<パイロット待機室>

レイとマナはプラグスーツに着替え終わり、次の命令を待っていた。

そこへ、アスカが戻ってきた。

 

 

 

僕は僕で僕

(47)

 

 

 


 

「遅かったね。忘れもの…見つかった?」

アスカが入って来たのを見て、マナが訊ねた。

アスカはマナに浮かない表情を見せながら口を開く。

「見つからなかった……。何も……」

 

アスカの表情に合わせるかのように、待機室は静かだった。

もっとも、戦闘前ということもあるのかもしれないが。

 

「そう……。一緒に捜しにいく?」

アスカの表情を見て、マナは何かを感じたのか、優しげな表情で訊ねた。

「いい……。多分、私じゃ、見つけれない気がするから…」

マナの言葉を、アスカは寂しげな口調で遠慮した。

 

「失ったのなら、また創り出せばいい…。……人は、そうして生きてきたわ」

唐突に、レイが口を開いた。

 

「…レイ」

レイの言葉を聞き、何かに気づいたかのように、アスカは呟いた。

「でも`忘れもの´と`失う´って話がずれてない?」

レイの言葉に疑問を感じ、マナが口を開いた。

 

「……そうね。…そうかもしれない」

レイは自分の間違いに照れたのか、恥ずかしそうに頬を桜色に染めた。

 

「「!」」

レイが照れている姿を見て、アスカとマナの二人は驚きを隠せなかった。

そして、マナが口を開く。

「…私、照れる姿って初めて見ちゃった。……綾波さんって、可愛い♪」

レイを見つめ、マナは優しい微笑みを見せた。

「可愛い……。私が?」

マナの言葉を聞き、レイが訊ねた。

「うん、今の表情を`うち´の男子に見せたりしたら、絶対メロメロになること間違い無し♪」

マナが微笑みながら話した。

 

マナの言葉を聞き、レイは呟く。

「……メロメロ」

 

そこへ室内放送が流れた。

-チルドレンは各ケイジに移動して下さい。繰り返します。チルドレンは………。-

 

「作戦…始まるね」

室内放送を聞き、マナがアスカに話しかけた。

「シンジが抜けた分、私に任して良いわよ」

シンジの名前を出したが、不思議とアスカは微笑んでいた。

「……シンジ君、もう乗らないんだよね」

アスカの`シンジ´という言葉を聞き、マナが呟いた。

「……マナは一緒に戦って欲しいの?」

マナにアスカが訊ねた。

 

短い間だが、マナは沈黙した。

そして口を開く。

「……解らない。私には必要だけど、シンジ君には必要無いかもしれないから…」

マナは、気丈にも微笑みを浮かべ言葉をつなぐ。

「行こ。ミサトさん、待ってると思うから」

そう言って、マナは待機室を出た。

 

アスカもマナに付いて行こうとしたが、レイの姿が目に入った。

「レイ、行くわよ」

アスカが、レイに話しかけた。

「メロメ……」

レイは、まだ先程の言葉を呟いていた。

そして言葉をつなぐ。

「…何処へ?」

「聞いてなかったの?エヴァに乗るのよ」

アスカは苦笑しながら、レイに話した。

「わかったわ…」

アスカの言葉を聞き、レイは待機室の出入口へと向かおうとした。

 

アスカはレイを優しく見つめながら思う。

 

(失ったもの……また創ることにするわ。

…………レイ、ありがとう。)

 

 

<ナオコの研究室>

 

シンジはナオコの研究室へと来ていた。

ナオコに連れ出されたからには、ナオコの行く場所に行くしか無かったからだった。

 

「お茶菓子、食べる?」

ナオコが微笑みながら、椅子に腰掛けているシンジに話しかけた。

「いえ、いいです。食欲無いし…」

シンジは微笑みながら、ナオコに答えた。

だが、表情はどこか冴えない。

「そう。じゃあ、お茶でも入れるわね」

ナオコはお茶を入れようと、給湯室に向かおうとした。

 

そこへ、シンジが真剣な表情で話しかけた。

「…僕、もうエヴァには乗れないんですか?」

ピタリ。

シンジの言葉を聞き、ナオコは足を止めた。

そして、ゆっくりとシンジの方へと振り向き、悲しげな表情で口を開く。

「エヴァにとりつかれたのね…。貴方も……」

 

「僕も…?エヴァに…?」

ナオコの言葉を聞き、シンジが呟いた。

「十年前……エヴァにとりつかれた人がいたの」

ナオコは近くの椅子に腰掛けると、静かに話し始めた。

「その人は、エヴァに人類の希望を託していたわ…。でも結局は…」

シンジを見て、ナオコは辛そうな表情を見せた。

そして言葉をつなぐ。

「エヴァに取りこまれた……。…いえ、彼女は…それを望んでいたのかも……」

 

(取りこまれた?彼女?)

