日向は走っていた。

ネルフへ使徒の襲来を知らせる為に、全速力で走っていた。

そんな彼の目前を選挙カーが通りすぎた。

 

 

 

僕は僕で僕

(33)

 

 

 


 

避難を開始しているのだろうか、選挙カーは立候補者の名前を告げることなく、静かに走行していた。

「そこの車、止まってくれー!」

日向が大声を出して選挙カーを止めた。

 

キキッ。

ブレーキをかけて止まる選挙カー。

 

日向はシメタという表情をしながら、選挙カーに駆け寄る。

そしてネルフのIDを見せながら、運転手に言った。

「ネルフの者だ。この車を大至急ネルフに向かわせてくれ!」

 

 

<ジオフロント内・アスカとマナ>

 

ネルフの電力供給がストップしている為、アスカとマナは暗い中を歩いている。

最初は暗い為に苦労していたものの、今は何とか目も慣れたようだった。

 

「ねぇねぇ、アスカの好きな人ってシンジ君でしょ?」

マナが微笑みながら、アスカに話しかけた。

「…う、うるさいわね!もっと静かに歩けないの?!」

アスカが顔を赤くしながら、マナに怒鳴った。

マナの言葉を何度聞いただろうと思いながら。

 

マナはアスカの言葉を聞き、微笑みながら口を開く。

「でも、暗い中を静かに歩くって…怖くない?」

 

マナの言葉に、アスカはチラリと辺りを見まわす。

確かに辺りは暗く静かで、何かが出そうな雰囲気だった。

「……仕方ないわね。話をしながらでいいわ」

少しの沈黙の後、アスカは少し落ち着かない様子でマナに話した。

もしかしたら、アスカも怖いのかもしれない。

 

アスカの言葉と行動に、少し微笑んだマナは口を開く。

「私はシンジ君が好きってことを……知ってるつもり」

 

「………」

アスカは黙々と歩きながらマナの言葉を聞いて思う。

(私…私だって…誰よりも負けないくらい……。)

 

黙っているアスカをよそに、マナは寂しげな表情で言葉をつなぐ。

「だけど、シンジ君は…私なんか眼中に無いってことも……知ってるつもり」

「………」

アスカはマナの言葉に何も言わずに、ただ黙々と歩くだけだった。

 

そして、しばらく言葉を交わすことなく歩く二人。

 

「……アイツ…臆病だから」

唐突にアスカが呟いた。そして言葉をつなぐ。

「生きることにも…人と接することにも臆病だから。……だから、見えないのよ」

 

(…………アスカ…。)

マナは驚いた。

アスカが誰よりもシンジを理解していることに。

 

そして、マナは優しい表情で呟いた。

「アスカって…ホントにシンジ君が好きなんだね……」

 

「そんなんじゃ無いわ。………そんなんじゃ…」

マナの言葉を、自分に言い聞かせるように訂正するアスカだった。

 

 

<ネルフ・技術局第三課>

 

「そこっ!そのままじゃ、上手くいかないわよ!」

ナオコが慌ただしくネルフ技術職員に指示をしている。

ナオコの傍らにはリツコがいる。

 

「いい発案だと思うけど、ここまでする必要あるの?」

リツコがシンジを助ける為に、ここまで人手を削いていいのかを訊ねた。

 

ナオコは、リツコの言葉に少し悲しげな表情をして口を開く。

「リッちゃん…シンジ君達は大人のエゴに対する犠牲者なのよ」

そう言って、一つため息をつき言葉をつなぐ。

「使徒が出現しなかったら、ただの十四歳の子供で済んでいた筈なのに…」

 

ナオコの言葉に、リツコは優しく微笑み口を開く。

「…わかった。大切なことを忘れていたみたい…」

 

ナオコは、リツコの言葉と表情を見て微笑み返して言った。

「面倒なことは私がするから、リッちゃんはMAGIでシンジ君達を探して頂戴」

 

「了解です。赤木博士♪」

リツコは冗談混じりに、ナオコを赤木博士と呼んだ。

 

リツコの言葉に、ナオコは微笑んで口を開く。

「それと司令への報告もお願いするわ。でも報告だけ。変なことしちゃ駄目よ♪」

 

「か、母さん!」

ナオコの言葉に、顔を赤くするリツコであった。

どうやらナオコの方が、一枚上手のようである。

 

 

<エレベーター内・加持とミサト>

 

「暑ぃ…」

密室のエレベーターの中で、ミサトは汗だくでへばっていた。

加持は上着を脱ぎ、暑さをしのいでいた。

 

「加持ぃ、この暑さどうにかならない?」

ミサトは無理難題を加持に問う。

「無茶言うなよ。……無理だ」

加持はミサトの言葉に呆れた表情で答えた。

 

「ホントに役立たずな男ね」

憮然とした表情のミサト。

「ハイハイ、どうせ俺は役立たずな男だよ」

ミサトの言葉に肩をすくめる加持だった。

 

ムッとした湿度の高い空気の中、沈黙する二人。

 

「そういえば、コソコソ動き回ってるみたいね」

ミサトは汗を掻きながら、加持に話しかけた。

「ノミでも飼ってるのか?」

加持がトボケたようなセリフを言った。

「バカ、加持…アンタのことよ」

ミサトの言葉は荒っぽいが、加持を見つめる表情は優しい顔をしていた。

加持はミサトの表情を見て、薄笑いを浮かべ口を開く。

「まあ、忙しいからな」

 

