初号機は地上へと射出された。

シンジは地上に着くなり、空を見ながら思う。

(空から来る使徒……。でも…僕は……。)

 

 

 

僕は僕で僕

(49)

 

 

 


 

「…おかえりなさい」

シンジの思考を中断させるかのように、初号機内のモニターにマナが映った。

マナは微笑んでいた。

「……うん、ただいま」

マナの言葉に、シンジは微笑みを浮かべ答えた。

「不安だったんだから……ホントに」

そう言って、マナはシンジを見つめた。

 

「……ごめん」

今のシンジには謝ることしか出来なかった。

「でも…大丈夫だよね。さっきの言葉……嘘じゃないよね?」

マナは真剣な表情で、シンジに訊ねた。

ちなみに、マナ達は聞いていた。シンジの言葉を…相互回線によって。

 

「嘘じゃない……。僕が決めたから…生きるって」

マナに答えるように、シンジも真剣な表情をしていた。

  

「……ありがとう……シンジ君」

シンジの言葉を聞き、マナは涙をLCLに溶かした。

 

自分の為に泣いてくれたマナを見て、シンジは呟く。

「ありがとう……マナ」

 

 

<二号機の中>

 

アスカは二号機の中で、シンジとマナの会話を聞いていた。

そして思う。

(何か…いい感じよね。

どうせ…私が話しかけても……アイツ。)

 

「……それに、僕はアスカに必要無いし…ね。」

 

シンジの言葉を思い出し、アスカは寂しげな表情で、モニターのスイッチを切ろうとした。

 

「アスカ?」

突如、シンジの顔がモニターに映った。

「な、なによ!急に!」

突然映ったシンジの顔に、アスカは驚きを隠せなかった。

そして嬉しさも隠せず、アスカは顔を赤くしていた。

「ご、ごめん。……言いたいことがあったから」

シンジは謝りながら口を開いた。

 

「……言いたいことがあるんなら、サッサとすれば?」

アスカは頬を赤く染めながら話した。

嬉しいのに、自分の気持ちを素直に表せない自分に苛立(いらだ)ちながら。

「……僕は、まだ僕でいられるみたいだから…その……」

シンジは言葉が続かず、口ごもってしまった。

 

口ごもるシンジを見て、アスカはシンジが何を言いたいのかを悟った。

そして優しい表情で口を開く。

「……わかった。…とりあえず、足引っ張らないでよね」

シンジの言葉を聞き、アスカは微笑みを見せた。

「あ、うん、わかった」

アスカに答えるように、シンジも微笑みを見せた。

 

話の終った後、アスカはモニターのスイッチを切った。

そして思う。

(生きていれば勝ち…。生きていれば一人じゃない…。……そして、生きていれば…いつか…きっと。)

 

そう思った後、アスカは微笑みながら呟く。

「生きる…か。……案外、楽しそうね」

 

 

<初号機の中>

 

シンジは零号機を、初号機のモニターに映した。

だが、回線を開くわけでもなく、ただ見つめているだけだった。

 

(綾波……。

綾波……優しい表情をしていた。)

 

シンジは数日前の夢の出来事を思い出していた。

もっとも夢ではなく、現実だったのだが。

 

(綾波が近くにいる……。

それだけなのに…不思議な感じがする……。

ただ近くに感じるだけなのに……こんなに落ち着くなんて……。)

 

シンジは零号機を見つめながら、静かに目を閉じた。

 

 

<零号機の中>

 

レイは初号機を見つめていた。

だが、何を言うわけでもなく、ただ見つめていた。

 

そして優しげな表情を浮かべ呟く。

 

「おかえりなさい……」

 

 

<数時間後、作戦司令部>

 

「目標接近!距離、二万五千!」

予定時刻どおりに、使徒が行動を開始した。

 

「おいでなすったわね。エヴァ全機、スタート位置」

ミサトは皮肉混じりに言葉を放つと、エヴァへ指示を出した。

 

