<初号機ケイジ>

「初号機及び零号機パイロットの保護に成功しました」

リツコは優しい笑顔で、ゲンドウに話しかけた。

 

 

 

僕は僕で僕

(36)

 

 

 


 

初号機へのエントリープラグが挿入されたのを確認すると、ゲンドウはリツコを見た。

リツコは優しい表情で、ゲンドウを見つめていた。

 

「……それでシン…初号機パイロットは?」

ゲンドウはシンジと言いそうになった。

 

ゲンドウの言葉に、リツコは思わず微笑んだ。

そして口を開く。

「待機室で着替えています」

「……そうか」

ゲンドウは一言返しただけだった。

 

「…苦戦しているか?」

短い沈黙の後、ゲンドウがリツコに訊ねた。

「そのようです」

リツコは簡潔にゲンドウに答えた。

この会話からすると、地上での戦闘経過と思われる。

 

二人に多くの言葉はいらなかった。

二人は互いの深くを理解しているのかもしれない。

 

リツコの言葉を聞いた後、ゲンドウは職員へと声を上げた。

「直ちに、零号機の発進準備へと移行する!」

 

翌日、筋肉痛で苦しむことを、ゲンドウは知らない。

 

 

<パイロット待機室>

 

シンジは一人でプラグスーツに袖を通していた。

レイは先に零号機ケイジへと向かっていた。

 

シュッ。

シンジはプラグスーツに着替え終わった。

 

辺りを見まわした後、シンジはプラグスーツに包まれた手を見つめた。

そして思う。

(アスカとマナは…戦ってる。……たぶん綾波も…戦う。)

 

(………そして僕は……僕は……。)

ギュッと手を握り締めるシンジ。

 

初号機へと向かうシンジの顔は、精悍な表情になっていた。

戦うことを要求された十四歳の少年は、戦う理由を見つけていた。

 

 

<地上・第九使徒とエヴァニ体>

 

第九使徒のもとへと駆け出した、エヴァニ体。

残り活動時間は一分を切っていた。

加速するエヴァの中で、アスカとマナの二人は、日向の言葉を思い出していた。

 

「使徒は、あの距離で戦うことがベストだと判断している……と推測される」

二号機とJAは、第三新東京市のビルの間を駆け抜ける。

「それは、接近戦に脆いからだ」

 

第九使徒は、エヴァから距離を取ろうと後退を始めた。

「二号機が使徒を蹴り飛ばしたときから、活動を再開するまで、少しの間が存在したんだ」

 

二号機とJAはスピードを上げ、第九使徒に近づこうとしている。

「だから、二人には…」

 

「マナ!やるわよ!」

JAの少し先を走っていた二号機の中で、アスカがマナに声を掛ける。

「了解!」

マナは真剣な表情でアスカに答えた。

 

使徒に最接近したところで、JAは二号機の背後に隠れた。

第九使徒は二機だった筈のエヴァが、一機しか確認できないことに戸惑った。

ザザッ。

取りあえず、第九使徒は後退を始めた。

 

「マナッ!今よ!」

「うん!」

アスカの声と同時に、JAは走りながら二号機の肩を踏み台にしてジャンプした。

通常よりも高く上昇したJAは、空中でパレットガンを連射する。

だが、第九使徒はATフィールドを張って、JAの攻撃を阻止した。

 

この時、第九使徒がATフィールドを張った瞬間に、使徒の足が止まった。

この隙をアスカは見逃さなかった。

 

「こんのぉぉぉぉぉ!」

アスカは二号機の速度を最大限に上げ、第九使徒に取りついた。

「フィールド全開!!」

二号機のATフィールドが、第九使徒のATフィールドを中和する。

 

-よし、今だ!-

エヴァと使徒の戦闘を、ヘリで静観していた日向が声を上げた。

 

「終りにする!」

空中から落下していたJAの中で、マナが叫んだ。

JAはパレットガンを投げ捨て、プログナイフを装備していた。

そして、第九使徒の頭上へとプログナイフを突き立てた。

 

第九使徒はJAの重みで地上に這いつくばった。

 

「やった?!」

アスカが使徒の動きを確認しながら声を上げた。

 

「動き…止まってるよね?」

JA(マナ)は使徒が動かないのを見て、第九使徒の上から降りた。

……ピクリ。

第九使徒の足が少し動いた。

「マナ、まだよ!」

アスカは第九使徒の動きを見逃していなかった。

二号機は、肩口からプログナイフを取りだし身構えた。

 

ガクン。

身構えた所で、二号機の動きが止まった。

「……嘘」

アスカは二号機の中で、電源が切れたことに気がついた。

 

そして、やはりJAも同じ状況に陥っていた。

「………そんな…あと少しなのに…悔しい。………悔しいっ!」

マナは、うつむいて操縦桿を握り締めた。

 

「……嘘……嘘でしょ。動いて、動いて、動いてよ!」

アスカは操縦桿をガタガタと動かすが、二号機の反応は無かった。

 

 

<ヘリの中>

 

(……俺の…俺のミスだ。……使徒の能力を甘く見すぎた。)

動きの止まったエヴァニ体を見つめながら、日向は自分を責めていた。

 

日向の作戦は、完璧に近かった。

使徒の動きを読むことにも成功した。使徒との戦い方も完璧だった。

だが、詰めが甘かった。

使徒のコア部分を、生命力を見誤った。

 

