<エレベーター内>

「覗いたら、殺すわよ!」

ミサトは加持に肩車してもらい、天井に設置されている非常ドアを開けようとしていた。

 

 

 

僕は僕で僕

(37)

 

 

 


 

「はいはい」

ミサトの言葉を、加持は適当に返した。

「本ッ当に殺すんだからね!」

加持を見て、念を押すミサトの表情には焦りが見えた。

 

「それよりも、トットと開けてくれ」

加持はミサトを支えているのが辛いのか、迷惑そうに言った。

「わかってるわよ!」

ミサトは天井を見上げて、非常ドアへと手を伸ばした。

 

スカッ。

だが無情にも、ミサトの手は非常ドアには届かなかった。

 

「も〜、漏れちゃうじゃないッ!」

顔を真っ赤にして、声を上げるミサトであった。

 

その時、エレベーターに変化が起きた。

ガタン。

突如エレベーターが、動き出したのだった。

どうやら、第三新東京市の電力が回復したようだ。

 

「なッ!」

加持は突如動き出したエレベーターに、態勢を崩した。

だがミサトの足を掴んだ手は離さない。

「チョッ、チョット!離しなさいよ、加持!」

ミサトは手を離さない加持に、声を上げた。

 

「うをっ!」

ついに加持は、ミサトを支えきれずに倒れこむ。

「離せって言ってんでしょ!」

倒れこむ加持に、ミサトは怒鳴った。

だが怒鳴っても、どうなるというものでは無かった。

 

ドスン。

結局、倒れこむ二人。

「ぐっ」

「痛ぅ〜」

加持とミサトは一声上げて、痛みを堪えた。

 

チーン。

加持とミサトが声を上げたと同時に、エレベーターの扉が開いた。

痛みと、その他諸々を堪えながら、誰かと確認するミサト。

そこにはリツコとマヤがいた。

 

「……た、助かった〜」

リツコ達の顔を見て、ミサトは安心した表情を浮かべた。

 

「な、何やってるの……ミサト」

リツコは青筋を立て、ミサトに向かって呟いた。

「へ?」

ミサトには、リツコが何を言っているのか解らないといった表情をしている。

そして、ゆっくりと自分の状態を確認した。

 

「ゲッ!」

ミサトは、自分の状態に声を上げた。

加持と体を重ね合わせた自分の姿に。

  

マヤは、ミサトを見て一言だけ呟いた。

「…………不潔」

 

 

<第三新東京市が一望できる丘>

 

第三新東京市の電力が回復する少し前。

チルドレン達、四人は丘にいた。

第三新東京市を見渡せる丘に。

 

「……電気…人工の光がないと、星がこんなに綺麗だなんて……皮肉だね」

シンジは草むらに横たわり、星を見上げながら言った。

そしてシンジは星を見ながら、ゆっくりと目を閉じた。

 

「でも明かりがないと、人が生きてる感じがしないわ」

アスカはシンジの横に、横たわっている。

そして同じように星を見上げて答えた。

 

アスカの言葉に合わせるかのように、第三新東京市に電力が戻る。

第三新東京市の明かりは、夜空を霞ませた。

 

「ホント、そうね」

マナは第三新東京市を見つめて言った。

マナは体操座りで、シンジの横にいる。

 

「人は闇を恐れ、火を使い、闇を削って生きてきたわ」

レイはアスカの隣に座り、唐突に呟いた。

 

「てっつがく〜♪」

アスカはレイの言葉を聞いて、微笑みながら言った。

 

そこへレイの言葉を聞いて、不思議に思ったマナが訊ねた。

「だから人間って特別な生き物なの?だから使徒は攻めてくるの?」

「あんたバカ?そんなの解るわけないじゃん」

アスカはマナの疑問に、手厳しい言葉を返した。

 

「バカなんて、ヒド〜イ! 私、アスカより国語の点数良かったんだから!」

マナはアスカの痛い所を突いた。

「マナのは、まぐれでしょ!」

売り言葉に、買い言葉。

二人はシンジを挟んで、にらみ合った。

 

「静かにして…」

二人の喧騒を止めるように、レイが呟いた。

いつのまにか、レイはシンジの頭上に来て座っていた。

「レイ…」

「綾波さん…」

アスカとマナは、レイの言葉に呟いた。

 

「碇君、寝てるから……」

レイは、そう言ってシンジを見つめた。

 

レイの言葉に、シンジを見るアスカとマナ。

シンジは優しげな表情で眠っていた。

何の不安の欠片も、持たないような優しい寝顔だった。

 

「可愛い♪」

マナがシンジの寝顔を見て微笑んだ。

「……コイツが、使徒を切り刻んだなんて、想像出来無いわね」

アスカは、シンジの寝顔を見つめ呟いた。

 

「ウップ…言わないでよ。思い出したじゃない」

マナが口を押さえこんだ。

どうやら、初号機が倒した第九使徒を思い出したようだ。

「…じきに馴れるわよ」

マナの言葉に、アスカは少しだけ笑った。

 

「碇君は優しい……」

二人の会話を無視するように、レイが呟いた。

 

優しいという言葉に驚き、レイを見るアスカとマナ。

そして、アスカが口を開く。

「シンジが優しい?」

レイはアスカの問いに、ゆっくりと答えた。

「碇君は、私に優しいと言ってくれた。………だから私よりも…碇君は優しい」

そう言って、レイは優しい表情でシンジを見つめた。

 

「レイ……」

アスカはレイの言葉に、ただ呟くだけだった。

 

レイの言葉に、マナは何かを思い出して口を開く。

「その優しいって言葉…二人っきりの時に聞いたの?」

 

マナの問いに、レイはコクリと頷いて答えた。

 

「「なッ!」」

レイの答えに、アスカとマナは声を合わせた。

そして二人は妄想モードに入った。

 

