「チンゲン菜に玉子……シンジ君って、買い置きしないんだ」

マヤが冷蔵庫の中身に呟いた。

だが、これだけ食材があればマヤには充分だった。

 

 

 

僕は僕で僕

(44)

 

 

 


 

「お鍋に♪お玉に♪調味料~♪」

マヤは鼻歌混じりに料理を始めた。

普段は男臭いの碇家に、今日だけはマヤという一輪の花が咲いた。

 

 

<シンジの部屋>

 

「楽しそうだな……マヤさん」

マナの鼻歌にシンジは呟きながら、制服から私服へと着替えていた。

突然の来訪者に感謝の念を持ちながら。

 

不意にシンジはエヴァのことを思い出した。

(風邪を治したら……また、エヴァに乗るんだろうな……。)

制服を脱ぎなから、シンジはエヴァのことを思い出す。

何時如何なる時でも、シンジはエヴァのことを忘れていなかった。

 

(……僕が乗れば、父さんは喜んでくれる。

……僕が乗れば、ここに居れる。

……僕が乗れば、皆とまた会える。

………最初に決めたんだ。………僕が乗るって。)

父と暮らす為の絆、自分が存在している理由、皆と生きていける理由。

そんな思いを、シンジはエヴァに反映させていた。

そう思った後、シンジはミサトの言葉を思い出した。

 

「そんな気持ちで乗ってるんだったら、即刻エヴァを降りなさい」

 

「そんな気持ち……」

ミサトの言葉を思い出し、シンジは呟いた。

そして思う。

(僕が降りたら……父さんと暮らせない。

僕が降りたら……ここに居れない。

僕が降りたら……皆とは会えない。)

 

(………僕は……そんなの…嫌だ。)

シンジは暗い表情で、俯(うつむ)いてしまった。

 

ガラッ。

突然、シンジの部屋のふすまが開いた。

「シンジ君、味付けは薄めでいいわね?」

シンジに味付けを訊ねる為、マヤが開けたのだった。

「え、あ、はい、構いません」

シンジは戸惑いながらも返事を返した。

 

「あ、あの、ごめんなさい!」

ピシャ。

突然マヤが顔を赤くしながら、ふすまを閉めた。

「?」

シンジは不思議に思いながら、辺りを見まわした。

「あっ!」

そして、自分の姿に気づき、顔を赤くするのであった。

 

シンジの姿は、パンツ一枚の男気あふれる姿だった。

 

 

<ミサトのマンション>

 

「ただいま~♪」

ミサトがシンジを送り帰宅した。

「おかえり」

何か考え事をしているのか、アスカの表情は冴えない。

「晩御飯、食べた?」

ミサトが微笑みながら、アスカに訊ねた。

「別に…食べたくないから。………ミサトの食事、冷蔵庫に入ってるわよ」

ミサトが帰宅すると、アスカは自分の部屋へと向かった。

冴えない表情のままで。

 

(……何かあったのかしら?)

アスカの表情に、ミサトは少し考えた。

グー。

そこへミサトのお腹が、空腹の合図を鳴らした。

「とりあえず`腹が減っては戦が出来ぬ´ってね♪」

ミサトは空腹に勝てず、冷蔵庫の中を物色し始めるのだった。

 

 

<碇家のマンション>

 

「熱いから気をつけてね♪」

マヤが微笑んでシンジを見つめた。

どうやらマヤの料理は完成したようだった。

 

食卓の上には、マヤお手製の雑炊が温かい湯気を立てていた。

玉子雑炊にチンゲン菜を入れたものだった。

「美味しそうですね」

シンジは雑炊を見ながら微笑んでみせた。

「食べた後に聞くと、もっと嬉しいかもね♪」

そう言って、マヤは嬉しそうに微笑んだ。

 

「それじゃあ、いただきます」

シンジは、ゆっくりと雑炊を口に運んだ。

「………どう?美味しい?」

ワクワクとした表情で、マヤが訊ねた。

シンジは、口の中で雑炊の味を確かめるように食べていた。 

そして、ゆっくりと口を開く。

「………はい、美味しいです」

シンジはニッコリと微笑んだ。

「そう!やっぱり!私、簡単な料理には自信あるのよ♪」

マヤは嬉しそうに笑顔を見せた。

 

嬉しそうなマヤの表情を見ながら、シンジは思った。

(今なら…教えてくれるかもしれない……。)

 

「あの…マヤさん」

シンジは食事する手を休め、マヤに訊ねた。

「なぁーに?」

マヤは嬉しそうに答えた。

余程、料理を誉められたのが嬉しかったのだろう。

 

「前に…僕が聞きましたよね。`乗りたくないって言ったら´って……」

シンジの表情は真剣だった。

 

シンジは、ミサトの言葉を考え迷っていた。

もし自分が降りたら…降りなかったらどうなるかを。

そしてマヤの来訪で思い出したのだった。

「もし、僕がエヴァってのに乗らなかったら…どうなるんですか?」

以前、マヤに訊ねた言葉を。

 

「……え、ええ」

シンジの表情を見て、マヤの顔つきも真剣になった。

「……何で…僕を`責めない´って言ったんですか?」

シンジがマヤに訊ねた。

「………」

考える仕草を見せ、マヤは沈黙した。

 