日向が限られた時間の中で、使徒との戦闘に活路を見出したことは賞賛に値するだろう。

だが使徒に勝たねば、賞賛という言葉は存在しないことを、日向は知っていた。

 

「……終ったな」

活動を再開し、立ちあがろうとする使徒を見て、日向は力無く呟いた。

 

 

<地上>

 

第九使徒は、ゆっくりと活動を再開すると、二号機に標的を定めた。

そして溶解液を吐きかける。

ジュジュ~。

二号機の装甲は溶かされ、コア部分が剥き出しになろうとしていた。

 

(こんな使徒に、やられるぐらいなら…いっそ。)

アスカは、エヴァの自爆装置を起動させようとしていた。

 

アスカは二号機に自信と誇りを持っていた。

二号機パイロットとしての誇りを、セカンド・チルドレンとしての自信を。

そのようなものを、エヴァ二号機に投影していた。

 

使徒に不様に破壊されるぐらいなら……いっそのこと。

そんな思いでアスカは自爆装置を起動させようと思った。

 

「……待ってて、ママ」

自爆装置を起動させようとした瞬間、アスカは一つの言葉を思い出した。

 

「生きてる限り…惣流さんの勝ちだよ」

 

アスカは一つの言葉を思い出し、手を震わす。

そして涙が出るのを堪えて呟いた。

「馬鹿シンジの…バカ。…押せない………押せないじゃない」

 

だが第九使徒は、アスカの思いなどお構いなしに、二号機に溶解液を吐き続けていた。

そこへ変化が起きる。

 

「アスカッ!」

第三新東京市にシンジの声が響いた。

 

-シンジ君!-

上空から撤退対策を練っていた日向が声を上げた。

 

 

初号機は地上に姿を見せていた。

シンジは出撃態勢の整ったエヴァで、直ちに出撃していた。

余った電源は無い為、エヴァ自身の力で通路を抜け壁をよじ登り、地上へと辿り着いたのだった。

 

地上に出て、シンジは見た。

アスカの乗った二号機が、傷つけられている姿を。

その姿を見て、シンジは激怒した。

二号機の傷つけられている姿に、戦闘に遅れた自分の不甲斐なさに。

そして、シンジは声を上げたのだった。

 

 

(僕は…僕はアスカに言ったんだ。……誰一人欠けてはいけないんだって!)

初号機はプログナイフを握り、二号機のもとへと駆け出した。

 

第九使徒は初号機に気づき、二号機へ溶解液を吐きかけるの止めた。

そして初号機の方向へ身構えた。

 

-待て、シンジ君!第九使徒は溶解液を…-

日向はシンジへ使徒の情報を伝えようとした。

だが初号機は足を止めなかった。

 

ブシュ。

そして第九使徒は初号機が射程に入った瞬間、溶解液を吐きかけた。

初号機の胴体部へ溶解液が付着する。

だが初号機は溶け出す装甲に構いもせずに、第九使徒に突っ込んだ。

 

そして第九使徒にプラグナイフを突き立てた。

グサリ、グサリ、グサリ。

何度も何度も、使徒が活動を停止しても、初号機はプラグナイフを突き立てた。

初号機の活動が停止するまで、延々と…。

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ」

停止した初号機の中で、シンジは息を上げていた。

軽い興奮状態にあるようだった。

 

「…シンジ?」

初号機の中へアスカの声が聞こえた。

アスカは停止した初号機の直通回線を開いていた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ」

だがシンジはアスカの声に気づかない。

モニターを見つめ、息遣いを荒くしていた。

 

「こらッ、馬鹿シンジ!聞こえてんなら、返事ぐらいしなさいよ!」

アスカの怒った声が、エントリープラグ内に響いた。

 

「!………ア、アスカ。良かった、生きてるんだね」

シンジはアスカの声に気づき、一気に興奮状態から冷め微笑んだ。

「当然よ。まだ結婚もしてないのに」

アスカは冗談混じりに、シンジに答えた。

 

「そうだね……」

アスカの言葉に、シンジは優しそうに微笑んで言った。

 

そして少しの沈黙が流れる。

 

「また…シンジに借りが出来たわね」

アスカは優しい表情でシンジに話しかけた。

「……そんなこと、どうでもいいよ。皆が生きてれば…どうでも」

アスカに答えるように、シンジの表情も優しげだった。

 

「それよりも…マナは?」

シンジはマナのことが気になり、アスカに訊ねた。

「マナ?ああ…大丈夫よ。チョット気分が悪いみたいだけど」

アスカはチラリとマナを見て言った。

 

マナはJAから降りて、初号機が倒した使徒を見て吐き気を`もよお´していた。

マナには余りにも残酷過ぎた為だった。

 

「大丈夫かな?」

「気分を悪くさせた張本人が、良く言うわ」

アスカはシンジの言葉に、少しだけ笑った。

 

 

その頃、零号機は地上に着いた。

そして、戦闘が終了していることを確認した。

アスカが初号機の直通回線で、楽しげに会話している様子も一緒に。

 

レイは表情を変えることなく、その様子を見つめる。

そして初号機を見つめ、一言だけ呟いた。

 

「碇君……………」

 

 

 

つづく


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あとがき

日向の作戦、解り難かったかもしれませんね。(^^;;
それと、まだ「僕は…」の第拾壱話は続きますので…………長いですよね、やっぱり。(苦笑)

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