進路相談は、淡々と進んでいた。
生徒が、望む望まざるに限らずに。
保護者が、望む望まざるに限らずに。
僕は僕で僕
(40)
<進路相談・相田ケンスケの場合>
ケンスケの親は来ていなかった。
仕事の都合が合わなかったようだった。
「相田君は…高校に行きたいのかね?」
担任が手元の書類を見ながら、ケンスケに訊ねた。
「はい、行きたいです」
ケンスケは担任に、勢い良く答えた。
ケンスケの言葉に、担任は短い間だが沈黙した。
そして、ゆっくりと口を開く。
「死ぬ気で勉強しなさい……」
ミーン、ミーン、ミーン。
担任の言葉の後、セミの鳴き声だけが相談室に響いた。
<碇シンジの場合>
シンジは冬月と並んで、折りたたみ椅子に座っていた。
「……碇君の成績は、悪くは無いですね」
担任は冬月とシンジに、そう言った。
「悪くは無い…と言いますと?」
冬月が担任に訊ねた。
「落差が激しいんです。碇君の成績は…」
担任は、さらに言葉をつなぐ。
「あと、高校の進路を白紙で提出するのも、どうかと…」
担任は、そう言って白紙の進路希望用紙を見せた。
進路希望用紙は、生徒が自分の進路を書くものであった。
それをシンジは白紙で提出していた。
「シンジ君、なぜかね?」
冬月が隣に座っているシンジに訊ねた。
シンジは寂しそうな表情で、冬月に答えた。
「僕が行く場所じゃ、無いからです……」
(シンジ君………。)
冬月には、シンジに掛ける言葉が見つからなかった。
<鈴原トウジの場合>
トウジもケンスケと同様、一人で進路相談を受けていた。
やはり、両親の都合が合わなかったようだ。
「成績は…言うまでも無いですね」
担任は、そう言ってトウジの顔を見た。
「なはは。重々、承知してます」
トウジは成績に関しては深刻を通り越し、笑って済ました。
トウジの冷めた笑いの中、担任が訊ねる。
「高校…行く気は有るのかね?」
「はぁ、行けるもんなら行きたいです」
表情を少し堅くしながら、トウジは答えた。
そして言葉をつなぐ。
「……ワシが勉強したら、高校行けまっか?」
担任はトウジの言葉に、少しだけ沈黙した。
そして、ゆっくりと口を開く。
「……君の場合は、部の推薦という手がいいかもしれない」
ミーン、ミーン、ミーン。
担任の言葉の後、セミの鳴き声だけが相談室に響いた。
<綾波レイの場合>
「……問題ありませんな」
レイの成績表を見ながら、担任が話しかけた。
「良かったじゃないか、レイちゃん」
青葉は担任の言葉に笑顔を浮かべ、レイに話しかけた。
「そう……」
青葉の言葉に、レイは素っ気無い一言を返した。
「……嬉しくないのかい?」
青葉は、成績が良いと言われても、嬉しそうな表情をしないレイに訊ねた。
レイは青葉の言葉に、短い間だが沈黙した。
そして、ゆっくりと口を開く。
「…………嬉しいのかもしれない」
一瞬、青葉にはレイが微笑んでいるように見えた。
「あぁ、それから綾波さんも白紙でしたね」
担任は思い出したかのように、白紙の進路希望用紙を二人に見せた。
そして言葉をつなぐ。
「行きたい高校は無いのかね?」
担任がレイに訊ねた。
「別に……」
レイは担任の言葉には興味が無いようだった。
結局、レイの進路相談は、このまま終りを告げた。
<霧島マナの場合>
「理数系が問題ですな」
担任はマナの成績を、そう評価した。
「えっ、理数系ですか?」
リツコは担任の言葉に驚いた。
(あっちゃ~……。)
マナは担任の言葉に、気まずい表情を隠せなかった。
リツコは、チラリと気まずそうなマナを見た。
「霧島さん、心配しなくても大丈夫よ」
そう言って、リツコは微笑んだ。
「…はい」
怒られるかと思ったマナはリツコを見て、少し安心したのか微笑みを浮かべた。
「スペシャルな特別メニューを組んであげるから」
リツコはマナを見て、不敵に笑った。
「は、はい」
リツコに返事をしながら、マナは思った。
(最悪な展開かも………。)
「で、進路ですが。これは、本気ですかな?」