使徒の接近によって、慌ただしくなる作戦司令部。

だがそれは予測された事態であり、適度の緊張と落ち着きを持った慌ただしさだった。

 

「お待ちかねの到着よ。思う存分、歓迎してあげて」

ミサトは不敵に笑いながら、チルドレン達に使徒の接近を知らせた。

そして言葉をつなぐ。

「目標は光学観測による弾道計算しか出来無いわ。よって`MAGI´が距離一万まで誘導します」

-それって、単純に走ればいいってことですか?-

ミサトの作戦を聞き、マナが訊ねた。

「そうね、そういうことになるわ。でも距離一万までよ。そこから先は、貴方達に任せます」

ミサトは真剣な表情で、マナに答えた。

 

-OK、わかったわ。マナ、行くわよ!-

アスカは待ちきれないといった表情で口を開いた。

 

アスカの様子をモニターで見ながら、ミサトは苦笑した。

そして声を上げる。

 

「作戦開始!!」

 

 

<第三新東京市>

 

エヴァ四体は走り出した。

使徒の落下予測地点に、`MAGI´のバックアップを受け、徐々に加速しながら。

 

予測地点までの距離が一万を切っても、エヴァは四体は加速を緩めることが無かった。

やがて、空が赤く霞んできた。

使徒の落下による加熱と衝撃が原因であった。

そして、第十使徒が地球へと姿を見せた。

 

(…間に合わない!)

レイは加速する零号機の中で、瞬時に判断を下した。

だが加速を緩めることなく、落下地点へと向かう。

今のレイには、この方法しか残された手段が無かったからだった。

 

「マナッ!」

第三新東京市に、シンジの声が響いた。

「!」

JAが目標に一番近い所に配置されたことを、レイは思い出した。

 

「フィールド全開!!」

マナの声が響く。

JAはATフィールドを全開に開き、落下する使徒の衝撃に備えた。

そこへ第十使徒が落下してきた。

 

JAのATフィールドと使徒のATフィールドが接触した。

ゴオォォォォォ!

その接触地点を中心に、凄まじい衝撃波が起きる。

その衝撃波は、JAは使徒をキャッチすることに成功した合図だった。

 

「やった!」

マナが声を上げた。

JAはATフィールドで使徒を支えていた。

だが、マナの張るATフィールドは、他のチルドレンに比べると多少劣る。

その所為もあって、徐々に地表へと体を押し潰されそうになった。

 

「このッ!フィールド全開!!」

JAを支えるように、初号機がJAの側に辿りついた。

辿りついた、その直後にフィールドを展開した。

初号機とJAは、ニ体で使徒を支える形になった。

そして初号機の背後には、零号機も姿を見せていた。

 

「綾波!」

シンジが零号機に叫んだ。

「クッ!」

レイは焦りの表情を見せながら、ATフィールドに触れた。

そしてフィールドを中和し、プログナイフを突き立てた。

 

だが使徒の生態反応は…ATフィールドは消えなかった。

 

「こんのォォォォ!落ちろォォォォ!」

最後に辿りついた二号機の中で、アスカが声を上げた。

そして使徒へとプログナイフを突き立てる。

 

ジリリリリリ!

焼けつけるような切断音が第三新東京市に響いた。

二号機と零号機は、有らん限りの力で使徒を突き切り裂いた。

 

ガクン。

不意に使徒のATフィールドが消えた。

使徒は絶命したようだった。

 

だが危険はまだ去っていなかった。

生態反応を無くした使徒が、そのままエヴァの上に覆い被さっていたからだった。

「…潰される!」

初号機の中にいたシンジか、使徒の重みに気づき声を上げた。

そして、緊張した表情で言葉をつなぐ。

「僕が支える!皆、逃げて!」

 

だがシンジの言葉とは裏腹に、他のエヴァは待避しなかった。

初号機のモニターに、少女達の声が聞こえてきた。

「かっこつけんじゃないわよ」

「そうそう」

「……生きる…生きること。…大切なこと…」

 