 

<マナの妄想>

 

なぜかシンジは、シャツのボタンをとめている。

顔を少し赤くしながら。

 

レイは、シンジを見つめている。

なぜか、裸で。

 

そしてシンジは一言。

「あ、綾波って優しいんだね」

 

 

<アスカの妄想>

 

なぜか、シンジとレイも裸でいる。

なぜか、シンジはレイに腕枕をしている。

 

「…だ、大丈夫?」

レイに腕枕しながら、シンジが訊ねる。

「……大丈夫。碇君こそ………大丈夫?」

レイが顔を赤くしながら、逆にシンジに訊ねる。

 

シンジは優しくレイを見つめて一言。

「綾波…優しかったから」

 

 

<再び、第三新東京市が見渡せる丘>

 

アスカとマナは、シンジの寝顔を見ながら青筋を立て怒鳴る。

「このッ、馬鹿シンジッ!何が優しかったからよ!」

「シンジ君、説明して!二人で何してたの?!」

 

この後、シンジが二人に問い詰められたことは、言うまでも無かった。

 

 

<ネルフ・司令室>

 

ゲンドウは椅子にもたれ掛かり、何処かしらへ電話をする冬月を見つめていた。

 

「ああ、明日だ。全員の都合が合うのは明日しかない」

冬月は、襟元を正しながら言った。

「うむ、それでいい。一応、全員参加の予定だ」

そう言った後、電話を切った冬月はゲンドウを見た。

 

ゲンドウは冬月を見つめていた。

冬月はゲンドウの視線に、少しだけたじろいだ。

「な、何だ碇。進路相談を明日にしたのが不満か?」 

妙な汗を掻きながら、冬月はゲンドウに訊ねた。

 

「いや、問題無い。………ただ」

ゲンドウは途中で言葉を切り、両手を見た。

「ただ…何だ?」

ゲンドウの言葉に冬月が訊ねた。

 

「ただ…明日、休みたいと思ってな」

冬月から視線をそらすようにして、ゲンドウは呟いた。

ゲンドウは、いかにも疲れたような目をしていた。

手動発進での疲れが出てきたのだろう。

 

ゲンドウの言葉に、冬月は苦虫を潰したような顔で一言。

 

「……却下だ」

 

 

<ネルフ・化粧室前>

 

日向は、下書きの段階の戦闘のレポートを手にしている。

一人の人物が化粧室から出て来るのを、日向は待っているようだ。

 

日向は、パラパラと自分が書いたレポートを見始めた。

そこへ、一人の人物が化粧室から出て来た。

 

「ふぅ〜」

一息つきながら出て来たのは、ミサトだった。

どうやら無事に事は済んだようだ。

 

「葛城一尉」

出て来たミサトに、日向が声をかけた。

「あら、日向君。こんな所で待ち伏せなんて、趣味が悪いわよ♪」

ミサトは微笑みながら、日向に話し掛けた。

「す、すみません」

思わず顔を赤くする日向。

 

「ま、いいわ。戦闘データ、持って来てくれたんでしょ?」

そう言って、ミサトは日向の手にしているレポートを見た。

「は、はい、まだ下書きの段階ですけど…」

日向はミサトにレポートを手渡した。

 

ミサトは真剣な表情をしながら、パラパラと戦闘データを見る。

「ふ〜ん、やるじゃない。これ、本当に日向君が立てた作戦?」

ミサトは、チラリと日向を見た。

「……はい。でも初号機は、自分の作戦には入っていませんでした」

日向は、ミサトから目を背けながら言った。

「そ、嬉しい誤算って奴ね」

日向の言葉に納得したのか、ミサトは微笑んだ。

 

それからミサトはレポートを真剣に読み出し、しばしの沈黙が流れる。

 

「日向君、指揮官に必要なものって知ってる?」

不意に、ミサトがレポートを読みながら、日向に訊ねた。

 

「は?指揮官…ですか?」

日向は、ミサトの言葉を訊ねた。

「そ、指揮官」

ミサトは簡単に言葉を返した。

 

少し考えた日向は、口を開く。

「情報収拾能力ですか?」

「戦術としての答えでは合ってるわ。でも指揮官としての答えでは、間違いね」

ミサトは日向を真剣な表情で見た。

「……は、はい」

日向は、ただ言葉を返すだけだった。

 

「そんなに気落ちしなくて良いわよ。日向君は、指揮官に大切なものを、二つも持ってるんだから♪」

ミサトは優しく微笑みながら、日向に話し掛けた。

「二つ…ですか?」

ミサトの言葉に、日向は訊ねた。

「そう、二つ。知りたい?」

ミサトは微笑みながら訊ねた。

ミサトの言葉に、日向は頷いて答える。

 

ミサトは日向にレポートを返し、話しかける。

「一つは良く想像すること、もう一つは良く洞察すること」

「…でも、自分の作戦は失敗でした」

ミサトの言葉を遮るように、日向は口を開いた。

ミサトに誉められることを、苦痛に感じたのかもしれない。

 

ミサトは真剣な表情で日向を見つめた。

そして、ゆっくりと話し掛けた。

「………それは、良く信じなかったからよ」

 

「あっ……」

ミサトの言葉に日向は何かを気づき、小さく声を上げた。

 

自分に足りないものは何かを気づいた日向を、ミサトは優しく見つめた。

「……じゃ、私行くから。取りあえず、使徒撃退ご苦労様♪」

日向の肩をポンと軽く叩きながら話し、ミサトは化粧室前から去った。

 

一人残った日向は、ミサトの後姿を見つめながら思う。

(葛城さんが負けない理由……少しだけ、理解出来た気がしました……。)

 

 

 

つづく


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あとがき

少し、壊れてるかもしれません。(笑)

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