レイは教室にいる。

授業を聞くわけではなく、生徒と話をするわけでもない。

ただ、教室にいるそれだけだった。

 

 

 

僕は僕では僕

(4)

 

 

 


 

<暗闇の会議室>

 

ゲンドウが円卓に座っている。

その円卓には老人と呼ばれる者達も座っている。

 

「碇、無様だな」

老人の中で特殊な眼鏡のような物をかけた老人が口を開く。

「初号機の件ですか?キール議長」

キールではなく、少し痩せた小男が答える。

「他にあるまい」

キールと呼ばれた老人がゲンドウに話し掛ける。

「初号機を与えておいてあの様とはな、これで綾波レイの存在価値が理解できよう」

 

「議長、綾波レイですが」

ゲンドウがキールに問おうとした。

 

「碇、それは、お前の知るところではあるまい」

 

「…これまでどおり何も知るなと」

「そうだ、お前はシナリオの遂行を考えていればよい」

「…了解しました」

 

キールはゲンドウを見据え話す。

「碇、お前を招いた理由は、こんな話をする為では無い別にある」

「…別といいますと」

「アダムだ」

 

 

<教室2―A>

 

トウジと同級生が話し込んでいる。

 

「俺は、やっぱり転校生が怪しいと思うんだ」

この同級生、相田ケンスケ。

碇シンジ及び鈴原トウジの親友。戦争オタクにして写真マニア。2―Aきっての情報通。

 

「そないな事いったかて、エヴァに乗っとんたんはシンジやろが」

どうやら二人はエヴァパイロットの事を話しているようだ。

「甘い!甘すぎるぞトウジ!」

「何がや?」

「か~、これだからな一般市民は」

「お前も、一般市民やろが!」

ツッコミを忘れない関西人の鈴原トウジ。

「なんと、エヴァは二機存在するんだ!」

「ほんまか?」

「事実さ、特別なルートからの情報だ信頼性は高い」

「やったら、シンジが二機とも操縦したんと違うんか?」

「違うはずさ、シンジは1回目の戦闘で負傷してるんだ、あっ」

 

沈黙するトウジとケンスケ。二人はシンジが負傷した原因を思い出していた。

 

「すまないトウジ、そんなつもりじゃなかったんだ」

頭を下げて謝るケンスケ。

「わかっとる、気にすんな」

 

そう言い終わると二人は窓の外を見た。

 

「シンジいつ頃退院するんだろうな」

「近いうちって言うとったで…」

「早く来るといいな」

「ああ…」

 

綾波レイは窓から空を見ていた。

何を考えるべきもなく、ただ空を見ていた。

そして一言つぶやいた。

「…来る…」

 

 

<ネルフ中央作戦司令本部>

 

「パターン青!使徒です!」

青葉が叫ぶ。

「使徒!?間違い無いのかね!」

冬月が確認する。

「間違いありません使徒です!」

「総員戦闘準備!エヴァ両機の発進準備急がせて!」

ミサトが号令する。

「葛城一尉、零号機だけの単独出撃ではないんですか?」

日向がミサトに訊ねる。

「いいえ二機よ、一機よりも二機のほうが使徒に勝つ確率が高いでしょ♪」

「は、はぁ」

「わかったら日向君は戦自に応援要請!マヤはチルドレンの所在確保!青葉君は使徒の捕捉!」

「「「了解!」」」

「よろしいでしょうか、副司令」

作戦部長のミサトが冬月副司令の了承を取る。

「構わん、好きにやりたまえ」

頷くミサト。

 

慌ただしくなる作戦司令本部。

碇司令は不在、三週間というハイペースでの使徒の襲撃、慌てるなというほうが無理かもしれない。

 

「赤木君、あとで綾波レイの件で話があるのだが」

冬月がリツコに近づき小声で話し掛ける。

「後でといいますと」

「作戦終了後だ」

「了解しました」

 

リツコは嫌な感じがした。冬月との会話にではなく「綾波レイ」という言葉に対して。

 

 

<第334地下避難所>

 

学校の生徒や付近の住民が避難している。

 

「トウジ…」

「なんや、ケンスケ?」

「見たい…」

「何をや」

「…戦闘」

「アホ!何言うとるんや!シンジの迷惑になる!」

「そうかぁ…そうだよな…」

そう言ってフラフラと歩き出すケンスケ。

「どこいくんや」

「トイレ」

「気ぃつけて行けや」

「ああ」

 