エヴァ四体は使徒を支える形になっていた。

 

「………皆」

シンジは初号機の中で涙ぐんでいた。

 

その直後、エヴァの体が使徒に包み込まれた。

ズドン。

そして鈍い音が響く。

無情な衝撃音が、第三新東京市に響いた。

使徒がエヴァを地表に押し潰した音だった。

 

 

<指令室>

 

チルドレン達は指令室に来ていた。

このことは、ミサトの作戦が成功したことを物語っていた。

だが、シンジの姿は、そこには無かった。

 

「使徒撃退、ご苦労様♪」

ミサトは微笑んでいた。

自分の作戦が成功し、チルドレン達も無事だったことを、ミサトは素直に感情に出した。

「今回は危なかったです」

マナが微笑みながら話した。

「そうね。まさか潰されるとは思わなかったわ」

アスカは苦笑しながら、マナに答えた。

「まぁ、全員無事だったんだし、結果オーライでしょ」

ミサトも苦笑しながら口を開いた。

 

「お咎め無しで、ホッとしているって顔ね」

アスカがミサトの表情に、ツッコミをいれた。

「まぁね♪」

アスカの言葉に、ミサトは微笑むだけだった。

 

穏やかな雰囲気の指令室。

そこへレイが口を開く。

「碇君…遅い……」

 

「まぁ、積もる話があるんでしょ。親子だし…」

ミサトは優しい表情で、レイの言葉に答えた。

 

シンジは指令部近くの別室に行っていた。

父のゲンドウと話をする為に。

 

数分前、ミサトはチルドレン達と共に戦後報告を、ゲンドウにしていた。

どうやら今までは使徒のジャミングによって、通信が不通になっていたようだった。

ミサトは、まずエヴァに傷を負わせたことに対し、素直に謝辞した。

だがゲンドウは、ミサトの責を問う前に、ミサトの作戦手腕を評価した。

 

-よくやってくれた。……葛城三佐-

ミサトに対する、ゲンドウの言葉である。

 

 

<指令室近くの別室>

 

「うん、わかった。戸締りには気をつける」

シンジは嬉しそうな表情をしていた。

まるで父との会話を楽しむように。

 

「あ、あと、帰ってきたら、昔のこと…教えて欲しいんだけど……」

シンジが`SOUND ONLY´と映る通信システムに話しかけた。

-昔?……いつだ。-

ゲンドウの声は威圧的なものだった。

「……十年前…なんだけど」

自分が悪いことを聞いてしまったのかと思いながら、シンジは話した。

 

シンジの言葉に、ゲンドウは少しの間、黙ったままだった。

そしてゲンドウの声が部屋に響く。

-知りたいのなら教える。……十年前、何があったかを。-

ゲンドウの言葉を聞き、シンジは真剣な表情で口を開く。

「うん、ありがとう」

そして微笑みを浮かべ言葉をつなぐ。

「帰ったら…食事、一緒に出来る?」

-…時間が出来ればな。-

シンジの問いを、ゲンドウは短く返した。

 

だがシンジには、これで充分だった。

少しでも父が自分の事を気にしてくれれば、それだけで充分だった。

 

「帰ってくるの待ってる……。じゃあ、切るよ」

ゲンドウに話すと、シンジは通信システムを切ろうとした。

そこへ、ゲンドウの声が聞こえてきた。

-今回、良くやったな……シンジ。-

 

プツリ。

父の声と共に、通信システムが切れた。

 

突然の父の言葉に、シンジはしばらく呆然としてしまった。

そして思う。

 

(……父さんが…僕を誉めてくれた。)

 

 

 

つづく


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あとがき

だいぶ遅くなりました。お待ちになってる方々、大変すみませんでした。m(_ _)m
とりあえず、まだ僕は書くことが出来るみたいです。……なんかホッとしちゃいました。(笑)

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