「何、使徒だと!」
冬月はネルフ職員から報告を受け、声を上げた。
日向によって、もたらされた情報であった。
僕は僕で僕
(34)
<ネルフ司令本部>
「直ちに戦闘!…無理か……」
冬月は`準備´と続けて言いたかったのだが、電源が回復していない状況では無理と判断した。
この状況に、冬月は戸惑いの表情を隠せなかった。
「戦闘準備…ですか?」
報告に来たネルフ職員が訊ねた。
「……手動で戦闘準備だ」
言いかけた冬月の言葉を、ゲンドウが補足し職員に告げた。
「しゅ、手動ですか!?」
ゲンドウの言葉に驚くネルフ職員。
「…当然だ。手動での出撃を実行する」
そう言って、ゲンドウはネルフ職員を威圧するような目で見据えた。
「りょ、了解です!直ちに手動での発進準備に入ります!」
ゲンドウの眼差しから逃げるように、その場から去る職員であった。
ゲンドウと職員の会話を傍観していた冬月は思った。
(電源が回復していないのならば、人間の力で出撃させる…。
強引だが…それしかあるまい。)
冬月の思いをよそに、ゲンドウは席を立ち上がり、冬月を一瞥する。
そして口を開く。
「冬月…今回、出撃の件は私が担当する」
「ああ、任せる」
ゲンドウの言葉に冬月は頷いて答えた。
冬月の言葉を確認したゲンドウは、初号機のもとへ行く為に通路へと向かう。
冬月はゲンドウの後へ付いて行こうとした。
だがゲンドウは、冬月を手で制止して話しかける。
「……私の代わりに、シンジを頼む」
「…うむ、了解した」
ゲンドウの真剣な眼差しに冬月は頷き足を止めた。
そして一人、初号機のもとに向かうゲンドウは呟いた。
「……進路相談もな」
「なっ!」
ゲンドウの言葉に驚いた冬月は言葉をつなぐ。
「ま、待て碇!」
だがゲンドウは冬月の言葉を無視して、初号機のもとへと向かった。
ニヤリと笑いながら。
一人残った冬月は思う。
(クッ…雑用ばかり押し付けよって。私がシンジ君の進路相談だと……。
……私は行かんぞ。)
そう思った後、冬月は一人の女性の言葉を思い出した。
「あの人…不器用な人ですから。何かと、ご迷惑をお掛けするかもしれません…」
(…………やはり行かねばならんな。
まさか、この歳で進路相談に行くハメになるとはな………。)
そして深いため息をついた後、冬月は決めた。
進路相談に自ら足を運ぶことを。
<パイロット待機室>
アスカとマナはネルフに到着後、直ちに待機室へと向かった。
二人は学生服を脱ごうとしている所だった。
マナは用意されているプラグスーツを見て驚き呟いた。
プラグスーツは迷彩色から桃色に変更されていた。
「…色が変わってる」
マナが着替えないことに気づいたアスカが後ろから近づく。
そしてマナのプラグスーツの色を見て珍しそうに話しかけた。
「へ〜、派手な色ね」
「うん…桜色になってる」
マナはアスカの言葉に感慨深げに答えた。
だが顔はアスカの方を向かずに、プラグスーツだけを見つめている。
「………」
奇妙な沈黙の間もマナはプラグスーツを見つめていた。
「前の方が好きだったの?」
沈黙するマナを見てアスカが訊ねた。
「違うの、嬉しいの。………もう私は戦自のチルドレンじゃないんだって」
マナはプラグスーツを見ながらアスカに答えた。
「…良かったわね」
アスカは淡々とした表情でマナに話しかけた。
だが言葉には優しさが詰まっていた。
「………うん、ありがとう」
マナはアスカの方を向き感謝の言葉を言った。
アスカはマナの言葉に、少し照れくさそうに微笑みながら口を開く。
「さ、パッパと着替えて、サッサと使徒を倒して、トットとシンジを探すわよ」
「うん♪」
マナは今日一番の笑顔をアスカに見せた。
<エレベーター内・シンジとレイ>
「………」
「………」
シンジとレイは顔を赤くして、うつむいていた。
「……あのっ」
シンジが顔を赤くしながらも声を上げる。
「……な、何?」
レイは頬を桜色に染めながら答える。
「う、うん…何でも無い」
「……そ、そう」
シンジとレイは先程から三度、この会話を繰り返していた。
