アスカは不愉快だった。

その理由は、ただ一つ。

朝からシンジの顔を見ていないことだった。

 

 

 

僕は僕で僕

(30)

 

 

 


 

<中学校>

 

中学校は授業の中休み。

アスカとマナはシンクロテストの為、早退の準備をしていた。

 

(私に断りも無く休むなんて!)

朝からシンジの顔が見えないことを、アスカは苛立たしく思いながら準備をしている。

 

「なに怒ってるの、アスカ?」

アスカが朝から機嫌が悪いことに気づき、ヒカリが声をかけた。

「別に~、怒ってなんか無いわよ」

アスカは、自分の気持ちを悟られまいと、強引に笑顔をつくって答えた。

だが完全には隠せず、眉毛の辺りがヒクヒクしている。

「碇君でしょ?」

ヒカリが、アスカの図星をサクッと突いた。

 

「な、な、な…」

`なに言ってんのよ´と言いたいのだが、焦ってしまって言葉にならない。

ちなみに、アスカの顔は真っ赤だった。

「アスカって正直なのね♪」

そう言ってヒカリは笑った。

 

「アスカ、準備できた?」

そこへ、背後からマナが声を掛けた。

 

「!」

マナの声にビックリして、アスカは振り返った。

そして、口を開く。

「今の……聞いてた?」

「ん?何のこと。聞こえてなかったけど?」

マナはアスカの質問が、何のことか解らない様子だった。

 

「なら、いいわ。先に校門で待ってて、直ぐ行くから」

アスカはマナにホッとした表情で話し、ヒカリの方へ向き直す。

「私はヒカリとチョットだけ話があるから。ね~、ヒカリ?」

アスカは青筋を立てながら、ヒカリに話しかけた。

 

「う、うん」

ヒカリは、そんな約束はしていないが、アスカの表情に思わず頷いてしまった。

「そ、じゃあ校門で待ってるから、直ぐに来てね♪」

マナは笑顔で教室を後にした。

 

「さてと、私に冷や汗を掻かせた罪は重いわよ」

そう言って、アスカはニヤリと笑った。

 

(………嫌な予感…。もしかして、あんなことや…こんなことを……。

……私まだ十四歳なのに…は、恥ずかしい。)

アスカの不敵な笑顔に、ヒカリは顔を赤くした。

いったい、何を考えてるんだか……。

 

だが、ヒカリの予感は外れた。

アスカは笑いながら、ヒカリを許してあげた。

アスカがミサトと同居しているマンションを、一緒に掃除するという条件で。

 

そして、アスカは教室を後にし、マナと共にネルフへと向かった。

この時、十時二十分。

 

 

<ネルフ・赤木ナオコの研究室>

 

アスカとマナが、ネルフに向かった時刻。

 

カタカタとキーボードを叩く音の中。

ナオコと助手見習となったコダマが並んで座っている。

オナコの前にはニ台のモニター。コダマの前には一台のモニター。計三台のモニターが並んでいる。

二人は尋常じゃない速度で、キーボードで入力している。

ちなみにナオコは、二台のキーボードを操っている。

 

「失礼しま~す」

そこに、青葉が入ってきた。

レイに関することを、ナオコに訊ねる為に。

 

カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタタ。

 

青葉の声に、キーボードの音が返ってきた。

「ウッ……」

キーボードを叩く音に、しばし圧倒される青葉。

だが、青葉は負けじと声を上げる。

「失礼します!」

 

カタカタカタカタカタカタカ……カタ。

青葉の声は無視された…と思われたが、コダマの手が止まる。

「赤木博士、誰か来たみたいですよ?」

モニターから目を離さず、ナオコに話し掛けるコダマ。

「あ、洞木さん。そこ間違ってるわよ」

ナオコはコダマの声が聞こえていないのか、コダマの入力間違いを指摘する。

「す、すみません。すぐ修正します」

慌てて、修正するコダマ。

 

カタカタカタカタカタカタカタカタ……。

青葉のことは、完全に忘れられているようだった。

 

「失礼します!」

腹から大声を出す青葉であった。

 

「あら、青葉君いらっしゃい。手伝いに来たのね?」

ナオコが青葉に気づき話し掛けた。

「あ、いえ、違いますけ……」

「はい、これが資料で、これが基本的な入力マニュアル。あとは…ま、解らないことが合ったら、私に聞いて」

青葉は`違います´と言おうとしたが、ナオコの圧倒的な迫力に押されてしまった。

 

結局、青葉はナオコ達を手伝う事となった。

この時、十時二十五分。

 

 

<ネルフ・エレベーター内>

 

ミサトは事務的な仕事を片付けると、リツコ達の様子を見に行こうと思い、エレベーターに乗っていた。

だが、途中の階でエレベーターが止まった。

 

(誰か乗ってくるのかしら?)

