<十五年前の出来事>

西暦2000年、南極。

セカンド・インパクトと呼ばれる出来事が、この地で発生した。

 

 

 

僕は僕で僕

(42)

 

 

 


 

南極の地では、ブリザードの嵐が吹いていた。

だが、それは`自然現象´という生易しいものではなかった。

十五年後にセカンドインパクトと呼ばれる出来事が、呼び起こしたブリザードだった。

そして、その影響を直接受けた、南極基地と呼ばれていた場所は壊滅した。

 

風が吹きすさび雪煙を上げている。

辺りには壊滅した南極基地の残骸が広がっている。

ザクッ、ザクッ。

その中を一人の血まみれの男が歩いていた。

胸に一人の少女を抱えて。

 

ある場所に辿り着くと、男は目の前にあったカプセルのようなものを作動し始めた。

ガシャン。

男が作動させると、カプセルは蓋を開けた。

その間も、男の足元には自らの血液が広がっていく。

 

南極の地には、光の巨人がエヴァに酷似した姿を見せていた。

全身を光に包まれた姿を。

 

ドサリ。

胸に抱えていた少女を、男はカプセルの中に入れた。

少女は気絶していた。胸部には、少女が流していると思われる血液が付着していた。

そして、その少女の胸にはロザリオが見えた。

 

ポタリ、ポタリ。

少女の顔に、男の血がこぼれ落ちる。

「ゥ………」

血の感触に少女が目を覚ました。

少女は上を見上げ、自分を運んできた男の顔を見た。

そして少女は呟く。

「……お父さん?」

呟いた時、少女には男が一瞬微笑んだように見えた。

 

ガシャン。

少女が呟いた後、男はカプセルの蓋を閉じた。

そして男は力尽きたように、カプセルの上に身を覆いかぶせた。

 

ドォォォォォー。

男が力尽き果てた直後、鈍い衝撃音と共に爆発が起きた。

その爆発は、南極にあった全てのものを吹き飛ばした。

 

爆発の中心には、四枚の光の翼が広がっていた。

その巨大な翼は南極を包み込み、ゆっくりと羽ばたく仕草を見せていた。

これが世に言う、セカンドインパクトだった。

 

セカンドインパクトの最中、少女の乗ったカプセルは海面を漂っていた。

どうやら脱出カプセルのようだった。

 

ガシャン。

脱出カプセルの蓋が開いた。

その中から、少女が胸の傷を押さえながら姿を現した。

 

「クッ……」

少女は痛みに顔を歪めた。

痛みを堪えながら、少女は南極を見つめた。

そこには二本の光の柱が空に向けて立っていた。

 

少女には光の柱を呆然と見つめることしか出来なかった。

 

 

<十五年後、現在。ミサトのマンション>

 

ザーッ。

夕立の雨音が、部屋の中にまで響いていた。

 

ミサトはネルフへ行くために、身支度をしていた。

上半身裸のミサトの胸には、胸の谷間から腹部にかけて斜めに傷跡がついていた。

ミサトはブラを付けると、化粧台の前に立った。

化粧台には、口紅などの化粧道具と一緒に、ロザリオが置いてあった。

ミサトは鏡を見て、傷跡を指で撫でながら呟く。

 

「消えない傷と………思い出か……」

 

十五年前の少女は、葛城ミサトだった。

 

 

<ミサトのマンション、居間>

 

ミサトが身支度を済ませ居間に出ると、アスカが髪をタオルで拭いていた。

「おかえりなさい」

ミサトはアスカに微笑みを見せた。

「ただいま。今日、シンクロテストでしょ?」

アスカが髪を拭きながら、ミサトに訊ねた。

「そうね。遅刻、しないように」

ミサトは淡々とした表情でアスカに話した。

「わかってるわよ」

いかにも当然、といった表情でアスカは返事を返した。

 

アスカの表情を、ミサトは優しく見つめ口を開く。

「風邪、引かないようにね」

 

 

<碇家のマンション>

 

ガチャリ。

シンジが玄関のドアノブを開き、中に入った。

「ただいま…」

シンジは誰も居ない、マンションに話しかけた。

 

シンジの体は、突然の夕立に合い、ずぶ濡れだった。

ポタリ、ポタリ。

靴を脱ぐシンジの靴下から、水滴が落ちる。

シンジはずぶ濡れのままで、部屋を見て思う。

(父さん…今日も帰ってない……。)

 

「クシュン!」

突然、シンジはクシャミをした。

ズズッ。

シンジは鼻をすすりながら、ゆっくりと呟く。

「風邪……引いたかな」

 

 

<数時間後、ネルフ実験室>

 

「汚染区域ギリギリです」

マヤがモニターを見ながら口を開いた。

 

実験室では、シンクロテストが行われていた。

シンクロ数値を計測する為、シンジ達はエントリープラグ内にいる。

シンジ達は真剣な表情をしている。

テストといっても、気を抜いて行えない現実を知っているからだった。

 

レイ、シンジ、アスカ、マナの様子が実験室モニターに映し出される。

その様子をリツコ、マヤ、ミサトの三人が見つめていた。

 

「初号機のシンクロ率、不安定です」

マヤが側にいたリツコに話しかけた。

「風邪を引いてるのよ」

リツコがモニターを見ながら、マナの言葉に答えた。

「熱があるんですか?」

マヤがリツコに訊ねた。

「少しね」

リツコは真剣な表情で、マヤに返事をした。

 

マヤはシンジのモニターを見つめて、一言呟く。

「シンジ君、一生懸命なんですね……」

「一生懸命……。そうね。それで、この数値が出せるのなら大したものだわ」

シンジのモニターの数値に、リツコは微笑んだ。

「凄い伸び率ですね。不安定なのに…」

マヤもシンジのシンクロ数値に気づき、微笑んだ。

 

