「あれ?」
ネルフ本部への入口ゲート前で、マナがIDカードの異変に気づいた。
何度カードを通しても、無人ゲートが開かなかったから。
僕は僕で僕
(32)
「何やってんのよ?」
マナがIDカードを見つめていると、後ろからアスカが声をかけた。
「あ、アスカ。カードが変なの」
マナはアスカに目をやるとカードを見せた。
「チョット貸してみなさいよ」
アスカはカードを受け取るとゲートのセキュリティーチェックを通してみた。
……………。
しかし、何も起こらなかった。
「マナのカードの期限切れてんじゃないの?」
そう言って、マナにカードを返すアスカ。
「そんな筈無いんだけど…」
マナはカードを受け取りつつ言った。
「しょうがないわね、私のカードで入るわよ」
アスカは自分のカードを取り出し、カードの差込口に差し込んだ。
……………。
やはり、何も起こらない。
「壊れてんじゃないの~!コレ~!」
自分のカードのことよりも、無人ゲートを見上げるアスカであった。
<エレベーター内、シンジとレイ>
レイが自分は何かを自問している中、シンジは沈黙の中で、先程のことを考えていた。
レイが話した言葉の意味を。
「わからない…自分のこと」
シンジはレイを見つめながら思う。
(綾波………。何で…あんなこと言ったんだろう。
自分のことを`わからない´なんて……。
自分のことが解らないのは、綾波…だけじゃないのに……。)
シンジが見つめていると、レイが口を開いた。
「私に何か付いてるの…?」
レイはシンジが見つめていることを疑問に思ったようだった。
「えっ、いや別に…」
シンジは言葉とは裏腹に、レイに訊ねてみたかった。
何故`わからない´なんて言葉を言ったのかを。
そして少しの沈黙の後、レイが小さく呟いた。
「私は…綾波レイ。私は私……でも私は…私が解らない。碇君…私は誰?」
レイは呟きながらシンジを見つめた。
「ぇっ………綾波だよ。僕が知ってる綾波は…綾波だよ」
シンジはレイの目にドギマギしながらも答えた。
「碇君の知ってる…私?」
レイはシンジの言葉を不思議に思った。
シンジは優しい表情で話し始めた。
自分の思う綾波を。
「僕の知ってる綾波は…とっても勇敢で、とっても無口で、だけど……」
途中で言葉を切り、なぜか顔を赤らめるシンジ。
「……だけど?」
レイはシンジに訊ねた。
(言わなきゃ…やっぱり。)
覚悟を決めたシンジは、顔を赤くしながら言った。
「だけど僕の知ってる綾波は、とっても優しい綾波なんだ…」
顔を最高潮に赤くして、うつむくシンジ。
「な、何を言うのよ……」
シンジの言葉に、頬を桜色に染めるレイであった。
<ネルフ入口付近>
「……嫌な予感がする」
アスカがネルフへの進入口を探しながら呟いた。
「何が?」
同じく進入口を探していたマナが、アスカに訊ねた。
マナの問いに、アスカは腕組みして答えた。
「もしかしたら非常事態かもしれないわよ」
アスカの表情は真剣だった。
「非常事態…でも非常事態宣言が…」
マナはアスカの言葉に戸惑いながら言った。
「出せない状態かもしれない。じゃなきゃ説明つかないわ」
アスカの言葉には一理あった。
「じゃあ、どうすればいいの?」
マナがアスカに訊ねる。
「取りあえず、入口を探すしかないわね」
アスカは肩をすくめて言った。
ここまで入口を探したが、全て閉ざされていたことを思いながら。
マナもアスカと同じことを思い、うつむきながら少し考えた。
そして何かを思い出し口を開く。
「マニュアル…確か緊急時のマニュアルがあったよね?」
「冴えてるわよ、マナ!」
マナの言葉に笑顔を浮かべるアスカであった。
<第三新東京市・市街>
日向は匂いを嗅いでいた。
ミサトのクリーニングに出した服の匂いを。
「葛城さん…いい匂いだぁ」
クリーニングに出した服が匂う筈無いのだが、日向は悦楽の表情だった。
なぜ日向が第三新東京市にいるのか。
それはミサトに頼まれて、クリーニングを取りに来た為だった。
(葛城さんが、俺に頼むなんて……。フッ、もてる男は辛いな。)
一方的に勘違いしている日向であった。
日向がエヘエヘと笑顔を浮かべながら歩いていると、上空からスピーカー音が聞こえてきた。
-こちらは第三管区航空自衛隊です。只今、正体不明の物体が第三新東京市に接近しています。-
-住民の皆様は、速やかに指定のシェルターへ避難して下さい。-
「ゲッ、ヤバイ!」
日向は放送を聞き、真剣な表情で駆け出した。
<ネルフ本部>
司令部には、ネルフの主だったものが集められていた。
ミサトと加持と日向及びチルドレンを除いて。
「…事故の可能性は皆無ということだな」
冬月が、リツコの顔を見ながら言った。
「はい。この時点で復旧していないと言うことは、事故では考えられません」
