。
そんな事を考えながら辺りを見まわすシンジ。
そして、窓際に座る綾波レイを見つけた。
そして、シンジは呟いた。
「綾波レイ…」
<オペレーター室>
青葉とマヤがいる。
「でも、良かったじゃない。一緒に暮らせるんだから」
微笑みながら会話する二人。
「そう考えると、気も楽になるかな」
「そうよ、情報分析じゃなくて保護だけに専念できるんでしょ、むしろ喜ぶ事よ」
「そうだな、ようは考え方か」
「そうそう、もっと前向きに考えなくっちゃね♪」
そう言って立ち去るマヤ。
「そうだな…」
一人になって呟く青葉。
この話は、六日前に戻る。
<六日前、赤木博士の研究室>
第四使徒戦闘後の翌日、リツコに呼び出される青葉。
「なぜですか!納得がいきません!」
「これは、上層部の問題よ!あなたに決定の権限は無いの!」
言い争う青葉とリツコ。
この原因はレイだった。
レイの情報収集と調査の破棄を決定した事で、青葉の役割は終了したとリツコが判断したからだった。
「しかし、今からなんですよ!今から心を開いてくれるかもしれないのに!」
「青葉君、あなた分析官として失格ね」
いたって冷静に言い放つリツコ。
「!…感情を入れ込み過ぎだと」
自分の言動に気付き、声のトーンが下がる青葉。
「そうね、他人の事は良くわかるけど自分の事は良く見えない」
「分析官としてミスを犯したと…」
「そこまでは言ってないわ、ただ青葉君の役目は終わったの」
「…そうですか」
唇を噛み締めて、自分の気持ちを殺す青葉。
そんな、青葉の表情を見てリツコは言った。
「青葉君、情報収集は破棄するけど、保護まで破棄するとは決まってないの」
「…それじゃあ」
顔に笑みが浮かぶ青葉。
「そう、綾波レイの保護をよろしく頼むわ青葉君」
微笑むリツコ。
「了解しました!」
<再び、オペレーター室>
青葉は、一人思考の中にいた。
(しかし、合点がいかないのは情報の破棄に関してだな…。
上層部っていったって、ネルフに命令出来る機関は少ない。
マルドゥック機関か……違うな。
内閣……これも、理由が無い。
碇司令……いや違う、司令の命令で調査を開始したんだ、その筈が無い。
上層部って何だ……)
青葉は答を求めていた。
しかし答は、まだ見つからない。
<学校、2-A>
学校の授業も終了し、帰り始める生徒たち。
そんな中シンジはレイを見ていた。
「シンジ、帰るで~」
トウジがシンジに声を掛ける。
「ごめん、先に帰ってくれるかな」
「シンジ~綾波だろう。お前の目的は」
ケンスケがシンジをジト目で見る。
「な、なに言ってんだよ!ケンスケ!」
赤くなりながら否定するシンジ。
「シンジは、ほんまに嘘のつけんやっちゃ」
「そうそう、じゃ俺達は邪魔しちゃ悪いから」
「「帰るとしますか!」」
見事なユニゾンで笑いながら帰る二人。
シンジは、友人を見送るとレイの机に向かった。
「綾波、一緒に帰ろ」
赤くなりながらも話し掛けるシンジ。
コクリと頷くレイ。
二人は教室を後にした。
<帰り道の二人>
レイとシンジは夕陽の中を歩いている。
「綾波」
「なに?」
「綾波は夕陽は好き?」
「…わからない」
うつむくレイ。
「そう…僕は好きなんだ」
そう言って優しく微笑むシンジ。
「手のひらを夕陽にかざしてごらんよ、綾波」
「こう?」
夕陽に手をかざすレイ。
「手が真っ赤に見えるだろ」
コクリと頷く綾波レイ。
「赤く血の色が見えるって感じがしない?」
「血の色…生きてる…」
「そっ、生きてる。今日も僕は生きてるって確認出来るだろ」
「…生きてる」
「そうだよ。生きてるから、この夕陽が見れるんだ」
「………」
シンジの言葉をただ黙って聞くレイ。
「だから、僕は夕陽が好きなんだ」
「………」
それから二人は黙ったまま家路へ向かった。
シンジは別れ道で「僕の家はこっちだから」と言って去った。
一人になったレイは夕陽に手をかざす。
「生きてる…」
そう呟くレイは、とても綺麗だった。
<どこかのホテル>
リツコとゲンドウがいる。
二人は男女の営みを済ませた後だった。
「いいんですか、シンジ君は」
「シンジは知っている」
「私達のことをですか?」
チョット微笑ながら訊ねるリツコ。
「いや、違う。シンジは私を理解している。」
「そういう事ですか…」
そう言ったリツコの顔は、とても寂しそうだった。
なにを期待したのだろう、私は。
私とこの人の事を、シンジ君に認めて欲しかったのかしら。
いいえ違うわね、この人に愛して欲しかったのね…
そう考えた後、リツコは少し笑った。
悲しい笑顔で、哀しい笑顔で、泣き出しそうな笑顔で。
<碇家のマンション>
シンジは料理を終えゲンドウの帰りを待っていた。
夜の11時を時計は過ぎていた。
料理は冷め切っていた。
「…父さん…遅いな…」
シンジはダイニングルームで待っていた。
父の帰りを。
一緒に食事をしようと父の帰りを待っていた。
そう呟きながら、シンジは眠っていた。
とても、とても安らかな寝顔で。
つづく
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