進路相談も終了を迎えようとしている頃。

冬月は、シンジの言葉の意味を考えていた。

「僕が行く場所じゃ、無いからです……」

 

 

 

僕は僕で僕

(41)

 

 

 


 

<中学校内・駐車場>

 

「何があったんです?」

冬月は駐車場前で、リツコに話しかけられた。

「ん?……あぁ、赤木君か」

冬月はリツコの声に気づくと、何気に返事をした。

「何か先程から、お考えになられてるようですけど…」

リツコが冬月を気遣い、心配そうに訊ねた。

「シンジ君がな……」

そこまで言うと、冬月は説明する事を思いとどまった。

 

「話を途中で切るのは、私の体に悪いです」

リツコは冬月へ微笑んだ。

「フッ。……体に悪いかね」

冬月は短く笑うと、リツコへシンジの言葉を説明した。

 

「僕が行く場所じゃ、無いからです……」

 

「そんなことが……」

シンジの言葉を聞き、リツコは真剣な表情で呟いた。

短い間だが、二人は沈黙した。

 

「戦うことを、本心では望んで無いのかもしれんな…。碇の息子は……」

冬月は何かを考え、唐突に呟いた。

そして思う。

(……だが、望まなくても乗らねばならん。

碇の息子は、碇の息子でしか有り得ないのだから……。)

 

「……望んで無いかもしれませんね」

冬月の呟きを聞き、リツコは真剣な表情で呟いた。

そして言葉をつなぐ。

「でも、あの子達は戦ってくれると思います。……それしか道は無いんですから」

リツコは`あの子達´と言った。

シンジだけで無くチルドレン全員を、リツコは信じていたかったのかもしれない。

 

「………そうだったな」

冬月はリツコの言葉を聞くと、短く微笑んだ。

 

 

<中学校・廊下>

 

相談室前の廊下を、青葉とミサトが歩きながら会話をしていた。

足早に歩くミサトに、青葉は歩調を合わせながら歩いていた。

 

「で、青葉君の方はどうだったの?」

ミサトが微笑みながら、青葉に訊ねた。

「成績に関しては問題無いそうです」

青葉もミサトに合わせるかのように、微笑んだ。

「ふ~ん、レイって優秀なのね。………ところでレイって、高校に行く気あるのかしら?」

ミサトは青葉の言葉を聞いた後、疑問に思ったことを訊ねてみた。

 

「………」

ミサトの言葉を聞き、青葉は答えに詰まった。

そして、重たげに口を開いた。

「……解りません」

「解らないって……何で?」

廊下の角を曲がると、ミサトは青葉に訊ねた。

ミサト達が廊下を曲がると、そこは中学校の玄関前だった。

 

「本人に解らないことを、自分が理解出来る筈無いです」

青葉は少しムッとした表情をしていた。

どうやらミサトの言葉が、癇に障ったようだった。

 

「私、何か悪いこと言った?」

ミサトが青葉の表情を見て、その理由を訊ねた。

青葉はムッとした表情のまま、靴を履きながら口を開く。

「………自分に腹が立っただけです!」

そう言い残し、青葉はミサトの前から去った。

 

青葉が去った後、ミサトは一人呟く。

「自分に……ね」

そしてヒールを履きながら、言葉をつなぐ。

「自分を理解しているだけに、他人を理解できない事が辛いのね…」

 

 

<教室・2-A>

 

午後の授業は、進路相談だけだった。

そして進路相談も終り、授業は帰りのホームルームを残すのみとなっていた。

生徒達は担任が来るまでの間、雑談を楽しんでいた。

 

「「はぁ~ぁ……」」

トウジとケンスケが合わせたかのように、同時に`ため息´をついた。

「どうしたの?二人とも」

シンジが、暗い表情の二人に話しかけた。

 

「死ぬ気、か……」

「それも無理や……」

シンジの声が聞こえてないのか、二人は顔を見合わせて呟いた。

余程、成績のことがショックだったのかもしれない。

 

「ねぇ、どうしたの?」

シンジが返事をしない二人に、もう一度訊ねた。

二人は、シンジの存在に気づいた。

「なんや、シンジか」

トウジは、気の無い返事を返した。

「そう言えば、シンジは成績どうだったんだ?」

ケンスケがシンジに成績を訊ねた。

 

「まぁまぁって所かな」

そう言って、シンジは微笑みを浮かべた。

「`まぁまぁ´か。高校いける程度の成績ってことか?」

ケンスケがシンジの言葉を、さらに訊ねた。

「さぁ?僕、今のところ、高校行くつもり無いから…」

微笑みを浮かべて、シンジはケンスケの問いに答えた。

 

「偉い!よう言うた!」

シンジの言葉に、トウジが声を上げた。

「そうだな、行かないって手も残ってるんだな…」

シンジの言葉を、ケンスケは感心そうに頷いた。

「見直したよ、シンジ」

「ホンマや、尊敬するで」

妙なことで、二人の羨望の眼差しを受けるシンジであった。

 

「バカじゃないの?」

何処からともなく、女の子の声が聞こえてきた。

誰かと顔を見る三人。

声の主はアスカだった。

「高校行かなくても、シンジにはネルフがあるわ。それに比べて、アンタ達には何があるっていうの?」

アスカは、トウジとケンスケに手厳しい言葉をかけた。

 

トウジとケンスケの二人は、アスカの言葉に頭を抱え叫ぶ。

「そうやった~!くっそ~、シンジの裏切りもん!」

「やっぱり、死ぬ気でやるしかないのか~!」

頭を抱えながら叫ぶ二人を見て、アスカは一言だけ言った。

「バーカ」

 