断言するリツコ。
「ナオコ君は、どう思うかね?」
遠巻きに会話を見つめていたナオコに冬月が訊ねた。
「私の娘が言ってるんです。間違いの筈ありません」
ナオコはリツコを優しく見つめながら言った。
「フッ…そうだな」
冬月はナオコの言葉に短く笑った。
「では、各自持ち場で復旧作業に取りかかってくれ」
冬月が解散の掛け声を出した。
「……冬月」
皆が散り始めたところで、ゲンドウが冬月に話しかけた。
「なんだ、碇?」
冬月が訊ねる。
「シンジがいない…。一緒に来た筈のシンジが…」
ゲンドウは表情を変えずに、冬月にシンジが見当たらないことを伝えた。
「碇……」
シンジを心配するゲンドウを、驚きの表情で見つめる冬月。
そして言葉をつなぐ。
「……探したのか?」
「保安部に探させている。だが、いまだに報告が無い」
ゲンドウは淡々と冬月に話す。
「探して何分経つ?」
冬月はゲンドウに問う。
「一時間…といった所だ」
ゲンドウは、あくまでも冷静に答える。
冬月は短い沈黙の後、ゲンドウに言った。
「………多少、人員を削くか?」
「そうしてくれると、ありがたい」
ゲンドウは不器用ながらも、冬月に礼を言った。
そこへ、何処からか声が聞こえた。
「その必要ありません」
誰かと顔を見る冬月とゲンドウ。
停電の暗い中、遠巻きに二人を見ていたナオコだった。
「ナオコ君か…」
ナオコを確認した冬月が呟く。
「MAGI の電源をホンの少し復旧して頂ければ、すぐにでも見つけてみせます」
ナオコの言葉は、ゲンドウと冬月には無理のように思えた。
MAGI とセントラルドグマの維持だけで手一杯なのだから。
「不可能だよ、ナオコ君」
冬月はナオコへ即答した。
「………」
ゲンドウは黙ってナオコを見つめている。
「可能です。司令の許可さえ頂ければ…」
そう言ってゲンドウを見つめるナオコ。
「何の許可だね?」
冬月がナオコに訊ねた。
「戦自の…いえ、浅間で使った陽電子砲のバッテリーです」
ナオコは不敵に笑いながら言った。
そして、言葉をつなぐ。
「それと優秀な技術局三課も一緒に」
「!……そうか、わかった!」
冬月にはナオコが何をしようとしているのかが、理解出来たようだ。
ナオコの言葉に、ゲンドウは一言だけだった。
「……許可する」
<ネルフ・入口前>
「開けっごま~っ!!」
アスカが入口を手動で開けようと奮闘している。
だが入口を開ける為のバルブは、無情にも開かない。
「ハァ、ハァ、開けって言ってんでしょ!」
アスカは、息切れしながらも入口に怒鳴る。
「このっ馬鹿バルブッ!」
ガスッ。
アスカは思いっきり入口を蹴り上げた。
「アウッ……」
鋼鉄製の入口を蹴り上げたアスカは、痛みに顔を歪めるのであった。
「アハッ、アスカって怒りっぽいのね♪」
そう言って、マナは微笑んだ。
「ッ痛~、少しはマナも手伝いなさいよ!」
アスカは、足をさすりながらマナに怒鳴った。
「ゴメンね。あの時に少し似てたから…つい見いちゃった」
マナは優しそうに微笑みながら言った。
「あの時って……?」
アスカはマナが何を言っているのかを理解できず訊ねた。
「二子山でね。シンジ君を助ける時のこと……」
マナは微笑みながら、アスカに教えた。
二子山でシンジを助ける為に、レイがバルブを開けたことを。
苦痛に顔を歪めながらも、バルブを開けたレイのことを。
そして、マナは見守ることしか出来なかったことを。
「ふ~ん、そんなことがあったんだ…」
アスカはレイの行動に驚き、自分の知らないシンジを知って……少しだけ嬉しかった。
「シンジ君…ネルフにいるんだよね。……多分」
マナはバルブを見ながら呟く。
「…そうね。!……んっ、そう言えばレイも朝から居なかったわね?」
アスカは、レイを朝から見ていないことに気づいた。
「うん、シンジ君とネルフに居るんじゃないかな」
マナがアスカに話す。
マナの言葉にアスカは思う。
(シンジとレイが一緒……ネルフは停電中……美味しい状況ね。って何考えてんの私!)
アスカは少し考えた後、力強く立ちあがる。
そして口を開く。
「マナ、一緒に開けるわよ!シンジの貞操の危機よ!」
アスカはマナに協力を求めた。
シンジの貞操を守る為に。
どうしたら、そういう発想に持っていけるのか……。
「うん♪」
マナは微笑んでアスカに返事をした。
`やっぱりね。アスカもシンジ君が好きなんだ。´と思いながら。
つづく
あとがき
あぁ、拾壱話も長いですぅ~。もう少し短縮して書けるといいんですけどねぇ。(苦笑)
ま、これも僕なりの書き方かもしれないですから。(笑)
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