ナオコの話は、シンジに理解出来無いことばかりだった。

「……女の人なんですか?」

シンジはナオコに訊ねた。

「覚えていないのね…。そうね、貴方は幼かったから…」

「……あの、僕には何がなんだか…解りません」

シンジは自分では理解できないことを伝えた。

 

シンジの言葉を聞き、ナオコは真剣な表情になった。

そして、口を開く。

「十年前、貴方はネルフにいたのよ」

「僕が…ネルフに……」

ナオコの言葉に、シンジは驚きの表情を隠せなかった。

シンジの表情を見ながら、ナオコは話を続ける。

「……そして、その目で見ているの。彼女がエヴァに取りこまれる様子を…」

「僕が…ネルフで見ていた」

ナオコの話した言葉は、シンジには大き過ぎる事実だった。

 

碇シンジは、十年前にネルフにいた。

そこで、エヴァに取りこまれる人を見ていた。

この事実は、シンジの記憶には無かった。

 

「あの…取りこまれるって?」

シンジは頭が混乱しながらも、ナオコに訊ねた。

ナオコの言葉を、少しでも自分の中で消化しようと。

 

だが、シンジが訊ねても、ナオコは答えなかった。

ただ沈黙して、何かを考える素振りを見せていた。

そして、ゆっくりと口を開く。

「……いずれ、知るときが来るわ」

 

ナオコの言葉を聞きながら、シンジは思う。

 

(十年前……僕はネルフにいた。

……そこで、僕はエヴァに取りこまれた女の人を見ていた。

とりつかれて…取りこまれた人を……。)

 

(……僕は解らない。……思い出せない。

………僕が四歳のとき……何があったんだろう。)

 

 

<JAケイジ>

 

マナはエントリープラグに乗り込んで、LCLが注入されるのを待っていた。

 

(緊張しちゃうなぁ…。やっぱり……。)

マナはLCLが苦手だった。

血の匂いがする液体に、マナは違和感を感じていた。

 

-LCL注入します。-

プラグ内にマヤの声が聞こえてきた。

 

ドボドボ。

プラグ内がLCLに満たされていく。

「……ンッ」

マナは顔がLCLに浸かると息を止めた。

「フゥ~」

そして、ゆっくりと溜めた息を吐き出した。

コポコポ。

マナの吐き出した息が、上へと昇っていく。

息を吐き出した後、マナはLCLを自らの肺に取りこんでいた。

 

肺へLCLを取りこんだ後、マナは匂いを嗅いだ。

そして呟く。

 

「やっぱり…嫌い。……血の…匂いがする」

 

 

<ナオコの研究室>

 

シンジはナオコの言葉を考えていた。

だが、どれだけ考えても答えが出る筈が無かった。

過去のことを思い出すには、時間が経ち過ぎていた。十年という時間が…。

 

「シンジ君、今度は私が質問してもいいかしら?」

考え込むシンジに、ナオコが話しかけた。

「え、あ、はい、構いません」

思いがけず話しかけられ、少し慌てながらもシンジは返事をした。

「どうして…エヴァに乗ることに固執するの?」

シンジに優しく微笑みながら、ナオコが訊ねた。

 

シンジは少し考えた後、口を開く。

「……父さんと、皆と会えるから…です」

 

シンジの言葉を聞き、ナオコは驚いた表情を見せた。

ガタッ。

ナオコは椅子から立ち上がり、シンジの側に近寄りながら訊ねる。

「あなた…本当に、そんな理由で乗ってるの?」

「……はい、それだけです。……僕、間違ってますか?」

自分がエヴァに乗る理由が正しいのか間違ってるのか、シンジには自信が無かった。

ミサトに搭乗を拒否されたことも含めて。

 

「あっ…」

突然、シンジが小さく呟いた。

「あなたって子は……」

ナオコはシンジの問いに答えず、優しくシンジを抱きしめたからだった。

椅子に座ったシンジを、優しく包み込むように。

 

シンジは抱きしめられながら思う。

(母さんって……こんな感じなのかな……。)

 

 

<零号機ケイジ>

 

レイは目を閉じ、出撃の号令が出るのを待っていた。

 

-レイちゃん、落ち着いてるね。-

青葉の声がプラグ内に響いた。

「はい」

レイは淡々とした表情で、青葉に答えた。

-あ、それから、この前の夜のこと内緒にしてくれてる?-

青葉がレイに訊ねた。

 

この前のこと。

それは、青葉がレイをシンジの部屋に連れて行ったことだった。

青葉は玄関前で待っていただけだったが、レイは不法侵入になってしまう。

その為、二人の秘密ということになっていた。

 