-クシュン!-

突然、シンジがクシャミをした。

クシャミと共にシンクロ数値が下がった。

どうやらクシャミで、集中力が切れたようだ。

 

「やっぱり無理は禁物ね。シンジ君、上がっていいわよ」

リツコが苦笑しながら、シンジのモニターに話しかけた。

-はい、ありがとうございました。-

シンジの笑顔が、実験室のモニターに映し出された。

 

シンジの言葉に、リツコは思う。

(ありがとう……ね。

エヴァに乗ってるのは、嫌々と思ってたのに……。)

 

「リツコ。シンジ君、自分で志願したの?」

リツコの思考を中断させるかのように、ミサトが話しかけた。

どうやら、シンジがテストに自分で志願したかを訊ねているようだ。

「え?ええ。`どうしても´って言われたら、断りきれなくて」

ミサトの言葉に、リツコは少し困った表情で答えた。

 

「そう」

ミサトは簡単に返事を返すと、少し考えた。

(……自分の体を酷使してまで…乗る理由。

戦うことが嫌いな筈なのに……。

なぜ?………。)

 

そしてミサトは、ある結論に達した。

(………シンジ君は死にたがっている?)

 

(……まさかね。)

自分の考えを自嘲するミサトであった。

 

 

<実験終了後、実験室>

 

「シンジ君、お疲れ様」

リツコが微笑んで、シンジを迎えた。

ズズッ。

「はい」

リツコの言葉に、シンジは鼻をすすりながらも微笑んだ。

 

シンジはレイ達より先に、実験室に来ていた。

風邪を引いている為でもあった。

ちなみにレイ達は、まだテストを続けていた。

 

「この前の実験よりも、8も数値が伸びてるわ。自信を持ってもいい数値よ」

リツコが微笑みながら、シンジに実験結果を告げた。

 

だが、リツコの言葉にシンジは嬉しい表情をしなかった。

そして淡々とした表情で口を開いた。

「………あの、父さんが何処に行ったか、知りませんか?」

実験の結果の事よりも、父の居場所をシンジは訊ねた。

「司令?司令なら南極に向かったわ。………聞いてないの?」

シンジの言葉に、リツコは少し驚き訊ね返した。

「はい、何も……」

シンジは寂しげな表情で呟いた。

 

シンジの言葉に、沈黙する実験室。

 

沈黙を破り、シンジが口を開く。

「僕、もう…いいですか?」

シンジが帰宅しても良いかを、リツコに訊ねた。

「え、ええ、お疲れ様。今日はもういいわ」

シンジの言葉に、リツコは少し慌てながらも微笑みを浮かべて答えた。

 

「じゃあ、失礼します」

リツコの言葉を聞き、シンジは一礼して実験室から出ていこうとした。

 

「シンジ君」

実験室を出て行こうとするシンジに、ミサトが話しかけた。

「はい?」

シンジは振り返って、ミサトを見た。

「シンジ君は、誰の為にエヴァに乗ってるの?」

ミサトが真剣な表情で、シンジに訊ねた。

 

「………」

ミサトの言葉に、シンジは`うつむいた´。

そして、ゆっくりと口を開く。

「……多分、僕の為です」

そう言い残して、シンジは実験室から去った。

 

シンジが去った後、ミサトは真剣な表情で小さく呟く。

「あの子……」

 

「…どうしたの?」

いつになく真剣な表情のミサトに、リツコが訊ねた。

リツコの言葉が聞こえないのか、ミサトは何かを考えていた。

 

そしてミサトは考えがまとまったのか口を開く。

「…私、シンジ君送ってくるわ。アスカには自分で帰るように言ってて」

ミサトはシンジの後を追うようにして、実験室から去って行った。

 

「行っちゃいましたね……葛城三佐」

ミサトが去った後、マヤがポツリと呟いた。

 

「三佐?昇進したの、ミサト?」

マヤの言葉に、リツコが訊ねた。

「はい、昨日付けで一階級昇進したそうです」

そう言って、マヤは微笑んだ。

 

(……あら?)

リツコは、マヤの微笑みを見ながら気がついた。

マヤの襟章が、ニ尉から一尉へ変わっていることに。

そして優しい微笑みを浮かべながら、リツコは口を開く。

「マヤも、昇進おめでとう」

 

「ありがとうございます。…先輩」

リツコに答えるように、マヤも優しい笑みを浮かべていた。

 

 

<パイロット待機室>

 

「誰の為にエヴァに乗ってるの?」

 

シンジは待機室で、ミサトの言葉を思い出していた。

「誰の為……」

シンジは呟いた後、体を待機室の椅子に横たえた。

プラグスーツを上半身まで脱ぎかけたまま。

体が熱を持っている為、暑さを感じたからだった。

 

体を横たえて、シンジは思う。

(ミサトさんは…何も知らないんだ。

僕のことなんか…何にも。)

そう思った後、シンジは自分の考えに少しだけ自嘲した。

 

ズズッ。

シンジは鼻をすすると、思考を進めた。

(………………別に…知って欲しい、って訳じゃないんだ。

ただ……。

ただ…僕は……。)

 

「クシュン!」

シンジは思考の途中でクシャミをした。

 

(風邪…治さないと……。)

そう思った後、シンジは私服へと着替え始めた。

 

 

 

つづく


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あとがき

ミサトの過去に一苦労でした。本編の描写って苦手なんですよね。
でも、書かないわけにはいきませんし……。正直、難しいところです。

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