「忙しさに自滅するわよ」

加持の言葉を聞いたミサトは忠告した。

「葛城の心遣い、ありがたく頂戴するよ」

加持は微笑みを浮かべながら、ミサトに返答した。

 

「バ~カ、そんなんじゃ無いわよ。ただ……」

微笑みを浮かべて話し掛けたミサトは、途中で言葉を切り、ゆっくりと真剣な面持ちになった。

「…ただ、何だ?」

加持がミサトに訊ねる。

 

ミサトは汗を掻き、真剣な表情のまま加持に言った。

「……トイレに行きたい」

 

 

<ジオフロント内・アスカとマナ>

 

結局、二人は会話をすることなく歩いていた。

暗いジオフロントの中を。

 

「アスカ、ここ何処?」

マナは先程から歩いているのに、全然辺りの様子が変化しないのを怪しみ、アスカに訊ねた。

「さあ?」

アスカは一言で返した。

 

「`さあ?´って勘で歩いてるの?!鞄持って歩くのってキツイんだからね!」

マナは鞄を持って歩いていた。

緊急時の中を持って歩いていたのには、何か理由があるのかもしれない。

「鞄を持って来る方が悪いんじゃない!それに私の勘は結構当たるのよ!」

アスカは、もっともらしい理由を並べた。

勘に関しては別だが。

 

「そう言う問題じゃないでしょ!」

マナがアスカに怒鳴った。険悪なムードの二人。

「じゃあ、何が問題だって言うのよ!」

アスカも怒鳴る。

売り言葉に買い言葉。爆発寸前の二人だった。

 

そこへスピーカー音が聞こえてきた。

-現在、使徒接近中! 繰り返す! 現在、使徒接近中!-

選挙カーでネルフ内へ進入した日向の声だった。

 

二人から見て、選挙カーは上方の位置に確認できた。

 

「日向さーん、待ってー!」

マナが日向の声に気づき、声を上げた。

だが距離がある為、選挙カーは二人の目前から姿を消そうとしていた。

「あっ…行っちゃう」

マナは選挙カーを見て呟いた。

 

「チョット貸して」

アスカは何を思ったか、マナの鞄を取り上げた。

「あ、何するの?」

マナはアスカの行動に驚き見つめる。

 

「フゥ~……こうすんのよ!」

一つ深呼吸したアスカは、声を上げ鞄を振りかぶる。

「てぇぇぇぇぇぃ!」

そして掛け声と共に、選挙カーめがけ鞄を投射した。

 

バリンッ。

選挙カーのリアガラスへの命中音がジオフロント内に響く。

キキーッ、ドガッ。

その直後にブレーキ音とクラッシュ音が聞こえた。

 

「ね、止まったでしょ♪」

自分の行動に誇らしげなアスカ。

「あ~、私の鞄なのに…」

車のことよりも鞄のことを心配するマナ。

二人とも、車のことは心配していないのだろうか?

 

「大丈夫、ネルフが弁償ぐらいするわよ」

アスカはマナが鞄を心配している姿を見ていった。

 

アスカの言葉にマナは思う。

(シンジ君の為に取ったノートも入ってるのに…)

 

マナはシンジの為に、今日の授業をノートに取って上げたようだった。

 

 

<ジオフロント内・選挙カー>

 

「ッ痛、大丈夫?怪我は無い?」

後部座席に乗っていた日向が、助手席の女性に訊ねた。

日向が乗った選挙カーは、突然の襲撃を受け壁に激突していた。

 

「は、はい、大丈夫です。シートベルトもしてましたし…」

女性はエアバックに押しつぶされながら、引きつった笑顔で答えた。

「運転手は……気絶してるか」

日向は鞄が後頭部に直撃した運転手を見て呟いた。

「一体、何があったんですか?」

女性が日向に訊ねた。

 

日向は少しの沈黙の後、真剣な表情で言った。

「………テロかもしれない」

 

「テ、テロ?!」

女性が声を上げる。

「シッ!声が大きい。囲まれているかもしれないんだ」

日向が自分の口に指をあて、女性に静かにするように言った。

日向の言葉に、女性の顔が恐怖で引きつる。

 

沈黙する二人。

そこへ駆け足の音が聞こえてきた。

 

「…君は身を低くして。後は僕が何とかする」

日向は女性に、そう言って身構えた。

(停電といい…今の行動といい…。……こいつらプロだな。)

日向は身構えながら凄いことを予想していた。

 

「早く来なさいよ。置いて行くわよ!」

アスカの声だった。

「アスカ、走るの速すぎるんだってば~!」

マナの声も聞こえた。

 

「可愛いテロリストの声ですね」

身を低くした女性が呟いた。

「あ、ああ、そうですね」

日向は聞こえてきた声に戸惑いながら女性に答えた。

そして落ち着いて辺りを見まわし、学生鞄を見つけた。

 

日向は、やっと理解し笑って言った。

「もう大丈夫ですよ。可愛いテロリストは味方のようです」

 

「は、はあ」

女性は何が何だかといった表情で日向を見た。

 

そしてアスカとマナを乗せた選挙カーは、ガタガタとバンパーを引きずりながら走り始めた。

 

 

 

つづく


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あとがき

シンジとレイは今回登場して無いですね。ま、次回にでも登場する予定です。………たぶん。(笑)

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