ネルフの電力供給は停止した。

だが、停止したのはネルフだけではなかった。

第三新東京市全体が停電していた。

 

 

 

僕は僕で僕

(31)

 

 

 


 

<ネルフ司令室>

 

「生き残っている電源全てだ!」

冬月がネルフで生き残った数少ない回線に怒鳴る。

-それでは、全館の生命維持に問題が…-

電話の相手はネルフの職員と思われる。

職員は冬月の剣幕に押され気味に返事を返した。

「構わん、MAGI とセントラルドグマの維持にまわせ!」

冬月は、受話器を握る手に力を込める。

-りょ、了解です!-

そう言って職員は慌ただしく回線を切った。

 

回線が切れると冬月は襟元を正しながら、側にいたゲンドウに話し掛ける。

「碇、取りあえず今の話は後だ。それでいいな?」

「……フッ」

ゲンドウは冬月の言葉に、短く微笑みを返すだけだった。

 

 

<エレベーター内、加持とミサト>

 

加持とミサトがキスをしている。

もっとも加持が強引に迫ったものだが。

 

「んっ…んむ………何すんのよ!」

加持の唇を強引に離すミサト。

ミサトは、加持に唇を奪われたことに顔を赤くしていた。

 

「何って…キスだろ?葛城は嫌いか?」

加持はミサトの言葉を微笑みながら返す。

「嫌いじゃな……って何言わせんのよ!」

ミサトは加持に怒鳴る。

 

ミサトの表情を少し楽しんだ加持は話を切り替える。

「しかし妙だな…電源が回復しない……」

ミサトも加持の言葉を聞き、怪訝な表情をしながら口を開く。

「そうね。ホントに何かあったのかしら…」

 

 

<赤木ナオコの研究室>

 

「不可能ね」

ナオコは青葉に言った。

「………そうですか」

ナオコの言葉に気落ちする青葉。

 

「あの、お茶入りましたけど…」

そこへコダマが、お茶を運んできた。

 

「ありがとう、コダマさん。それから悪いんだけど、少し席外してくれる?」

ナオコが湯呑を受け取って、コダマに話し掛ける。

「はい、それじゃあ」

そう言ってコダマは部屋から退室した。

 

コダマが退室したのを見て、ナオコが口を開く。

「科学が万能なんて夢のような話よ。人間が万能でないのに、科学が万能で有り得る筈無いわ」

ナオコは青葉の甘い予想を砕いた。

「…そうですよね」

青葉は口惜しそうに呟いた。

 

 

<数日前>

 

ナオコと青葉が人目に付かない場所で会話をしている。

 

「そんな…レイちゃんが使徒……」

驚きの表情の青葉。

「使徒とは言ってないわ。使徒に近い存在…それが今の私に解る全ての情報よ」

ナオコは、淡々とネルフで独自に調べ上げた情報を青葉に告げた。

 

「嘘ですよね……人類の敵だなんて…嘘と言って下さい!」

青葉は泣き笑いのような表情でナオコに詰め寄る。

 

バシッ。

ナオコが青葉の頬を引っ叩く。

「青葉君、しっかりしなさい!誰も人類の敵だなんて言ってません!」

「赤木博士……」

ナオコの顔を見て青葉は呟く。

「たとえ全人類が綾波レイを敵と判断しても、`貴方だけは味方になる´ぐらいの気概を持ちなさい!」

 

沈黙する二人。

 

「そうですね。俺が…俺だけでも味方になってあげないと…」

青葉は自分のするべきことを悟り、力強く呟いた。

 

青葉の言葉を聞き、ナオコは優しい表情で話しかけた。

「青葉君…もう大丈夫ね?」

「…はい」

青葉はナオコの言葉を力強く返した。

 

これが数日前の出来事だった。

 

 

<再び、ナオコの研究室>

 

「でも、そんなに気落ちすることは無いわ。今の段階では不可能ってだけだから」

ナオコは青葉に微笑みながら言った。

「本当ですか!?」

嬉々とした表情の青葉。

「ホントよ。でもね、情報が少なすぎるの…綾波レイは、何故生まれ、何故人類の味方をし、何をするつもりなのか…」

 

青葉はナオコの言葉に思う。

(情報って…ホトンド何も解って無いのに等しいって事か……。)

 

「それに……」

ナオコが呟く。

「それに?」

青葉は、ナオコの言葉に訊ねる。

ナオコは、ゆっくりと口を開く。

「彼女に…何故似ているのか……」

「……彼女」

ナオコが何を言ってるのか、青葉には理解出来無かった。

 

それからナオコは、腕時計を見ながら様子がおかしいことに気づく。

(………七分過ぎても復旧しない。…変ね)

そして、青葉に言った。

「青葉君、話はココまでにしましょう。様子が変だわ」

 

 

<エレベーターの中、シンジとレイ>

 

シンジはエレベーター内に設置されている非常用回線を手にしていた。

「ダメみたい…。全然つながらない」

回線を元の位置にしまいながら呟く。

 