とミサトは思いながらエレベーターの外を見た。

そしてミサトの視界には加持の姿が映った。

「………」

加持の姿を確認したミサトは、無表情でエレベーターの`閉´ボタンを押した。

「オッと」

加持は扉が閉まる寸前の所で、手を押しこみエレベーターへ強引に乗りこんだ。

 

「チッ」

加持が乗り込んだことを、露骨に嫌そうな表情で迎えるミサトであった。

 

「こんちまた御機嫌斜めだね」

ミサトの表情を見た加持は、年寄りのように腰を叩きながら言った。

「来た早々、アンタの顔を見たからよ」

あくまでもミサトは加持に辛くあたった。

 

こうして加持とミサト、二人きりのエレベーターは動き出した。

この時、十時二十六分。

 

 

<ネルフ・通路>

 

シンジとレイが会話をすることなく、淡々と歩いている。

実験室へと向かうエレベーターに乗る為に。

 

「あ…」

シンジは靴紐がほどけているのに気づき足を止めた。

そして体をかがめて靴紐を結ぶ。

 

レイはシンジを置いて先へ進んでいた。

だが、シンジの足音がしないことに気づき、後ろを振り返る。

そしてレイはシンジが靴紐を結んでいる姿を見た。

 

「………」

少しだけ、その様子を見つめたレイは、シンジが自分のもとに来るのを待った。

シンジが靴紐を結び終わるのを待っている間に、レイは少しだけ考えた。

なぜシンジを待ったのかを。

 

(………私が?…なぜ?)

結局、答えは出せなかった。

 

レイが考えている間に、靴紐を結び終わるシンジ。

「ごめん」

そう言って微笑みを浮かべたシンジが、レイのもとに駆け寄ってくる。

「……別にいいわ」

レイは味気ない言葉で返事をすると、ゆっくりと歩き始めた。

シンジがついてくる足音を確認しながら。

 

そして、二人はエレベーターに乗った。

この時、十時二十八分。

 

 

<ネルフ・実験室>

 

制御パネルなどが、ズラリと並んでいる部屋。

その中で、零号機の各種モニターチェックをしている職員達。

リツコとマヤは零号機の第二次稼動延長試験の為、ココにいる。

 

「先輩、レイちゃんが来てませんけど……始めます?」

マヤがリツコに訊ねる。

「………ま、いいでしょう。予定を多少変更して、パイロット抜きでの延長試験から入ります」

少し考えた後、リツコは事務的に答えた。

 

ポチッ。

十時三十分、リツコは目の前に合った電源を入れた。

 

「主電源ストップ」

「電圧0です」

突如として停電する室内。

職員達は、一斉にリツコを見つめる。

 

「………わ、私じゃないわよ」

リツコは冷や汗を掻きながら、職員達の凝視する目に答えた。

 

「そうですよ。もし、先輩だとしても誰にも文句は言えません」

マヤはフォローしたつもりで、リツコにトドメをさしていた。

 

「マ…マヤ」

青筋をヒクつかせるリツコであった。

 

 

<エレベーター内、加持とミサト>

 

加持とミサトが乗っていたエレベーターが緊急停止していた。

「変ね。事故かしら?」

ミサトが急に止まったエレベーター内を見まわす。

「赤木の奴が事故ったんじゃないか?」

そう言って加持はミサトを見つめ微笑んだ。

 

加持の視線に気づき、ミサトは少し焦った表情で言った。

「へ、変なことしたら殺すわよ」

 

加持は笑顔で近づきながら、ミサトの耳元で一言。

「変なことって言うのは、こう言うことかな?」

 

「!………」

驚くミサト。

 

加持はミサトの唇を奪った。

 

 

<ナオコの研究室>

 

「青葉君!解らないことが合ったら聞いてって言ったでしょ!」

 

青葉はナオコに説教をされていた。

研究室でも急に電源が落ち、手伝い初参加の青葉が原因と判断された為だった。

 

「す、すみません。でも、俺、何もして無いッスよ」

青葉は必死に自分を弁護する。

「男が言い訳なんて、みっともないです」

「ウッ………」

コダマの言葉に、言葉を無くす青葉であった。

 

(ただ、レイちゃんのことを聞きに来ただけなのに……。なぜ叱られているんだ?)

自問する青葉であった。

 

「まったく、何しに来たの?!」

怒りの収まらないナオコはボヤク。

 

「あの……俺、レイちゃんのことを聞きに来ただけなんですけど…」

青葉はボソッと呟くように言った。

 

「「え?」」

ナオコとコダマは、自分達が勝手に勘違いしていたことに気づいた。

 

「こ、コダマさん。青葉君にお茶を」

ナオコは慌てながら、コダマに指示する。

「はいっ!」

コダマは逃げ去るように、その場を去った。

 

「は、話って何かしら?」

気まずい空気が流れる中、ナオコは脂汗混じりに青葉に訊ねた。

 

「…は、はぁ」

青葉は急に態度が急変した二人を見て、戸惑いながらも話しはじめた。

自分が聞きたかったことを。

 

 

<エレベーター内、シンジとレイ>

 

その頃、シンジ達の乗ったエレベーターも止まっていた。

 

「止まっちゃったみたいだね…エレベーター」

「……そうみたいね」

レイはシンジの瞳を見ながら呟くように言った。

 

レイと目が合い、顔を赤くするシンジ。

(綾波と二人っきり……エレベーターの中………何考えてるんだ…僕)

 

 

こうして、ネルフの電力供給が全て停止した。

午前十時三十分の出来事だった。

 

 

 

つづく


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あとがき

前回、間違いが一つあります。リニアにガタンガタンと擬音を入れてました。(笑)
リニアは音が鳴らない筈ですよね。ま、リニアという名前の電車ってことで許して下さい。(笑)

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