この時、トウジは忘れていた。ケンスケの行動力と執念を。

 

 

<パイロット待機室>

 

レイはプラグスーツに着替え終わっていた。

 

待機室のドアが開く。振り向くレイ。

そこへシンジが入って来た。片腕にはまだ包帯をしている。病院服のままだ。

 

「綾波レイ…だよね…」

小さな声でつぶやくシンジ。

「…ええ」

 

「僕は碇シンジ」

そう言って微笑むシンジ。

 

エヴァンゲリオン発進への駒は揃った。

 

 

<作戦司令本部>

 

「エヴァ両機の発進準備完了!」

 

「了解、シンジ君、レイ聞こえる?」

葛城ミサトが初号機のモニターに話し掛ける。

「は、はい、聞こえています」

「はい」

シンジの服装は病院服のままだった。頭にインターフェイスは付いている。

 

「シンジ君、今回の作戦は初号機にオトリになってもらいます」

「オトリ…ですか」

「そう、オ・ト・リよ♪」

「オトリってどうすればいいんですか?」

「一撃離脱よ、様は攻撃してすぐ逃げなさい」

「前回の戦闘に似てますね」

「でも、今回は大丈夫よ、零号機の支援があるから」

「わかりました」

「レイ、聞いてのとおりよ。初号機が退避行動を開始したら使徒への攻撃を開始して」

「了解」

 

「青葉く~ん、何か愛しいのレイちゃんに言う事はないの♪」

葛城ミサトが青葉をからかう。

「な、何言ってんですか!」

青葉は冷や汗をかきながら返答した。

「無いの?」

少し残念そうな顔をして訊ねるミサト。

「言ってやれよ、青葉。戦闘前だ、話すの最後になるかも知れないんだぞ」

日向が青葉に助言する。

「じゃ、一言だけ」

 

「帰ったら、すき焼きにしよう」

「肉は嫌い」

 

どうやら青葉は葛城ミサトの様に決めたかった様だ。

笑いに包まれる作戦司令部。

 

「じゃ、初号機から発進させます、シンジ君いいわね」

笑いながらミサトがシンジに訊ねる

「はい」

 

 

「エヴァンゲリオン初号機発進!」

 

 

<零号機のエントリープラグの中>

 

レイはモニターでシンジの表情を見ている。

(私の名前を知っている人、同じEVAのパイロット。何故…気になるの)

自分の思考に戸惑う綾波レイ。零号機の発進準備は完了していた。

 

 <作戦司令本部>

 

初号機の発進と同時に活発化する司令部。

初号機は発進したものの左腕をダラリと下げている。

先の戦闘でシンジの怪我が治っていない為、いたしかたのない事であった。

 

「シンクロ率40.41.42.…46で安定しました」

オペレータのマヤが報告する。

「まずまずね、シンジ君気分はどう?」

リツコが訊ねる。

「大丈夫です、いけます」

 

(痛い筈なのに無理をして…強がってるのね…)

モニターで逐次シンジの状態をチェックしているリツコは知っていた。

シンジの調子が本調子でない事も、怪我を押してまで出撃した事も。

 

「無理はしなくて良いわよ、まだ怪我が完治してないんだから」

ミサトがシンジに話し掛ける。

「碇君、使徒の撃退ではなく誘導。そこの所を勘違いしないでね」

 

レイがシンジに喋りかけた。

 

一瞬沈黙する司令部。

そう、これまでレイは訓練でもテストでも人に喋りかけた事はなかった。

いつも無表情で、誰もが冷たい子だと思っていたのだ。

そんな子がシンジには喋りかけた。

 

「今の…綾波ですか」

シンジがミサトに訊ねる。

「え、ええ。そうみたい」

ミサトも半信半疑の様だ。

「ありがとう綾波、心配してくれるんだね」

そういってモニター越しに微笑むシンジ。

「な、なにを言うのよ…」

そう言った後、レイの頬が桜色に染まった。

 

「使徒、接近して来ます!」

使徒の捕捉をしていた青葉が叫ぶ!