今の二人は、ただ顔を赤くしてお互いの顔も見れない二人だった。
<ネルフ・技術局第三課>
(使徒襲来…出来すぎてるわね。)
ナオコはMAGI へのバッテリー供給が進む中、思考の中にいた。
「赤木博士!接続完了しました!」
技術局職員が、第五使徒ラミエル戦で使用した陽電子砲専用バッテリーの接続完了を告げた。
思考を中断し、職員を見たナオコは口を開く。
「…速いわね。さすがネルフの職人は違うわね」
そう言ってナオコは微笑んだ。
職員はナオコの言葉に、少し照れながら口を開く。
「皆、人類を守ることに誇りを持ってますから」
職員は微笑みながら言った。
(……いい笑顔ね。)
ナオコは素直に職員の笑顔を心地良いと感じた。
そして真剣な表情をしながら声を上げる。
「今から十分後に電源供給を始めます!各自持ち場の怠りの無いように!」
<ネルフ・中央作戦司令部>
リツコとオペレータの三人(マヤ、青葉、日向)が顔を揃えていた。
そこへ連絡が入る。
「電源供給の準備完了とのことです!」
「了解。マヤ、手筈通りお願いするわ」
リツコはマヤに話しかけた。
「はい、三分の電源供給の間に見つけてみせます」
マヤは手をプルプルと振りながら気合の程を見せた。
リツコはマヤを見て微笑むと、青葉の方を向き口を開く。
「青葉君、理論上はギリギリいけると思うけど…」
「はい、大丈夫です。余った電源でエヴァ二機、発進させてみせます」
青葉もリツコに答えるように微笑んでいた。
三人の落ち着いた雰囲気と変わり、日向は緊張していた。
「フゥ〜」
少しでも肩の力を抜こうと、日向がため息をついた。
「何緊張してんだ。お前らしくないぞ」
青葉が日向の様子に気づき、声をかけた。
声に気づき、日向は暗い表情で青葉の顔を見た。
「緊張するさ。葛城一尉抜きで使徒に対処するんだ」
日向はミサトに絶大な信頼を寄せていた。
彼女の指揮に、作戦立案・遂行能力に。
「作戦部長抜きでは倒せないって言うのか?」
青葉が日向に訊ねた。
「倒せないとは言ってない。だが正直怖い。……だから緊張してるんだ」
日向は難しい表情をしながら、何も映らないモニターを見た。
(あの時以来だな。……葛城さんがいないのは……。)
日向は第三使徒の戦闘で、自分がシンジを指揮したことを思い出していた。
思い出しながら、日向は自分の手が震えていることに気づいた。
(ハハッ、震えてやがる。トラウマって奴か……。)
日向は自分を自嘲しながら、震える手を押さえこんだ。
「日向君、時間が無いわ。上に向かって頂戴」
リツコが日向に話しかけた。
「は、はい」
日向はリツコの言葉に従い地上に向かった。
二号機とJAを地上で指揮する為に。
<JAケイジ>
桜色のJAが手動でエントリープラグを挿入されようとしている。
ネルフ職員達が手に手を取り合い、エントリープラグをワイヤーで吊り上げている。
その中にはゲンドウもいた。
そこへ桜色のプラグスーツに着替え終わったマナが現れた。
「あっ………」
マナは驚き呟いた。
人の力でエヴァの発進準備をしていることに。
職員達は汗だくになりながら発進準備をしている。
使徒を撃退する為に。人類の希望の火を消さない為に。
「JA発進準備完了です!」
エントリープラグの挿入が終り、ケイジの中に歓声がわき上がった。
「………私」
マナは、その様子を見ながら目頭が熱くなっていた。
人が人の為に人と協力している姿に。
マナには自分が使徒と戦う理由を、改めて確認した記念すべき日となった。
<第三新東京市・ネルフ近辺>
第九使徒は確実にセントラルドグマの入口を捉えていた。
だが、侵入口には第九使徒が入り込むスペースは無い。
そこで使徒は、ネルフに進入可能と見られる箇所に、溶解液を地表へと吐き出した。
ジュジュ〜。
酸のような強力な溶解液が、ネルフへの侵入口を広げる。
ネルフと第九使徒との戦闘が確実に迫っていた。
つづく
あとがき
ホントに登場人物が多いですね。(笑)
声だけしか登場していない人物に関しては、いずれじっくり腰を据えて書きますね。