担任は進路希望用紙を、リツコに手渡した。
「こっ、これは…」
リツコは進路希望用紙を見て、驚愕した。
「霧島さん、説明してもらえる?」
青筋を立てながらも、強引に微笑みを浮かべて、リツコがマナに訊ねた。
「あはは…はは……」
マナはリツコの表情に、気まずい笑い声を立てるだけだった。
進路相談用紙には、マナは少し違ったことを書いていた。
第一希望、職場結婚。
第二希望、専業主婦。
第三希望、子供は二人ぐらい欲しい。
進路希望ではなく、将来の希望を書いたマナであった。
<惣流・アスカ・ラングレーの場合>
「惣流君一人かね?」
担任が、アスカが一人で入室して来たことを訊ねた。
「はい、まぁ」
アスカは青筋を立てながらも、作り笑いで返事をした。
(ミサトの奴~!!)と思いながらも。
ガララッ。
アスカが椅子に座ろうとすると、相談室の扉が開いた。
「ハァ、ハァ、アスカの保護者です!」
息せき切らして入室して来たのは、ミサトであった。
「あぁ、そこに座ってもらえますか?」
担任は別に慌てる訳でもなく、冷静にミサトに対処した。
「どーも、遅れてすみません」
ミサトは謝りながら、アスカの隣に座った。
「遅いわよ、何やってたのよ!」
アスカが小声で、ミサトに話しかけた。
「間違ってネルフに行ってたの!」
ミサトは小声で、アスカに言い返した。
「バッカじゃないの?」
アスカは、ミサトの言葉に呆れてしまった。
「何よ~」
アスカの言葉に、それ以上言い返せないミサトであった。
二人の小言を無視して、担任は話を進めた。
「惣流君の成績は、何の問題もありませんな」
担任は、成績表を見ながら二人に言った。
「ま、そんな所ね」
アスカは別に自分の成績を誇らしげにする訳でもなく、普段通りだった。
「へ~、やるじゃない」
ミサトがアスカを見て誉めた。
ミサトの言葉に、アスカは嬉しいという表情を見せなかった。
アスカにとって学校の成績などは、自分の評価に値しないと思っていたからだった。
評価に値するのは、ネルフにいるときの自分。
それが、アスカの持っている自信につながっているかもしれない。
「それと進路ですが、どうしますか?」
担任がミサトに訊ねた。
「どうしますか?と言われましても…」
ミサトには、担任が何を言っているか理解出来なかった。
「中学で義務教育は終了しますので、高校へ進む義務は無い訳です」
担任は簡潔に話の内容を伝えた。
ドイツの大学を卒業しているアスカの学歴を、考慮しての発言だった。
「どうする、アスカ。高校、行く?」
担任の言葉を聞き、ミサトがアスカに訊ねた。
「パース。別にいいわ」
アスカは簡単に返事を返した。
「チョット、アスカ。ホントにいいの?」
ミサトが真剣な表情でアスカに訊ねた。
「高校に行く時間よりも、ネルフで訓練している方がマシよ」
ミサトの問いに、アスカは微笑みながら返答した。
当然、アスカの言葉には理由があった。
理由の答えは、休み時間に話したシンジとの会話の中にあった。
<洞木ヒカリの場合>
ヒカリは姉のコダマと椅子に座っていた。
「洞木君は良くやっています」
担任の言葉は姉のコダマを安心させた。
さらに担任は言葉をつなぐ。
「洞木君の成績は、どこに行っても通じると思います」
「良かったね、ヒカリ」
コダマはヒカリに向かって微笑んだ。
「うん」
ヒカリも姉に答えるように、嬉しそうに微笑んだ。
「進路ですが、このままで行けば問題無いと思います」
担任は、簡単に二人に告げた。
「さすが、私の妹」
コダマは担任の言葉を聞き、楽しそうだ。
「お姉ちゃん…」
ヒカリは照れるだけだった。
そして進路相談が全て終り、担任は思った。
(疲れた……。)
つづく
あとがき
結構、苦戦してます。(笑)
進路相談編はもう少し続きますので、お付き合いの程を。m(_
_)m
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