 

「シンジ君!来るわよ!」

「ハイ!ミサトさん!」

 

<初号機と第四使徒の戦闘>

 

左腕を下げたまま、右手にプログナイフを持ち臨戦体制を整える初号機。

第四使徒は地面を滑る様に向かってくる。そのスピードは予想以上に速い。

 

使徒は初号機めがけて体当たりを仕掛ける気だ。

シンジは、そう判断した。

 

狙いどうりに第四使徒は初号機へ体当たりを仕掛けてきた。

かわせる!シンジは瞬時に判断した。

「この!」

上手く体勢を入れ替えてかわすシンジ。

 

初号機は第四使徒の体当たりをかわす事には成功した。

しかし、死角から光線状の触手が初号機を狙っていた。

腹部を触手に刺される初号機。

「ぐあっ!」

苦しみもがく初号機とシンジ。その痛みはシンクロされシンジの腹部にも伝わっていた。

第四使徒は触手を刺したまま初号機を放り投げる。

ケーブルを引きちぎられ、付近の山の頂きまで飛ばされる初号機。

 

「うわっエヴァだ!」

ケンスケはエヴァの放り投げられた側にいた。

ケンスケ本人は、エヴァの戦闘を安全な所から見ているつもりだった。

だが、戦闘に安全な場所など無いという事を、まだケンスケは知らなかった。

「に、逃げなきゃ…」

だが、ケンスケは逃げれなかった。

足の関節が笑っているのだ。まるでケンスケを嘲笑うかのように。

 

初号機のなかでシンジは初号機の状態を確認していた。

「モニターもいきてる、体のほうは…まだ動く…後5分…よし」

一つ深呼吸をするシンジ。

「いくよ…僕の初号機」

シンジが初号機で戦闘を再開しようとしたとき、モニター越しにケンスケを発見した。

 

「…ケンスケ?」

 

 

<作戦司令本部>

 

「初号機、内部電源に切り替わりました」

「シンジ君は?」

「パイロットに異常ありません」

 

初号機の状態を確認し、ミサトはレイへ確認する

「レイ!使徒の後ろへ出すわ!いいわね!」

「了解」

 

「零号機発進!」

第四使徒の背後へ発射される零号機。

 

そして、零号機は第四使徒の背後を取る事に成功した。

 

いける!ミサトがそう判断したときにシンジのモニターの異常に気付く。

シンジがモニターから姿を消していた。

 

「シンジ君がいない?!状況確認!シンジ君はどうしたの!」

「そ、それが友達をエントリープラグに乗せると言って外へ…」

うろたえつつ説明するマヤ。

「あのバカ!」

そう言ってレイのモニターに連絡するミサト。

「レイ!シンジ君と初号機を守るように戦って!」

第四使徒へ攻撃を開始しようとしていた零号機は足を止める。

「守る…」

「そう!初号機が動き出すまで守って!」

「…了解」

 

 

<第四使徒と零号機>

 

レイは戸惑っていた。

守る…聞きなれない言葉。どうすれば…守れるの…。

使徒を撃退する事しか頭に無かったレイは戸惑っていた。

 

ATフィールドを展開し使徒の前に回りこむ零号機。

第四使徒は零号機への攻撃を開始する。

一方的に攻撃を開始する第四使徒。

フィールドを展開しているものの、一方的に攻撃されてはダメージがある。

 

「守る…守らなければ入れないもの…碇シンジと…初号機…」

レイは痛みの中で呟いていた。

 

使徒へ攻撃される零号機を、シンジは目の当たりにしていた。

「綾波が…零号機が…僕らを守ってる…」

「シンジ、どうしたんだ」

エントリープラグに乗りこもうとしていたケンスケが訊ねる。

「はやく乗ってケンスケ!」

「あ、ああ」

急かすように乗りこむ二人。

 

「クッ、何だこれ体が重い」

「当然よ、ノイズが混じってるのよ」

リツコが初号機のモニターに映し出される。

「ちょっと、リツコ変わって!」

リツコに変わりミサトが映し出される。

「こら!シンジ君!はやく撤退しなさい!作戦中止よ!」

「中止…中止って綾波は、まだ戦ってるじゃないですか!」

「奇襲は失敗したの!作戦失敗!体勢を立て直!ちょっ、シンジ君!」

 

ミサトの言葉を聞き終わらないうちに、シンジと初号機は飛び出していた。

「おい、シンジ!どうすんだよ!撤退じゃないのか!」

「助けるんだ!僕が!僕が助けるんだ!」

 

初号機は零号機へ向かっていった。

全速力で一直線に。

 

 

 

つづく


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