シンジは汗を拭いながら、地べたに体操座りで座り、レイに話し掛ける。

「それにしても暑いね」

シャツをパタパタと扇ぐシンジ。

「密室では、熱が逃げにくいわ……」

レイはエレーベーターの天井を見つめながら話す。

ちなみに、レイも体操座りだった。

「……そうだね」

天井を見つめるレイを、不思議な表情で見つめるシンジ。

 

シンジは思う。

(綾波は暑く無いんだろうか?さっきから全然、汗を掻いて無いみたいだし……。)

 

「暑くないの?綾波は」

シンジがレイに訊ねる。

「暑くないわ。これを着ているから」

レイはプラグスーツを触りながら言った。

「………そっか温度調節も出来るんだ。知らなかった」

そう言ってシンジは微笑んだ。

 

レイはシンジの微笑みを見た後、少し考えた。

(私が……使えば、ここを抜け出すことは可能。でも…まだ、その時では……無い)

 

レイが考えている姿を見たシンジは、少し勘違いをした。

「あのさ、さっきはホントにゴメン」

レイが考えている姿を、先程の出来事を怒っていると勘違いしたようだ。

 

「さっき…?」

レイには、何故シンジが謝るかが理解できない。

「あの、ほら、綾波の着替えている所に勝手に入ったりして…」

シンジは顔を赤くしながら説明する。

「……別に問題無いわ」

レイはシンジの言葉を短く返した。

「そ、そう…(良かった~)」

シンジはレイが気にしていない事で、取りあえず胸をなでおろした。

 

「綾波の所は進路相談、誰が来るの?」

シンジは綾波が怒ってないことが解ると、笑顔で話しかけた。

「青葉さんが来る」

淡々と答えるレイ。

 

シンジはレイの言葉に浮かんだ疑問を聞いてみた。

「そっか……。……そう言えば、綾波って両親とかいるの?」

「……両親?」

シンジの言葉に不思議そうな表情をするレイ。

「両親って知らないの?」

シンジはレイの表情を見て訊ねる。

「読んだことはあるわ。……生み育てた人のこと」

「そうだけど……綾波は会ったこと無いの?」

「ええ、無いわ…」

うつむき加減に答えるレイ。

 

シンジは驚いた。

レイは両親に会ったことが無いことに。

知識でしか両親を知らないことに。

 

そしてシンジは気がついた。レイに失礼な質問をしたことを。

「……ごめん」

短い沈黙の後、シンジはレイに謝罪した。

 

レイは、そんなシンジに目をやり一言。

「謝る必要無いわ。私は……そんな存在だから」

 

「`そんな存在´って、綾波は自分のこと嫌いなの?」

シンジはレイの言葉に訊ねる。

「わからない…自分のこと」

自分のことが、わからないと言うレイ。

「なに言ってるの?綾波……」

シンジは、そんなレイが解らなかった。

 

そして二人は話すのを止めた。

 

静寂の中でレイは思う。

(私は誰……綾波レイといわれる存在。……使徒と戦う為に生まれた存在。

それだけの存在?

それだけ……。それだけしか……私には無い。)

 

(でも、何か忘れている気がする。

何かを………。)

 

 

<再び、ネルフ司令室>

 

ゲンドウは椅子にもたれ、机に両手を合わせている。

そして、呟く。

「やはり`ブレーカーは落ちた´と言うよりも`落された´と考えるべきだな」

ゲンドウの呟きが聞こえたのか、冬月も口を開く。

「所詮`人の敵は人´ということだ」

 

「……フッ」

ゲンドウは冬月の言葉に短く笑うだけだった。

 

 

<国連軍・総合警戒管制室>

 

国連軍の総合警戒管制室では使徒の出現を警戒している。

その管制室の動きが慌ただしくなっていた。

 

「測的レーダーに正体不明の反応あり!」

「予想上陸地点は旧熱海方面!」

国連軍所属のオペレーターが声を上げる。

 

「恐らく、八番目の奴だ」

「ま、俺達がすることは何も無いさ」

国連軍の高官と思われる人物達は、落ち着き払っていた。

また、いつもの様にネルフの出番か…と思いながら。

 

だが、その予想は甘かった。

 

モニターに映し出される第九使徒。

その姿は、四本足の蜘蛛を思い起こさせる姿だった。

 

「使徒、上陸しました!」

「依然進行中!」

オペレーターが声を上げる。

 

高官達は、いつもとネルフの動きが違うことに気がついた。

いつもなら、ネルフがシャシャリ出て来る筈が、今回は動きが無い。

あまりの動きの無さに、高官の一人が訊ねた。

「第三新東京市は?」

 

「沈黙を守っています!」

オペレーターの一人が答える。

 

「一体、ネルフの連中は何をやっとるんだ!」

高官の一人が声を上げる。

この言葉によって、国連軍はネルフという組織に頼りきっていることを露呈した。

 

 

第三新東京市を目指し上陸した使徒。

そして使徒が上陸したことを、いまだに知らないネルフ。

この状況で、戦いの幕が上がろうとしていた。

 

 

 

つづく


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あとがき

今回は、一言だけですね。頑張れ、青葉君。(笑)

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