重い雰囲気の中、沈黙する二人。

 

「……しいて言えば、ケ・セラ・セラかな?」

マヤは口を開き、優しく微笑んだ。

「ケ・セラ・セラ……ですか?」

マヤの言葉は、シンジには理解出来なかった。

「なるようにしか、ならない……そういう意味よ」

マヤは優しく微笑み、シンジを見つめた。

 

「なるようにしか……」

マヤの言葉を、シンジは考え込むようにして呟いた。

 

「そんなに悩んじゃ駄目よ♪」

真剣に悩むシンジを見て、マヤは微笑み話し掛けた。

そして言葉をつなぐ。

「風邪引いて、空腹で、その上に悩んだてたら、死にたくなっちゃうでしょ?」

マヤは、そう言って笑った。

「あはは。ホント、そうですね」

シンジは笑った。

マヤの言葉を聞き、素直に心から笑った。

そして思う。

 

(なるようにしか……。

うん、今の僕には難しいことは解らない。

……とりあえず、なるように……なろう。)

 

 

<リツコのマンション>

 

マナはシンジのお見舞いには行けなかった。

その理由は、リツコと共に捕獲作戦を開始していたからだった。

 

「そっちに行ったわ!霧島さん!」

リツコは焦り、マナへ声を上げた。

「了解です!えいッ!」

マナは籠のようなものを逆さに持ち、何かを捕まえようとしていた。

 

サッ。

だが籠をすり抜けるようにして、何かは走り去った。

 

「駄目です!目標、速すぎます!」

マナは何かを捕えきれず、リツコへ話しかけた。

冗談混じりに。

「もー、お婆ちゃんたら、何も今日送ってこなくてもいいのに…」

リツコは困ったような表情を見せた。

だが、どことなく楽しそうである。

 

ミャ~。

猫の鳴き声がした。

 

マナ達が追いかけていた`何か´。

それはリツコが祖母に預けていた`猫´だった。

マナと同居をはじめたことで、猫を世話する余裕が出来た為、リツコが呼び寄せたのだった。

 

リツコは食台の影に隠れる猫を見て、ため息混じりに呟く。

「三日もすれば主人を忘れるって…本当ね」

 

捕まえることが出来無い猫に、リツコは楽しそうに`ため息´をつくのだった。

 

 

<碇家のマンション>

 

「そう言えば、シンジ君って楽器かなんかやってたの?」

雑炊を食べているシンジに、マヤが訊ねた。

「え、やってましたけど……何で解ったんです?」

シンジがマヤに訊ねた。

 

「指♪」

シンジの顔を見て、マヤは優しく微笑みながら一言だけ話した。

「指?……ですか」

シンジは自分の指を見た。

「気づかないかもしれないけど、シンジ君の指って細いのよ」

マヤはシンジの指を見て微笑んだ。

そして言葉をつなぐ。

「青葉君から聞いたんだけどね。楽器をやってる人は、指が細い人が多いんだって」

 

「そうなんですか…」

マヤの言葉を聞き、感心そうにシンジは呟いた。

「今度、何か聞かせてね」

マヤが楽しそうに微笑んだ。

 

ピクリ。

マヤの`今度´という言葉に、シンジは反応した。

そして口を開く。

「……あの…今じゃ駄目ですか」

「駄目じゃないけど…シンジ君、風邪引いてるでしょ?」

マヤが心配そうにシンジへ話しかけた。

「大丈夫です。弾けます」

シンジは力強くマヤに答えた。

 

シンジが真剣に見つめるのを見て、マヤは優しく微笑み返した。

そして口を開く。

「………遠慮するわ。今度…使徒を全部倒したとき、平和になったときに…聞かせてもらうから」

 

そしてシンジの食事が終り、薬を飲んだのを見届けると、マヤは去った。

シンジはベッドに横になりながら、先程のことを考えた。

 

(僕は…なるようにしかならない。

でも……多分、僕は……今の僕に解ってることは……。

今度という言葉が…僕には重たいってこと……。)

 

そう思った後、シンジは静かに眠りについた。

 

 

<青葉のマンション>

 

レイはTVを見ていた。

だが内容はどうでも良かった。

今のレイには`TVを見る´という行為でしかなかった。

 

「片付けするから、TVでも見ててよ」

 

という何気ない青葉の一言を聞いた為だった。

 

「前さ、レイちゃん言ったよね?夜だとシンジ君には会えない…って」

青葉が食器を洗いながら、レイに訊ねた。

「はい」

レイは無表情に返事を返した。

「……会えるよ。レイちゃんが、会おうと思えば何時(いつ)だって」

レイからは、青葉の表情は見えなかった。

だが青葉の言葉には、優しさを感じさせるものがあった。

「………」

`会える´という言葉を聞き、レイは黙って青葉の背中を見つめた。

「…会いに行く?」

ゆっくりとレイの方に振り向くと、青葉は微笑みを浮かべ訊ねた。

 

コクリ。

青葉の言葉に、レイは頷いて答えた。

 

 

 

つづく


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あとがき

リッちゃんの猫の名前をどうするか、思案に苦しんでます。(笑)
とりあえず、書きながら考えます。

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