「アスカ」

側にいたシンジが、不意にアスカへ話しかけた。

「何?」

アスカは、チラリとシンジを見た。

「アスカは、どうするの?」

シンジはアスカに訊ねた。

「どうするって、進路のこと?」

アスカは、シンジへ言葉の意味を訊ねた。

コクリ。

アスカの問いに、シンジは頷いて答えた。

 

アスカは少し沈黙すると、口を開いた。

「アンタと同じよ」

アスカは一言だけシンジに語り、自分の席へと戻った。

優しい微笑みを浮かべながら。

 

「僕と同じって…」

シンジは呟きながら思い出していた。

休み時間に、アスカに呼び出された出来事を。

 

 

<休み時間の出来事・体育館裏>

 

「私の話ってのは進路のことよ」

アスカは、シンジが思いもしなかったことを言った。

「進路って…誰の?」

シンジは、とぼけた返事を返した。

「シンジに決まってるでしょ!私の進路を言ってどうなるのよ!」

アスカは、少しムッとしながら言った。

「僕の?………僕の進路、聞いてどうするの?」

アスカの言葉に、シンジは少し戸惑いを感じながらも訊ねた。

「どうするって……」

シンジの言葉に、アスカは頬を赤く染めた。

 

妙な雰囲気で、二人は沈黙してしまった。

 

「……解らないよ」

沈黙を破り、シンジは静かに微笑みながら、アスカに言った。

「解らないって…どうして?」

シンジの言葉を聞き、アスカが訊ねた。

「使徒がいて…エヴァがあって…僕がいるんだ。……だから解らない」

アスカに答えるシンジは、微笑みを浮かべていた。

「……それって、進学しないってこと?」

アスカはシンジに訊ねた。

「うん。今の僕に、そこまで考える余裕ないから…」

そう言って、シンジは少し寂しそうな表情をした。

 

「そう、わかった」

シンジの表情とは逆に、アスカは微笑んでいた。

そして言葉をつなぐ。

「私の話は、これでお終い。シンジは私に聞くこと無い?」

「うん、別にいいよ」

シンジは微笑みを浮かべ、アスカに答えた。

「じゃ、帰るわよ。誰に何言われるか、解ったもんじゃないし」

そう言って、アスカは笑った。

 

シンジとアスカは、教室へと歩き出した。

アスカの後を付いて行きながら、シンジは空を見た。

シンジの見上げた空は、青く澄んでいた。

シンジは青空を見ながら思った。

 

(結局…僕は………。

このまま、自分が死んでいくことを…望んでいるのかもしれない……。

……このまま……このまま。)

 

 

<ミサトの車>

 

車の中で、ミサトとリツコが会話をしていた。

 

「青葉君が謝ってて下さいって」

リツコがミサトに話しかけた。

ちなみに、リツコは助手席に座っている。

 

「ふ~ん、何て?」

ミサトがリツコに訊ねた。

「`取り乱してスミマセンでした´だそうよ」

リツコは淡々とした表情で、ミサトに青葉の伝言を伝えた。

「別にいいのに」

青葉の伝言を聞き、ミサトは微笑みを浮かべた。

そして言葉をつなぐ。

「……彼は良くやってるわよ。……ホントに」

レイを保護している青葉を、ミサトは素直に誉めた。

「ま、ミサトよりは良い保護者ね」

そう言って、リツコは微笑んだ。

「はい、はい。どーせ私は、遅刻した悪い保護者です」

軽くリツコの言葉を、ミサトは受け流した。

 

「反省してるの?」

強く言い返さないミサトに、リツコが訊ねた。

「まーね。一応、保護者だし。それにアスカは……」

アスカの名前を出したミサトは、真剣な表情をしていた。

「感情、入れ過ぎないことね。……辛いわよ」

リツコは真剣な表情で、ミサトに言った。

指揮官としてのミサトは、子供達に`死ね´と命令できる立場だという事を含めて。

 

「……わかってる」

ミサトは真剣な表情のまま、リツコに答えた。

そして言葉をつなぐ。

「そう言うリツコだって、霧島さん可愛い子だから、情が移るんじゃない?」

ミサトが微笑みながら、リツコに訊ねた。

「わ、私は別に……」

強くは否定できない、リツコであった。

 

 

<アメリカ(ネバダ)、ネルフ第二支部>

 

マユミはVTRを見せられていた。

エヴァと使徒との戦闘が記録されたVTRを。

 

「どうかね?」

軍服を着た男が、マユミに訊ねた。

胸の階級章から見るに、かなりの高官と思われる。

 

「一体ずつであれば、なんとか倒せなくはありません」

マユミは、素直に自分の思ったことを口にした。

そして言葉をつなぐ。

「ただ……」

 

「ただ…なんだね?」

男がマユミに訊ねた。

「第七使徒の時のJAの動き……理解に苦しみます」

マユミは浮かない表情で答えた。

「あれか……。あれは気にしなくても構わない」

男は、暴走を`あれ´と表現した。

そして男は言葉をつなぐ。

「君は、日本支部のエヴァを倒す事を、考えていればいい……」

男は、そう言って不敵な笑みを見せた。

 

男の言葉に、マユミは暗い表情で答える。

「……了解です」

 

 

 

つづく


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あとがき

山岸マユミは、未だに深い森の中。これが僕のマユミに対する印象です。
まぁ、あくまでも印象ですから。コロッと変わるかもしれません。(笑)

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