シンジの見た夢は、正夢だった。

 

「はい…内緒です」

レイが少し顔を赤らめた。

 

-この前の夜って、何だよ?…まさか、お前……!-

日向の声が聞こえてきた。

-……不潔。……最低。-

マヤの声も、零号機のプラグ内に響いた。

-何言ってんだ!誤解だ!話せば解る!-

青葉の叫びに近い声が聞こえた。

-じゃあ、説明してみろよ。-

日向が青葉に訊ねている声が聞こえた。

 

短い沈黙の後、青葉の呟きが聞こえる。

-……内緒だ。-

 

-お前…人間失格だよ。-

日向の気落ちした声が響く。

-……獣(けだもの)以下。-

マヤの声も響いた。

 

-お前らなぁ……。-

説明したい衝動を押さえた、青葉の声が聞こえた。

 

「青葉さん……」

レイが微笑んだ。

オペレーター達の会話を聞き、レイが微笑んだ。

誰も気づかなかったが、レイは確かに微笑んだ。

 

綾波レイに感情が芽生えつつあった。

 

 

<ナオコの研究室>

 

シンジを抱きしめた腕を解くと、ナオコは訊ねた。

シンジがエヴァを降ろされた理由を。

そしてシンジは説明した。

自分が「書く」と言った為に、降ろされたことを。

 

「どう考えても、シンジ君に責任があるわね」

ナオコは優しく微笑みながら、シンジに言った。

「でも、ミサトさんは…書くことになってるって…だから、僕……」

シンジは自分が、なぜ降ろされたかを理解していなかった。

 

シンジの言葉を聞きながら、ナオコが真剣な表情で口を開く。

「葛城さんね…父親を使徒に殺されてるのよ……葛城さん…辛かったと思うわ。」

そして、静かに言葉をつなぐ。

「勝手に死なれて…一人きりになって……生き残った人間は辛いのよ」

ナオコは南極で起こった事件を知っていた。

十数年前から、エヴァに携(たずさ)わっている人間としては、当然なのかもしれない。

 

シンジに語った後、ナオコは以前に自分が自殺しようとしたことを思い出した。

そして思う。

(……でも、私も似たようなものね。偉そうなこと言えないわ……。)

 

「僕…間違ってたんですか?」

シンジがナオコに訊ねた。

「それはシンジ君が決めることであって、私が決めることじゃないわね」

シンジの言葉を聞き、ナオコは優しく微笑みながら話した。

 

シンジは考えた。

自分が間違っているのかを、自分で決める為に。

 

(……僕は…いずれ死ぬ。だから…遺書を書こうと思った。

皆に`ありがとう´と一言だけ書こう…と思ってた。

それが正しい…と思ってた。……いつ死ぬか解らないから。)

 

(でも、それは間違いだったかもしれない。

僕は……自分のことしか考えていなかった。

僕が死んだら…誰かが辛い思いをするかもしれない。

……そんなのは嫌だ。

生きてることも辛いけど……僕が死んで嫌な思いをさせることは…もっと辛い。)

 

(……僕は間違っていたのかもしれない。

僕は……生きたい。生きて…皆に会いたい。

死んだら…皆には会えないから……。

辛いことも悲しいこともあるけど…生きていれば楽しいこともあるかもしれない。)

 

(多分、僕は……生きていたい。)

 

 

シンジは、ゆっくりと口を開く。

「僕…間違ってました。ミサトさんに謝ります」

「そうね……。それがいいわね」

シンジの言葉を聞き、ナオコは優しく微笑んだ。

そして腕時計を見ながら、言葉をつなぐ。

「でも、時間が無いわ。そろそろ出撃で忙しくなるし」

 

ピクリ。

`出撃´という言葉にシンジは過敏に反応した。

その反応をナオコは見逃さなかった。

そして、ナオコは何かを思いついたのか、微笑みながらシンジに訊ねる。

「シンジ君も出撃したい?」

「…はい」

シンジは真剣な表情で、自分の思いを伝えた。

「じゃあ、約束してくれるかしら?生きて帰ってきますって」

ナオコがシンジに訊ねた。

シンジは少しも考えずに即答した。

「約束します。生きて…必ず生きて帰ってきます」

 

シンジの言葉に、ナオコは満足そうに微笑んだ。

そして優しげな表情で思う。

 

(十年前に取りこまれた人の子供が……自分の意志で初号機に乗ってる…。

ユイさん……貴方、どう思ってるの?)

 

 

 

つづく


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あとがき

何か頭の中がグッチャグチャで……。(苦笑)
エヴァの世界観って難しいなぁ、と悩みながら書いている、今日この頃です。

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